生と死の狭間で-生きることと死ぬことの葛藤 結婚への渇望④
就職氷河期時代の響子にはその歳では少ないかも
知れないが20代で300万円ほどの貯蓄があった。
不動産会社から外食産業、外食産業から自営になり
7年もの歳月自店舗を経営していく中で、地域に
お客様に愛され飲み仲間や経営者の同志に助けられ
ときにトリプルワークやフォーワークをしながら
生まれ育った街で「ごはんやさん」を営んだ。
1年目から近隣の経営者の方々や自称神様と名乗る
オキャクサマと呼べないような人々から洗礼を受け
すぐに辞めようと思った響子であるがそれでも前述した
響子を応援してくれる人たちに支えられて店を経営して来た。
が、響子が32才の時に知り合った離婚調停中で
それを隠していた大型大家妻帯者篤との出会い。
京大卒の自称「士業はしていなくて独身」という既婚者で
バリバリ現役弁護士の将。「今はお試し」と
「一度やったくらいでは彼女にはしない」という
年収2-3,000万円運送業の傍コンサルを営む豪。
「付き合って!彼女になって!」と言いつつ、他の女性と
海に出かけてツーショット。「1人で海に来た」と
LINEして来たものの数分後に画像を間違えて響子に送る
間抜けな超一流会社勤めの3つ下の古川。散々な男運。
いや、ある意味これが普通なのかも知れない。
2,000万円の年収がありながら申告は月収8万円にして
住宅に住まうおっさん臭漂う10個以上歳下のアラタ。
臭いに敏感な響子には堪えられず。確定申告1,500万超え
人材派遣会社の社長で響子より2つ歳上の瑛太。
「ハリーウインストンを買う」と言うのでタイプでは
ないが付き合うことにしたのに「ふてこい」という
意味のわからないことを言って指輪を買わない瑛太に
毎度毎度モラハラまがいの言葉を浴びせられて「別れよ」と。
瑛太を振って、自称3,000万の塗装会社代表太郎と
付き合うも「俺バツ3やねん。もうバツ増やしたくない」と
「結婚願望有」と伝えて居たにも関わらず後出しする太郎。
独身と聞いていたが蓋を開けたらバツイチどころか
3人も元嫁が居て、さらに1人目の嫁に子が2人も。
「なんでこんな男に惹かれるかな」と。さらに鬱を
拗らせた響子を「暗い女は嫌やねん。別れよっ」と
別れを切り出され、挙げ句「元カノと寄り戻してん」
「結婚しよって言ったら断られたわ」とモラハラ発言。
「あ、そう!あなたなどに、もう興味はない。」と
呆れる響子ながら、太郎から連絡がくれば寂しさから
「手料理を作ったから食べに来い」という同じく
寂しがり屋の太郎の相手をしつつ。
早く縁を切ろうと新たな出逢いを探す響子であった。
そんな太郎勝手に響子の日記をみて何を思ったのか
「もう二度と連絡せんわ」と、絶縁宣言。
「こちらとしてはどうでもいいし勝手にして」と思う響子。
「最後まで自分勝手な奴だったな」と頭を抱える響子。
無論、そんな響子にだって結婚する機会はあった。
アパレル業界時代、同じ職場で働く10歳年上の渉。
渉を最初見た時は「うわっ、ヤダな。」「この人苦手」
そう思った響子だったが、一緒に働くうちに渉のすごさ
情熱、仕事が出来る様をみてどんどん惹かれていく。
響子がその業界に居たのは、たったの8ヶ月。
その時には渉とは何もなかったが、響子がそこを辞めて
何がキッカケだったか、ある日渉と飲むことがあり
そこから時折会うようになり。付き合っては居ないが
時々、仕事の後に会っては飲む仲に。
渉が、響子に「好き」と言ったとはない。
付き合おうとも言わなかった。響子も渉とは
いい関係で居たく、変に拗れるよりか、は
友人。つかず離れずの関係でよかった。
それが何年経ったか、東京に行った渉。
渉がある時、酔って響子に電話を掛けて来る。
「お前な、結婚したいんやろ?」
「年末までに東京来いよ。」「一度でも東京来れたら」
「一緒に初詣行って結婚しよ」と唐突にプロポーズ。
「俺な、お前のこと好きやで」とサラッと言う渉。
一度も付き合ってもない。今まで好きとも言わなかった渉。
人生の帰路に立っていた響子には本気に聴こえなかった。
「酔っ払いの戯言」だと、本気にしなかった。
数年後、響子は店を閉めた。疲れた心を癒すべく
叔母の家のある別の地に移住することにした響子。
相変わらず結婚は誰とも出来ていない。そんな響子。
モテない訳ではない。アラフォーになった今でも
「響子のこといいと思っている」と言い寄ってくれる
男性はいる訳で「響子さんとの話面白くて時間過ぎるの早い」
と、響子との時間を惜しんでくれる30代の蓮も居た。
「この歳になっても響子のことを『いい』って言って
くれる人がいて幸せだな」と思う響子ながら「なぜだろう」
「響子をいいと言ってくれる人には興味が沸かないのは」
と。
そもそも、親の不仲を目にして育った響子。
「結婚なんかするものか!」「絶対しない!」と
同棲相手に出逢うまでは、反結婚派だった響子。
それが結婚適齢期を迎え、過ぎ、誰にも選ばれない
誰も選んでくれないという状況に自信を無くす響子。
響子とて結婚したい訳じゃない。結婚出来ない『状況』が
嫌なだけで、本当は結婚したくないのかなとも。
幸せそうなカップルを見ると、羨ましくもある。
だから、達也と別れた後でも達也を切れずダラダラと
連絡が来たら、つい相手をしてしまう。達也も
都合のいい響子といると、身体の関係がなくても
心地よくてつい時間を持て余すと響子に電話を。
「響子さんは僕の癒しだから」と悪びれなく。
達也と身体の関係なく、キスもすることなく
手も繋がず、清い関係でいれるのなら、それでも
いいかな、とも思う。好きな人(顔)と会える。
好きな人に片想いしているときが一番幸せかも?
拗らせた響子は幸せとは何か。本当の幸せとは
何なのか、もうわからなくなっていた。
そもそも、響子は死のうと思っていた。
20代で貯めた貯金も、いったんは増やしたが
店を経営する中で色んな人と関わる中で徐々に病んで行き
生きることを辞めようと、全部貯金使って無くして
生きるのを辞めて、全部終わりにしようと思っていた。
それでもそんな響子が生きなければと思ったのは
「親より先に逝くなんて親不孝」「バカなこと言って」
と、嘆く母親。や、「そんな悲しいこと言わないで」
と言って、響子のことを気にかけてくれる人たちが
沢山居たから、だ。ありがたいこと。幸せなこと。
死にたがりの響子ながら、本当は生きたいのだ。
この辛い世の中を、強く共に生きてくれる人に出逢いたい。
響子は、元来明るく、前向きで、情熱のある人間。
熱を奪われ、何もかもやる気なく味気ない日々を
惰性で生きるしかなくなった響子を、力強く励まし
支えてくれる人を本当は望んでいるのである。
「甘えているな」響子は自分でもわかっていた。
そう、響子は甘えている。辛い世の中でもツイている
響子はいつも幸せだった。不況の中でも、就職出来た。
し、就職していなくても働く先はいつもあった訳で。
ハッチャケはしなかったが高校時代には青春していたし
いつだって彼氏も居た。いない時期ももちろんあるが
同棲も経験。
大型大家篤と出会ったときも憧れのリストランテ
クイントカントや高級店ラ・フェットひらまつでの
豪華な食事でもてなされた一生の記憶に残る誕生日や
滅多なことでは行けないエクシブ京都も含めて
食べログで有名なお店に、行きたかった沖縄など、
なんだかんだと連れて行って貰った。怨みもあれど
今となっては感謝の気持ちの方が大きい。
京大卒弁護士の将とも、将が既婚者とわかるまでは
北新地でワインやカクテルを片手に焼肉やフレンチを。
「飲む機会があったら飲むといい」と知り合いに言われて
1万円超えるルイ•ラトゥールも珍しく響子は甘えて
おねだりしてフルボトルをごちそうして貰った。
割り勘派の2,000万のアラタとは奢り奢られ、1,500万の瑛太は
「財布を出せ」と言うケチケチ男。3,000万の太郎は
「財布を出すなんて可愛くない」と言いつつ、普段は
ごちそうしてくれるが、酔って寝ては響子が支払いをして
帰るという構図がいつの間にか出来上がっていた。
響子より10個も上の篤や豪は、さすがに全ゴチ。
昭和の男が財布を出したからと女性にお金を出させることは
一度もなかった。さすがだな、と。ごはんやさんを
していた響子。学生さんや女性客もいたものの
お客様も圧倒的におじさんが多かった。
なので、そういうおじさんたちにも可愛がられ
「〜連れてったろ」と、色んなお店に連れられては
ごちそうになることが多かった。周りからすれば
とても恵まれている生活をしていた響子だった。
美味しいものが大好きな響子、色んな人に色んなところへ
連れられてどんどんと舌が肥えていく。
それでも、時にはストーカーまがいの人が居たり
彼女がいるお客様に好かれ、彼女から逆恨みをされて
営業妨害されたり。酔っ払って来たお客様が席で寝小便。
経営者の先輩方から洗礼を受けたり、辛い目にも沢山遇った。
お店を辞める段取りとして就職した不動産会社では
代表が「30歳も過ぎたら結婚してても子どもなんて
作られへん。(出来ひん。)」と。当て物を決めれず
お客様を説得出来ずに居る営業マンに対してキツく
指導に当たっていたが…40歳を超えて結婚すらしていない
響子は、仕事をしながらそれを傍目で聴いていて
「30過ぎたら女性としての価値がないってこと?」と。
令和の時代に時代錯誤も甚だしいなと思う発言に
立腹するよりも悲しい気持ちでいっぱいに。
「結婚だけが幸せじゃない。」とも思うが
「1度くらいは好きな人と想い合って、願わくば
子も授かれたら。」とも思う、乙女心が複雑な響子。
みんなが当たり前のように手にしている幸せを
自分も手に入れたいと切に願うのであった。
つづく
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