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パン職人と焼きたてパン

焼きたてパン、なんて魅力的な響きでしょう…
立ち昇る湯気、
香ばしい香り、
うまく焼けたことがわかる音。

「いいなぁ、パン職人なら焼きたてのパン、食べ放題でしょ?」
友人によく言われる言葉です。

パン屋で働いていたなら、焼きたてのパンを食べていたと思いますよね?

いえいえ。

私がパンを食べるのは決まって冷めた後なんです。

「え? なんで?」という声が聞こえてきそうですが、誤解しないでくださいね。
私も焼きたてパンは大好物です。

職場ではないパン屋へ行き、焼きたてに出合えたときはパンの神様に感謝してかぶりつきます。笑

でも、仕事としてパンに向き合うときは別。
しっかりとした理由があるんです。

パン本来の味を知るためには冷めたほうがよいから。

焼きたては、パンの味見に向いていません。
「焼きたて」という最高のスパイスがかけられているため、何を食べてもおいしく感じてしまうのです。
これではパンの細かい味がわかりにくい!

パンの出来に影響を与える気温や湿度は、毎日変化しています。
厄介なのは季節だけでなく、1日の中でも朝と昼で変わってしまうこと。
微妙な変化がパンの味に影響を与えてしまう場合も少なくありません。
(春や秋の寒暖差が激しい季節は、きーってなります…笑)

パン職人は常に安定したパンを提供できるように、毎日微調整を行っています。

細かな味の違いを確認することは、よりよいパンを作るためにも大切な作業です。
味の変化がわかるように、日頃のチェックは必ず「完全に冷めてから食べる」が鉄則でした。

パン屋で働いていても焼きたてはレア!

よほどタイミングよくなければ、パン職人でも焼きたては食べられません。

パン屋で口にするのは、焦げたり形が悪かったりしてお店には出せないと判断されたパンがほとんど。
カスタードの8割が家出したクリームパン、なんていうのもよく食べていました。
(おいしいのよ、これが。笑)

だからといって「冷めたパンを食べるのが通だ」や「パンは焼きたてじゃなくてもいいんだ」と主張したいわけではありません。

湯気や最高のスパイスはないかもしれないけれど、焼きたてじゃないパンには焼きたてじゃないパンのおいしさがあります。

パンをおいしく食べていただけたのなら、しかも焼きたてをお渡しできたのであれば、パン職人の末席に連なる1人として本当に嬉しいです。

ただ、ほんの少しだけ本音を言わせてもらえるなら…
「オーブンから出たばかりのパン、できるなら私が食べたーーーい!」

では、また。

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