見出し画像

【フランス留学】日傘とマダムとコンプレックス

春に芽吹いた新緑が徐々に濃くなっていくこの季節、私の日傘シーズンが始まります。
太陽が肌をじりじり焼くような感覚を覚えると、いそいそと日傘を取り出し「今年もよろしくね」とごあいさつ。

強くなった日差しを遮って道を歩くたび、よみがえるフランスの思い出があります。
今回は、私のフランス留学時代のお話です。

留学を始めたばかりの2019年5月

私が留学で最初に滞在した町

少しずつ慣れてきたパン学校からの帰り道。
日本と変わらない青空の下、私は当然のように日傘をさして家に向かっていました。

午前中の実習を終え、自分で作ったバゲット3本をお土産に午後の座学もなく、日本とは違うからりとした空気を切るごとに私の足取りは軽くなっていきます。

あと少しで家という路地で「こんな風に年を重ねたいなぁ」と思うような素敵なマダムとすれ違い、「Bonjour」と柔らかな笑顔であいさつされました。
私も嬉しくなって「Bonjour」と笑顔で返すと、マダムが立ち止まって私に話しかけてきたのです。

当時のフランス語レベルは…

突然のフランス語に驚きつつも、雨という意味の「pleut(プリュ)」と、否定形の「pas(パ)」をなんとか拾えた私はよくやったと思います。

日本でもフランス語を学んで留学しましたが、学習期間はたったの2ヶ月。
パン学校では授業もコミュニケーションも英語で、めったにフランス語を使う機会がなかった当時の私の語学レベルをおわかりいただけるでしょうか…
(よくそれで留学したな…と自分でも思う。笑)

「雨は降っていない」と言っているとわかったものの、初めての実践会話でおろおろする私にかまわず、マダムは言葉を重ねてきます。
表情と声音から怒られているわけではないとわかりましたが、何を言いたいのかがわかりません。

正直に「フランス語がわからない」とフランス語で伝えました。
(すごい矛盾!笑)
日本で一番最初に覚えたフレーズが役立った瞬間です。

マダムにも通じたようで、言葉ではなくジェスチャーで伝えてくれました。
私の日傘を指さしてたたむ動作です。

みなさんはもうお気づきになりましたよね。
はい、マダムは雨も降っていないのに傘をさしている私が不思議で声をかけてきたのです。

フランスの方々は日光が大好き

日向から人が埋まっていく

1年半の留学中、私はフランスで日傘をさしている人を見たことがありません。
それどころか、強くなる日差しが嬉しくてたまらないとでも言うかのように、春先から夏にかけて積極的に庭や公園、川沿いで日光浴を楽しんでいました。
(コロナで家から出られなかった期間も、ベランダで日光浴をしていた…)

のちに仲良くなった在仏日本人に方に聞いたら、フランスは小麦色に日焼けした健康的な肌が好まれる傾向があるとのこと。

全身で太陽光を求める姿に、カルチャーショックまでいかないけれど、やっぱ価値観って国によって違うんだなぁと感じた瞬間です。

マダムはきっと「雨降っていないのになぜ傘なんてさしているの? こんなにいい天気なのにもったいないわ」と言いたかったのでしょう。
(超意訳)

私の選択

マダムと別れた私は、その日から日傘をささなくなりました。

フランスに合わせたとか周りに奇異の目で見られるのが嫌などの理由ではありません。
(フランスの田舎で暮らしているアジア人ってすでに珍獣だったし…笑)

頭にあったのは、日傘をさしたらまた慣れないフランス語で話しかけられるかもしれないという恐怖でした。

当時は英語で受けるパン学校の実習や授業、友人との会話でいっぱいいっぱい。
日本語なら話したいことがたくさんあるのに伝えられないもどかしさや、考えの半分も言葉にのせられない語彙力の少なさに打ちひしがれていた私は、短い滞在期間にも関わらずすでにコンプレックスの塊になっていたのです。

ゆっくりと話してくれたマダムの言葉も聞き取れなかった経験をして、英語でもこうならフランス語だったらどうなるの…とおびえていました。

留学が進むにつれ少しずつ会話に慣れ、現地フランス語の資格試験にも合格して自信がついてからだったら、「文法なんて間違ってもいい」とか「単語をつなげるだけでもわかってくれる」とか簡単に言えるでしょう。

しかし、当時戸惑い悩みながらも、英語で少しでも会話ができるよう、やれる努力は最大限していたと思います。

当時使っていた単語リストが残ってた!

やれることを考えてがんばっていたのに、フランス語にもチャレンジしなよ!とは、過去の自分に対してでも口が裂けても言えません。

確かに、がんばればフランス語も上達したかもしれませんが、英語に集中する選択をしてよかったと今でも思います。

日傘が連れてくるフランスは少しだけ苦しい

町の中心地はこんな感じ

日本で日傘をさすたびに、私は素敵なマダムの姿とフランスの町並みを照らす強い太陽を思い出します。
同時に、英語でもフランス語でも語学力の低さに悩み、迷い、日々悔しがっていた気持ちもよみがえるのです。

私はフランス語の会話が怖くて『日傘をささない』選択をしました。
今なら「向こうから話しかけてもらえるなんて話す練習になる! さしちゃえさしちゃえ!」と考えて、平然と使っていると思います。笑

あなたはどうしますか?
あいさつぐらいしかできない語学力で、話しかけられる理由になるかもしれないと思いながら、気にせず日傘をさせますか?

留学で多くの方が経験するであろう、言葉の壁。
ほんと、大変だったんだよなぁ…と遠い目をしつつも、間違いなくがんばっていた当時の自分を見つけられてよかった。

では、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?