かろし


あなたが今日振り切った温度と
絶え間なく降りかかる遠近法 なにを
どこに置いていったのか その空白は埋まってしまったの
いまは「何かない」すらないわ
昨日投げたピンヒールを 明日折って拾いなおす
琥珀色が脱けて宙に浮かぶ夜が建ってるけど
今日は目移りしないと そう 

亡霊は間違って正面から帰ってきて それで それで
わたしはやっぱり気付かない
予め手遅れだった呼びかけ は置き去りにした
今日はなんといっても お気に入りなのだから

起きたらシーツのしわまで気に入らない
トニックの匂いで音速な気分 再放送は紫の吐息にして
窓には枯れたビタミンの虚 潰れた抵抗が腕を伝うわ
選択肢には時間が足りない もつれた影と幾度の還俗
眠るにはもう遠くにきてしまった。

歩幅が同じ二人はピンホールに写らない 
気付いたときは どこか どこへ
嫌いな人にも好かれたいのさ
振り返るために前に進むのは もうやめたの

水底の街に揺蕩うあたしは 深夜になってしまった
瓶詰めの紅さは重力に逆らうの よく噛んで 嚥み込んで
そんなことなら

亡霊は間違って正面から帰ってきて それで それで
わたしはやっぱり気付かない
予め手遅れだった呼びかけ は置き去りにした
今日はなんといっても お気に入りなのだから


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