エレベーター、エスカレーターの出会い
どうも今晩は。今日はクリスマスに遭遇した何気ない出来事を吐き出します。
マンションのエレベーターに乗るとき、なるべく他の人と乗り合わせたくない…と思うのは私だけではないはず。乗り合わせるのを避けるべく、目の前を歩いていた人が自分のマンションに入っていったらわざとゆっくり歩いてタイミングをずらしたり、ポストの郵便物の処理に手間取っている風を装って先に行ってもらったり、なんてことは日常茶飯事。とにかく”一応同じマンションに住む隣人ではあるが名前も知らない会話をしたこともない街で見ても気づかない限りなく他人”という存在とあの狭い空間に十数秒閉じ込められる状況は避けられるものなら何でもする所存だ。
それでもごくたまに運悪く乗り合わせてしまう場合はある。先日クリスマスの夜の帰宅時にその時を迎えてしまった。しかもこちらは一人なのに向こうが二人組という最悪のパターンだった。私の住むマンションはワンルームで一人暮らし向けのため二人組はレアケースではある。しかし今回の状況は・クリスマスの週末・若い男女の組み合わせ・男性の手には見るからにケーキとチキンの袋。どう考えても一人暮らし中の彼の家に遊びに来た彼女と二人でおうちクリスマスをenjoyするカップルだった。
私が先にマンションに到着しエレベーターを待っているところにカップルがやってきた。こうなると”ポスト作戦”はもう使えず、「お先にどうぞ」というのも不自然なのでもう合乗りを受け入れるしかない。先にエレベーターに乗り込んだ私は最上階のボタンを押して奥に進んだ。大抵の場合、自分より下の階で降りる人が多いので私が奥にいる方が邪魔にならないのだ。今回も「私は最後まで乗りますから、どうぞ先に降りてくださいな」と言わんばかりに奥へと進むと、カップルは降車階ボタンを押さなかった。「まさか、、同じ階に住んでいるとは…!」初めてのパターンに面食らったが、もうその狭い箱は扉を閉めて動き始めている。後はただ時が過ぎるのを待つだけだ。エレベーターが最上階に着くと、女性の方はすぐ降りて行ったが、男性の方は私にしっかりと会釈をしてから降りて行った。どうやら男性の方がここの住人らしい。くそぅ、ちゃんとしてるじゃないか。。乗り合わせることになって少しでも嫌だと思った(そしてそれが若干態度に出てしまっていたのではないかという)自分がクズのように思えた。
大したマンションではないが最上階なので少しは見晴らしがいい。カップルの後を追ってエレベーターを降り自分の部屋の前まで歩いていると、彼女の方が
「あ、見て!花火だ!」
と前方を指差して言った。私もその声につられて顔を上げると、確かに遠くの空に花火が打ちあがっているのが見える。どうやらクリスマスのイベントで花火大会が行われていたらしい。
偶然見つけた幸運をカップルが分かち合う後ろで、ただ同じマンションの同じフロアに住んでいて同じエレベーターに乗り合わせただけの赤の他人である私も冬空の花火に一瞬だけ気分が高揚した。しかしすぐさま気づいた。二人っきりで見られた方がさぞかしロマンチックだっただろうに。あぁ今すぐこの場から消え去りたい。そう思いながら慌てて鍵穴に鍵を指して自分の部屋へと入ったのであった。
ただ、エレベーターに乗り合わせただけなのに…
こんなことがあった翌日。帰省の手土産を買い求めてデパートへ行った時のこと。
地下のスイーツフロアを目指して下りエスカレーターに乗ると、数段下に母親におぶられた赤ちゃんがいた。後ろ向きで抱っこされていた赤ちゃんと私は目が合った。さて、こういう時の対応が私には分からない。勝手にいないいないばぁなどと頼みもしないのにリアクションをして赤ちゃんを泣かせることになってしまったら迷惑極まりない。かといって何にもしないのも寂しい気がする。そういうわけで今のところ私にできるのは赤ちゃんの目をじっと見て心のテレパシーを送ることだけだ。今回もそれを実行するしかなかった。無論、赤の他人のこどもにテレパシーなど通じるわけもなく、大抵数秒後には飽きられてそっぽを向かれてしまう。
ところが、この赤ちゃんは違った。ただじっと見つめるだけの私にとびきりの笑顔で手を振ってきたのだ。すごい。私は勝手にアイドル赤ちゃんと名付けた。この子は普段からタレント活動でもしているのだろうか。完璧な間と、タイミングでの笑顔、そして手を左右に振る仕草。レッスンせずにこの能力を発揮しているのだとしたら相当な大物だ。
何てくだらないことを脳内で考えているとアイドル赤ちゃんの母親がその様子に気づいて後ろを振り返った。私が軽く会釈をすると間もなくエスカレーターは地下スイーツフロアに到着し、親子は人混みへと姿を消していった。
冷える冬にちょっとだけ心を温めてくれた出会いだった。
ただエスカレーターに乗り合わせただけなのに。
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