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YEAHHHHH!!!!!!

 デデッ!!!と爆音のギターが鳴り響きました。二本足で立ち、喋ることができる白ねこのまち子さんは「ブンブンサテライツの『キック・イット・アウト』だにゃ~」と思いました。それは外から聞こえてきました。まち子さんはベランダに出て、団地9棟5階の高さから視界いっぱいに立ち並ぶ団地を眺め、それがどこから聞こえてくるのか、耳をすましました。
 デデッ!!!
 わかりました。団地の公園近くにある集会所からでした。まち子さんはベルメゾンとスイマーがコラボしたポーチを肩から掛けて、集会所へ向かいました。まち子さんは興味があったのです。なぜ団地の集会所からブンブンサテライツの『キック・イット・アウト』が鳴っているのか。それはそれとして、まち子さんはそのバンドの大ファンだったので大音量の『キック・イット・アウト』が聞けるのならそれで良かったのです。
 団地の集会所に近づくにつれて『キック・イット・アウト』は耳が痛くなるような爆音になっていきました。「イエーーー!!!」と今は亡きボーカルの川島さんの叫びが聞こえ、まち子さんは少し胸がきゅっとしながらもそこで気が付きました。
「あ、ライブ盤を流してるんだにゃ」
 音は集会所の集会室1から流れているようでした。まち子さんはおずおずと「ごめんなさいにゃ~」と言いながら集会室1のドアを開けました。
 そこには10人ほどのおばあさん達が中央にある馬鹿でかいスピーカーを囲むようにパイプ椅子に座っていました。
「あら、まち子さんどうしたの?」
 まち子さんが住む9棟、その902号室の柴田さん(75歳・人間)が言いました。
「柴田さん。この部屋から私の好きな音楽が聞こえたのにゃ」
 デデッ!!!
「あら!ごめんなさい!私達、耳が遠いものだから、大きな音で流しちゃってたわ」
「好きな曲だからいいのにゃ。なんで流してるのにゃ」
「それは今度、発表会でこの曲を演奏しましょって話でね」ふと柴田さんの手を見るとそこにはウクレレが握られていました。
 ウクレレサークルの練習だったのにゃ。なるほど合点!でもここでまち子さんはふと疑問に思います。「ウクレレで、この暴力的な音は出せるのかにゃ?」そう柴田さんに訪ねます。
 デデッ!!!
 柴田さんはオーバルの眼鏡を外して、まち子さんの目をしっかり見てこう言いました。
「ウクレレの音を拾うマイクを目一杯歪ませたディストーションエフェクターにつなぐのよ。それから本番ではあらかじめ打ち込んであるドラムやベース、シンセと同期させて演奏するし。それに分厚い音を作ってくれる最高のPAもいるの。だから大丈夫なのよ~」
 まち子さんはへーと言いました。
 柴田さんはそうだ!と手を叩いて、まち子さんの手を握りました。
「あなたもウクレレサークルに入って私達といっしょに演奏しない?」
 まち子さんは断りました。テレワークが忙しかったからです。
 ただ、数カ月後の発表会は見に行きました。場所は公民館の二階にある小さなホール。席数は30ほどで、早めについたまち子さんは一番最前、真ん中の席に座ってしまいました。
 発表会が始まると、まずシューゲイザ―詩吟サークルの発表、次は小学生達のリコーダーハードコアテクノ、その次は女子高生とねこによるカリンバとハミングのソ連国歌を演奏があり、その次がついにウクレレサークルの発表でした。
 ムームーを着た10人のおばあさん達がステージに集まります。真ん中には柴田さんです。柴田さんはメンバーとアイコンタクトを取ります。
 デデッ!!!
 柴田さんが亡くなったのは発表会から半年ほど経ってからでした。突然のことでまち子さんは驚いてしまいました。
 その一ヶ月前の団地の清掃にも出ていたのににゃ、その時は柴田さんお元気そうだったのににゃ。
 空き家になって、ガス供給停止中の札がかかった柴田さんの家の前を通る時「そうか柴田さんって死んじゃったのにゃ」とそのあまりにあっさりで実感のない死を思うのです。
 ポーチの肩ひもをなんとなく触りながら、その時に思うのは死そのものよりも、あの発表会のことでした。
 デデッ!!!
 爆音のウクレレが公民館のホールに鳴り響きました。眼鏡を飛ばし、髪の毛を暴れさせ、客を煽りまくるウクレレサークルの演奏に30人弱のお客さんは大熱狂。叫ぶ柴田さんの姿にまち子さんはブンブンサテライツのボーカル川島さんを思い出して胸がきゅっとなりました。
『キック・イット・アウト』が終わって、そのまま舞台上を去るのかと思ったら、柴田さんたちはお互いを見合って、ウクレレをかき鳴らしました。
 デェーデッ!!!
 それはブンブンサテライツの『ドレス・ライク・アン・エンジェル』で、これもまち子さんは好きな曲だったので、めちゃくちゃ笑顔になって「にゃーー!!」とステージ上のウクレレサークルに向かって叫びました。その時、柴田さんはまち子さんを見て笑い、叫びました。
 柴田さんの死を思う時、その笑顔と叫びを思い出すのです。


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