Botanical Communicator
「なぜ人は花を美しいと思うのか」という答えのない問いを追いかける連載です。
植物は一日中呼吸をしています。 と、書くと、「あれっ?植物って光合成してるんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。 植物は光合成によって、二酸化炭素と水から生きるために必要な糖を生み出し、同時に酸素を作り出しています。 けれどそれは日中、光がある時間のお話。 日中の大きな光合成活動の陰に隠れて、実は植物は一日中、酸素を吸って二酸化炭素を出しています。私たち人間と同じように。 もちろん、トータルの収支計算をしたら、植物が光合成で作り出す酸素と比べて、呼
どうして植物はなるべく重ならないように葉っぱをつけているのでしょうか? 答えは簡単、「もったいないから」です。 植物は葉で太陽の光を受けて光合成を行い、生きるために必要なエネルギーを作り出しています。そして、葉っぱを作り、維持することにもまたエネルギーが必要です。 ということは、なるべく少ない葉の枚数で、生きるために充分な量のエネルギーを作り出したいですよね。 葉が重なっていると、下の葉に当たる光の量は減ってしまいます。つまり、十分に光が当たっている場合と比べて、下の
前回の続きのお話です。 茎に葉っぱをどういう風につけたら、葉が重なるのを防ぐことができるのでしょうか? 「黄金比」という言葉を聞いたことはありますか? 1:(1+√5)/2 = 1:1.618… という数式で表される比率で、人が美しいと感じる比率と言われています。 名刺の縦横や、ピラミッドの底辺と高さ、自動車のホイールの設計、人間の容姿などなど、黄金比に基づいていると言われる比率は様々あります(全て当てはまるとは限りませんが)。 この数式から導かれる「黄金角」というものが
前回は、1つの花の中で、花弁は螺旋状についており、互いに重なり合わないようになっているというお話をしました。 螺旋の形というのは、自然界に数多く存在します。 松ぼっくりの笠の並び、ヒマワリの種の配列、野菜だとロマネスコの花序や、写真のようなアーティチョークのガクの並びまで… 少し前の復習ですが、花というのはもともと葉から生まれた器官でしたね。というわけで、どうして植物に螺旋があるのか、葉っぱで例えて考えてみましょう。 まっすぐな茎に1枚ずつ葉がついていくのを想像してみて
また難しそうなタイトルです。でも、大丈夫です。中の人間も数学は苦手なので、なるべくシンプルなお話にしていきます。 花を見て「きれい」だと思う理由を、数学の観点から解き明かしていきましょう。 バラの花です。吸い込まれそうな深い赤色をしています。私たちは何をもってバラを「きれい」だと感じているのでしょうか。 バラの花は、外側から内側まで花弁が密に重なっています。もともと原種のバラは一重咲きで、人間がこの八重咲きの形を選んで、様々な品種を作ってきました。 ※品種というのは、種(
生き物の分類での本名のことを、学名といます。 "かいもんこうもくかぞくしゅ" 呪文のような言葉ですが、生き物の分類はこの言葉に従っています。 漢字で書くと、"界門綱目科属種"といいます。生き物を分類していくときの、世界共通の段階的なグループ分けの方法です。 ちなみに私たち人間は、 動物界(Animalia) 背索動物門(Chordata) 哺乳綱(Mammalia) 霊長目(Primate) ヒト科(Hominidae) ヒト属 (Homo) ヒト(種小名: sapien
花弁とガクの境界がどこにあるのか、というお話は、実は植物の研究者の間でもまだ答えが出ていません。 多くの植物では、ガクには葉のように葉脈があり、緑色をしていることが多いです。花弁と比べて厚さがあることが多いです。また、花弁が散ったあとも茎にくっついたままであることも多いです。 一方で、花弁にも葉脈のような脈(花脈)があります。食紅で色をつけた色水を吸わせてみると観察できます。花弁は薄くて柔らかく、大きく、受粉を終えたら散ってしまうことが多いです。 しかし、私たちがもつ一般
さて、第3問です。これが一番難しいかもしれません。 写真の花、グロリオサの花びらは、どれでしょうか? ヒントは、グロリオサはユリの仲間なので、ユリと同じ花の作りをしています(ヒントになってるのかな?) よく花の形と要素を見て、考えてくださいね。 ちなみに、花屋ではユリの花粉がお客様の所で服や壁につくと大変なことになるので、花粉が入った葯(やく)はなるべく取るようにしています。 さて、そろそろ答え合わせです。 グロリオサの花びら(花弁)は、黄色い部分のうちの3枚です。分か
さて第2問です。 写真の花、クリスマスローズの花びらは、どれでしょうか? さて、こういう問題になるということは、私たちは植物の思惑によくひっかかるということです。 花のつくりをじっくり観察してみて下さい。ガクはありますか?雄しべや雌しべは?じっくりと分解してみていくと、答えはわかるはずです。 そう!クリスマスローズの花びらは、ありません!(なんと!) 花弁は退化して、雄しべの周りにある"蜜腺"という器官に変化しています。 花びらに見えるものは、ガクです。花の付け根にガクの
前回までは、花びらに見えている部分が実は花全体、というパターンをお話してきました。 花をみるときには、注意しておかないとよくひっかかってしまいます。 では、写真の花、カラーの花びらはいったいどこにあるでしょうか? カラーの花の白い部分は、実は花びらではなく、ガクです。真ん中の黄色の部分が花です。こういった花を包み込むようなガクの形は、仏像の背中側にある炎の彫刻に似ていることから、仏炎苞と呼ばれます。 カラーの花は、真ん中の黄色の棒状の部分に小さな花がたくさん集まっていま
"花びら"、つまり1つ1つの花が全て舌状花になったら、どうなるのか。 写真のキク(ピンポンマム)は、まさにそのような花の形をしています。 舌状花がたくさんあつまると、ボリュームが出て、全体として豪華に見えるようになります。こういった花の形を"八重咲き"と呼び、様々な植物の花で八重咲きの品種が作られています。 では、植物目線だと、八重咲きってどうなんでしょうか。 ほとんどの場合、舌状花の雄しべや雌しべは退化して小さくなり、本来の機能を失っています。つまり、舌状花は生殖機能
キク科の花では、花びらに見えるものが、実は1つ1つの花になっています。 タンポポをイメージすると分かりやすいかもしれません。タンポポの綿毛は、1つ1つに種がついていて、飛んでいきますよね。 花が咲いた後、実や種ができたときに、花だったものがどんな形になっているかを考えると、どれが本当の"花"なのかが見えてきます。 さて、花の形が広がった舌状花になるか、すぼまった管状花になるかは、CYCLOIDIA(サイクロイディア)という名前の遺伝子によって決められています※。ヒマワリの
花占いをしたことはありますか? 花びらを1枚ずつ取りながら、あの子は私のことを、スキ、キライ、スキ、キライ… 最後に残った花びらで、スキになるのか、キライになるのかを占う…そういう遊びです。 花びらの数がぱっと見て数えられてしまうと面白くないので、花占いをする時は、花びらがたくさんある花を選びます。 さて、私たちが普段"花びら"と呼んでいるものは、実はそれぞれが1つの花です。 写真のようなキク科の花は、"花びら"1枚1枚がそれぞれ1つ1つの花です。といってもピンとこないと
茎の先端にある茎頂分裂組織の小さな細胞がそれぞれ、ガク、花弁、雄しべ、雌しべという花の器官に分かれて成長していくために、植物はどういう制御をしているのでしょうか。 植物の研究者は、前回のカーネーションのような様々な"変な花"を集め、観察し、ABCモデルという考え方によって花器官の制御の仕組みを明らかにしました※。 2枚目の画像でABCモデルを簡単に説明します。 茎頂分裂組織では、A、B、Cの3種類の遺伝子が働いています。(本当はそれぞれきちんと遺伝子に名前がついています
写真は何でしょうか。マリモ? 実はこれはカーネーションです。テマリソウという品種です。花びらが全部芽のような緑の葉になる変わり咲きです。 花のつくりは、一般的に外側から内側へガク、花びら、雄しべ、雌しべの順に並んでいますが、このカーネーションのテマリソウは全部がガクになってしまっています。 もうお分かりになると思いますが、花は葉から生まれた器官です。花が葉と同じ緑色だと目立たないので、花は花びらを作ったり、色を変えたり、香りを作ったりして、交配の際に有利になるように試行錯
植物に花というものが無かった所から、花がどうして生まれたのか、その答えも植物が教えてくれます。 植物の体の組織は色々ありますが、大きくは3つに分けることができます。根、茎、葉です。体を固定し水分や養分を吸い上げる根、体を支え血管のように水分や養分を行き来させる茎、光合成によって養分を作り出す葉です。 では、花はこの3つの中でどれに属する組織でしょうか。 写真の花を見てみてください。この花もバラです。1つの花の中で、周りはピンク色に、真ん中は緑色になる、変わり咲きの品種です