05. 哀をこめて花束を~北の門前町と昭和建築 旭川市 ヤマト市場
旭川市 ヤマト市場(旭川市1条通3丁目、築年代不明)
ある日近所のコンビニに入ると、コーヒーサーバーの前で仏花が売られていた。今や先祖に供える花すらLEDで照らし出される大量消費物のひとつになってしまったようだ。ここで買った花を仏前に供えると礼を失するような気持ちを抱くのは年を重ねたせいなのだろうか。
母方の親族が眠るのは、旭川の開拓初期から同じ場所で営みを続けている大谷別院である。以前は夏でもうすら寒い、足音が高く響く鉄階段が印象的な古びた納骨堂だったが、近年大規模改修が行われ、エレベーター完備の近代的に過ぎる納骨堂に生まれ変わっている。
敷地内に車を停めたら、すぐに納骨堂には向かわずに一度敷地外に出る。母が数十年通っている花屋に仏花を買いに行くためだ。近藤染工場の朝顔を右に見ながら1条通に出ると、「ヤマト市場」の赤い建物が目前に現れる。この市場に入っている「かじた生花店」が目当ての店だ。鮮度の良い花が良心的な価格で売られている、昔ながらの"花屋さん"である。
切りたての生花の青臭い香りが漂う店先に仏花が売られている。鮮度が良くボリュームがたっぷりの仏花(小サイズ)は500円でおつりがくる。スーパーに併設されている花屋で買ったら700円は取られそうな内容だ。ここで仏花を買う人は別院にお参りする人だとお店のお母さんも心得ていて、供えやすいように茎を切ろうかと気配りまでくれる。とてもあたたかいお店だ。
そこいらで買った花より茎が太くて水をたっぷり吸い上げるからなのか、かじたさんの花は長持ちする。自宅の仏壇用に買うこともあるが、こまめに水を変えていればなかなかの咲き誇りだ。同じ花でも、やはり見栄えが良い方が先祖もうれしいに違いない。
ヤマト市場は、調べ得る限り営業を始めて70年近くが経過している。現在、かじた生花店のほかに数件が営業を続けており、市内の他の市場に比べると恵まれているほうだ。それでも、過去そうであったように、気づいた時にはひっそりと無くなっている可能性はゼロではない。旭川の文化といっても差し支えない市場建築と地域を見守ってきた店子をどう守り伝えていくのか。若い世代の市民に課された課題なのかもしれない。
店主敬白