(令和5年2月更新版)何故ロシアによるウクライナ侵攻は長期化したのか~戦史に残る軍事的大惨事~
1.ウクライナ紛争っていう2014年から続く紛争があるんですけど
背景情報~ソ連とかいうクソデカ国家の崩壊~
昔々あるところに、ソヴィエト社会主義共和国連邦っていうクソデカ国家(東京ドーム479093145個分の大きさ)がありました。
この国家は我々西側との競争の結果崩壊してバラバラになっちゃったんですけど、どれぐらいバラバラになったかというと15個に割れました。
連邦っていう位なので構成国家が独立しちゃって構成国家がゼロになったんですね。
で、今回の紛争は偉大なるソ連の復活を目指す第一位と、過去と決別し新たな道を歩みたい第二位との間で行われた『ソヴィエト崩壊 round2』みたいなモンだと解釈していだだければ良いと思います。今回はコレについてお話をしていこうと思います。ゆっくりしていってね!
クリミア併合という軍事的大成功
さて、元々一つだった国家が分離独立したので大変な事が色々と起こりました。
核兵器の管理とか軍隊の指揮命令とかは勿論、人、モノ、カネ、そして土地も色々と揉め事が多かったのです。
今回の焦点は黒海に突き刺さった半島、クリミア半島の南端『セヴァストポリ』になります。
ココは黒海艦隊の司令部があり、良港がある黒海の要衝で、黒海を支配するならば確実に押さえておきたい場所です。後温かいのでクリミア半島はバカンスに向いてます(重要)。
クリミア半島では先住民族を虐殺して多くのロシア人が居住していたという事で、ウクライナのロシア人比率を高める為に1954年にロシアからウクライナへと所管替えされ、ウクライナが独立してもクリミア半島はウクライナの領土という事にされました。
そこで困ったのがソ連海軍を殆ど巻き取ったロシア、おいおいセヴァストポリはどうするんだよという事になり、当時は親露派政権だった事もありセヴァストポリの海軍施設はロシア連邦が管理して良いよという事で一件落着しました。
しかし色々あって(ここで親露派の方は米国に責任を帰する訳です)ウクライナが親欧米になり、親露派政権が崩壊するとロシアは焦り始めます。
そこでロシアお得意の事前工作と武力を用いてクリミア半島を占拠、併合しました。この時サイバー攻撃や電子戦、事前工作の甲斐あってクリミア半島に所在したウクライナ軍は組織的な抵抗を出来ずに投降し、ロシアは殆ど無血でクリミア半島を併合した一方、東部の親露派にも肩入れするようになり、慢性的な戦闘が続くような状態を作り上げました。
こうすれば少なくともNATO加盟される心配は無い。バルト海を囲む北欧の二カ国だって現状を維持して中立政策を取るだろう。
この大成功が、後の軍事的大惨事を生むことになります。
ウクライナ侵攻という軍事的大惨事
そしてロシアは思いました。
『コレ、ウクライナの全部をロシアが占領するのも全然余裕じゃね?』
そしてクリミア半島での経験を元に『使える全部の侵入点から一挙に侵攻したら殆ど全速でウクライナを駆け回って占領できる』という想定を算出したのでしょう。
クリミア半島では大した流血は無かったので、今回も大丈夫!それにロシアの軍事力は世界第二位!もし抵抗されても捻り潰せるもん!
駄目でした。
航空優勢は獲得できず、精鋭部隊は木端微塵になり、黒海艦隊旗艦「モスクワ」は撃沈され、ハルキウでは大突破されて動員に踏み切らざるを得ませんでした。
そしてロシアの威厳は失墜し、外征能力の喪失に伴って中央アジア一帯で戦火がふつふつと上がるようになった上、西側からの激烈な経済制裁を受けたお陰で経済は死に体になり、外資系企業は尻尾を巻いて逃げ出してビックマックが食べられなくなり、グッチが買えなくました。
2.世紀の軍事的大惨事は何故起こったのか、知っておこう
陸上領域に於ける軍事的大惨事について、知っておこう
さて、陸上戦闘に於いて敵野戦軍を撃破する為に重要なのは何でしょうか。
火力?機動力?突破力?そのどれもが大切ですが、一般的にはそれらを複合した『突破、分断、包囲、殲滅』が大切とされています。
要するにこういう事↓なんですけど(部隊規模は各自補完してください
しかしこれは理想気体の状態方程式みたいなモンで、もっというと『こうなればいいなぁ』という陸軍将校の願望そのものであります。オタクに優しいギャルと芋女に優しいヤンキーが居ないのと一緒で中々こう上手くは行きません。
実際には兵站の都合やら敵の抵抗やらで突破が十全に出来ないことが多いですし、そもそも敵よりも多い戦力を確保できたとしても一次大戦からずっと『陣地火力』は強力です。そして冷戦以降はATGMなんてモノも登場するようになり、難易度は相当上がっていました。
今回ロシア軍は、戦略的に集中する選択をしなかった上、ウクライナ軍の抵抗をあまりに軽微と見積もりすぎていました。
何なら寝返るとまで考えていたみたいですから。
しかしウクライナ軍は計画された遅滞行動を行いつつ、殆どの戦線に於いては包囲される事無く、主力野戦部隊の温存を続け、一方でロシア軍は進軍する度に被害が続出して段々と戦闘力を損耗させるという事態に陥ったのです。
彼らのさらなる失敗に空挺戦力の無駄遣いというのもあります。
女子高生と同じく、空挺戦力というのは極めて貴重かつ重要な戦力であり、戦争の帰趨を左右するだけの力を持つものです。つまり決戦に投入すべき戦力であって、無為に消耗させるべきではありません。
ロシアに於いて彼らは『空挺軍』と呼ばれ独特のダサい歌と共に精鋭としての名誉をほしいままにしていました。
しかし、勢いよくホストーメリ空港やその他要衝等をヘリボーンによって颯爽と制圧したり、ヘリコプターをMANPADSで撃ち落とされたりした彼らは気付きます。
『あれ、陸軍が来ないぞ?^^;』
更に陸軍が来るまでの間、一般的な陸軍部隊よりも火力と築城で劣る彼らを支えてくれるハズの空軍も来ません。
開戦劈頭、奇襲効果を存分に発揮して敵地奥深くへの突入に成功した彼らは、陸軍部隊との連絡に失敗して孤立、無事包囲される羽目になったのです。
ある人は言いました。『手の込んだ自殺である』と。
つまりロシア軍の理想と現実をクソ雑に図解すると以下のようになります。
駄目じゃん。
こうなっては流石に全土の占領は無理だと考えたからか、キーウ攻略に失敗してからは東部に集中するようにしましたが、もうその頃には奇襲効果は完全に失われていました。
その上本格的に戦うと腹を決めてからも動員を掛けるのが遅かった為歩兵が不足し、確保した領域を保持できないという事態に陥ったのです。
歩兵戦力は『陸上戦闘力の骨格』であり、確かに敵野戦軍を撃破する能力には劣りますが、地域を確保し、或いは奪取する事が出来る、今のところ唯一の戦力です。
逆に言うと歩兵戦力以外の陸海空全戦力は『歩兵戦力を出来るだけ保全して所望の地域を確保させる為』に活動していると言って過言ではありません。
更にロシア軍は歩兵戦力を警察部隊からも抽出していた為、野戦に対応していない彼らはあっという間にウクライナ軍の攻撃をモロに受けて壊滅しました。あーあ。
こうなったのは全部、誤った情報に基づいて誤った理解をし、誤った作戦を立案して決心したからです。その根拠は紛うこと無くこの経験でした。
世界第二位の軍事大国ロシアは、この経験に基づいて様々を計画し、侵略を決行しました。つまり『チ○ポでピアノを弾く芸人』と、それを支持した国民、国家の意思と遺恨をあまりに軽く見たからこの大惨事を引き起こしたのです。
クリミア併合では逃げ出したウクライナの指導者層は、ロシア軍が首都に緊迫する中でも首都から逃げ出しませんでした。
『チ○ポでピアノを弾く芸人』は『救国の英雄』を演じ切って祖国の礎として死ぬ事を決意したのです。そしてウクライナという国家はその狂気に乗りました。
以上の話について具体的な話は方々で散々されているので、出来るだけ抽象的な、本質的な話をすると、ロシア軍の陸上領域に於ける失敗は以下のように纏められると思います。
戦力を戦略レベルで分散させすぎた(集中の失敗)
開戦劈頭に敵野戦軍の捕捉に失敗した(包囲の失敗)
空挺軍の降下地域が深すぎた(決戦戦力運用の失敗)
部隊の地域確保能力が無かった(歩兵の不足)
情報能力が無かった(情報の失敗)
当時西側情報機関の多くはウクライナ軍がここまで善戦するとは考えていなかった為、まだ陸上領域での失敗は単なる『無能』で片付けられるでしょう。ロシア軍はその他領域に於いて圧倒的な優位性を確保している為、陸上領域で多少躓いても挽回は効くハズでした。
しかしその他領域での失敗と、ウクライナ軍のハルキウ州攻勢がこの『躓き』を領域横断的でシームレスな軍事的大惨事へと発展させます。
海上領域に於ける軍事的大惨事について、知っておこう
完全に油断してたのでSSM二発で旗艦にしてた巡洋艦が沈みました。お陰様でウクライナ南部に対するS-300Fによる制圧が効かなくなってウクライナ空軍が南部でも自由に行動するようになりました。後開戦劈頭に確保して喜んでたスネーク島奪還されました。
ぶっちゃけ海上領域の失敗については説明する価値があんまりないのですが、一応説明していきましょう。
さて、海上艦艇を撃破する為にはまず何が必要でしょうか。
火力?そうですね、無いとどうしようも無いですね。
もっと必要なのは『目標情報』です。具体的には『敵味方とその種類がハッキリした、的確な時空間の情報』と表現できます。これは海軍が極めて機動力が高い軍種であるからです。
海軍の機動力と言うと大体『車は時速100kmで走る!船は時速50kmぐらいだから陸軍の方が機動力がある!』って人が出てきますが、その人は海底地形の上を海水が満たしており、船はその上を自由に航行できるという前提を忘れています。え?水の粘性?まぁ落ち着けって、頭いいのは分かったから話聞けよ。
これは陸上戦力に対しての航空戦力の優位性なんかでも同じことが言えますが、『基本的に地球表面はグッチャグチャのワッチャワチャなので移動に向いていない』のです。そして道とか鉄道とかの存在は『グッチャグチャのワッチャワチャな地球表面に無理矢理交通を通す』道具であると解釈出来ます。つまり陸上戦力の作戦や機動は、地形や交通に著しく制約されるのです。
しかし海軍は海底地形を無視してスイスイ動けます。やったね!
でも地球は今のところウォーターワールドでは無いので、当然大陸や海峡、島嶼その他の制約を割と受ける事は言い添えておきましょう。
再度目標情報の話をすると、海軍は基本的に広大な海洋を自由に機動出来る為、索敵をするにあたっては線では無く面で行う必要があります。
陸軍の場合、展開地域や使用経路についてある程度の推測が出来ますが、海軍の場合は著しくそれが困難です。
その上、海軍は捕捉された位置から全方位に対して迅速に機動する事が可能である為、目標情報は急速に劣化します。
だから哨戒機やらの情報収集能力が、海軍にとって極めて大切になる訳です。
因みにこのような海軍の機動力と低捕捉性、それに潜水艦なんかの要素が絡み合った結果、『海上優勢』という概念が生まれました。
平たく言うと『海軍力による海域の支配なんて機動戦力同士の相対的なモンだから絶対的な支配なんてあり得ないよね、でも優勢劣勢によって自由に海を使える側が決まるのは確かだよね』という『当たり前』を定義してやった概念なのですが、取り敢えず置いておきましょう。
翻ってロシア海軍黒海艦隊。
開戦劈頭から滅茶苦茶苦労している陸軍や親衛軍とは異なり、スネーク島もスッと制圧できたしウクライナ海軍は戦う前に壊滅してたで怖いもの無しです。
多分中の人はこう思ってたのでは無いでしょうか『海上優勢?馬鹿馬鹿しい、今黒海艦隊は黒海の制海権を得ている』と。確かにウクライナ海軍の海上戦力は壊滅していたので、海上戦力がやってくる事は無かったでしょう。
さて、ここで海上艦艇を撃破する為に最も重要な要素を振り返ってみましょう。
結果論ですが、ロシア海軍は『ウクライナのケツモチにNATOが居る』事の意味をもっと重大に考えるべきでした。
NATOの情報収集能力と、それを元に指揮官が作戦を決心する為に必要となる情報資料を作成する情報能力は世界一です。
そんなNATOが、ウクライナのケツモチをしているのです。
J-STARSやAWACS、そしてグローバルホークが黒海やポーランド国境を遊弋しているのは決して日常的な示威活動では無いと考えるべきでしょう。
尚グローバルホークを始めとするこれらの航空機はわざわざADS-B信号を発信し、自己位置を国際的に通知していました。気付いていないとするならばクソ間抜け以外の何物でもありません。
あーあ。
……馬鹿か?
恐らくウクライナは、グローバルホークが解明した『モスクワ』の行動パターンからSSMを配備し、更に『バイラクタルTB2』を飛行させて位置を確定、国産地対艦ミサイル『ネプチューン』を発射して撃破したと思われます。
そして流布している『モスクワ』の画像を見る限り、防空戦闘が行われた形跡は見られません。
これらの情報を複合すると、『グローバルホークが空を飛んでおり、NATOから黒海艦隊を監視されている事を把握した上で無警戒にウクライナ沿岸に接近したら、ミサイル撃ち込まれて旗艦が沈んだ』というロシア海軍に対する『驚異的無能』の嫌疑が掛かる事になります。
そして『モスクワ』は何もバカンスの為にオデーサに近づいたのでは無く、艦砲射撃や搭載するS-300Fによるウクライナ南部地域に対する航空戦力の威圧という重要な役割を負っていたと考えられます。
もしオデーサに揚陸する事が出来れば、ウクライナ軍はその対応の為に戦力を分散させざるを得ない上、上手いことクリミア半島から侵攻している部隊と連携すればウクライナを内陸国にする事だって出来たハズでした。
もう無理です。
その上イギリスから供与されたハープーンによってスネーク島への輸送に使ってた外洋曳航船が撃沈させられたりした結果、『不沈SAM陣地』として使うつもりだったスネーク島の放棄を余儀なくされる事態になりました。
12/14 追記
新たな情報により、どうやら情報収集はウクライナが独自に対水上レーダーを用いて「モスクワ」を捕捉したという情報が入りました。取り急ぎ追記させて頂きます。
なんだろう、さらなる驚異的無能の証拠積み上げるのやめて頂きます?
航空宇宙領域に於ける軍事的大惨事について、知っておこう
さて皆さんご存知制空権という言葉をより正確に表現した『航空優勢』という概念があります。
これの航空領域版です。海を空に読み替えて下さい。
さて、空軍、具体的に航空機を運用する為に必ず必要となるモノは何でしょうか。燃料?そうですね、無いと話にならないですね。
もっと話にならないモノ、それは航空基地(策源地)です。
航空機は精密機械であり、作戦行動には専門家によるメンテナンスと消耗部品の交換が必ず必要になります。その上離陸には通常滑走路を必要とし、作戦の遂行には武器弾薬や燃料の補給が必要になります。
航空戦力の特性として『大空を自由に飛翔する事による機動力と突破力』なんかが挙げられたりしますが、それに制約を掛けるのがこの『運用に於いて必ず策源地が必要になる』というモノです。
逆に言うと『策源地が潰されない限り、航空戦力はその機動性を活かして大空を逃げ回る事が出来る為、その捕捉と撃破が極めて困難』という意味でもあります。これは海軍についても同一です。(ウクライナ海軍艦艇は策源地から出港する事が困難だった)
ロシア航空宇宙軍は、ウクライナ空軍の策源地を一挙に撃破できませんでした。
その結果、ウクライナ空軍の作戦機は空中退避した後に生存している策源地で翼を休め、NATOのAWACSが提供する情報に従って要撃戦闘を開始したのです。
これが空挺軍に航空支援が来なかった理由でした。
ロシア航空宇宙軍は、交戦中の前線に対して果敢に近接航空支援を掛けたり市街地を無差別爆撃する事は出来ても、ウクライナ軍支配域の奥深くで孤立した空挺軍へ火力支援する事は能力的に出来なかったのです。
さて、『航空優勢を確保した上で相手をボッコボコにする』という例は湾岸戦争を始めとして色々とありますが、それらは殆ど米国が主導した戦争でした。
ここではまず徹底的な対航空攻勢作戦によって敵空軍を壊滅させ、航空優勢を確保した上で敵防空網制圧と敵防空網破壊をこれまた徹底的に行いました。
そして敵の集結地点に対して航空阻止攻撃を行い、地上部隊が進撃に合わせていつでも近接航空支援が出来るように攻撃機を待機させ、完全な勝利を得ました。
この戦例は『航空優勢が取れれば航空阻止攻撃も近接航空支援もやり放題になるから戦争に簡単に勝てる』という誤った認識を世界中に流布させる事になりました。
正しい理解はこうです。『航空優勢が取れた上で敵防空網を完全に沈黙させて、航空阻止攻撃も近接航空支援もやり放題にした上で世界中から集めた圧倒的な陸軍戦力で轢き潰したら戦争に勝てる』
当たり前やんけ。
私達は長年、そんな『硫酸に水を注いだら危ない』とか『人を焼却炉に放り込んだら生命が危ない』とか『油火災を水で消してはいけない』レベルの事象を勝利の方程式として信仰していました。
正確に言うと『あまりに当たり前過ぎたから何か特異なモノを求めたら航空優勢があった』というのが正しいかもしれません。しかし世の中には直感のほうが正しいことだってあるのです。
まぁちょっと考えてみれば当たり前で、湾岸戦争に於いてイラク軍は航空攻撃によってボッコボコにされながらも陸上部隊に対して果敢に抵抗していましたし、航空戦力だけで陸軍を屈服させられていたら73イースティングの戦いなんて生起しなかったのです。
その上、圧倒的な航空戦力でマウントを取ってボッコボコにしてもあんまり効果が無かったという戦例――コソボ紛争に対するNATO軍の介入なんかがあったというのも特筆すべきでしょう。そういやアフガンでも航空優勢あって航空攻撃やり放題だったのに負けたよな共和国軍。
というか第一次世界大戦からずっと、火力だけで敵野戦軍を撃破できた戦例なんて殆ど無いのです。最後には結局、歩兵が地域を確保しなくては戦闘に決着が付かないと我々は知っていたではありませんか。
しかし航空優勢を確保していないよりは確保していた方がだいぶ良いです。何せ自由になりますし、敵を拘束できますから、その分陸戦が楽になります。そういう意味では航空戦力は陸軍にとって魔法の杖かもしれません。
しかしロシア軍にとって問題は、敵の航空戦力が撃滅できていない上、ウクライナ軍は重層的なSAMコンプレックスを有する事でした。
簡単に言うとコレは射程の異なる複数の地対空ミサイルシステムによって『逃げ場がない空域』を構築するというモノなのですが、これにはS-300とMANPADS、そして旧式のAAAが重要な役割を果たしました。
さて、火力を発揮する時に情報が必要であるというのは何回も述べておりますから察しの良い方は気付いておられると思いますが、航空攻撃だって例外ではありません。
攻撃機は航空攻撃するにあたって必要な情報を得る為、自ら偵察し、或いは地上部隊からの連絡によってそれを担保します。特に近接航空支援の場合、誤爆を防ぐ為に航空機、地上共に高い技能が要求されます。
ロシアにあったんですかね。
まぁそれは部隊による上に戦後明らかになるでしょうから一旦置いておいて、限られた攻撃機会は有効に活用しなければなりません。航空優勢は流動的なものですし、いつ隠れている敵のSAMが飛んでくるか分かりません。
そこで必要になってくるのが精密誘導兵器です。コレがあれば、限られた攻撃機会を有効に活用する事が出来ます。
無くなっちゃった!
ロシア航空宇宙軍の精密誘導兵器は開戦後暫くして不足状態に陥ったと報じられています。
つまり『航空優勢の確保と敵防空網の制圧/破壊に失敗した上、航空攻撃の機会を有効に活用する手段を喪った』という事です。
駄目じゃん。
更にロシアの貧弱な情報能力とインフラ維持に対するクソ雑な姿勢がこれに拍車を掛けます。
何と独自に整備していた自慢の全世界測位システムの衛星寿命が切れていたのを放置していた(正確に言うと2014年以来そういう部品が入ってこなくなった)上、偵察衛星も大体同様の状態に陥っていると考えられています。
これの何がヤバイかというと『地図に載ってる目標しか選定出来ない』という事態に陥る可能性があります。
例えば住宅地や発電所は地図に載っていますが、早急に潰したいウクライナ軍野戦部隊の防空部隊や弾薬庫、燃料庫、集結地なんかは当然地図には載っていません。
これじゃあ折角大量の巡航ミサイルや弾道弾があっても住宅地やインフラに撃つしかありません。しかしそんな事をしたらウクライナの対ロシア感情は益々悪化する上、将来占領した時に大変な目に遭います!まず部隊の展開が兵站に大きく依存する上、住民の反乱を防ぐために生活物資を供給する必要があるからです。※
なので一般的には、圧倒的な兵站能力が無い限りそうした行動はタブーとされています。
※但しマトモな占領統治をする場合。
3.領域横断的でシームレスな軍事的大惨事
どうすんだよコレ
このように陸海空それぞれの領域が軍事的な無能を持ち寄ってコンクリートミキサーに掛けてぶち撒けた結果が、現在のウクライナ侵攻が長期化した要因であると考えられます。
勿論、ロシア軍は侵攻軍であるので仮にウクライナに投入した部隊が全滅したとしてもすぐにどうこうなるという事にはならないハズでしたが、既に中央アジアが燃え始めています。
理由は簡単で『ロシアが舐められるようになったから』というものになります。もうこれは説明しなくても分かりますよね。
開戦前にこんな文章書いたらロシア軍オタクにボッコボコにされる所でした。 ロシアは今回部分動員に踏み切らざるを得なくなりましたが、これは『投入できる即応部隊が居ない』という意味でもあります。(温存してるなら別ですが)
つまるところ緊急展開部隊、ひいては外征能力なんてもう無くなっちゃってる訳で、ロシアにぶん殴られる事のみを恐れて大人しくしていた連中はヒャッハー!し始める訳です。
ロシアとしては冬になってヨーロッパが経済制裁に音を上げるという世界線に望みを託すしか無いのですが、だからと言って多少経済指標はマシになっても精鋭部隊が湧いてくる訳でも、大量の最新鋭装備が湧いてくる訳でもありません。
しかもアメリカとイギリスという巨悪の双頭がウクライナに相当入れ込んでいる上これら二カ国へはガスの脅しが効かない為、非軍事的手段でどうにか出来る限界は超えています。
じゃあ軍事的手段で……となっても通常戦力はKONOZAMAなので核戦力を振りかざすしかありません。
尚海軍はカリーニングラードの周りが全部NATO加盟国になったので、バルト艦隊が事実上無力化されました。後空軍はウクライナ製の部品が調達出来なくなった上、西側からの輸入に頼っていた部品が足りなくなったので精密誘導弾が払底したという情報があります。宇宙はさっき言いましたね。サイバーでもNAFOとかいう柴犬軍団に負ける始末です。
私は今回の事態を領域横断的でシームレスな軍事的大惨事と呼んでいます。
核しか無ぇ!
核戦力がこれまで実戦投入された事はありませんが、過去に何回も核実験をした結果、偏西風に乗って全球的に渡って微量の放射線量の増加が見られる事が判明しています。
突然ですが、ここで北大西洋条約の第五条を見てみましょう
さて、この条文を解釈する時に重要なのは『ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は複数の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす』という条文と『必要と認める武力の行使を含む行動を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに実行することにより、その攻撃を受けた締約国を援助する』という条文である。
どこにも『武力行使はNATO域内じゃ無いと駄目だよ🥺』とか『核兵器は絶対駄目!』とか書いてありません。
ただ『必要と認める武力の行使を含む行動を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに実行することにより、その攻撃を受けた締約国を援助する』と書いてあります。
世界終末時計の残り時間が気になりますな、え?二十八分?結構、CMを飛ばせばリコリス・リコイルが一話分見れる。
4.(追記)動員というソリューション
選択肢としてはアリだろうが……選ぶなよォ……
2023年も2月に差し掛かり、もうすぐロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一年という時期になりました。
このような記事を執筆した者の責任として、遅まきながら現在の戦況についての見解を述べさせていただきたいと思います。
結局ロシアは未だ核兵器を使っておらず、動員によって確保した大量の人間を前線に投入する事によって、態勢をある程度立て直しました。
ウクライナ軍はジリジリと押されており、『2月頭の時点に於いて、ロシア軍がやや優勢である』という評価をして差し支えないと考えます。
残念ながら、この記事が執筆された当時の勢いは北東部ハルキウと南部ヘルソンの解放を以て無くなってしまいました。
しかしロシア軍が完全に態勢を立て直したかというとそういう訳では無く、民間軍事会社『ワグネル』の囚人兵が突撃を繰り返し、これを戦果が挙がるまで行うという形でバフムートに肉薄しつつあると報じられています。
これは決して『ロシア軍は無能だからこんな攻撃しか出来ない』という意味ではありません。
彼らは『人命によって時間を確保した』のです。
なんの為に?
我々はその原因を見てきました。
そう、『領域横断的でシームレスな軍事的大惨事』を収拾する為の時間を、ワグネルの囚人兵と予備役をウクライナ軍に投入し続ける事によって確保したのです。
この次には当然、確保した時間を使って再編成した正規軍部隊による大規模攻勢があると見込まれており、それは開戦から一年の節目となる2月末か、泥濘が終わる初夏になるという噂が流れています。
この記事で紹介したように、ウクライナに投入されたロシア正規軍の陸上戦力は一度壊滅しており、これを再編成したとしても開戦劈頭以上の衝撃力を確保できるかは不明です。
モスボールされている戦車の中にも比較的新しい戦車が多数存在したり、制裁を抜けて半導体なんかを確保しているとも主張しており、もしかしたら殆ど完全な形で部隊が再編成されている可能性もあります。
そしてウクライナ側もこれまでの戦いで相当に損耗している以上、今度はロシア側がウクライナがハルキウで行ったような大規模突破を行う可能性も排除出来ません。
これを有効に防ぐには、少なくとも去年9月か10月の時点で、現在議論されているような西側の第3世代主力戦車の供与が実施され、攻勢の実施がされる前……つまり今ぐらいの時期に新たな機甲部隊として戦力化される必要があったと筆者は見積もっています。
勿論、これらは夏頃には戦力化され、もしロシア軍の攻勢が成功した場合、占領された土地を取り返す大きな力となるでしょう。
もしも、もっと早くこの支援が行われていたならば……。
歴史にIFはありませんが、私はこの戦争のまとめ記事を既に書き始めていたかもしれません。
我々は決して、勝ち馬に乗りたいからウクライナを支援するのでは無い
丁度我が国で今、回転寿司チェーンでの迷惑行為が問題になっておりますが、今回のロシアによる蛮行は本質的にこれに近しいものがあります。
一方では客が相互に信頼して卓上調味料を使い、或いはレーンに流れてきた寿司を取って食べる。
一方では国際社会が相互に信頼して、相互の紛争を外交によって解決し、国際法に基づいて行動する。
特に一方に於いては、秩序と安全を保つ責任を負う常任理事国であるというのですから、警察官が店員にけん銃をぶっ放し、レーンを流れる寿司を全部食べるかの如き蛮行であると言えるでしょう。
相互の信頼こそが、回転寿司やグローバル社会を成り立たせる根幹であり、安全の根底にあった。しかし今やそれらは不信感に満ち、相手の能力の限りの悪意を想定しなければならない。
こうなると安全へのコストが無尽蔵に積み上がるのです。
今年G7議長国を務める日本として重要なのは、もし仮にウクライナが敗北し、大きく後退したとしても、それをしっかり支え続けるという覚悟です。
この記事で紹介したように、ウクライナは奇跡を拾い続けて今日まで戦ってきました。しかし、それではいつか限界が来ます。
ロシアは確かにこの戦争の劈頭に於いて失敗しました。
しかし、それが続くとは誰も保証しておらず、それどころか彼らは失敗を挽回するだけの犠牲を払ったのです。
ですが考えて下さい。果たしてそれだけの犠牲を払ったからと言って、店員を射殺して寿司を強奪した警察官に義が発生するでしょうか。
そしてそれをリアリズムと称して認め『新たな現実として受け入れよう』という言説を流布させる事は、果たして安全を担保する為のコストを下げるでしょうか。或いは醤油差しを舐め、他人の寿司に唾を付ける事が普通の世界を受け入れる?
それは飽くまでも最悪の選択肢であって、我々にはまだ選択肢があります。
我々は、ルールに基づく自由で安全な世界を諦めていません。
だから我々は、あの高校生を血祭りに上げ、ロシアを激しく非難するのです。
そして、被害者が泣き寝入りするようなことがあってはなりません。
さもなければ前世紀の失敗を再度繰り返し、前世紀のような成功を掴むことに失敗するかもしれませんから。
これは決して、ウクライナが勝っていて、ロシアが間抜けだからウクライナを応援するとかそういった話では無いのです。
私が記事にこの項を追加したのは、この記事がそれを煽ってしまったのではないかという反省に立ったからです。
もし読者諸君の中にそういった認識を持っている者が居るなら、それは忘れて下さい。
我々は、この構図が崩れた後でも、断固としてウクライナを支援し続けなければならないのです。
ウクライナは奇跡を起こし続けてきました。
奇跡の反対は普通或いは必然であります。
今、普通に考えればロシア軍が優勢であると考えられる程度には、ロシアは犠牲を払いました。
我々西側諸国は、ウクライナを再度優勢に戻すのに、まだ犠牲を払わなくても済みます。
しかしながら、それはウクライナが相応の犠牲を払っているからであり、それに甘んずる事が何を意味するかは書かなくても良いと信じます。
かつ、我々は中国と対面し、かつ台湾有事は近いとも言われております。
その時に国際社会からの支援を得られるかは、只今の振る舞い如何にかかっている事は言うまでもありません。
5.おわりに
ここまで長々とお読み頂きましてありがとうございました。
ご意見、ご質問、苦情、罵倒、反論、指摘その他は全部受け付けておりますので、是非ともTwitterかコメント欄でお知らせ下さい。またリクエストも受け付けておりますのでお気軽にどうぞ。サラダバー!
追記
皆様のシェアのお陰で、想定していたよりも多くの方にご覧いただいております。ありがとうございます。
頂きましたご指摘と、それに伴う修正は随時加えていきますのでお気付きになられましたら上にもあります通りご遠慮なくお知らせ下さい。
Changelog
9/25 図を訂正しました
ルビを訂正しました
『女子高生の無駄づかい』について参考資料を追加しました
誤字を訂正しました
訳を訂正しました
9/26 Changelogを追加しました
10/1 細部表記を変更しました
10/7 ソ連崩壊(イメージ)を追加しました
10/12 図を訂正しました。
10/19 表現を変更しました。
2023年
2/5 『4.動員というソリューション』を追加しました。