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外務省より電話を頂く

あろうことか、あの外務省からこの庶民に電話がきた!その成り行きを語っていきたい。


海外での届け出

海外に長期滞在すると、現地の担当大使館や領事館に連絡先を届けなければならない。何かあったときの確認だったり、現地で危ないと思われる事態が起こったときに、メールが送られてくる。

旅行でも、特に現地語に不自由なら登録しといた方がいいよ。

引っ越しをする

引っ越しをしたので、担当領事館に電話を入れ住所変更手続きをお願いした。「分かりました、変更しておきます」とのこと。あっさり手続きは終わった。

しばらくしてから領事館から電話があった。当時はまだインターネットが今ほど普及していなかった。

で、内容は「手紙を送っても住んでいないと返送されるので、新しい住所を教えて欲しい」とのことだった。どの住所に送っているか聞いたら旧住所だった。変更届をお願いしたことを伝え、もう一度新住所を報告した。

向こうの方は「申し訳ございません」と何度も謝っていて、こちらが申し訳なくなってしまうほどであった。

色々な業務があるだろうに、そんな小さな行き違いで日本式に謝らなくてもと。フランスの、いわゆる塩対応に慣れきっていたせいもあるんだろう。

変わらぬ住所変更届

ある程度経って、また領事館から電話があった。返送されたから住所変更しろとのこと。どことなく、やるべき事をしない者に対する強めの言い方に響く。やっぱり旧住所に送っている。

「この間も同じような電話があったんですけど」と伝えると、謝罪と「すぐ直しておきます」と返ってきた。「良ければ手紙で送りましょうか」と提案もしたが「いえ、結構です」とのこと。

そういうやり取りが、あと2〜3回あった。その度に丁重な謝罪と今度こそきちんと変更するという話を聞いた。ここまで来ると、在仏だけに仕事っぷりは、フランス式だなと。

正直いくら丁寧に謝罪されても、同じ事を繰り返し、しかも会話の出だしが毎回こちらがまるで変更届を出してないかのように言われると、何だかなあと思ってしまう。

あとに続く謝罪が丁寧であればあるほど虚しく聞こえてしまうのだよ。ごめんね。忙しいのは分かっているの。それでも。

また間をおいて、別件で問い合わせの電話をする機会があった。そのときにふと「大分前に住所変更をお願いしたんですけど、新しい住所になってますか」とたずねたら、やっぱり旧住所のままだった。

もう数回同じやり取りをしていることを伝え、「お忙しいでしょうがこの場で今すぐ直していただけませんか」と、お願いした。

丁重な謝罪と「変更しました、大丈夫です!」という、やり遂げた達成感と自信に満ちた返答に安心した。

母の冷たい応対

ところで定期的に日本の実家に電話をする。

ある日曜日、いつもの調子で電話をかけると、電話口の母の様子が妙に冷たく、どことなく距離がある。様子が明らかにおかしい。これ知ってる。話しながらすぐ気付いた。

これ危険信号赤じゃん。小さい頃から知ってる。何か重大なへまをしでかしたときのトーンだ。静かだけれど、怖いんだよこれが。

恐る恐る、でも普通をよそおいながら軽く「どしたの?」と聞くと、静かな重く冷たい声が返ってきた。

ゆっくりと「『どしたの』じゃないわよ、あなた。外務省から電話がかかってきたわよ。

お宅のボタしゅけさんと連絡が取れないんですが、既に帰国していますかって。向こうにいるって言ったら、住所変更届が出てないって。何やってるのあなた。変更届が出てないって……もう、ちゃんとなさいな。

電話を受け取ったとき あなた、死んだかと思ったわよ」

外務省から電話??!

話を聞きながら途中からもう、受話器を取ったときの母の気持ちを思うと申し訳なくて申し訳なくて涙が出そうになってしまった。

だって海外に子がいて、受話器取ったら「外務省ですが、ボタしゅけさんのご実家ですか」で始まったら良くない話だと思うに決まってるじゃない。心臓止まりそうになるでしょ。

それが住所変更届ごときで(言い方すまぬ)、出てないんで出すように言って下さいっていう何それって内容。分かるよ、我が子に対してそりゃ怒り心頭ものでしょ。

冷たく「そんなだらしないことで、外務省から電話が来たわよ」と。学校じゃあるまいに、恐れ多くも外務省フランス領事館から来るんだよ?そういう電話が。

それだけ届け出を直さない日本人も多いのだろう。外務省も大変だよね。それは分かるよ。

だが。だがなのだ。

母に謝りまくりながら、ここまでの成り行きを説明した。

そしたら母は母で掌を返したように、声の調子がいつも通りになり「おかしいと思ったのよねえ、そういうことちゃんとするあなたがしないなんて」などと言い始め、明るく「謝り倒して損しちゃったわ」と機嫌もあっさり戻った。

そりゃ文句の一つも言いたくなるだろう。

こっちも怒り心頭である。受け取った瞬間の母の気持ちと、本来は謝らなくていいのに「だらしない子」の為に何度も頭を下げているのを考えると、どうにもやりきれない。

何より受け取って外務省と名乗られた瞬間の、心凍っただろう母の想いだよ。

完全にあちらの事情なのに。間違いは誰にでもあるものだからしょうがない。でもこの電話は一線を超えていた。

そもそも電話で私とつながってるっしょ。こっちに何回電話かけてきたん?

めでたし、めでたし?

翌日朝一で抗議の電話を入れた。もう一度「紙で送る」と提案したが断られたので、その場で本当に住所変更をしてもらった。きちんと直してくれたか、何度も確認した。

また別の機会に領事館に電話をすることがあって、念の為住所確認をしたら新住所になっていた。数年かかったが、めでたしめでたし。

ところで領事館から2024年8月末に、9月1日以降、調査対象となった人に、件名に外務省と書かれている在留状況確認メールを送るとの予告メールを頂いた。

今日現在、そのメールは届いていない。勿論スパムも確認している。調査対象ではないのかもしれないが。

でも両親には外務省からまた電話がかかってくるかもしれないこと、こちらのミスでは無いこと、謝る必要がないことを伝えておいた。

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