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アメリカでどう起業するか。ペイフォワードの精神とネットワーキングがカギ。アメリカで戦う挑戦者 Vol.9

自己紹介をお願いします

加藤愛子と申します。私は現在、日本とアメリカを繋ぐ、そしてアカデミアのサイエンティストの成果をビジネスに繋ぐためのビジネスディベロップメントに関するコンサルティング会社を経営しています。
 
簡単に経緯を申し上げますと、私は日本でダイキン工業の研究者としてキャリアをスタートさせました。研究職から新規事業開発職に異動し、当初は大阪にいましたが、その後アメリカに駐在することになりました。ダイキンは当時アメリカの西海岸でスタートアップとの協業を進めていたのですが、東海岸が手薄でしたので東海岸担当ということで赴任することになりました。ダイキンにはまだコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のファンド自体が無かったため、準備のための情報収集と並行してAIとクリーンテックのスタートアップ投資のためのテックスカウティングを担当しました。米国に加え、カナダ、イスラエルを飛び回り、日本にいる研究者と海外のPI(研究責任者)との産学連携研究を組んでいました。最初にワシントンDCに赴任したのですが、AIとクリーンテックならボストンの方が良いと進言したところ、ボストンに赴任させてもらいました。3年ほど働いた頃に帰任の話が出たのですが、私がアメリカ人と結婚したこともあり、帰国が難しくなり退職することになりました。
そこで転職活動し2社からオファーをいただき、どちらの企業も魅力的で1つに選べなかったため、2社で働くことにしました。1社はサイバーセキュリティのスタートアップに投資する会社です。サイバーセキュリティは今後絶対伸びる分野で、ダイキン時代のCVCの設立経験とスタートアップソーシングのスキルが活かせることもあり、非常にやりたいと思いました。もう1社はデジタルヘルスのスタートアップで、自分たちのプラットフォームに集まったメディカルデータを解析し、その後の医療に活用する会社で、こちらも捨てがたいと思いました。そのためサイバーセキュリティの会社をメインに、週に数日デジタルヘルスの会社に行く働き方を選びました。
 
その後、ケンブリッジにあるコワーキングスペースのCICから、日本政府の入札の手伝いをしてほしいと声がかかりました。ダイキンの時にCICに入居していたため知っていたのです。デジタルヘルス、創薬、医療機器分野でスタートアップのアクセラレーションプログラムのデザインをボランティアで手伝ったところ入札案件が採択され、そのことがきっかけでCICに加わることになりました。デジタルヘルスのスタートアップは退職し、サイバーセキュリティのCVCとCICの2社で働きました。その後スタートアップ支援に対する興味が強くなり、自分の考える支援のアプローチをしてみたいと思い、2社とも退職することにしました。そしてRykoTECH (ライコテック)を創業することになりました。

ボストンのスタートアップエコシステムのキーパートナーたち(投資家、専門家等)とのランチミーティングの様子

どのように起業されたのですか?

CICで関わったスタートアップ・アクセラレーションプログラムをデザインし運営する仕事で多くのことを学べたのですが、いわゆる政府系組織のベンダーとなる仕事は毎年似たようなことを繰り返す点が私の好みではないことと(笑)、本当に日本のスタートアップの米国進出に必要なことを提供するために異なるアプローチに挑戦してみたかったのです。ただ依願退職した時に起業するとは考えておらず、仕事先を探していました。そうしたところ、偶然以前お会いしていたスタートアップの方々からお話が来たのです。知り合ってから既に1年や2年以上経っている日本の2つの会社の方々でした。ようやくアメリカ市場に本格的に出たいフェーズになってフルタイムの社員として雇えるほど資金はないが手伝ってもらえないかという具合でした。2社からの相談がトントン拍子に来たところ、3社目のクライアントからも時間をあけずに話が来ました。そしてこの時に「もうこれは会社を建てよう」と思ったのです。
 
3社とも出会ったきっかけはコミュニティです。私はボストンでライフサイエンス・バイオ業界の日本人や日本語話者の人たちを集めたコミュニティ”Boston Biotech Hub”を運営しています。ふた月に1回ほどの頻度で企業からのスポンサーでネットワーキングイベントを開いていて、そこで知り合いました。お声がけいただいた方々は、ちょうど日本から出張でボストンに来たタイミングでイベントに参加されており、その際に「CICでスタートアップ支援をしているので、ファンドレイジングなどをお手伝いできますよ」と話していました。イベント後もフォローアップとして、あくまでボランティアとしてでしたが、色々な投資家を紹介していました。その姿勢を買っていただいたようでした。

Boston Biotech Hubにて、JSPS(日本学術振興会)とUJA(海外日本人研究者ネットワーク)の開催時期に合わせてネットワーキングイベントを開催。

どのような事業をされているのですか?

私の主なクライアントは、スタートアップ、VC、インキュベーションセンターです。スタートアップにはファンドレイジングやパートナーシップ・ディベロップメントのサポート、アメリカで行われるカンファレンスに代行参加したり、研究費・アクセラレーションプログラム等の調査とその申請、そしてピッチのコーチング、英語とアメリカのビジネス商習慣のコーチングをしたりしています。VCやインキュベーションセンターには、彼らのポートフォリオのスタートアップの支援を提供しています。
 
私はスタートアップを評価し投資する立場、スタートアップで働く立場、スタートアップを支援する立場を経験しています。これら3つの視点を生かして、スタートアップが日本からアメリカに進出したり、アメリカから日本に進出したりするのをお手伝いできると思っています。
 
スタートアップの評価と投資は、ダイキン在籍時とその後のサイバーセキュリティのCVCで経験してきました。デジタルヘルスのスタートアップとして医療業界でのBDをした経験、そしてスタートアップ支援は、CICでのアクセラレーションプログラムの設計です。創薬・医療機器・デジタルヘルスの分野で日本のスタートアップがアメリカの市場に進出していくために、6ヶ月間のアクセラレーションプログラムを企画し運営してきました。ファンドレイジングのためのミーティングを設定したり、メンターを提供したり、FDAや特許戦略のレクチャーを提供したりとさまざまな支援を行いました。その過程で、私のネットワークを拡げることもできましたし、医療業界をさらに深く知ることができました。これらが私の事業の強みにつながっています。
 
特にマサチューセッツ・ボストンという場所は、まだまだ日本人にとっては開拓の難しいマーケットだと思います。ニューヨークや西海岸に比べれば、かなりコンサバティブな場所だと思います。マサチューセッツ州は白人が70%程度を占めます。我々のような移民が自立するには全く有利とは言えず、こちらの文化や風習に日本人が適合していかないといけない競争の激しい場所です。以前MITに留学経験のある日本の大学教授が、ボストンのスタートアップエコシステムを視察にこられた日本企業に「みんなTシャツで飛び込もう!」とおっしゃっていました。アメリカのシリコンバレーに行くならTシャツ・ジーンズにスニーカーで大丈夫といった話は日本であるかもしれませんが、ボストンではそんなことは全くありません。特にメディカル分野では皆スーツを着ています。アメリカはアメリカ全体でひとくくりに出来ず、地域によってカルチャーギャップがとても大きいので、私がここボストンでサポートできることは多くあると考えています。
 

どのような起業家を支援されているのですか?

基本的には、バイオ・ライフサイエンス分野で、創薬、医療機器の企業がほとんどです。ただ、実は私が経験してきた分野はかなり幅広く、キャリアのスタート時からの順で言うと、分子生物学、機械工学、制御工学、AI、クリーンテック、SaaS、サイバーセキュリティ、デジタルヘルス、そして創薬、医療機器です。そのため、最近ではLLM(Large Language Model) やDigital Therapeurics、 Entertainment、自動車業界のクライアントも支援しています。
 
お仕事を受ける際、私はスタートアップの創業者に対する共感を大事にしています。私が共感できる起業家は、トランスペアレンシーの高い方です。情報や組織の透明性、コミュニケーションが円滑かどうかを見て判断しています。そういったこともあり、現状お手伝いしている企業は全て紹介ベースで始まっています。ネットワーキングでキャッチアップしていた人から、「そういえば誰々がこういうことをやってくれる人を探していたけど、どう?」といった形です。とはいえ、面識のない方からも口コミでご連絡をいただく場合があります。そうした場合はバックグラウンドチェックをします。アメリカでは当然のことなのですが、リファレンスを取ってどんな方なのかを確認します。何か気になるところが見えた方、共感できないと思った方はいくらお金が稼げるとしても、断っています。

小児分野の創薬スタートアップFELIQSのチーム

最後にボストンに進出したい起業家にアドバイスをお願いします。

こちらのビジネスは、コネクションベースです。特にインディビジュアルなコネクションです。
私のアメリカ人の知人で、「Tell me your backgroud?」と日本人に聞いたら、自身ではなく組織の歴史について話されたよ、と笑っていた人がいました。日本は団体戦、アメリカは個人戦で、個人と個人のコネクションが求められます。そのためネットワーキングは常に意識的に行っています。自分自身に宿題を課して週に3人新しい人に会うということをやっていた時期もありました。対面もオンラインも両方合わせて、ありとあらゆるネットワーキングをしています。
 
ネットワーキングの場で自分をエレベーターピッチできる準備をしておくことは大事です。どの会社の人というのではなく、私はどういうことをやっている人だということを簡潔に話して、自分と相手の共通点を見つけるようにします。すると、それに対して興味がある人がいたら、若くても、女性でも、対等に話してくれます。例えば、今朝私はエグゼクティブばかりが出席するネットワーキングに参加していました。日本もそうですが、アメリカも未だにそうした場ではスーツ姿の男性がほとんどです。私は女性ですし、日本人は相対的に若く見えることもあり、会場では浮いていたと思います。しかし私が自己紹介をすると、「日本のことで話したいことがあるので、今度話しましょう」と、次に繋がるコネクションが1件ありました。これがインディビジュアルなコネクションの例です。自分が話すことに興味を持ってもらえれば繋がるわけです。そのためには「私はこういうことをやっている」「こういうことをやりたいんだ」と自分を売り込む訓練が必要です。
 
もう一つネットワーキングの場で大切なことがPayforwardの姿勢です。日本人はタンジブルではないものの価値を理解しにくい傾向があると思います。例えば情報は紙に書かれていなければ無料と考えている人もよく見かけます。日本の方と1時間ほど話した後で、まとまったものをもらえませんか?と言う方にお会いすることがありますが、そういうことをしていてはアメリカでネットワークを築いていくことはできないと思います。私はネットワーキングで出会った人に、その後のフォローアップとして「さっき話していたことに関するリンクはこれだよ」「さっきあなたが話していた件で、これを思いついたんですが、どうでしょうか」など、合っていても合っていなくてもこちらから情報提供しようとする姿勢を見せることが大事なのではないかと思っています。

FELIQSのCEOとBayerのBDの方とのネットワーキングでの様子


如何だったでしょうか。本サイトでは、「私も一歩踏み出してみよう」と思える。挑戦者の行動を後押しする記事をご紹介しています。

次回の記事もお楽しみに!

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