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競合リスクの最もわかりやすい説明と対処法3つ!

生存解析をやっていると、「競合リスク」という言葉に出会いますよね。でも、いざ説明しようとすると、「なんとなく分かるけど、ちゃんとは説明できない…」なんてこと、ありませんか?

でも安心してください。競合リスクへの対処法は 3つの方法のうち、どれを選ぶか決めるだけ! つまり、自分の研究に最適な方法を選べばいいのです。

例えば、こんなケースを考えてみましょう。

「心不全患者の、心疾患による死亡リスクを解析したい。でも、心疾患以外の原因で亡くなった患者はどう扱う?そのままCoxモデルを使って大丈夫?」

こうした状況では、心疾患以外の死亡を競合リスクとしてどう扱うか が重要になります。

この記事では、競合リスクの基本と、3つの代表的な解析方法をわかりやすく解説 します。
「自分の研究にはどれが最適なのか?」を考えながら読んでみてください!


1. 今回の論文:急性心筋梗塞に対するコルヒチンの効果


📄 論文タイトル
"Colchicine in Acute Myocardial Infarction" (NEJM, 2025)

🔍 研究の目的
炎症が心血管イベントに与える影響が指摘されており、近年の研究ではコルヒチンが心血管イベントのリスクを低下させる可能性が示唆されている。本研究では、急性心筋梗塞患者においてコルヒチンが主要な心血管イベントを予防するかを検討した。

👥 方法

  • デザイン: 2×2 Factorial デザインの無作為化二重盲検プラセボ対照試験(CLEAR試験)

  • 対象: 急性心筋梗塞(STEMIまたはNSTEMI)患者 7,062人

  • 介入: 1:1:1:1

    • コルヒチン & スピロノラクトン vs

    • コルヒチン + プラセボ vs

    • スピロノラクトン + プラセボ vs

    • プラセボのみ

  • 主要評価項目: 心血管死、再発性心筋梗塞、脳卒中、または予定外の虚血性再血行再建の複合アウトカム

  • 解析: Log-rank検定を用いてコルヒチン群とプラセボ群を比較

📊 主要な結果

  • 主要評価項目(心血管死、再発性心筋梗塞、脳卒中、予定外の冠動脈再血行再建術)の発生率は コルヒチン群 9.1%、プラセボ群 9.3% で有意差なし(HR=0.99, 95% CI: 0.85–1.16, P=0.93)。

📝 結論
急性心筋梗塞患者において、コルヒチンを3年間投与しても心血管イベントの予防効果は認められなかった。一方で、下痢のリスクが増加した。


2. Statistical Analysis

a. 競合リスクとは?

競合リスクとは、あるイベントが発生する前に別のイベントが発生することで、元のイベントの発生確率が変化することを指します。本研究では、非心血管死が競合リスクとなります。

例えば、心血管死をアウトカムとする場合、患者が別の原因で死亡すると、その後の心血管死を経験することは不可能になるため、解析方法を工夫する必要があります。


b. Coxモデルと競合リスクの取り扱い

競合リスクを考慮するためには、以下の3つの解析方法があります。

 (1) Coxモデル(非心血管死をセンサリング)

  • Coxモデルでは、競合リスク(例: 非心血管死)に該当する患者を「センサリング(追跡終了)」として扱う。

■ 問題点:

  • このモデルでは、非心血管死が行われた時点でデータの追跡が終了し、それ以降の死亡については考慮されない。

  • このため、非心血管死を受けた患者はその後、心血管死するリスクが高い可能性があるにも関わらず除外されてしまいバイアスが生じる。


 (2) Coxモデル(心血管死+非心血管死を同等のアウトカム)

■ 方法:

  • 競合リスク(非心血管死)もイベントとしてカウントし、「いずれかが起きた確率」を評価する。

  • つまり、「非心血管死した患者は、心血管死を同時期に起こしていた可能性が高いよね」という仮定になる。

■ 問題点:

  • 「非心血管死」を「心血管死」と同等に扱うため、臨床的な意味合いが異なる事象を同列に扱ってしまう可能性がある。


 (3) Fine-Grayモデル(競合リスクを考慮したモデル)

■ 方法:

  • 競合リスク(非心血管死)をアウトカム(心血管死)と同等にイベントとして扱うが、競合リスク(非心血管死)発生後もまだ死亡していないものとして扱う。

  • つまり、競合リスクを経験した患者をセンサリングせず、ハザードを計算する際にアウトカムイベントが発生していない患者の分母に入れる(Subdistribution Hazard Ratio, SHR)。

➡ 非心血管死の影響を考慮しながら心血管死のリスクを評価することができます。

■ 問題点:

  • 臨床的な解釈が困難:サブディストリビューションハザード比(SHR)が何を推定しているのか直感的に理解するのは困難です。


c. 結局どれが正解?

結論として、「どの解析が正しいか」は 研究の目的と仮定によります。つまり、どのような前提のもとでリスクを評価するのかが重要になります。以下のようなケースを考えてみましょう。

 ケース①:心血管リスクを評価する場合

通常、心血管疾患のリスクを評価する場合、非心血管死が心血管イベントと関連していないことが多いため、競合リスクをセンサリングするCoxモデル や Fine-Grayモデル がよく用いられます。

◆ 仮定: 非心血管死は心血管イベントのリスクに影響しない。
◆ 選択肢: Coxモデル(センサリング)or Fine-Grayモデル


 ケース②:がん患者の死亡を評価する場合

がん患者において死亡をアウトカムとする場合、多くの患者はがん以外の原因で死亡することがほとんどないため、「全死亡(all-cause mortality)」をアウトカムにすることが多いです。

◆ 仮定: ほとんどの患者はがん以外で亡くならない。
◆ 選択肢: 「がん死+非がん死」= 全死亡をアウトカムにする


 ケース③:間質性肺炎における死亡リスクの評価

間質性肺炎では、重症例では肺移植が行われることがあるため、「死亡」をアウトカムとする場合、肺移植を競合リスクとしてどのように扱うかを決める必要があります。

◆ 仮定①: 「肺移植を受けない場合、ほとんどの症例で同時期に死亡する」 → 死亡と肺移植を同等のアウトカムとする(Coxモデルで両方をイベントとする)

◆ 仮定②: 「肺移植後の経過が不明なので、肺移植は死亡とは異なるイベントとする」 → Fine-Grayモデルで肺移植を競合リスクとする


4. まとめ

競合リスクへの対処法3つ

  • Coxモデル(センサリング) → 競合リスクを無視しているため、バイアスのリスクあり。

  • Coxモデル(移植+死亡を同等扱い) → 臨床的に異なるイベントを一括りにしてしまう可能性。

  • Fine-Grayモデル → 競合リスクを適切に考慮しつつ、より実際のリスクに近い推定が可能!

次回もお楽しみに!

2025/2/19

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米国で奮闘する医者の日常
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