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丸谷才一『文章読本』読んだ
文章読本シリーズもついに3冊目だ。
丸谷才一による本書はまず、なぜ谷崎潤一郎・川端康成・三島由紀夫などの小説家が文章読本を書いてきたかを述べている。
それは明治期以降、書き言葉をいかに口語と一致させるかという運動を主に小説家が担ってきたかららしい。だからお手本やお作法は小説家に習うべきだという風潮があったようだ。現代人には想像しにくい事情である。
だから著者も、二葉亭四迷、森鴎外、夏目漱石、谷崎潤一郎、大岡昇平などの近代の作家や、さらには古文、漢文、擬古文、候文を引きながら、良き文章とはなにかを論じていくのである。
当たり前だが、要点は文意が伝わることである。それもスムーズであるとなおいい。美文であるにこしたことはないが、副次的な要素である。
ということを考えると、候文のように漢字が多すぎたり、土佐日記みたいなひらがなばかりだと現代では伝わりにくい。時代に背景に応じて、適当なバランスというものがあるだろう。それを体得するにはたくさん読むほかない。
さらにはシェークスピアなどの英文(の翻訳)も引用して、和文の特徴を示している。おおげさな対句、誇張表現、比喩、婉曲法は日本語にはなじまないらしい。よりすっきりした修飾が好まれる。
さらに言葉遣いによって、それ相応の文体であったり教養が求められる。硬い言葉遣いだが、書いている内容が子供っぽいとおかしいのは当たり前だ。子供っぽいこと、子供向けの内容を書くときには、それにふさわしい書き方というものがある。
英文の技法に関しては、未知の英単語をたくさん拾うことができてよかった。anadidymus、epiphora、epizeuxisなどなど。
これを読んだからといってすぐに文章がうまく書けるようになるという代物ではないけど、こんなこと考えながら文章を書くものなんだなあと詠嘆するにはちょうど良いという内容だった。
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