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緊縮財政について考えていたら蒼き鋼のアルペジオになった
先日こんなニュースがあって多くの人のため息を誘った。
この中で、内閣府は、今年度の基礎的財政収支について新型コロナウイルス対策のための歳出の増加や税収の減少などで、当初見込んでいた8兆4000億円の赤字から、40兆1000億円の赤字になるという見通しを報告しました。
これを踏まえ、菅総理大臣は「この内閣では、経済あっての財政という考え方で、成長志向の政策を進めるとともに、財政健全化の旗を降ろさず、これまでの改革努力を続けていく」と述べ、夏に決定する「骨太の方針」に向け、財政健全化の具体的な検討を進める考えを示しました。
この凄まじい不況下に緊縮財政の旗印を明確にしたのであるから呆れるのもわからなくはない。
緊縮財政は人を死に追いやってしまう。コロナどころの騒ぎではない。
安倍晋三が首相であったらもう少しうまいことやったのではないかという気がしないでもないが、結論はいっしょだろう。
労働所得を移転所得におきかえる政策、つまり補償と自粛というやり方には無理がある。それはたんに財政赤字が大きくなりすぎるからではない。政府はいくらでも貨幣を発行できるから、赤字そのものは短期的には問題ではない。
MMT理論の言葉でいえば、スペンディングファーストとか明示的財政ファイナンスということになる。政府が財政支出するとき、先に貨幣が発行されて、あとから税金で回収するか、国債で回収するか、放置するかされるのである。放置される場合(為替介入であれば非不胎化と呼ばれる状態)、その規模や偏りによって様々な問題がおこりうる。
消費性向が高い層、つまり低中所得層に偏って貨幣が滞留した場合、インフレが問題となる。富裕層課税はインフレに対してはあまり意味がない。ここ30年ほどはバカ高い社会保険料、消費税によって消費性向の高い層からお金を取り上げ続けてきたので、こうした事態にはなっておらず、デフレが続いている。
消費性向の低い富裕層に偏って貨幣が滞留しているのが現状で、資産バブルの危険性がある。一般物価は上がらなくても資産価格が跳ね上がれば、バブルが弾けたときにとんでもないダメージを引き起こすのがご案内のとおりである。
資産バブルの種は財政赤字だけではない。コロナ特別融資である。これは政府が市中銀行に委託してお金を配っているのに等しい。去年の一律給付金の騒動からわかるように、政府が直接お金を配ろうとするととんでもなく時間がかかってしまい倒産が大量発生する。スピードが命であるから融資の審査もかなりゆるいと思われる。こうした過剰流動性が、商業用不動産の需要はは死んでるはずなのに東証REIT指数は高値で推移する原因になっていると考えられる。
一般物価は上がらない情況における問題は資産バブル以外にもある。相対価格の上昇だ。
現代の先進国では農産物や工業製品、殊に生活必需品は足りている。特にこれらを必要とする現役世代の割合が減っている日本では生活必需品の物価は上がりにくい。その一方で老人はサービスを必要とするのである。機械化による生産性向上があまり期待できない三次産業では、いかに人間を安く大量に調達するかが問題となる。
そうすると新型コロナウイルスによるパンデミック(超過死亡がマイナスであった日本でこの言葉を使うのが適切かどうかわからないが)において、人手をより必要とする老人を延命させる(同時に出生数を減らす)という社会が選択した以上は、緊縮財政に進むのは論理的に一貫しているのである。
人手を安く調達するためになぜ人手が必要かはこの記事で解説している。
老人が人手を必要とすることについては、このような状況を想定してみれば理解しやすいではないか。あなたは都市部の民間病院に勤めていて、とあるウイルスの予防接種を実施しようとしている。その旨を病院のホームページで告知したところ、予防接種専用の回線はもちろんのこと、代表番号から各科外来に至るまで老人からの問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきて、救急車からの電話も受けられないなど病院の機能が停止してしまった。あなたは私のnoteを読むくらいリテラシーが高いから、当然Webから予約できるようにしていたが、一部老人にそんなことが通用するはずもないのであった、、、
そういえば大阪は大変なことになってますな。某コロナ特化病院では眼科の医者まで駆り出されているというではないか。そして阪大病院である。
【阪大病院・土岐祐一郎病院長】
— Noboru Hagino (@Noboru_Hagino) April 29, 2021
「病床を出せばコロナなんかいくらでも診れるだろうと世間はそう思っているかもしれないが、病床を出すということは確実にある医療ができなくなる〔略〕府はとにかくコロナを診てくれと言うだけで、ほかのことに全然指示はくれない」https://t.co/8tlth5aC6C
土岐先生、病院長されてるんだ、お疲れさまです。土岐先生は食道外科がご専門である。食道癌は術後にICUを必要とする典型的な疾患であり、きっと辛い思いをされているだろう。秘書さんたちの釣書どころではあるまい。
「府は全然指示をくれない」というのは、ベッドがもうないから誰を助けて誰を助けないか決めてくれ、という意味である。命の選別を現場の人間に強いるのは酷というものであろう。
じゃあそれを誰が判断するのか。まあ常識的には政治家だろう。しかし政治家というロボットやAIが政治家を演じているのではなく、人間がやっているのである。ストレス耐性は相当高いと思われるが、ストレスに耐えても次の選挙で落選してしまっては意味がない。
そこで思い出したのが『蒼き鋼のアルペジオ』という漫画である。そこではデザインチャイルドと呼ばれる、遺伝子操作された人間が登場する。まあデザイナーベイビーである。彼らは、人間にはできない冷酷非常な決断をするために開発されたという設定なのであるが、以前はなんと荒唐無稽なとしか思わなかった。しかし最近はそれなりにリアリティあるよなって思うようになった。
1巻だけKindle Unlimitedで読めるね。
今日はこんなところで。
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