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ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』読んだ

ロシア文学シリーズ。

『巨匠とマルガリータ』はウクライナ出身のミハイル・ブルガーコフの代表作で、世界的なベストセラーである。

ベストセラーではあるが、作者の生前にはほとんど読まれなかったらしい。彼は帝政ロシア期に生まれ、本格的な執筆活動を始めたのはロシア革命後である。作品が白衛軍への追悼であるとか、ソ連体制批判であるとか難癖をつけられ出版されなかったのである。そして第二次大戦終結前に亡くなっている。

戦後は地下出版、いわゆるサミズダートを通じて密かに読まれていたらしいが、スターリンの死後に堂々と出版されるようになり、世界的ベストセラーとなったのである。

主人公は「巨匠」と呼ばれる小説家の愛人マルガリータである。巨匠の小説は一部の人々によって葬り去られるのだが、その人たちは謎の黒魔術師の一団によってひどい目にあわされるのだ。

黒魔術師らにより読者は現実と空想の境目がわからなくなってくるのだが、この空想がわりと奇想天外で笑える。訳者によればこれは当時のソ連の現実を冷徹にえぐり出しているらしいのだが、現代の日本人たる私にはわからなかった。現代のロシア人なら理解できるかもしれない。

こういうのをマジックリアリズムっていうのかな?

巨匠の小説が葬り去られるのは、現実にブルガーコフが出版を禁じられていた情況を表しているものと思われる。その小説はポンテオ・ピラトを主人公にしているのだが、ピラトについての描写が小説の中の現実に侵入する入れ子構造になる。

イエスをいやいやながら処刑してしまったピラトの苦悩が、当時のソ連のなにの比喩なのかはわからないが、小説内ではマルガリータの恋の悩みと重なっている。

という感じで、けっこう長い小説なのだが退屈せずに読めた。さすがベストセラーだ。

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はむっち@ケンブリッジ英検
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