NY家族旅行のミュージカル(3日目)
この日のタスクはセントラルパークで朝食。ミュージカル・シカゴを鑑賞する。エンパイアステートビルに登るの3点。
「ニューヨークの朝といえばベーグル!」
お嫁さんたっての希望に異論はなく、我々は8:00に起きるとベーグルを買ってセントラルパークに向かった。ベーグルを買ったお店は8番街のピックアベーグル。繫盛店だ。カウンターを挟んで厨房側の店員さんにベーグルくれと折衝するスタイル。テーブル席に座って給仕されたい。カウンターでは手早く英語で欲しい物を伝えなければならない。列に並ぶ次の人のプレッシャーに負けてはならない。
我々はディスワンで事足りるセットメニューを注文。本当はベーグルの具をチョイスしてオリジナルベーグルを作りたかったが無理と判断した。ベーグル屋には具材がサーティーワンアイスクリームのように並ぶショーケースがある。しかし今回は見るだけで。
目をつぶってセットメニューを注文したため、俺はこの日もパンケーキを食べることになった。お嫁さんはタマゴのベーグル。母はスモークサーモンのベーグルを注文した。
セントラルパークは、シープメドウ(芝生広場)が立ち入り禁止。先だっての大雨の影響と思われる。渡米前に見たNY水浸しのニュースは我々を震撼させた。それを考えると公園に立ち入り禁止があるぐらい何でもない。
広場はダメということで辺りを見回すと通りの脇にテーブル席がある。ここで店を広げる。
実のところおなかはあまり空いていない。スモークサーモンのベーグルうまい。しかし味とはうらはらに日本食が恋しいの声が出る。すこぶる早くこの地点に到達した。一食一食の量が多いためだろう。
タマゴのベーグルを半分残して席を立つ。散歩。セントラルパーク西側に面するダコタハウスを見る。
ジョンとヨーコが暮らした高級アパートだ。ジョンはこの玄関口で撃たれた。今もヨーコはここに部屋を持っている。実のところ俺はダコタハウスに思い入れがある。 俺は高橋源一郎が好きで、彼の小説にダコタハウスが出てくるのだが、俺はその場面を俺の演劇にパクった。いやー、これがあのダコタハウスかー。お城みたいやねー。
この辺りは高級住宅街でアッパーウエストサイドと呼ばれる。タッパの高い建物はお城。タッパのない建物はホームズの住むアパート。石、19世紀、そんな感じ。アメリカは若い国というが、なんのなんの、19世紀は100年前。創業100年は大変な老舗。アメリカの富、とか思う。蓄積されている。
アッパーウエストサイドにはアメリカ自然史博物館がある。中には入らず側だけ回って、地下鉄でホテルに戻る。この博物館もお城。何が展示されているかは知らない。博物館に面した歩道には青果の路上マーケットが開かれていて、勇気を出してリンゴとトマトを買う。ぶらりな旅情を演出してみた。野菜不足も感じていた。
ホテルに着いて、シカゴまで1時間ほどお昼寝できるとガッツポーズ。劇場で寝るわけにはいかない。多分寝ると思うが。トマトをかじってからお昼寝する。
シカゴを上演するアンバサダー劇場もまたホテルのご近所。一行はおめかしして劇場まで歩いた。席は二階席の一番前。
英語がわからないので出国前に映画を見て話は予習済み。映画面白かった。
幕が開くと、生バンドのブースが舞台中央に陣を張りそのブースを背に役者たちが一列に並ぶ。そして歌い踊り出す。場面転換はないようで、そのまま生バンドが、兼舞台美術としての演劇が続く。大道具小道具もなし。役者は身一つで勝負するシンプルな作り。何だか俺のよく知った東京の小劇場みたいだ。うつらうつら…。小劇場が悪いんじゃない。英語が悪いんや。幕。
お嫁さんが以前NYに旅した時に見たシカゴはもっとゴージャスだったと言う。なぜこんなことに…。コロナ禍のダメージが抜けきっていない説が我々の間で語られたが、先日友人の彩夏くんからアメリカでは役者のストがありましたよね?と別の可能性を示唆された。それは、あるね。
観劇後はお茶をするのが相場。一行はお茶する場所を探して街を歩く。なかなか適当のカフェが見当たらずブライアント公園まで流れていく。ウンコしたい。劇場を出る時に済ませておけばよかった。ブライアント公園には屋台が並んでコーヒーは飲めそうだが、青空屋台では俺のウンコが解決しない。
公園前にLe Pain Quotidienというベーカリー&コーヒーの店を見つける。「キャナイユーズアレストルーム」 口の中で何度か練習して店に入る。結果としては練習する必要はなかった。聞くまでもなく俺は店内にレストルームの表示を見つける。席につくやいなや席を立ちウンコしてからの、お茶。俺はパイント。うまい。お嫁さんと母はコーヒーとケーキ。「ケーキ小さい!」お嫁さんが言う。小さいは渡米してから初めて出た感想。味も上品。お嫁さんは「違うんだ」と言う。お嫁さんにはお嫁さんの期待するニューヨークのケーキがあるようだ。
ここでエンパイアステートビルの予約をする。お嫁さんがする。チケットはけっこうお高い。ビルに上りたい人兼お財布担当の母に、念を押す。「本当に上るのね?」「上る」「83階までのチケットと102階までのがあるけど」「102階まで」
夕暮れ時のチケットは完売で21:00からのものが購入可能。それならごはんを食べてから上ることにしよう。21:30の回を予約する。この時ニューヨークは18:00。
さて晩御飯だ。グランドセントラルオイスターバーに行くか!
グランドセントラルオイスターバーは、今回の予定に一時は組み込まれていたレストラン。場所は今いるカフェからそんなに遠くない。グランドセントラルオイスターバーは、グランドセントラル駅の地下にある。
グランドセントラル駅は外見もお城だが、中身がすごい。かっけー! 天井たけー! 宮殿だ。これが市民の実用する場所なのかい?
まあ大理石でできている。その石を囲む縁は全部彫刻されていて、アメリカの富、とか考える。そのべらぼうに高いコンコースの天井にはライトブルーの地にプラネタリウムがあしらわれる。中央の時計はオパール製だそうで。完敗ですよ。
キョロキョロ首をめぐらしながら地下階のオイスターバーに向かう。店が、暗い。ドアに掲示あり。本日貸し切りのため閉店とのこと。縁がなかったね! 品川で会おう! 品川に支店がある。
この同じ地下にハンバーガーチェーン・シェイクシャックを見つける。オオタニサンが好物に上げたハンバーガー。ネット記事で読んだ。旅行中に必ず食べなければならないが、今ではない。朝にハンバーガーと親戚筋のベーグルを食っているしホテルにその食べかけも残っている。そして実のところお腹がまだ空いていない。エンパイアステートビルの足元まで行って、改めてそこでお店を探そう。俺たちは足を止めることなくエンパイアステートビルに向かった。
こっちに来てからずっと歩いている。母75才の健脚ぶりには驚かされる。
エンパイアステートビルの位置はグーグルマップで分かる。しかし展望台への入り口はどこだ。区画をぐるりと回って、入り口を見つける前に長蛇の列を発見する。
これだわ…。げんなりする。
そして一時間ほど前に飲んだパイントが下りてきて、おしっこがしたい。目に付いたファストフード店に入る。トイレはどこだ。レストルームと書かれたくぼんだコーナーの前にゴミ箱が置かれている。通せんぼの意だろうか。使用不可、なのか…。とりあえず料理を注文して、客として店員さんに聞くしかない。
料理な…。
タコライスの店のようだ。一品だけ注文する。尿意、行列、英語。ピンチに食欲がわかない。もうおうちに帰りたい。でもエンパイアステートビルには上るぜ。ドリンクは人数分を注文する。ていうか、お嫁さんにしてもらう。
我々が手にしたタコサラダにはドレッシングがかかっていなかった。彼女の英語も万全ではない。でもうまかった。細切れビーフがいい味だ。
さてトイレである。トイレぐらい一人で行けるわ!の精神は大事。意を決してキャナイユーズアレストルーム?と店員さんに聞く。店員さんが、ごちゃごちゃ言って最後に数字を言う。え?何?金か? 財布から一ドル札を数枚出す。店員さんが苦笑する。何か喋る。俺の耳が、コードとかナンバーとかいう単語を聞き取る。あ! 暗証番号。そういうトイレね。お客さんだけにしか使えないように鍵がかかってるんだ。東京にもそれあるよ! 俺は勇躍トイレに向かう。
ゴミ箱をどかしてトイレのドアに掛かった南京錠に暗証番号を打つ。錠が開く。ドアを開ける。店員さんとコンニチハ。彼は掃除をしている。ソーリーなんたらかんたら、とか彼が言う。トイレに関しては今日はもう店じまいらしい。なんてこった。席に戻り不首尾を告げ、ドリンクは口をつけただけで捨て、店を出る。
スタバあったね。スタバに行くぞ。スタバならトイレあるよ。スタバに入る。すごいおっきなスタバ。何だまたコーヒーを注文するところからか?
タコライスと違って注文はディスワンでイケそうだけど、それでも外人相手だ(NYではあなたが外人ですよ?)。ちょっと待って。気を溜めてから。
俺の尻込みを見てお嫁さんが勇躍突撃する。店内商品の品出しをしていた店員さんに聞いてくれた。キャナイユーズアレストルーム?
「トイレは地下にあるって」とお嫁さん。「店員さんシュアーオフコースって言ってくれたよ」「スタバ親切!」と俺。「私店員さんがフレンドリーなスタバのスタイルは好きじゃないんだけどね」とお嫁さん。東京ではね?
いやスタバは本日よりサイコーです。
用を足すといい時間になっていた。エンパイアステートに行くか。列に並ぶか。しかし並んでいる間に予約の21:30を過ぎたらどうなるんだろう。まさか帰れとは言われないよね?
俺の不安をよそに行列は短くなっていて、並んでみると前に進む。よかったよー。
展望台エレベーターにたどり着くまでに様々な展示を見た。ビルの歴史。訪れたVIPたちの写真。キングコングに捕まった写真が撮れるブース。いやあ捕まって撮るべきだった。あの時、俺は楽しむ気持ちを忘れていた。
83階。ニューヨークの夜景。宝石箱をひっくり返したよう。スマホを構えてパシャリ。あの辺の暗いところがセントラルパークだから、ホテルはあの辺だね。とか。
102階。ニューヨークの夜景。ひっくり返った宝石箱をもうちょっと高いところから見てみた。パシャリ。103階にVIP専用の展望室があるらしい。VIPめ。
堪能した。下りましょうか。
ロビー階のショップで彩夏くんへのお土産を買う。10ドルのぐい飲み。側面に描かれたエンパイアステートビルの線描の上を立体のキングコングが上っている。彼は日本酒をたしなむ。こいつでグイとやってほしい。いいお土産が買えた。彩夏くんには借りがある。俺が行く行く詐欺で彼の演劇公演をブッチした。この旅行と彼の演劇が重なってしまったのだ。お土産でごめんねの意を表す。
帰りは地下鉄を使った。電車が止まらないホームで30分たちんぼした。たぶんウィークエンドは止まらないとかそういう罠にひっかかった。NYに簡単なことなど何もない。地下鉄から降りてセブンでビールを買って飲んで寝た。ニューヨークにもセブンはある。セブンは大丈夫。