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NY家族旅行のキーンズステーキハウス(6日目)

 ずいぶんと根を詰めて書いてきたこの旅行日記も実質最後の1日となった。この日のタスクはウォール街を見る。チャイナタウンでご飯。ブルックリン橋を渡る。キーンズステーキハウスでディナー(!)の4点。観光はこれでおしまい。明日は朝起きて飛行機に乗るだけ。最後の一日、しまっていこう。

 この日最大のイベントはディナー。老舗のステーキハウスで肉をむさぼり食うべし。注意点は我々の胃袋にごちそうが一食分しか入らないこと。グルメツアーはノーサンキュー。これまで食べたアメリカの食事はどれもおいしかったのだけど、それゆえ、あんまりおなかが空いていない(けど食べる)が常態化している。キーンズステーキハウスは最高の状態で臨みたい。
 朝ごはんを抜いて、チャイナタウンでのごはんは昼前に食べる。晩御飯までの時間をかせぐのだ。

 ヨーグルトを食べてホテルを出撃。まあヨーグルトぐらいは食べておこう。地下鉄に乗る。50st駅から1線の終点サウスフェリー駅へ。この駅はマンハッタンの南端にある。一行はまず郵便局に行ってお嫁さんのエアメールを預ける。彼女が昨晩、夜なべして書いたものだ。

 ハドソン川の河口に位置するバッテリーパークからは自由の女神が見える。行ってみた。お、いるいる自由の女神。リスがいる! 何匹もいた。日本の公園にリスはいない。アメリカさすがだ。リスかわいい。動物の中で一番かわいい。

しっぽ大きい。もふもふ。

 今日はずっと街歩き。公園を出てウォール街に向かう交差点で地図を開いていると、ローカルの方から「グラウンドゼロはこっちだよ」と案内を受ける。俺はお嫁さんの後ろに隠れてニコニコする。彼は俺を見て、アイライクイットと言う。俺の、何がライク?よく分からないがありがとう。
 母がこの辺りの街並みを気に入ったようでしきりと写真を撮る。あるいは旅の終わりを惜しんでいるのかもしれない。お城とモダン、新旧の建物が整然と並ぶ。

 パブリックアートが多いのもこの辺り。イサム・ノグチのレッドキューブは前から知ってる。巨大立方体なんだけど手で回せるというのは、今回ガイドブックで読んで知った(要確認)。回してみたい。しかし行ってみると地蔵をしている現地UBERがいる。回せなかった。
 チャージングブルという牛の銅像が大人気。ウォール街の元気の象徴とのこと。観光客があつまっていた。グッズの露店も3つほど立っていた。

レッドキューブ


チャージングブル


 ウォール街は地味だった。仮設のアーケードに覆われて薄暗い。人通りも少ない。ビジネスパースンが、それこそドリンク剤のCMのように、肩で風を切って歩いているものだと思っていた。ところでマンハッタンの歩道でこのような仮設のアーケードをよく見かける。仮にマンハッタンの印象を?と問われれば仮設のアーケードと俺は答える。アーケードって言ってるけど足場だよね。調べたらこれはやっぱり足場で、壁の補修のために組んでそのままにしてあるんだって。どうせまた補修することになるからって。鷹揚だ。

 仮設のアーケードを抜けると、ニューヨーク証券取引所があった。お城。建物の前に柵が張られ、その中で訳知り顔の人が歓談している。あいつらが世界を動かしているのか。お嫁さんが職員か?とローカルの方に声をかけられる。まじかよ。確かにうちのお嫁さんは大企業の課長だったことがある。雰囲気出てたのかな。しかし見ているとスニーカー履きのおっちゃん風の男が証券取引所に入っていく。職員なんだろう。雰囲気はない。
 次はグラウンドゼロ。

ニューヨーク証券取引所


 グラウンドゼロのモニュメントは鎮魂を見事に形にしたものだった。9.11メモリアル。

これが2個ある。ツインビルの跡地に1つづつ。

 テロを受けて政府はかつてビルの建っていた場所に巨大な穴を設えた。それが9.11メモリアル。穴の形は一辺50mの正方形で垂直に10m下りている。四方の辺からは絶え間なく水が落ちていて、底面に流れを作っていた。穴は 喪に服したように濃いグレーに沈んでいる。底面中央にはさらに深い穴がありその穴は漆黒。流れは漆黒に消えていく。穴はかつて存在していたものの不在を反映しているそうだ。

 私はこのテロをタイムリーにテレビで視聴した。深夜の臨時ニュースだった。高層ビルが煙を吐いている。そして飛行機がビルにつっこむリプレイが繰り返される。アメリカの世界貿易センターの映像とニュースが言う。え?何て?とか言っているうちに、2機目がやってきてもうツインタワーのもう一方に突っ込んだ。さらに3機目があるとの報。ペンタゴンに突っ込んだ。4機目も飛んでいると言う。わたしの目はテレビにくぎ付けになった。
 その時わたしは映像を痛ましい悲劇として見なかった。無責任な野次馬として見た。興奮した。一方で阪神淡路、東日本の両大震災の映像は見た瞬間から悲劇だった。ひどく動揺した。事件が自分に近いか遠いかの違いだろう。イエモンのジャム的にまちがっている。

 9.11から20年がすぎ、今も西側の正義(秩序)にイスラムの先鋭的な組織(あるいはロシアの皇帝)が聖戦をしかけている。悲劇である。しかし仕掛けている側にも一理あるとまたぞろわたしは言っている。遠い場所の悲劇だからそう言うのか。わたしはまちがっているのか。いや一理を感じることに間違いはないはず。でも多くの人が死んでいる。でも人が死ぬのはそんなに稀なことじゃない。痛ましいと思う。痛ましいというのは他人事のようだ。
 わたしの住む日本に対して何者かが攻撃してきてきたことを想定してみる(具体的には半島とか大陸の人たちとかが)。そしてわたしやお嫁さんや母を傷つけ殺したりするとする。その時きっとわたしの心は怒りに動く。しかしその時わたしが首尾一貫した存在になるためには、彼らの暴力に一理を認めなければならない。憎しみに染まり切らず、くそーまじかよーぐらいの気持ちで死ぬ。それぐらいの心の余白がなくてはならない。…やれるんじゃないかな。…自分を買いかぶりすぎかな。

 グラウンドゼロからチャイナタウンへ。ここで地下鉄を利用する手もあった。でも歩いた。結構距離があった。途中ハドソン川で見たジェンガみたいなビルの脇を通った。遠くから見た方がジェンガだった。

お嫁さんが、あのジェンガのビルじゃね?とグーグルマップで検索



 チャイナタウンに到着。ところでチャイナタウンって有名人の足形があるところだっけ? ちがうよ。それはLAのチャイニーズシアター。お嫁さん推薦のヌードル店で麵を食べる。シーアンフェイマスフード。ガイドブック3冊中、2冊に載っているお店。

パクチーが乗ってるねえ

 うまい。俺が牛肉麵。お嫁さんが羊。母は豚。ペロリである。キーンズステーキハウスに向けて、お腹の余白を残すことに成功。
 母が甘い物で口直しをしたいと言う。肉が苦手な母は豚肉をこっちに回したのでおなかに余白がある。財布担当の方の意見は絶対。店頭で肉まんあんまんをふかしている店があればそれを…と思って街を見渡すがそんな店はない。ガイドブックを見てゴールデンスチーマー(肉まん屋)に行く。ジャンボ肉まんうまかった。安かった。何ジャンボ食っとるねん。普通のを頼んだところ、ふかしてあるのはジャンボしかないと言われたため。母はカスタードまんを食べた。

 食べながらブルックリン橋へ。おお、この橋はすごい。吊り橋を吊る塔の高いこと凝っていること。お城だ。ワイヤーロープが塔のてっ辺から迫力満点で俺に迫って来る。糸を吐くボスキャラに見えなくもない。

ブルックリン橋

 橋の両端が車道で歩道が真ん中。歩道には缶バッチや似顔絵、Tシャツの露店が並ぶ。その中にニューヨークの街角でよく見かける360度パノラマ写真のサービスもある。いっぱいある。歩いているとこれまでの最高頻度で現れた。そして初めて利用客を見た。
 その写真サービスであるが、地面に置かれた円盤がある。円盤からは腕が伸びいててその先にはカメラが付いている。腕が円盤の周りをぐるぐる回る。利用客が円盤の真ん中に立つと、360度パノラマが撮影される仕組み。回転に合わせてエンパイアステートオブマインドのボーカル部が流れる。

 ♪ ニューヨーク~

 お客さんがいなくても腕は常時回っているので、この♪ニューヨーク~は旅行中、すごくよく聞いた。

 ブルックリン橋長い。マンハッタンからブルックリンへとイーストリバーに架かる橋である。対岸のブルックリンのビルが大きくなってきた。屋上のカフェが我々を見下ろしている。あそこいいじゃん。あそこでお茶にしよう。休憩しよう。

 大きな橋は川を渡す際に、かなり陸地に入った位置から橋の形を形成しているとしたものだ。よってこのブルックリン橋を下りた時には、目当てのビルがとんと見えない場所まで入り込んだ。探す。歩く。アメリカに来てからこっちずっと歩いている。途中、母がこの景色!映画でよく使われている!というポイントに出くわし写真を撮る。倉庫風の赤レンガが立ち並ぶ通りの空に架かるブルックリン橋。絵になる。

夜の告白シーンが行われるらしい

 ようやく川辺までたどり着き。あそこの屋上じゃね?!と見当をつけて有力候補のビルに入る。惜しい。最上階にはバルコニー席を伴ったフードコートがあるも、バルコニーが狭く景観もいまひとつ。でもトイレがあった。俺がありがとうだ。うんちする。新たなカフェを探す体力は尽きたので、ここで飲み物を買って下のベンチで休もうとなった。お嫁さんがピザ屋に並ぶ。しかしこれも間違い。大人気店でものすごく待った。店員もイラついている。二人で店を回している。多分当欠が出たのだろう。見ればフードコートで食べているのはみんなピザ。ハンバーガー屋と中華とすし屋があったが中華とすしを食っている人はほぼいない。みんなピザ。少しハンバーガー。バーカウンターもある。ここで注文するのが正解でした。俺はハンバーガーがうまそうと思った。母が席に座ってこっくりこっくりしている。
 お嫁さんが戦果を携えて席に戻って来る。ドリンクだけでは寂しいのでパフェ的なものも頼んである。となりのローカルの方にそのドリンク何?と聞かれた。トロピカルな果実を使ったティーでした。ベンチで飲む分のティーは残してパフェを食べた。

おっさんお疲れかい?

 ビルを出てすぐの川沿いにメリーゴーランドが回っている。その脇でティーを飲む。ブルックリン橋もいいけど、あっちのマンハッタン橋の青い色味もいいねえ。旅行ももう終わりだねえ。さてホテルに戻るか。わたしちょっとお土産買いたいとお嫁さん。そういえばブルックリンで何かあれば、って言ってたな。
 さっきのビルに一旦戻って、1階に入っていた無印みたいな店で実家へのお土産を買った。やや妥協した印象を受ける。さあ帰ろう。地下鉄に向かう。

 グーグルマップの指示した場所にハイストリートブルックリンブリッジ駅がない。母がおしっこに行きたい。この旅はずっとそういう作りだ。何とか解決してホテルにたどり着く。

 お昼寝して。おめかし。いよいよ〆のキーンズステーキハウスだ。7AV駅から34stヘラルドスクエア駅。一本なのですごく早く着いた。店の前まで行って写真を撮る。予約時間までまだ30分ほどある。駅まで戻ってヘラルドスクエア公園で休む。ベンチがある。夜の街角のベンチに座ることはこれまでなかった。風情を感じる。そんなにおなかが空いていないなと思う。ジャンボ肉まんが効いている。

この時点で2週間UBERをサボっている。太ったな。

 店のドアを開くとすごい活気。年季が入った調度品はピカピカだ。長年磨かれ続けてのことだろう。テーブルに案内されると、あたかもギャング映画の中に入っていくみたい。席に着いてメニューを見る。向かいに座る母の声が聞こえない。活気がすごい。在店中は声を張って話すことに。
 お通しにサラダスティックとパンが来る。サラダスティックがでかい。俺の知ったものの3倍はある。母がパンをモシャモシャ食う。それが入る分のおなかは料理にとっておいた方が…。隣の席にとんでもない肉の塊が運ばれてた。あれを食うのだ。

 事前勉強でマトンステーキがこの店のスペシャリテであることを知っている。お嫁さんは羊肉好き。これは注文する。もちろん牛も食わなければならない。俺はポーターハウスステーキを注文する。Tの形をした骨にサーロインとヒレが付いたステーキ。Tボーンステーキの親戚。しかしお嫁さん情報によるとこの店でのポーターハウスはTボーンの上位互換で、Tボーンの倍の大きさの肉が来るらしい。隣の席の肉はきっとこれだ。母は肉が苦手なので大きなエビとほうれん草。さらに各自一品づつだと寂しいのでオマールエビのビスクとマッシュポテトを注文した。ウェイターに量が多いが大丈夫か?と聞かれる。大丈夫と答える。オオケイ。ウェイターの方の笑顔がすばらしい。これがプロか!と思う満面の笑みだ。客とのやりとりでそんなに嬉しいはずはない。なのにその笑顔は本当に心からみたいに感じられた。

 料理が運ばれてくる。ビスクとマッシュポテト。ビスクうまい。

ビスク

 ジャズバーでもこのスープ飲んだ。同じ味だ。実は俺にはちょっとくさい。マッシュポテトは真っ白。マヨネーズの味がしない。マヨネーズを入れるのはポテトサラダ。
 ドリンクは最初ワインを飲んだ。本当はキーンズエールというビールを飲みたかった。店の名前を冠しているそういうビールがあることは知っていた。しかしリストにあるのはワインとカクテルばかり。ビールはない。そんなことってある? これは食前酒のメニューなのだろうか…と考え次のメニューが来るのを待った。料理が運ばれてきた。新しいメニューは来ない。お嫁さんに、ビールってないのかな?と聞く。ウェイターさんに聞いてくれという催促に思われると嫌だな。
 お嫁さんがウェイターさんに聞いてくれた。すまぬ。ありがとう。お嫁さんは「He何たら」とか言う。そう、英語は必ず主語を前につけろと学校で習ったっけ。お嫁さんに彼が…とか言われるのは変な感じ。ビールのメニューが来た。キーンズエールある。
 多分だけど、このレストランはパブも併設されていて、ビールはパブで飲めということなのかもしれない。俺はメニューを見てディスワンと言う。キーンズエールうまい。

 肉がくる。でかい!

火の加減はミディアム

 肉塊だ!その厚み。どうやって中まで火を通したのだろう。ポーターハウスがでかいのは期待していたがマトンもでかい。マトンの大きさがポーターハウスに期待していたでかさだ。ポーターハウスはもっとでかい。いやーでかい。でかい。これは、食いきれんな。残った料理は包んでくれるという情報はある。しかしできるなら食い切りたい。あのジャパニーズは食っていったぜと言われたい。
 「え?これ羊?」マトンを食べてお嫁さんが声を上げる。「牛肉って言われても分からない」 牛肉以上に牛肉。ものまねの歌がうまいと本物の歌以上に感動する理屈はある。
 俺はポーターハウスを食べて、うんうまいと言う。噛むと肉汁がじんわりと口に広がる。赤身肉のパサつき感がない。こっちがヒレかな。サーロインの方を食べる。あんまり変わらない。こってり感は強めか。少し硬い。味付けは塩コショウ。マトンの方はタレの味がした。母のエビとほうれんそうも回って来る。うまい。エビの味がする。
 味付けがシンプルで肉質もサシがたっぷりという訳ではないのでおなかがいっぱいになるまで食べた。脂が強いとおなかより先に口が嫌を言い出すものだ。ポーターハウス、マトン共に少し残して包んでもらうことにする。ウェイターさんに、包んでいただけますか?と聞く。シュアー。プロの笑顔、再び。本当にこの人の笑顔はすごい。
 デザートにホットファッジサンデーを一ついただく。うまい。

3人でつつきました

 おなかポンコポンコちゃんになって帰る。明日は6:50にシャトルバスがホテルに来るという。早い。でも頑張って風呂には入る。

 ニューヨーク観光が終わった。いい意味で一番ドキドキしたのはマジソンスクエアガーデンだ。アリーナに入って、コートの上にでっかいビジョンがぶら下がってるのを見た時に一番の笑顔が出た。俺案件だったというのもある。
 お嫁さんもやっぱり自分の英語が通じた時が心に残っていると言っていた。初日の予約トラブルがあっての翌朝、ちゃんとごはんを注文できたスカイライトダイナーでのこと。ウェイトレスさんが、注文する度にパーフェクトパーフェクトって言ってくれたんだって。

 悪い意味での一番のドキドキは明日やってくる。

 

 
 
 

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