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NY家族旅行のNBA(4日目)

 ステーツの土を踏んで4日目。この日のタスクはメトロポリタン美術館で芸術鑑賞する。5番街を歩く。NBAを観戦するの3点。このNBA観戦は一旦組みあがった旅行計画に俺が追加したイベントだ。街歩きが多くもう一品目玉が欲しいところだと。ニックス対セルティックス。俺がチケットを取り(お嫁さんの力を借りて)その電子チケットは俺のスマホの中にある。NBA観戦は俺案件。俺は一行の先頭を切って街を歩かなければならない。英語が飛び交い外人がひしめく戦場の中を。ひー。

 本日の頭初を飾る美術鑑賞であるが、メトロポリタン美術館の開館時間は10:00。ならば8:00に起きればいいんじゃない?ということになった。朝食は近くのデリからテイクアウトしてホテルで食べればいいんじゃない? 8:00は旅行中の起床時間としてはやや寝坊助であるが昨日はよく歩いた。少しギアをゆるめてもいい。

 ホテル近くのデリ「810デリ&カフェ」に入店すると店主とおぼしき親父さんがフレンドリーに何やら話しかけてくる。英語だ。俺はあいまいな笑顔を返すことしかできない。代わってお嫁さんがやりとりしてくれる。すまぬ。サラダ二品、パニーニ、キャロットケーキを入手する。

「親父さんは何て言ってたの?」「言ってくれれば何でもするよって」 英語が話せたらどんなに楽しいことだろう。
 焼き野菜のサラダがうまい。野菜の焼いたのに酢っぱい味。それだけ。しかしその酸味が絶妙。

ホテルの窓際のテーブルに店を広げた。

 パニーニうまい。そしてキャロットケーキ。「本場のキャロットケーキを食べる!」のはこの旅行でお嫁さんが自分に課したタスクだ。昨日ベーカリーカフェで注文し「小さい!」と声を上げたケーキもキャロットケーキだった。果たして渡米後2回目の挑戦の結果は? 「これこれ!」 お嫁さんは満足した。

 メトロポリタン美術館へは地下鉄を利用。改札口で母がメトロカードがないと言いだす。ポケットを探りバックの中を漁る。見つからない。いいよいいよ。また買えば。行こう?
 メトロポリタン美術館はとんでもない。お城もお城、これまでの中で一番のお城だ。でかい。凝っている。入り口の大階段から圧倒される。

 鑑賞にあたっては日本語の音声ガイドがあるようで、借りる。…いらなかった。つかえない。対応する作品が少なすぎる。
 展示スペースは大きく1階と2階にある。その各階だけでMOMA1棟分の床面積だ。結果、1階を回ったところでタイムアップ。ペース配分を間違えた。入りのエジプトエリアに時間をかけすぎた。

出土品。青いカバは美術館のマスコット的存在とか

 2階はスルー。お嫁さんの見たい尾形光琳があるとされる日本エリアだけ見て館を出た。しかし目当ての尾形光琳の作はなかった。貸し出し中だったのかもしれん。
 展示品は作家物の芸術が半分、博物館的な昔の何かが半分といったところ。俺は男なので中世の甲冑が面白かった。本当に全身が鉄で覆われていやがる。何キロあるんだ?いや、これを着ては動けんだろう?と眺めた。お嫁さんは宝飾品が現れるたびに足を止める。お嫁さんは宝石が大好きだ。

オパール。

 美術館のレストランで食事ということも考えたが食べなかった。敷居をまたぐところまではいったのだが。一軒目は会員専用ということで断られた。二軒目はイートインのあるデリ風で商品を手に取ってレジに並ぶまでは行きはしたのだけれども、でもやめた。実はおなかが空いていない。手にしたパック商品はコンビニでも買えそう。せっかくの旅行だから外で食べよう?

 美術館を出て、マディソン通りから5番街を街歩きをした。高級ブランドが並ぶハイソな通り。店には入らず軒先を冷やかした。案外お嫁さんがブランドを知っていることに驚く。シャネル、グッチは俺にも分かるが、ボルトスメフ(イメージ)とかチック&ポリー(イメージ)とか聞いたことことのないブランドも知っている。家にファッション雑誌がないので油断していた。宝石が好きなのでやはりティファニーには格別の反応をした。
 おしっこしたい問題が発生。これはアップルストアで解決した。ありがとうアップルストア。アップルストアのお隣のディオールの屋根に巨大な食虫花のオブジェが3体乗っかかり垂れている。すごい迫力だった。

 ティファニーのお隣さんにはトランプタワー。言わずと知れたトランプ前大統領の持ちビルだ。こっちの名物は母がご執心なのだった。ぜひとも写真を撮らなければならない。トランプ本人は好きではないと言う。お友達に「”あの”トランプタワーに行ってきたよ」と言うためだ。メトロポリタン美術館では「佳子さまには会えたなかったね」と言うぐらいに母は現代のニュースの中に生きている。
 実際トランプタワーの前には、反トランプ的なパフォーマンスをするおっちゃん二人がいた。特に警備員にとがめられるでもなく、おっちゃんの一人はトランプのゴムマスクをかぶってトランプの形態模写をし、もう一人はローラースケートで滑りながら指先で地球儀をぐるぐる回していた。
 トランプタワーの入り口にはトランプバーとトランプグリルの案内があった。トランプトランプとトランプが連呼される押し出しの強さに笑ってしまう。

45はアメリカ第45代大統領の数字

中に入ってみると店はまだ閉まっていた。残念と言いながら半ばホッとして我々はトランプタワーを後にした。バーは敷居が高い。入る準備ができていなかった。しかしこの退館は我々の勉強不足で誤り。地下階にはパブリックスペースがあり、併設のトランプカフェで注文してゆったり休憩することができたようだ。トイレもある。まさしく我々がこの時欲していた時間。トランプストアもあって、そこではトランプグッズが売っている。

 トランプタワーを後にした我々はさらに南下してセントパトリック教会を目指す。これも母の希望。旅行初日にトップオブザストランドで夜景を見た帰り、その前を通り教会の威容に感激した。ぜひ写真を撮っておかなければならないとのこと。いや立派な教会であることには間違いない。

信者のお布施で作られたんだよね

 ここが本日の最終地点。結局、ご飯を取らず5番街を下りきったことになる。おなかは少し空いてきた。

 ホテルの近くのシンガポール料理のフードコートで食べる。うまかった。大変しっくりきた。俺は焼きそばを注文。母はカレー。お嫁さんはラクサ。数日ぶりの醤の味。ああ俺はアジア人だ。ビールは飲まなかった。この後、俺にはNBAへの引率が待っている。万全の状態で臨まなければならぬ。

 ホテルに戻ってお昼寝してから出撃。NBAニックスーセルティック戦の会場マジソンスクエアガーデンへ。50st駅で地下鉄に乗り34stペン駅で降りる。メトロカードを失くした母はカードを買い直した。

 試合が行われるマジソンスクエアガーデンはエンタメの殿堂。北極南極エベレストと世界には様々な極があるが、ここも世界の極の一つと言えよう。
 さあ、俺の出番だ。別の世界線ではスター「ボス村松」が極みに挑む機会だったのかもしれないが、この世界線では旅行者「ボス村松」がちゃんと席にたどり着けるかどうかの勝負となった。これも人生。
 いかつい係がゲート前に立っている。試合チケットは俺のスマホの中にある。このチケット、予約は受理されたものの席が確定しないのか、なかなか手元に届かず気を揉んだチケットだった。届いたのは一日前。届いた時には心底安心したものだった。
 俺はゲートで素早く提示するためにチケットをグーグルウォレットに入れてある。この時のためにグーグルウォレットをダウンロードした。そして素振りした。ウォレットのアイコンを押してからチケットのQRコードが出てくるまでの手順を何度も何度も繰り返した。
 イメトレ通りに事は進み、一行は素晴らしくスムーズにゲートを通過した。手荷物チェックも問題なし。

 俺はやり遂げた!

 テンションが上がる。売店でビールも買っちゃう。そうです。油断しました。結果、席を間違える。正解のお客さんとひと悶着した。痛恨。この試技では着地(着席)までをビシッと決めたかった。減点なしでいきたかった。
 席に着いたのは試合開始30分前。会場を見渡すとコート中央にぶら下がっている巨大モニターに存在感。これテレビで見たことある。


これは試合中に撮った写真です。

両チームがシュート練習している。俺から見て左手にニックス、右手にセルティックスが練習している。
 ニックスの方がホームチーム。ニューヨークニックス。マジソンスクエアガーデンを拠点としている。さてそのホームチームのシュート練習が入らない(セルティックスと比べて)。
 ニックスは弱い。狂ったオーナーのせいだ。そんな記事を読んだ。入らないシュートに俺は予習通りと嬉しくなる。しかしニックスはNBA有数の人気チームで熱狂的ファンの後押しを受けると言う。
 弱いチームの熱狂的ファンというのは洋の東西を問わず愛おしい人々だ。報われる愛よりも報われない愛の方が気高い。今は3分の入りのこのマジソンスクエアガーデンも試合開始時には満員となり、彼ら報われないファンの歓声が響きわたるのだ、…ニックスのショットが入る度に総立ちになり、セルティックスのショットには溜息をつくニックスファン。そして最後には肩を落とし舌打ちをして会場を去ることになる。すばらしい。純愛だ。そんな幻をみた。俺の胸はニューヨークに来て以来最高潮に高鳴った。

 さて実際の試合は、7分の入りの客席の中、粛々と進んでニックスが僅差で勝って終わった。実のところこの日の試合はプレシーズンマッチで本番は半月後。ファンを退屈させないための多種多彩な演出には感心した。各クオーター間の中断中はもちろん、タイムがかかって間が開いた時にも必ず何か、やった。カラオケ大会が始まったのには驚いた。素朴ながら球団の旗を持って10人ぐらいがコートを一周するパフォーマンスがよかった。

 2時間半こってり試合を堪能。席を立ち最後にトイレに寄る。トイレの数も多い。行き届いている。ピカピカだ。トイレも会場も通路も出来立てみたいなマジソンスクエアガーデンだった。
 今日はこれでおしまい。タスクはクリア。一行は会場からの離脱を図る。エレベーターよりも階段の方が早そうだ。人の流れに乗って順調に階段を下りる中、お嫁さんが「ちょっと待ってスマホがない」と言い出す。階段の踊り場でお嫁さんがポケット、バッグの中を漁る。この景色、人を変えて朝の地下鉄の改札口で見た。「席で落としたのかな。バッグに入れたと思うんだけど…」 蚊の鳴くような声。
 席に戻ろう。
 一行が人の流れに逆らって歩き始めるとすぐに係員に止められる。何か英語で言われる。戻るな出ろということだろう。お嫁さんがスマホを忘れたことを伝えると何か答える。何て?
「出口で係員に言えって…」

 出口で係員に言う。座っていた席を聞かれる。おそらく場内清掃の人と連絡を取ったのだろう、待てと言われる。
「見つかったら必ずここに届くようになってるから。大丈夫だよ。今日は楽しい時間だったんでしょう?」とお嫁さんは言われる。
 15分ほど不安な時間を過ごして、スマホが届く。よかったよう。

 地下鉄でホテルに戻ってセブンでビールを買って飲んで寝た。NBA観戦という唯一の俺案件が終わってホッとした。あとはお嫁さんがんばれ。大変リラックスしてお嫁さんが美術館巡りの予習に持ってきたマンガ「美術のトラちゃん」を読む。おもしろい。

人生もコンセプチュアルアートになる。要は意識するかしないかだ、という視点(言い訳)を得た

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ボス村松
この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。

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