ねじの話 「ドリルねじ1」 ドリルねじの特徴とトラブルのメカニズム
ドリルねじは主に建築の現場で幅広く利用されています。鋼板や硬質ボード、木材を鋼板に固定するファスナーとして卓越した締結作業性と信頼性、またコストパフォーマンスに優れたドリルねじ。ドリルねじの性能を十分に引き出すために必要な情報を全5回でお伝えします。(画像・表などはねじコンシェル.comより引用しています。)
初稿は「ドリルねじの特徴と特有のトラブルについて」です。
『ドリルねじ』の特徴は何といっても「ねじ一本で」「下穴あけ、タップ立て、締め付け出来る」です。
同時にドリルねじの特性を理解せずに手元のねじを間に合わせで使用するとドリルねじ特有のトラブル、上側鋼板を持ち上げてしまう「ジャッキ現象」や「ドリルの焼き付き」、「取り付け物の破損」が生じます。
トラブル発生のメカニズム
なぜ「ジャッキ現象」や「ドリルの焼き付き」、「取り付け物の破損」といったトラブルが発生するのでしょうか?原因は「ドリルねじが多機能である為」です。謎めいた表現になりますが「下穴開け」「タップ立て」「締付け」をねじ一本で出来ますが、「下穴開け」と「タップ立て」を同時に行うとトラブルになります。
注目すべきは、ねじが1回転した際の削孔出来る距離とタップする距離に違いがあること。削孔は回転に伴いドリル部で相手材を少しずつ削り取りながら僅かに前進していきます。タップ立てはねじが一回転する毎にねじ部で1ピッチ分一気に進んでいきます。
つまり同じねじの一回転で作業の進み具合は
【ドリル刃の削孔する距離】<【タップ切りの距離(ねじの1ピッチ分)】
です。
もう一度「間違った使用例」図にご注目下さい。
下地鋼板に接しているドリル先端部分では下穴開け(削孔)が行われています。同時に上部鋼板の「タップ立て」がねじ部で行われています。
ドリル部は回転に伴い相手材を少しずつ削り取りながら僅かに前進していきますが、ねじ部でのタップ立てはねじが一回転する毎に1ピッチ分一気に前進しようとします。こうしてねじ部でドリル部が進む事の出来る速度を超えて前進しようとする力が発生し無理やりドリル部を押し出そうとします。するとドリル刃が必要以上に押さえつけられて刃こぼれし焼付く、あるいは押し戻して上側の鋼板を持ち上げる、取付部材を破損させる、というトラブルを生むことになります。
この様な同時に「下穴開け」と「タップ立て」を行うことを避けるための秘訣は「締結する板厚」が「最大適応板厚」を超えないようにする事。次の ねじの話 「ドリルねじ」Vol.2 でこの「適応板厚」への理解を深めます。