第145話 ストレッチ
最近、テレワークが多くなっており、椅子に座りながらの作業が多くなってきていた。
動きの少ない日常だからか、伸びをする機会も増えてきており、ある時、お昼ご飯を食べる前に、両手をあげて、ふぁ〜、と伸びていた時のことだ。
胸がつったのだ、僕にとっては初めての経験だった。
足がつることはよくあって、ある程度対処法というか、その後の経過というか把握はできているので、耐え凌げばいいだけなのだが、胸でも似た感じかと思えば僕の場合少し違った。
片足とかなら、両手で抱えて鼻息を吹き出しながら転げ回れば、痛みを紛らわせる。だが、胸だとそうはいかない。なんか息苦しいし、片胸の痛さが出てそうなところを掴もうとしても、貧相な男の僕では薄皮くらいしか掴むものはない。
結局、痛みがおさまるまで、10分ほど、体をくねらせてスクワットのような動作をしながら、苦悶の表情を浮かべ冷や汗をダラダラ流し、息遣いを激しくすることになった。
落ち着いてきて、机に片手をついて、ゼエゼエしていると、ママからは冷ややかな目が注がれている。
「何してんの?」
はたからみたら、背伸びしたと思ったら、急にスクワットをしだし、汗だくでフッフッ言っているのだから、やべー奴だろう。
「いや、胸がつって、マジ死にかけた」
「しょうもな、体が固いからだよ!」
その時は、瀕死だったので、思考停止、言われるがままにそうなのかと、それから、ストレッチを意識するようになった。
あとで少し調べてみたら、ストレッチと筋肉のつりはあまり関係なさそうな気もしたのだが、まぁ、悪いことではなさそうなのでやってみている。
僕は体が固い。長座体前屈では、足先などもちろんさわれるわけはない。
ママは、爆笑しながら、そんな僕の写真を撮り、ほらこうやるんだよ、と言わんばかりに簡単に足先を触って見せつけてくる。
末っ子のモーちゃんは、僕が、プルプルさせながら足先に手を伸ばしているのをみて、自分のことを抱っこしてくれようとしているポーズと勘違いして、ニコニコして近づいてくる。
子供達も真似をしてストレッチを開始する。長男のひーくんは歳の割には固そうだ。なんとか足先に手がつく程度であった。
次男のかーくんは、足先を触るだけでなく、ほっぺたを膝に擦り付けている。開脚前屈もなんのそのだ。初めて、かーくんに敗北した瞬間だった。
まぁ、かーくんと比べられたらひとたまりもないが、体が固いとはいえそれなりには曲げられているのではという自己認識ではいた。
なので、なんでそんなに笑われなきゃいけないんだと、実際の自分の写真を見してもらった。
ふむ、格好悪いとかではない、むしろその姿は気持ち悪かった。
長座体前屈をしている僕は、90度、むしろ、105度くらいの傾きで手をプルプル前に突き出し、首だけ下を向いている。
まるで、下半身吹っ飛ばされるも襲おうと動いているキョンシーやゾンビのようであった。
うむ、今後もストレッチしよ。