マイファニーバレンタイン
私の父は面白い人で、まだ10にもならないうちから私を理想の人間にすべく方々へ連れて回った。その中でも鮮明に覚えているのは、ベランダで蚊取り線香が崩れ行くさまをぽっと眺めるなどして退屈を弄ぶ私に「お気に入りのジャズを聴きに行こう」と声をかけ、遥々オオフナへと出向いた時のことだった。
オオフナという場所は思ったよりもずっと遠く、私は後部座席に行儀悪く寝転んで本の一冊も持って来なかったことをひどく後悔した。この行き場のない退屈をどうにかして打破すべく、私は「パパァ、後で本買って〜