クルマが壊れた
午前1時ごろ、私は関西のとある深山幽谷に位置する怪しげな化学工場での夜勤労働を終え、いざ帰宅しようとクルマに乗り込んだ。いつものようにキーを挿し、エンジンを始動させようとする。が、何やら調子がおかしい。一応エンジンは動くようなのだが、いくらアクセルを踏んでも「ドゥルン、ドゥルン……!」と変に細切れな調子でしか進まない。何度かエンジンをかけ直してみる。しつこく、3回、5回、10回とやってみる。何も変わらない。まずい、と思った。
会社の駐車場でしばし呆然とする。一体何が起きているのか? 残念ながらクルマには詳しくない。この世で最も興味のないものの一つでさえある。さては世間でいう「エンスト」と呼ばれる現象だろうか。私はスマートフォンを取り出した。「オーケー、Google」もちろん現状は何ひとつOKではないがそう言わないと起動しないのだ。「エンストの対処法を教えて」としぶしぶ発声した。
インターネットで調べてみたが、「エンストとは、エンジン・ストーリングの略である」といった知見しか得られなかった。私は「なるほど。てっきりエンジン・ストップの略だと思っていたよ。ありがとう」と言ってスマートフォンを後部座席に投げ捨てた。役立ずの穀潰しめ。
ともあれ、その場の工夫で対処できるものではないようだった。通常、ここでロードサービスを呼ぶべきだろうが、あいにく私のクルマはごく最近に発揮された持ち前の怠惰さにより任意保険が切れている。有料で呼べなくはないが、それなりに金がかかってしまう。
悩んだ結果、いやあまり冷静な判断とは言えなかったが、とりあえず動いてはいるようであるし、最寄りの修理工場まで持ち込めないかと考えた。幸い、深夜なのでクルマ通りはあまりない。距離も3,4kmといったところだろう。(本当はこの状態で公道に出るのは道路交通法違反という気がしてなならない。みなさんはおとなしく金を払ってレッカー車を召喚してほしい)
このアイデアはひとまず実行できた。もちろん修理工場は午前1時になど営業していない。営業していないが、ともかく駐車だけさせてもらい、朝イチで相談することにした。幸い紙とペンはあったので、簡単に事情を書いてダッシュボードの上に置いておいた。
『勝手に駐車しており申し訳ございません。11/23の午前1時にエンジントラブルが起きました。○○修理工場様が営業開始になる午前10時に必ず来店いたしますので、誠に勝手ながらそれまで置かせて下さい。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません(連絡先:090-XXXX-YYYY、ボルボラ)』
営業していない時間帯に来客用駐車スペースが1台分占拠されたからといって、そこまで大きな迷惑にはなるまい、とは思いつつも、『誠に勝手ながら』と筆記する際は、さすがに「本当に勝手だな!」と自嘲せざるを得なかった。
みなさんにご忠告。面倒くさいからといって任意保険の更新を怠らないこと。普段から多少はクルマのメンテナンスについて考え、実践しておくこと。これは本当、やったほうがいい。誰もやらなくていいなどと言ってはいないが、あえて言おう。やったほうがいい。
現在は修理工場に依頼も済み、代車も手配してもらえた状態である。ひとまず激ヤバ状態からは脱したというところだ。修理費用がいくらになるのかはまだ分からない。この点では戦々恐々としている。なんでも今日は勤労感謝の日で祝日のため、部品配給元が軒並み休みになっているため、見積もりも出せないそうである。土曜日が祝日だとそんなこともあるのか、と新たな知見が追加されたが、運が悪いことだ。
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