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短編小説【天国の過疎化問題】


「最近さ、幽霊が出たという話をあまり聞かないよね」

「さぁどうなんでしょうね。人間界も割と快適になり、なかなか死なないから天国も過疎化がすごくて審査が緩いみたいです。
だから幽霊で彷徨うことなく成仏していなくなるって、天国の祖母が言ってましたよ笑」

「天国が過疎化なんて世も末だね笑」

「昔は、天国と言えばプレミアチケットだった。
それはそれは厳しい審査で、ちょっとでも素行が悪いと「はい君地獄ね。次」みたいな感じで一次審査も通らなかった」

「ですよねー、、もうちょっとその人なりの良さとか、見てあげても良いんじゃないかな?って私もずっと思ってました。」

「そういった高飛車な態度の一方で魅力的な天国リゾート開発はおろそかになって古い価値観のいわゆる雲の上の楽園みたいなあのイメージのままで、あたらしさを失い、今時WiFiすらない。」

「笑、ネットもないんじゃ若い人はまず逝かないよ」

「そんな事してるから死なない人が増えちゃって今では死神に外注してるみたいだけど、依頼価格が高騰しててもう天国も予算が逼迫してるそうです。」

「予算がないから天国リゾート開発も老朽化が進み天女も天使も人材不足。
そしてさらなるリゾートの衰退というスパイラル。」

「私はね、いっそのこと、生前に解放して一度見てもらう取り組みをすべきと思うんですよ。
そこである程度料金をとって体験してもらい、テストマーケティングも行いつつマネタイズし、その予算を開発に回せば良いと考えてます。」

「なるほど。それは斬新だ」

「テストマーケティングで、どんな天国だったら逝きたくなるのか?
そのニーズを掴み、新しい天国に刷新した上で、広報としてネットを活用し広める。」

「例えばYouTubeなどで、
「天使の日常」を見せるだけでも注目が集まります。
よくアイドルなんかを「ワイの推しはまじ天使」とか言う人がいますけど、こちらはリアル天使ですよ?」

「コンテンツとして完全に勝ってるね。」

「さらにそこでも収益化して、その予算を天使の報酬に回して天使の雇用も促進。
若い天使にも夢を持ってもらえる。
そんな取り組みが必要なんです。」

「しかし天国が過疎化なら地獄はもっと悲惨なんじゃ?」

「間違いないですね。もう鬼なんか賃金やすくてまさに地獄でしょう。
単純労働ならロボットやらAIで代用できちゃうからこれからは切り替えていくんじゃないですかね。
生前の個人データをあらかじめ取得しておけば閻魔さんもいらないですよ実際。AIで十分ですしね」

「閻魔さんもリストラか」

「いや君らのリストラが先だな。無駄話しばかりしてるから」

と、深夜のオフィスに戻った広告代理店の社長は言った。

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