短編【人から産まれた桃太郎】
おばぁさんが川で洗濯をしていると、大きなモモがどんぶらこどんぶらこと、流れてきました。
その数は次第に増えていき、桃の木の枝や葉っぱも流れてきました。
それを見たおばぁさんは、上流で地滑りが起こり斜面にあった桃畑を巻き込んで収穫前の大きな桃が川に流れたと考え、もしかすると川が堰き止められ鉄砲水となって、村を土石流が襲うかもしれないと考え、顔面蒼白になりました。
「こりゃあ大変だ。すぐに村に知らせねぇと」
と、すぐさま洗濯も切り上げ村へと走った。
しかし高齢のおばぁさんではすぐに息が切れてしまった。
「はぁはぁ、、、はしらねぇと、、はあはぁ、、、」
しかしおばぁさんの思いとは裏腹に、負担のかかる心臓は破裂しそうなほどに痛んだ。
よろよろと、ついにしゃがみ込んでしまったおばぁさん。
その時だった。
一匹の猿が近寄ってこう言った。
「おばあちゃん、大変そうだね。その腰につけてるきび団子くれたら助けてあげるよ」
おばぁさんは耳を疑った。猿が喋った、、、。そんなバカな、、、
しかし朦朧とする意識の中、一縷の望みをかけて腰につけてるきび団子を渡した。
すると猿は、口笛を吹き一匹のキジを呼び寄せた。
猿はキジに言った。
「村が土石流で大変なことになる。
すぐに村に飛んで皆んなに知らせてくれ。おばぁちゃん、この紙に伝えたいことを書いて。」
おばあちゃんは、力を振り絞って手紙を書いた。
キジはその手紙を咥えると村まで飛んだ。
おばぁちゃんはそこで意識を失ってしまった。
その頃、村では若い夫婦が出産の時を迎えようとしていた。
「ほら頑張って!息を整えて」
若い夫と助産婦が夫の妻である妊婦を励ましていた。
それを建屋の外でハラハラと待つおじぃさん。
そう、このおじぃさんは、この夫婦の父であり村へ走ったあのおばぁさんの夫だった。
先ほどのキジは村の上空にたどり着くと、この手紙を託す相手を探した。しかしそう簡単には見つからないし、キジが持ってきた手紙では説得力がない。
そこに現れたのが一匹の犬だった。
「キジさん、人探しかい?僕は鼻が効くからその手紙を届けてあげるよ。」
キジは犬に手紙を託すと、おばあちゃんの夫である、おじぃさんに渡すように頼んだ。
犬は村を走り、その敏感な鼻で手紙の匂いを手がかりにおじぃさんを駆けて探した。
「おぅおぅ、犬がなんかけたたましく走ってるね」
一人の村人がつぶやいた。
村人達はこれから起こる惨劇を知る由しもなかった。
そしておじぃさんにたどり着いた犬は、手紙を渡した。
それを読むおじぃさん、、、、
おばぁさんの夫であるおじぃちゃんは、その筆跡を見てそれはおばぁちゃんの字とすぐにわかり、
「こ、、こりゃあ大変だ!
おいオメェ達、上流で地滑りがあって土石流が起こるかも知れねぇ!すぐに避難するんだ!」
と伝えた。
「なんだってー!?」
村人達は慌てて避難をはじめた。
しかし出産間近の夫婦は逃げることもできない、、、、
川が茶色く濁り始めた。まさにおばぁさんの予想通り、それは上流で地滑りが起こり土石流が迫っている証拠だった、、、、
おじぃさんは、畳を一枚捲ると
「これに乗せで避難するんだ!」
しかし人手が足りなかった。
「くそぅ、、どうすれば、、」
絶望にくれるおじぃさん、
その時、なんと避難したはずの村人達が戻ってきたのだ。
「オメェ達、死にテェのか?」
「自分達ばっかり逃げるなんてできねぇ。そんな鬼みたいな人間にはなりたくねぇんだ!」
こうして村人達の力で若い夫婦は救われた。
その直後村は土石流に巻き込まれた。
本当に間一髪の危機だったのである。
しばらくして、気を失っていたおばあちゃんは目を覚ました。
ぺろぺろと頬を舐める犬。
「おぉ、どうしんたんじゃ?犬か、、、」
あれは夢だったのだろうか、、、。
ぼんやりとした意識がはっきりするにつれ、おじぃさんの姿が見え、その周りには村の皆んながいた。
「ばぁさん、おめぇのおかげで、皆んなすぐわれた。ありがとう」
村人:「ありがとう!」
そしておじぃさんは言った
「無事に産まれたよ。初孫じゃ」
その産まれた子供の名前は
「桃太郎」と名づけられ村のみんなで大切に育てられたという。
めでたしめでたし。