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私にとっての韓国ドラマ

韓国ドラマを見るようになってから、若干コールドスリープ状態だった心が、再び脈打ち、息を吹き返しました。

コロナ禍と夫の失業、それに伴う娘たちの転校など、不本意なことがいろいろ続いて、しばらく私の心は荒んでいました。人生って全然思いどおりじゃないと思い知り、子どもさえなんとか育ってくれたら、あとはもうどうでもいいやと、ふてくされていました。それまで楽しめていたこともあまり楽しいと感じなくなって、とにかく「どうでもいい」「つまらない」という無気力な感情が、頭を支配していました。

韓ドラとの出会いは、去年の秋。U-NEXTの無料体験案内が届いて、せっかくだからと登録し、ラインナップの中に『冬のソナタ』を見つけました。当時母も見ていたし、あれだけ流行したドラマだから、やっぱりそれなりに面白いのかなあと、軽い気持ちで視聴開始。そして、あっという間に止まらなくなりました。中盤あたりからはもう、寝ても覚めても続きが気になって、数日で一気に見終えてしまった気がします。美しい雪景色、切なさたっぷりの音楽、そしてヨン様。ドラマ全体が、想像していた何倍も素晴らしく、めくるめく熱い感情で満たされて、自分の心の在りかを思い出したような、そんな感覚になりました。

冬ソナの感動がさめやらぬまま、もしかして韓国ドラマってめちゃくちゃ私の趣味に合うのではないかと、またすぐお薦め作品をネットで検索して、今度は『トッケビ』を視聴開始。これまた見事に心を持っていかれてどっぷりがっつりはまり、頭の中が物語のことでいっぱいになって、毎日時間の許す限り夢中で見て、ときめいて泣いてときめいて泣いて、最終回を見終えたあと、しばらく息が苦しいくらい、心の中を生き生きとした感情か駆けめぐりました。
そして、いくらでもあふれて止まらない感情をかみしめながら、私ってまだまだこういう感情がちゃんとある人間だったんだと、うれしくなりました。もう若くないから感情が動きにくくなったのかと思っていたけれど、それは思い違いだったようです。

そんなふうにして韓ドラの世界に魅了され約1年、ラブロマンス、ラブコメ、ヒューマンドラマを中心に、もう10作ぐらいは見たでしょうか。いい作品に出会うたび、登場人物と心が完全に同化していって、登場人物が泣くと一緒に涙がこぼれて、そんな自分に驚くという経験を何度もしました。ドラマを見ているあいだは、現実が遠くへ追いやられるほどその世界に没入してしまって、時間がたつのがあっという間です。
韓国ドラマって、言葉と音楽と映像と演技の合わせ技で、とても情緒溢れる詩的な世界を創り出すのが、ものすごくうまいなあと思います。画面全体が一枚の絵画のようで、これが本ならばとっておきの栞を挟みたくなるような、何度も見たいと思える場面がたくさんあります。

最近Netflixに入って、ずっと見たかった『愛の不時着』を堪能しました。つい先日見終わりましたが、心が揺さぶられすぎて、まだ物語の世界から完全に抜け出せていません。今日はSpotifyでサントラを聴きながら衣替え作業をしました。音楽を流すだけで、何度でも思い出してうっとりします。登場人物みんなそれぞれ血が通っていて魅力的で、ユーモアも交えつつ純度の高い恋物語が繰り広げられ、緩急が実に絶妙で、完成度の高い、美しいドラマでした。

すっかり韓ドラに心奪われている私の様子は、端から見ると滑稽らしく、夫が呆れて小ばかにするので、本当に面白いのだから騙されたと思って一度見てみてほしいとしつこく薦め、夫も『愛の不時着』をしぶしぶ見始めました。すると数話見たあと、「こんなすごいドラマを見ていたら、現実の平凡な生活が、物足りなくなるんじゃない?」と聞いてきたので、驚きました。むしろ、日常が楽しく明るくなるというのに。
何も私は、自分が実際に財閥令嬢になって大恋愛をしたり、コートの着こなしがかっこ良すぎるトッケビと暮らしたりしたいから、韓ドラを見ているわけではないのです。ただ、そういう壮大な物語を通して、自分の心が強く大きく動くのがうれしい、それだけです。