ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん【公式】

ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん【公式】

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第二話「薬売りの介抱」④

前回のおはなし⇓⇓  下手にケガを負わせては、すぐに奥に引っ込まれてしまう。勝負は短時間で決めたい。  弓を引こうとすると、一瞬過去の自分が脳裏に浮かんだ。同じように弓を構えて、クモを射貫く自分。そうして得た毒を――おまえは、どうした?  びくりと、腕が跳ねる。私の手を離れた矢は、クモを掠るようにして飛んでいった。 「ピギィッ!」  案の定、黒曜グモが警戒音を出し、奥に引っ込もうとする。 「クソ……ッ」  毒づき、すぐさまもう一本の矢をつがえる。 (なにが昔取った杵柄だ――

    • 第二話「薬売りの介抱」③

      前回のおはなし⇓⇓  頭に浮かぶのは、医者でもある知己だ。変わり者だが腕は確かなため、きっと良い方策を示してくれるだろう。さっそく連絡を取るため、昔ながらの通文手段である使い鴉に、手紙を結ぶ。連絡を取るなら他にも方法はいくらでもあるのに、こんな古風なやり方しか使わない、というのも変わり者の一面だ。餌を多めにやって、「頼んだよ」と送り出すと、艶やかな黒い羽を広げ、鴉は高い空へと飛んでいった。 「さて……と」  軽く伸びをし、工房へと戻る。最近はリズレさんの食欲が、更に増してき

      • 第二話「薬売りの介抱」②

        前回のおはなし⇓⇓ ***  気がつくと、空が白んでいた。 「眠ってたのか……」  寝た瞬間の記憶が全くない。驚くほどにない。昨日は三時間の仮眠しかとっておらず、山道を歩きどおしだったことを思えば、体力の限界だったということだろう。床で寝てしまったせいか、身体が強張っている。  窓からの景色を見る限り、まだ日が昇り始めたばかりのようだが――身体を起こしかけたところでリズレと間近で目が合い、ギョッとした。 「お……っ、おはようございます!」  まさか、患者の寝台の真横で寝落

        • 第二話「薬売りの介抱」①

          前回のおはなし⇓⇓  麓の川沿いを下り、工房のある集落に着いたのは、予定通り昼前だった。 「着きましたよ、リズレさん。ここが、今日から住む場所ですよ」  村と呼ぶには小さな集落。そこの一角に、薬を取り扱う工房を営んでいる。住人は少ないが、街から街へと移動する行商人が立ち寄って、商品である薬を取り扱ってくれることが多い。そのため一人で暮らす分には困らない程度の収入はあるし、特に使い道もないためそこそこの蓄えもある。 「ン……アー……オウチ……」 「そう、新しいおうちです。まず

          第一話「ボロボロのエルフ」②

          前回のおはなし⇓⇓  店主の口調は軽かった。この店主はおそらく良心から薬売りである私に声をかけたのだろう。――彼女を、薬の材料として欲しくないか? と。  以前、世話をした礼のつもりなのかもしれない。この主人が特別に冷酷なわけではない――イルダ人の多くにとって、エルフやビーセリアなどの異種族人は、そういうものなのだ。食料にできたり農作業の役に立ったりする分、牛や馬の方が価値を置かれるほどに。  この娘の、命は。いったい幾らの値段を付けられているのか。  ――吐き気がする。

          『ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』序「暗闇からの祈り」〜第一話「ボロボロのエルフ」①

          序 暗闇からの祈り  カエリタイ ――――帰りたい  オウチ ニ カエリタイ ――――帰りたいよぉ  オウチ カエリタイ ――――痛いよぉ……苦しい、よぉ  カエリタイ カエリタイ カエリタイ カエリタイ ――――指も腕も足も目も口も胸も背中もあぁもうなにもかも  オウチ…… ――――痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて……っ  ワタシ ノ オウチ ――――もう、いやだよぉ……  ドコ? ――――ここはどこなの  オウチ ドコ? ――――真っ暗で、なにも見えない  

          『ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』序「暗闇からの祈り」〜第一話「ボロボロのエルフ」①