線でマンガを読む【おそらく聞いたことがない話】
2018年冬アニメが続々スタートし、好きだったマンガがTVアニメ化された!という方もいるだろう。「でもなんか原作と雰囲気が違うなあ…」とがっかりすることも。
その理由のひとつとして、マンガとアニメの描線の違い、というのが考えられる。Gペンや丸ペン、サインペンにボールペンなどの画材のチョイスや筆圧、さらにデジタル処理など、マンガ家は試行錯誤を繰り返し、自分だけの線を生み出すものだ。その線の雰囲気をアニメに移植することはとても難しい。
アニメの現場ではふつう、1話につき10人以上の原画マンによる分担作業が行われていて、描線はある程度皆が描けるように平準化される。ひとりの原画マンがすごく独創的な線で原画を描いてしまうと、アニメ全体としては違和感を感じるものになってしまう。
マンガにおいてもアシスタントはいるが、作家個人のタッチを見せる側面の強いマンガと、複数のクリエイターの集団作業であるアニメの違いはやはりある。
それぞれのマンガ家が引く独特の線を味わう、というのはマンガ読みの楽しみのひとつだろう。
今回は、魅力的な線を引くマンガ家を何人か紹介したいと思う。
■志村貴子
女装が好きな小学生男子、同級生の女子に友情のような恋愛のような微妙な感情をもつ女子高校生などを、志村は描いてきた。
それらのキャラクターは、完全なマイノリティではない。多数派のなかで暮らしてはいるが、日常のふとしたときに、少しだけ違和感を感じている、そういう人々を繊細に描く志村の描線は、透明感がある。筆圧が均一で、落ち着いた線だ。
(『淡島百景』太田出版)
■入江亜季
上記の志村の線と比べ、タッチがついていて少しワイルド。入江は、退屈な日常を抜け出して、未知の世界へと足を踏み入れる冒険心に満ちた主人公を登場させる。
自分とは異なる、さまざまな人々との出会い。快活だけど叙情的なストーリーと、ちょっと昭和のにおいのするクラシックな線を現代に継承している描き手だ。
(『北北西に曇と往け』 HARTA COMIX)
■高浜寛
高浜もまた、日常を描く作家である。しかし、そこにあるのは志村の描くものよりもかなりアダルトだ。思い描いた人生とは少し違う生活を送る人々がため込んだ鬱屈が、もうあとわずかなところで流れ出しそうな不穏な気配。鉛筆画をデジタル処理でぼかしたような高浜の線には、クールな距離感をもってその危うさが描かれている。
(『凪渡り』 九龍コミックス)
■近藤聡乃
マンガ家である「A子」の周辺の、こんがらがったアラサーの恋愛模様が描かれている。このストーリーを、筆ペンのような線でサラリと描く、ギャップがとてもいい。このタッチによって、コミカルとシリアスの調和がもたらされているように感じる。キャラクターの顔を見るとわかるが、近藤は線と線をつなげない。その余白がおおらかで、行間を読ませるタイプの作風である。
(『A子さんの恋人』BEAM COMIX→HARTA COMIX)
マンガ読みはみんな、「このマンガの線が好き」とか「この線はなんか自分には合わない」だとかいうことを無意識に感じていることと思うが、あらためて自分の好きなマンガの描線を見直すことで、これまでにない発見があるかもしれない。今回紹介した4作品のなかに、琴線に触れるものがあればぜひ読んでみてほしい。
write by 鰯崎 友
※本コラム中の図版は著作権法第三十二条第一項によって認められた範囲での引用である。