花の記憶は旅の記憶
母の日を過ぎると、花はまたグッと季節が巡る。
スモークツリー 、アリウム、クレマチス、オーニソガラム、アンスリウム、アスター、プロテア、エキナセア、セルリア、ケイトウ、アガパンサス、グレビレアetc
この季節の花は春とはひと味違って、パワフルで毒っけがあり、どこか官能的なので個人的にとても好きだ。
これからの季節はおそらく全花屋が好きであろう枝物
"スモークツリー"
は欠かせない存在だ。
過去の写真を見返すと、毎年この季節に担当した装花にはだいたいスモークツリーとシュベルティが入っていた。
無意識のうちに、打ち合わせでゴリ押ししていたのだろう。
わたしは、旅で訪れた街で見かけた植物や花の記憶が、旅の記憶に直結している。
赤いスモークツリーはニューヨーク。
白樺の木とライラックは札幌。
レースフラワーは網走。(これは網走を旅行中に「今週使用予定のレースフラワー入りません〜」と連絡を受けたのだが、網走の路肩には大量にレースフラワーが自生していてパラレルワールドに居るような気持ちになった)
ひまわり、エキナセア、鬼百合は知床。
蓮、アガパンサスは直島。
などなど。
初夏の季節に訪れたニューヨークは美しい新緑が、都市部に溢れていた。
日本と比べると格段に街に緑が多かったし、どんなお店にも緑や花が必ずと言っていいほど飾ってあった。
カフェ、パン屋、デリ、レコード屋、本屋、靴屋、アパレルショップ、ホテル、もちろん美術館にも。
宿泊したホテルでは、エントランスで花が購入できるようになっていたのだ。
なんとも粋な計らいである。まるで映画の主人公になったような気分にしてくれるのがニューヨークだ。(映画の見過ぎ)
人混みが大の苦手なわたしでも、何度も訪れたい街だと思えたのはそういった理由も大きいような気がした。
中でも印象に残っているのは、やはりハイラインで見た満開のスモークツリーだ。
ハイラインは、ランドスケープデザイナーのピート・オウドルフがデザインを手がけたことでも有名なので興味のある人も多いだろう。
廃線とニューヨークに自生する野草、樹木の生命力のコントラストがとても不思議な空間だった。
周りはとても静かで木々が揺れる音や野鳥もたくさんいて、ニューヨークという街が持つエネルギーに完全に飲まれていた旅の終盤のわたしにとって、静かなハイラインは心を平穏にしてくれる場所だった。
木陰で休む人や、日光浴しながら読書をする人、絵を描いてる人、それぞれのたのしみ方をしていて素敵だった。
ニューヨークはセントラルパークという大きな存在もそうだが、生活している人の側に花や植物がごく当たり前に存在しているような気がした。
特別なものでもなんでもない。
また訪れたいなぁニューヨーク。
話が飛んでしまったが、これからの季節おすすめのスモークツリー。
少しずつ市場にも出回り始めたが、たぶん今年も一瞬で終わってしまう。
本当に一瞬だ。数日後の市場にはなかったりする。(これは花屋あるある)
毎年その儚い一瞬を花屋は求めて手にするのだ。
ハイラインで見た赤のスモークツリーに憧れ、我が家の庭にも植えているのだが、なかなか花芽が付かず、今年は拝めなさそうだ。ハイラインへの道のりは遠い…。
今年の夏は、どこを訪れよう。どんな花や植物に出会えるだろう。
旅の植物図鑑なんか作ったらたのしそうだな、なんてことをひとりで考えたりしている。