自虐"ZIGYAKU"氏インタビュー Part.2 -Half Years編-
前回のインタビューPart.1(GUDON編)からだいぶ経ってしまったが、今回Part.2では自虐氏がGUDON脱退後に半年間限定の活動というコンセプトで結成したHALF YEARSと、その解散後上京し結成したBASTARDについての話を伺った。
(当初の予想を大幅に上回るボリュームとなったため、Part.2はHALF YEARS編とBASTARD編を分けての公開となる。)
このインタビューが終盤に差し掛かった3月下旬頃、絶妙なタイミングでBREAK THE RECORDSからHALF YEARSのディスコグラフィーがリリースされるという吉報が入り、そのリリースに合わせてインタビューを公開する運びとなった。
極短期間な活動故に情報が少なく、シーンに於けるミッシングリンク的な存在でもあったHALF YEARS。
GUDONからBASTARDへと至るこの過渡期に、自虐氏のプレイスタイルやサウンドが変化していったのも興味深く、その辺りの話題や数々の逸話も散りばめながらとなったこのインタビューが、解散から34年を経て再び解き放たれる音源と共に、彼らの全容を詳らかにする一助になればと思う。
既にCDを手にした方も多いと思うが、今回発売されたディスコグラフィーのライナーノーツでは、自虐氏とMOTSU氏それぞれが、自らの言葉でHALF YEARSを振り返っており、必読の内容となっている。
(ディスコグラフィーの音源はbandcampでも試聴・購入可能)
自らに宣告した”余命半年”を生き急ぎ、全うしたミステリアスなバンドの輪郭がより鮮明となる。
Takeshi
- 1987年のGUDON脱退後、すぐに結成したHALF YEARSの”文字通り半年だけ活動する”というコンセプトについては、前回Part.1の最後で触れていましたが、翌年1988年にリリースされた『POWER!』(7 EP)の6曲を皮切りに、『V.A./HANG THE SUCKER Vol.1』(7 EP)、1989年の『V.A./HANG THE SUCKER Vol.2』(LP)収録曲も合わせると短期間に12曲を作曲しリリースするというスピードも凄まじいです。そのモチベーションは何から生まれましたか?
自虐(ZIGYAKU、以下 Z) : HALF YEARSは、やっぱり半年しかやらないっていう縛りがあったから、その間に出来ることは全部やりたいというのが、モチベーションだったかと。
もし、「あなたの寿命はあと半年です」って言われたら、多分メチャメチャ生き急ぐじゃないですか?
そんな感じでした。
あとは、MOTSU(ex.CHICKEN BOWELS、ex.GUDON、ex.RISE FROM THE DEAD。現在はゑでぃまぁこん等でペダルスチールギター奏者として活動)も曲作りをする人だったから話が早かったというか、アレンジとかもサクサク決まってたし。
MOTSUとは、それ以前にもGERMICIDEっていうセッションバンドで一緒に曲を作ったりしてて、意思の疎通は出来てたんで。
- HALF YEARSは曲に緩慢なところがなく、凝縮と瞬発が矢継ぎ早に繰り返される感じが凄いです。
スタジオなどでお互いギターを弾きながら曲を詰めていったんですか?
Z : 大体はウチで酒を飲みながら2人でギター持って、ですね。
持ちよった曲を教え合って、同時にアレンジもして、はいできた、みたいな。
- GERMICIDEは1986年に加害妄想からカセットでリリースされた『V.A. / SOLD OUT』に収録されていますけど、長年謎の存在でした。
自虐さんとMOTSU氏が演ってたんですね。HALF YEARSと同じ担当パート・編成だったんですか?
Z : GERMICIDEは、俺がヴォーカルで、ギターがMOTSU、ベースは2人でそれぞれ1曲ずつ、ドラムはドラムマシーンという構成でした。
要は2人ぼっちです(笑)。
録音も全部家でやったんで、布団被って唄ったり。
(注:今回、ディスコグラフィー初回盤にのみ、GERMICIDEの上記音源がボーナスディスクとしてプラスされている)
- ヴォーカルの”BIRD”は自虐さんだったんですね!音質がRAWなせいもあってドラムマシーンに聴こえないですが、MTRで宅録したんですか?
Z : そうです。
4トラックでピンポンで。
“BIRD”って、MOTSUが付けたんですよ。鳥に似てるからって。
- バンド名はGERMSのアルバムからですか?
Z : バンド名は、意味は知らなかったけどパッと単語が頭に浮かんだのでそれにしました。
GERMSは、聴いたことないです。
- そうなんですか。自分はGERMS好きなのでそこから連想してしまいました。
HALF YEARSではギターの音色が厚みを増し、ザクザクとした刻み、ピッキングハーモニクスやアーミングを多用した曲もあります。元々ハードロックやヘヴィメタルはあまり聴いていなかったとのことですが、こういったギタープレイはメタルのフィルターを通過したハードコア、当時所謂”クロスオーヴァー”と呼ばれていたバンドなどからの影響からですか?
Z : どこまでをクロスオーヴァーと言うのか分からないけど、当時クロスオーヴァーと言われてた代表的なバンドがいくつかあったと思いますが、そのあたりはあんまり興味なかったです。
正直、退屈でした。
- ではスラッシュメタルなんかも全然興味がなかったんですか?
Z : スラッシュメタルは、2~3曲好きな曲もあったけど、基本聴かなかったです。
メタルコアは好きだったけど、クロスオーヴァーやスラッシュメタルとは似て非なるものに感じてたので、どちらかというとメタルコアの影響かな?
ギターの刻みは、言われてみれば確かに、この頃から多用するようになってますね。
刻むと音数が増えて、スピード感が増すから今でも好きなんですけど、刻みっぱなしだと単調になってしまって聴いてて飽きちゃうから、メリハリ付けて刻むようにはしてました。
- 確かに、どこまでをクロスオーヴァーで括るのかは人によって解釈が区々ですよね。
友人ともその辺の話をすると同意しあったり、言い合いになったりで。
“クロスオーヴァー”というジャンルの呼び方も、ここ最近は新世代による再評価の動きもありますけど、ハードコアとメタルの境界が混沌・曖昧化してきたあの時代の雰囲気を象徴している気がします。
自虐さんが影響を受けたメタルコアとは?
Z : えーと、ざっくりと”自分がメタルコアだと思ったバンド”全般です。
メタルコアというジャンル分けも、バンド側はそうは思ってないかもしれないし、そう呼ばれることを好まないかもしれないので、バンド名は挙げないでおきます。
- なるほど。確かにクロスオーヴァー同様、聴き手の文脈に左右されますね。メタルコアというジャンル、サウンドの定義も80~90年代と2000年代では全く異なりますし。
インタビューPart.1で“HALF YEARSでは、GUDONと真逆のストレートな音をやる”と言っていましたが、
改めて聴いてみると、豪速球ストレートな中にも所々に”自虐節”とも言える手数の多い独特なリフ回しがねじ込まれていて聴きどころ満載です。GUDON時代と違って、ギター(リフ)の唄い方が笑っているように聴こえましたが、良い意味でのパーティー・バンド感、例えばアメリカのADRENALIN O.D.的な吹っ切れ具合というか”Have Fun”な雰囲気が音像にも現れていると思いました。
Z : ギターの唄い方が笑ってる!?(笑)
あー、言われてみると確かにそうかも。
とにかく、楽しかったんですよね。
パーティーバンド、”Have Fun”って言葉も初めて言われたけど、なんかしっくり来ます。
- 髪をかき上げる女性をフィーチャーした『POWER!』のジャケットは当時非常にインパクトがありました。それまでハードコアバンドのレコードでこういった意匠を見たことがなかったので。
インタビューPart.1で、”元来、性格がひねくれ者なので、まわりと違った方向に舵を取りたがる癖がある”と言っていましたが、『POWER!』のアートワークにもそうした軽妙洒脱な”外しの美学”みたいなものを感じます。
曲タイトルもシンプルな単語で統一したり、従来のステレオタイプな方法論と一線を画するようなコンセプト/デザインは自虐さんの考案ですか?
Z : そうですね。
どうすれば面白いことができるかは、常に考えてました。
あのジャケットは、今でも気に入ってます。
パッと見、ハードコアパンクのレコードに見えないから、女性アーティストのレコードと間違えてジャケ買いして、あの音が流れてきたらどんな気持ちなんだろ?とか、想像すると楽しかったです(笑)。
シングルの曲名を単語ひとつに統一したのもそうですけど、なんというか、ゴテゴテしたものを一度全部脱ぎ捨てたかったのかもしれないですね。
- 当時、事前情報なくレコード屋の”PUNK / インディーコーナー”で見かけたときは「お、女性ヴォーカルのパンクバンドかな?」って、まんまと騙されました(笑)。裏ジャケ見たら自虐さんの写真とクレジットあったんで買いましたけど。
デザインは自分で?
Z : そうですけど、当時はPCも持ってなかったし版下作りの知識もなかったので、プレス会社に素材送って字体や色や配置を指定して、版下を作ってもらってました。
それだけで、バカ高いデザイン料取られてましたけど。
- 今はホント便利になりましたね。当時は写真コピーしてコラージュして、文字は一生懸命手書きしたり…。では、加害妄想リリースの作品も、ほぼデザインに関わってたんですか?
Z : いや、単独作はバンド側の指定を、そのままプレス会社に伝えて版下作成してもらってました。
- 先日(2021年1月11日)Borisは広島でライブを演ったのですが、その際『POWER!』のジャケ写ご本人にお会いしたんです。あの髪をかきあげるポーズは自虐さんからのリクエストで、あるホラー映画の一場面から影響されて、とお聞きしました。それは何という映画からだったんですか?
Z : えっちゃんに会ったんですね。
えーと、その話全く覚えてなかったので、えっちゃんに聞いてみました。
どの映画とかではなく、「ホラー映画のイメージで、髪をかき上げて恐怖で引きつった顔をしてくれ」って、俺に言われたみたいです。
それでうっすら思い出したけど、当時のホラー映画って女性のそういう表情で、いかにその映画が怖いかを伝えて興味を惹いてたところがあって、ポスターとかチラシとか、宣材もそういうのが多かったと思うんですよね。
ホラー映画好きだったんで、なんかそんなことがやりたかったんだと思います。
- なるほど、謎が解けました。言われてみるとレコードのレーベル面の写真もそんな雰囲気でした。
インタビューPart.1で映画に関する話がたくさん出てきましたが、やはり自虐さんにとって映画の影響は大きいんですね。
Z : 映画は良いですよね。
一人で、ピーナツ食いながら映画館で観るのが最高です。
ところで、広島のライブはどうでしたか?
Borisは、久々のライブだったんですよね?
- 東京で緊急事態宣言が出たタイミングだったんですが、公演直前まで主催のGUYさんや会場側と調整を重ね、
万全の対策をとりつつ、ギリギリのところでなんとか行うことができました。
11ヶ月ぶりにお客さんの前で演奏しましたが、こんな厳しい状況だからこそ「もっとライブ演りたい」という気持ちがより強くなりましたね。やっぱり音楽って不要・不急なものじゃないんです。
人と人とのつながりや縁というものの大切さに改めて気付かされましたし、『FUNDAMENTAL ERROR』のカヴァーではGUYさんにベース弾いていただいて感無量でした。楽しかったです。
Z : やっぱり、色々大変だったんですね。
音楽を含めた多くの文化や芸術が、今真っ先に”必要のないもの”みたいな烙印を押されようとしてるけど、それがないと上手く生きていけない人や、それを糧に窮状を乗り越えようとしてる人も沢山いると思うんですよ。
なので個人的には、現状に即した方法は考慮しながらも、何かを発信していくことは大切だと思います。
俺自身、今回のインタビューを受けたのもそういう気持ちがあったし、他にも、久しぶりに曲や歌詞書いたりしてます。
- 自分自身の限界で、もうどうやっても実現・実行不可能というのは、悔しいけどまだ諦めはつくんですけど、外的要因でそれは出来ませんと安易に決めつけられて、はいそうですかって簡単に諦めるってことは容認できないです。
だから今みんな必死に音楽文化を守り、継承していこうとしている。
しばらく音楽活動から離れていた自虐さんが、この時期、この状況の中で新しく曲や歌詞を書き始めている、というのはとても心強いです。機会があれば、一緒に新しい音楽を作れたらいいですね。
Z : そうですね、そういう機会があればいいですね。
ちなみに、書いたのは知り合いのバンド用なんですけど、その曲のレコーディング直前にどんどんメンバーが辞めてしまったらしく、今暗礁に乗り上げちゃってて。
呪いの曲みたいになってしまいました(笑)。
日の目を見れるのかどうか…。
まあ、他にも何か面白い事できたらなと色々考えてるとこです。
- 『POWER!』のリリース当時、これは自分の友人界隈だけでの話だったかもしれませんが、ジャケットの女性の左髪に男の霊が写っているという噂(実際は髪の毛の隙間部分の形が、たまたま顔のように見える??)があったのですが、聞いたことはありますか?(笑)
Z : よく気づきましたね。
あのシングルを出してすぐに、新宿アンチノックでライブをやったんだけど、その時会場にいた知り合いにサンプルでレコードを配ったんですよ。
その中にGHOULのMASAMIさん(1980~90年代の東京ハードコアパンクシーンを牽引した伝説のハードコアパンクス)もいて。
で、MASAMIさんが革ジャンの内側にレコードを挟んで持ってたら、お知り合いの霊感の強い女性に「なんか持ってない?」「すごく霊的なものを感じる」って言われたらしくて。
「ん?これかなぁ?」って、革ジャンからレコードを出したら「それっ!」って言われて、見せた瞬間にその部分を指差して「ここっ!」て言われたって後から聞きました。
俺ら、そんなこと全然気づいてなかったんだけど、言われてみれば確かにそう見えるかも。
ホントにホラーになっちゃいましたね(笑)。
- うわー、鳥肌立ちました!当時「これ、そう見えるだけじゃねえの?」って友達と話してたんですけど、実際に「見えた」方がいたんですね。霊とかの類はあんまり信じない性なんですが、これはさすがに…。
しかし、悪夢にうなされたり金縛りにあった覚えはないので悪いモノではなさそうですが。
Z : なんもないでしょう。ジャケの本人も、ピンピンしてますから(笑)。
- ということはHALF YEARSは東京でもライブをやった事があったんですね。そのあたりの情報は当時知らなかったです。活動していた半年間で、何本くらいライブをやったんですか?
Z : えーと遠征は東京と名古屋と大阪と島根?だけだったかな?ライブは全部で10本くらいかと。
- 思っていた以上にライブやってたんですね。期間と地域限定のプロジェクトバンド的な印象だったので。
ところでメキシコのHAIBOKUという、ハードコアバンドは知っていますか?
Z : ちょっと前に、シン(GUY氏。ex.GUDON)から教えてもらいました。
あのジャケのパロディやってるんですよね?
”敗北”って名前もそうだけど、リスペクトを感じるので嬉しいですよ。
それだけ印象に残るジャケだったということでしょうから、良かったです。
- 音もジャパニーズハードコアからというより、広島ハードコアから”だけ”に影響を受けている感じが面白かったです。ヴォーカルの声質や歌い方もHAPPYさん(ex.GUDON、ヴォーカリスト)に似てて、GUYさんも同じようなことを言ってました。
Z : へぇ、それはちょっと聴いてみたいですね。
- 『V.A./HANG THE SUCKER Vol.1』は広島 x 静岡という組み合わせですが、当時静岡HCシーンとの交流は深かったのですか?
Z : 静岡は、結構思い出深い場所なんですよ。
愚鈍(GUDON)で初めて東京にライブをやりに来たときに、HAPPYさんの地元の後輩のイチロウ君がGAUZEでドラムを叩いていた縁で、ベースのシンさんの家に泊めてもらって、そのままGAUZEの名古屋&静岡ツアーに同行させてもらえることになって、演奏もさせてもらったんです。
その時、初めて静岡に行ったんですけど、狭いライブハウスにおびただしい数のモヒカンが溢れてて、2階の手すりとかにもぶら下がって暴れてて。
おー!静岡すげー!
ってワクワクしました。
で、その頃からSO WHATやDEADLESS MUSSのメンバーも知っていたので、広島と静岡でオムニバスEP作ってみない?って、持ちかけて実現しました。
あのEPは、お互い大都市ではないけれど、ハードコアパンク熱の高い地方同士の共作として意味があったし、出せてよかったと思ってます。
- 当時は『~CITY HARDCORE』のような都市ごとのコンピが多くリリースされていて、地方のシーンを知る良き手段でした。その中にあって『V.A./HANG THE SUCKER Vol.1』のような都市 x 都市というコンセプトは新鮮でしたね。地方のシーン同士が呼応している感じというか。
自分、静岡出身なんですよ。高校生のときに浜松のホットレッグスってライブハウスにGAUZEが来るというのを、知り合いから聞いた記憶があって。
そのライブは何か理由があって観にいけなかったんですけど、多分そのときに愚鈍(GUDON)が来てたはずです。行っておけばよかったなあ。
静岡はあの当時から本当にモヒカン王国でした。ライブ会場の風景はもう異世界でしたね、みんなビシッと髪を立てて。
DEADLESS MUSSといえば、その解散ライブに友達と一緒にやってたバンドで出させてもらったんですよ。
一応EVIL DEADっていうバンド名だったんですけど、まあコピーバンドで多分誰も覚えていないはず(笑)
先輩方から「お前ら、なんか演ってんだろ?いいよ、出ろよ」みたいな流れだったと記憶してるんですけど。
ちなみにそのときのヴォーカルはのちにHELL DRIVER、当時のドラムはH.K.でベース弾いてます。もう遠い昔です…。
えーと、インタビューに戻ります(笑)
その後も静岡シーンとの交流はありましたか?
Z : あ、静岡出身なんですか?
それは、ハードコアパンク的に素晴らしい街で育ちましたね。
その後も、緊密には連絡を取り合ってなかったけど、ライブハウスで会ったりしてたんで。
そういえば、数年前にアースダムでDEADLESS MUSSのHINOMARUと久々に会いました。
元気そうで嬉しかったです。
実は、加害妄想レコードからSO WHATのアルバムを出す予定もあったんですよ。
レコーディングも終わってたのに、レーベルの資金が回らなくなって頓挫してしまって、ホントに申し訳なかったし、出したかったです。
あとは、ZONEとか8000とか、少し後の世代とは、ずっと交流ありました。
- 良好な関係を育まれていたんですね。しかし、レーベル運営は色々と大変だったんですね。SO WHATのそのアルバムは聴きたかったなあ…。
ところで『V.A./HANG THE SUCKER Vol.1』収録の『MEAT』の歌詞なんですけど、インサートには”食え食えもっと食っちゃえ!焼肉にゃビールが一番じゃ!”ってあるんですが、これ絶対その通りに歌ってないですよね(笑)。
Z : 歌ってないですね(笑)。
そもそもHALF YEARSに歌詞なんてほとんどなかったんじゃないかな?
サビだけ決めて、あとはノリで~って感じだったので。
歌詞も、酒飲みながら「どおしようかあ?」「"MURDERまだまだまだ殺す"でよおない?」とか、そんな決め方してて、歌詞がない部分は、あとから適当に考えてインナーに載せたり。
焼き肉の歌詞も、その頃ウチの近所に安くて旨い網焼きホルモンの店があって、よく皆で食ってたんですよ。
で、MOTSUって名前も、CHICKEN BOWELSが『ニワトリの臓物』って意味だからと、モツって俺が名付けてたりして。
なんか、そんなこんなで「焼き肉の歌詞でいいんじゃね?」てなったような覚えがあります。
- 同じく収録のDEADLESS MUSSも『OE~, OE~』とかファニーなノリの曲を演ってましたけど、そういったノリもお互い呼応しあってたんですか?
Z : 呼応し合ったわけではないけど、もしかしたらノリは近かったのかもしれないですね。
- 歌詞のエピソード、イイですね。楽しんでいた感じが伝わります。MOTSU氏の名付け親というのも初耳です。
HALF YEARSは楽しげなんですけど、決してふざけてるのではなく自虐さんなりの”ハードコア”を貫いていると思うんですが、半年間この姿勢だけは絶対崩さないという縛りや拘りはありましたか?
Z : 少しでも今より前に進むために、あがいてもがくこと。
ですかね。
カナヅチの自覚があるんで、そうしないと溺れちゃうから。
- 『V.A./HANG THE SUCKER Vol.2』には『MISSING MY MIND』という、後のBASTARDの楽曲『SHIKABANE』(『V.A./TRIPLE CROSS COUNTER TOUR』 7" EP収録) を想起させるようなリフのインスト曲が収録されています。
また『V.A./HANG THE SUCKER Vol.1』収録曲のタイトルが『BASTARD』ですが、この2曲はリンクしていて、これらからBASTARDに向けての明確なコンセプトが出来上がっていたのですか?
Z : それはなかったです。
確かに、BASTARDというバンド名はあの曲名から付けたけど、ちょっとした小ネタ的な、お遊びの感覚でした。深い意味はありません。
- なるほど。GEARMICIDEのくだりもそうなんですけど、性分なのかつい関連付けて深読みしてしまうんですよ。
Z : 推理や想像をするのは、楽しいですからね。
- 『MISSING MY MIND』はそれまでの速い曲調から、ミッドテンポの”重さ”にフォーカスした曲調に変わっています。
HALF YEARSの活動が終焉に差し掛かってきた時期だと思いますが、やはり心境の変化など影響しているのですか?
Z : 言われてみれば、あのテンポの曲を作ったのは、あれが初めてかも。
それまで、いわゆる『スピード』に固執してたのが『スピード感』っていうものを意識するようになったのかと。
-『スピード』じゃなくて『スピード感』、分かります。BPMで言ったらスラッシュメタルとかグラインドコアのほうが速いんだけど、そういう楽譜・数値的な速さじゃなくて、ノリや音の塊感が前のめりで突っ走っていく速さというか。
自分はモータースポーツの中継とか見るの好きなんですけど、F1のほうがスマートで絶対速度は上だけど、無茶苦茶な走りをしているラリーカーのオンボードカメラの映像のほうが速く感じるという、あれに近いかなと思ってます。あ、例えが分かりにくかったらすいません(笑)。
Z : いや、わかりますよ。
最近のスピーディーなルチャより、初代タイガーマスクの試合運びのスピード感みたいなことですよね?
もっと分かりにくいか(笑)。
- プロレス!分かります。その「速さ」に到達するまでの過程や情報量の多さ=「無駄」とされる部分、物語が大事だと思うんですよ。効率とか絶対値じゃなくて。
ところで『MISSING MY MIND (INSTRUMENTAL VERSION)』とクレジットされていますが、ヴォーカルが入っているバージョンも存在するんですか?
Z : あります。
というか、それが本来の姿だったんですよ。
- なんと!!
Z : 当時、もうレコーディングは終わってたんだけど、あれこれゴタゴタしてるうちに上京の時期と重なっちゃて、どうしてもミックスダウンに立ち会えなくなってMOTSUにミックスを任せたんですよ。
俺の希望だけは伝えておいたんだけど、何をどう聞き間違えたのか仕上がった音源を聴いたらインストになってた。
「いや、ヴォーカルあったほうがいいだろ?」と言ったんだけど、もうマスターは消しちゃったって言うから「まあ、まさに"MISSING"ってことで、これでいいか」ってなりました。
結果、インストで好評でしたけど(笑)。
- インストのままで十分素晴らしい曲なんですが、元々ヴォーカルがあったと知ると、それはそれで聴いてみたかったです。
他に未発表の曲はあったりするんですか?
Z : 未発表の曲は、なかったかな。
でも、俺が上京したあとも、MOTSUか少しの間だけライブやってたみたいだから、その時作ったりしてたかも?
ちょっと分かんないです。
こうして色々振り返ると、HALF YEARSは、良くも悪くもアバウトがコンセプトだったのかなって思います。
いい加減が、良い加減になってたんでしょうね。
- やはり半年間という限られた期間が常に頭にあって、それが功を奏したんですかね?
Z : きっと、そうでしょう。
期間限定バンド、オススメです(笑)。
他にも、暑いのが嫌いだから、冬しかやらないTHE WINTERSってバンドを思いついて、ちょっとメンバー探したこともあったんですよ。
でも、よくよく考えたら寒いのも嫌いだからやめました。
わはは(笑)。
- THE WINTERS、いいですね。是非やってくださいよ。
しかし”WINTER”でまたAMEBIXなんかを連想してしまいました。
Z : いえいえ。想像は自由ですから。
ただ残念ながらそれもハズレです(笑)。
ーあとがきー
前回Part.1同様、自分にとって重要な「音楽の秘密」が徐々に解きほぐされていく過程はとても刺激的であった。
HALF YEARSについて知り得ない部分はまだまだあると思うが、インタビュー中に自虐氏が返した「推理や想像をするのは楽しいからね」という言葉通り、謎は謎のままで良く、音源を聴いて自由に試みた分析や解釈が、リスナーそれぞれの豊かな音楽体験、読み取った物語になればと思う。
次回、Part.2 BASTARD編もお楽しみに。
※本インタビューにあたりご協力下さったMOTSU氏、Keyさん、安藤氏(BREAK THE RECORDS)、GUY氏(BLOOD SUCKER RECORDS、ex.GUDON)、えつこさん、そして時に胸襟も開きつつ真摯に回答して下さった自虐氏に深く感謝致します。
なお、文中の人名表記などは、注釈を含め自虐氏による当時の呼び名、回答表記のままとさせていただいた。