【IW100/2024②プリモピアット】奈良の「発酵の可能性」を体験する3品のイタリア料理
2024年11月の1ヶ月間、全国100店のイタリアンレストランで同時開催される「ITALIAN WEEK 100」(IW100)
開催2回目となる今年の全店舗共通テーマは「発酵の可能性」
リストランテ ボルゴ・コニシの「奈良の発酵の可能性」二品目は、イタリア料理に欠かせないパスタ料理です。
その昔、大切な客人を迎える際、その準備のため馬を走らせて方々へ出向き物品を調達していたことを語源とする「馳走」
敢えて自分で発酵を手掛けず、料理人の立ち位置に戻りプロフェッショナルの発酵を集めました。
伝統を料理に昇華させふるまうことで伝え広める、それも現代の料理人の仕事だと思います。
個性あふれる各地の様々な蔵の中から4つの蔵を選び「木桶醸造調味料」を一皿のリゾットに仕上げました。
日本の伝統調味料の新たな一面を体験してください。
プリモピアット「木桶醸造醤油のリゾット」
発酵が国境を越える
実際は「木桶醸造調味料」が正しいのですがわかり易く「木桶醸造醤油」としています。
木桶で造る古式醸造醤油により「醤油とイタリア料理の相性は良くない」という固定観念を私自身が完全に覆されました。
使用した「木桶醸造調味料」は2種の醤油、白醬油、酢の4種です。
香川県 ヤマロク醤油「鶴醤」(つるびしお)
奈良県 イゲタ醤油井上本店「木桶仕込み醤油 木まじめ」
愛知県 日東醸造「足助仕込三河しろたまり」
和歌山県 丸正酢醸造元「木桶こもかぶり仕込 那智黒米寿」
通常の醤油では成り立たなかったリゾットが、なぜ木桶醸造ならイタリア料理として成立したのでしょうか。
奈良時代の宮中料理に出されていたと記録のある調味料の内のひとつ「醤 ひしお」は今の醤油と味噌に近いものでした。
科学が未発達だった時代から人は、自然の力を借りながら互いに学び英知を育み後世へと伝えてきました。
木桶の中で微生物がゆっくりと大豆を醤油に変えていくさまを、先人の教えを胸に見守る蔵人たち。多様性に富んだ微生物による発酵が生み出すしなやかな順応性が、大きな懐となって他文化を受け入れるのではと感じました。
木桶醸造調味料はいとも簡単にイタリア料理として成立してしまった、軽々と国境を越えたのです。
木桶醸造調味料をリゾットとして受け止める奈良のお米「ハツシモ」
米は奈良県橿原市やまむら農園の「ハツシモ」7分づきを使います。
※新米はリゾットに向かないため玄米のまま1年寝かせます。
2024年度は、2023年に収穫した米を使用いたします。
岐阜県が主な産地で県外では珍しいため”幻の米”と言われており、収穫も10月とかなり遅く初霜が名前の由来になっています。
品種特性は「しっかりとした歯ごたえがある。味はあっさりしており、あまり粘らない。吸水が少なく、型くずれしにくい」
全くその通りで、見た目も味わいも食感もリゾットに最適で感激しました。
奈良の山村さんが作るハツシモは、しっかりとした食感と旨み、やさしい甘みがじわっと染み出す包容力のある味わいです。
木桶醸造調味料の共演
4種の木桶醸造調味料の役割は実に明確です。
それぞれがはっきりとした個性を持っているからです。
愛知県 日東醸造「足助仕込三河しろたまり」
リゾットを炊く際のブロードの代わりとして使います。
味の根幹を決める最も大切な要素です。
小麦を木桶醸造することで得られる、優しい味わいと旨みがリゾットに馴染みが良くバターやチーズとも自然に溶け合います。
「しろたまり」は小麦醸造調味料で白醤油の一種です。大豆を使用していないため法律上は醤油と表記できません。
日東醸造では小麦麹を2倍使用することで白醤油を濃厚に仕上げているため「しろたまり」と名付けられました。
和歌山県 丸正酢醸造元「木桶こもかぶり仕込 那智黒米寿」
リゾットが炊き上がる頃、仕上げに加え味を整えます。
この木桶こもかぶり仕込みの黒酢は、まるでフルーツビネガーのように香り高く洗練された美しい酸が特徴です。
木桶長期熟成による微生物がゆっくり作った華やかな酸味は、リゾットのチーズやバターの油脂分を爽やかに優しく緩和します。
「木桶こもかぶり仕込 那智黒米寿」は、和歌山県産もち米の玄米・米麹・那智山系伏流水のみで、長期木桶熟成させた古式醸造黒酢です。酢酸発酵後は90日以上の熟成を経て出荷されます。できた黒酢の一部を残し代々味を継いでいく伝統製法を続けています。
もち米の玄米と米麴が、蔵で代々使われてきた木桶に棲む酢酸菌により、こんなにも華やかにしなやかに美しいお酢になる、神秘的な発酵の世界に魅せられます。
香川県 ヤマロク醤油「鶴醤」(つるびしお)
木桶醸造調味料の新たな魅力を表現したリゾットに「復活」の願いを込めて、温度卵の黄身を添えました。
食感のアクセントとして散らすパン粉に絡めたのが「鶴醤」
おおらかで深みのある旨みとまろやかなコクが全体をまとめる、「木桶醸造醬油のリゾット」の総括の役割です。
「再仕込み製法」を用いて造るこの醤油は、1~2年熟成させた生醤油をもう一度桶に戻し、仕込塩水の代わりに醤油の中へ大豆と小麦を加え、もう2~3年仕込む二度仕込み。倍の原料と歳月を加え自然の力でゆっくり育てる、そして塩の代わりにかどのとれた生醤油の塩分を利用することで、これまでにない深いコクと香り、まろやかさを引き出した格別な醤油です。
奈良県 イゲタ醤油井上本店「木桶仕込み醤油 木まじめ」
香り立ち昇る最後の仕上げのバターソースに奈良の木桶醸造醤油「木まじめ」
全国様々な木桶醸造醤油を試した中でも群を抜いて香りが素晴らしく、味わいは優しく可憐で伸びやかです。
6代目の当代がそれまで長年使用していた開放型コンクリート槽の入れ替え時ふと立ち止まり、自分たちが作る醤油の将来を考えた末、新たな挑戦として木桶2本から始まりました。
原料を厳選し蔵付きの微生物にとって良い環境を整え見守り待つ。
「“本物の醤油”をつくるため、蔵に住み着く微生物たちの邪魔をしないよう人がサポートし、長期間熟成、天然醸造にこだわって丁寧な醤油づくりを心がけてきました」
長年培ってきた確かな技術は木桶によって、より華やかな「木まじめ」誕生につながりました。
4種の木桶醸造調味料を主役とした理由
奈良から「木桶醸造調味料」を広くお伝えしたい、それは木桶の原料のほとんどが奈良の吉野杉だからです。節のない美しい柾目の吉野杉は木桶に欠かせない木材です。
リゾットに使用した木桶醸造調味料の共通点は「木桶職人復活プロジェクト」に参加している蔵です。
この活動は、イゲタ醤油井上本店の吉川代表に教えていただいて知りました。
その中からなぜこの4種なのか?
冒頭画像の小瓶をはじめ、できるだけ沢山の木桶醸造醤油をテイスティングして選びました。
2012年「木桶職人復活プロジェクト」の発起人である、香川県ヤマロク醤油五代目 山本康夫さんの「鶴醤」は絶対に外せません。
ストーリーだけではなく味わいにおいても別格の貫禄と包容力でした。
群を抜いて華やかな香りが際立っていたのは、奈良県イゲタ醤油井上本店「木桶仕込み醤油 木まじめ」
貴婦人のようなエレガントながら筋の通った美しい香りと味わいは、どんと構えた頼りがいのある鶴醤に対し可憐で、素晴らしい相性でした。
プロジェクト参加蔵の中でも唯一無二の存在、愛知県日東醸造「足助仕込三河しろたまり」
この一本で複雑なブロードの役割を果たしてくれる上お米が染まらない料理人の助っ人。
まるで上質なワインのように繊細で美しい余韻が長く続く、他の食材と一緒になったとき更にその真価が現れます。
そして醤油でも大変な木桶醸造を古式に従い酢醸造で行う、和歌山県丸正酢醸造元「木桶こもかぶり仕込 那智黒米寿」
こちらも唯一無二の存在。
フルーツビネガーのような華やかさとまろやかな酸味は、米酢の概念を完全に覆しました。
この4つの代表木桶醸造調味料の共演により、吉野杉の植林から始まり木を育て、木桶職人が木桶を造り、蔵人と微生物による醸造までの先人が森から得た英知の結晶「伝統文化ネットワーク」の大切さを表しました。
このネットワークは何か一つ欠けると逆に文化消滅の連鎖に繋がります。
伝承するのか消滅させるのか、私たち消費者の日々の小さな選択にゆだねられています。
かつて杉の木桶で醸造することが当たり前だった醤油やお酢。
「木桶仕込み醤油」は古来製法で江戸時代まで当たり前に行われてきましたが現在、特に醤油業界において全体の1%以下に減少しています。
木桶醸造調味料の新たな魅力を「木桶醸造醬油のリゾット」で体験してみてください。
木桶の中で起こる蔵付き微生物と人と時間の共同制作は、いとも簡単に国境を越えることを「木桶醸造醤油リゾット」は教えてくれます。
「世界は海でつながっている」と考えられていた古代シルクロードの時代と、150年の耐久性を誇る木桶のために吉野杉を植え育てた先人に想いを馳せてみてください。
お住まいの地域の木桶醸造調味料を是非食卓に。
監修 山嵜正樹
文 山嵜愛子
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IW100「発酵の可能性」関連記事
https://note.com/borgokonishi/n/n8af41e2d3943
より詳しい各社HPをご覧ください
「木桶職人復活プロジェクト」
香川県 ヤマロク醤油「鶴醤」(つるびしお)
奈良県 イゲタ醤油井上本店「木桶仕込み醤油 木まじめ」
愛知県 日東醸造「足助仕込三河しろたまり」
和歌山県 丸正酢醸造元「木桶こもかぶり仕込 那智黒米寿」