chocolate
真夜中、急に呼び出したくせに「ごめんね、なんでもない」とはなんなのか。呆れたふりをして短い息を吐く。急いできたくせにそれを悟られたくはないから、こっそり呼吸を整える。
真夜中に食べるお菓子のような手軽さと背徳感を連れ立って、唇から唇に秘密を運ぶ。君は拒否できない。さっき吸った煙草の匂いが混ざる。君はやめない。わかってる、今日だけ、とかいう安っぽい台詞を初めて聞いたかのように受け入れて君から思い切り深く息を吸い込むと、からだじゅうにくらくらするほどの甘ったるさがひろがる。僕はいいけど、と初めて返すかのように呟く。出会った頃より伸びた髪を指で梳く。君はまた後悔したふりをして、よくないよね、と謝ってくるのを知っている。こんな時間に呼び出したことを?それとも今触れていることを?何も確認しないことを?少しの背徳感を分け合うことを?
ひとつ、またひとつと包みを剥がしていくのをやめられないのは、僕の方だ。時間だけが溶けていって、ざらりとした苦さがいつまでも舌に残る。
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