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倒産危機から年商15億の事業へ。ミャンマーの農村で希望を生みだす

24歳でミャンマーに渡り、倒産寸前だった事業をV字回復させ、新規事業も開発。

2021年のクーデター以降混乱が続くミャンマーで、インパクトを生み出し続ける起業家 犬井智朗さんの軌跡を追いました。

難民キャンプでの無力感をバネに、最短でソーシャルビジネスができるボーダレスを選んだ

-犬井さんが代表を務めるミャンマーの事業について教えてもらえますか。

僕が代表を務めるボーダレス・ミャンマーは、新規事業の開発や経営伴走を行っています。現在は、既存事業が3つと起業準備中が2つ、合計5つの事業があります。

農業サービスを行うボーダレスリンクは、辺境地の小規模農家に適正価格での資材販売や技術指導、マイクロファイナンスを提供し収入の向上を図っています。利用者数1万5000人、今期の売上は15億円を見込んでいます。

また、有機肥料を製造し販売するボーダレスミャンマーファーティライザーは、農村部の仕事のない人々に150名ほどの雇用を生み出し、売上は1億円ほどです。

起業準備中の2社のうち、1社は日本から来る中古の子ども服を丁寧にリペアする過程でシングルマザーの雇用を創出するリユース事業です。もう1社は、農村部の栄養改善と雇用創出のために、栄養を補完する食品事業を行おうとしています。

-まさにボーダレス・ジャパンのミャンマー版ですね!犬井さんがミャンマーで起業しようと思ったのは、なぜだったんでしょうか?

大学1年生のころ、日本に難民として逃れてきたミャンマー人の男性と出会いました。彼は大学生の時、ミャンマーでクーデターが起きたことをきっかけに政治活動を行い、それが原因で国を追われました。

のらりくらりとした19歳の自分と、国のために戦った20歳の時の彼とを比べて「このままじゃいけない。」と思い、彼が支援を行っていた難民キャンプに足を運びました。

自分と難民の人たちとの人生にあまりにも大きな差を感じ、 彼らのために何かしたいと思うようになりました。

タイとミャンマーの国境にあるカレン族の難民キャンプで

-そこから、「ソーシャルビジネス」を選んだ理由は?

難民キャンプで「支援」というかたちに違和感をもったのがきっかけです。いいプロジェクトが行われても、予算の関係で打ち切られるケースをたくさん目にしました。

そして僕自身、家族のような関係を築いた難民の人々と「支援者」「被支援者」という関係性にはなりたくなかったんです。

しかし、彼らが困難な状況にいるのを分かっていながら、 何にもできない自分の無力さを痛感しました。そんな思いをバネに何かしたくて出会ったのが、ソーシャルビジネスそしてボーダレスでした。

当時ボーダレスは全然知られていませんでしたが、社会を変えるために本気で事業をやってるということが伝わってきました。

ミャンマーでのソーシャルビジネスを最短距離で実現できるのは、ボーダレスしかないと確信しました。

苦しい状況でも初心に返れば乗り越えられた

-起業家として大きな壁にぶつかったのはどんなことでしたか?

一番苦しかったのは、やっぱり赤字時期ですね。

当時赤字だったミャンマーの既存事業を僕が立て直すことになり現地入りしました。事業は倒産寸前で「今日キャッシュ0じゃん!」といったことも何度かありました。

でも、自分で成功させると決めたからには、続ける以外の選択肢がなかったんです。

メンバーと昼夜問わず働いていた

-そんな苦しい状況を乗り越えた原動力は何だったんですか?

本来であれば「農家さんのために」というべきだと思いますが、正直それだけでは続かないんですよ。それは、自分より農家さんが困ってる時にだけ使える言葉で、自分の方が困っている状況では無意味な言葉になってしまいます。

赤字が続く苦しい状況でも、僕が事業を続けられたのは、学生の頃に難民キャンプで苦しむ人たちの生活を見てきたからです。「こんなことで、苦しいとか言ってる場合じゃない」と初心に返ると、全然苦しくないと思えたんですよね。

もう1つは、やっぱり社員の存在ですね。社員の多くが20代前半で。これからの未来を担う彼らの成長を見ることが、一番のモチベーションになりました。

ー犬井さんが考える社会起業家に一番必要なものって何ですか?

「この問題を本気で解決するんだ!」というパッションが一番だと思います。

経営ノウハウは学べば身につくし、実力だって経験を積めばついてくる。だけど、この問題を何としても解決したいという思いが浅いと、上辺だけの解決になります。

結果的に事業の作り方も浅くなって、なんとなくいい事業に見えても、「これって本当に社会問題を解決してるの?」と言われた時に言い返せない。ちゃんと思いがあれば、「今は実現できてないけど、ここまで行こうと思ってる」と言えると思うんです。

ーボーダレスの一員として起業して良かったことを教えてもらってもいいですか。

1人でやってると、忘れてしまいそうになるようなことを、みんなと話すことでハッとさせられる。視座をぐっと上げてくれる、コミュニティ自体の存在はありがたいです。

起業家同士の話し合いの場で新しいアイデアに触れたり、頑張ってる姿を見て自分ももっと頑張ろうって思えたり。「事業」ではなく、「社会」というサイズ感で考えさせてくれる場でもあります。

ビジネスで社会の構造を変え、ミャンマーの人々が心から幸せに暮らせる社会をつくりたい

ー今も混乱が続くミャンマーの問題をビジネスで解決するには、何が大切ですか?

ミャンマーには、135ほどの民族がいて、中には「自分たちの民族が一番だ」という意識をもつところもあります。

僕自身も難民キャンプにいたときに「あの民族が良くて、あの民族は良くない」と思った時期がありました。

でも、事業の立て直しのためにミャンマーに来た時に、その考え方はやめようと誓いました。民族への意識が根本から変わらないと、ミャンマーの国や社会構造は良くならないと。

僕たちの会社には、いろんな民族の仲間が集まり、文化もそれぞれです。でも、みんなが同じTシャツを着て、同じビジョンのもとに集ったとき、そこに民族の壁はないんですよね。

ボーダレス・ミャンマーが成長し、メンバーやユーザーにさまざまな民族や宗教の人がいる会社になっていけば、 ミャンマーの民族融和につながっていくと思っています。

ボーダレスミャンマーの仲間たち

ー犬井さんの今後の展望を聞かせてください。

ビジネスも、国も、社会も、結局は「人」です。良いリーダー、良い民衆がいて初めて良い国になる。人をどう育成していくのかが、 国や社会の未来に直結すると思っています。

僕が一番嬉しいのは、メンバーが成長するのを見るときなんです。僕のパッションはそこにあります。

だから、事業を通して志ある若者を育てていくことで、本当に社会のことを考え、人を思いやれるような人をどんどん世の中に輩出していきます。

僕が死ぬまでには、ミャンマーに民族の対立や貧困がない、みんなが本当に幸せに暮らせる社会を創っていきたいです。

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