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沖縄社会をぐるぐるまわしてきた“模合”をめぐるユニークな沖縄現代史。

もあい(模合)とは、「頼母子講・無尽講」と呼ばれ、かつて日本全国に存在した古い慣習のことである。ところが沖縄では現在も生活に根ざした庶民金融、相互扶助、グループの親睦として模合が活発に行われている。


沖縄のもあい大研究  模合をめぐるお金、助け合い、親睦の人類学』平野(野元)美佐著

庶民を支えるユイマール(相互扶助)か、それともただの飲み会なのか? 本書は、文化人類学者である著者がフィールドワークで出会った驚きの模合の数々を紹介しながら「模合とは何か」を探っていくものである。

模合をやっている人も、やったことない人も、誰かに話したくなる「はなしのタネ」がたくさん詰まった一冊だ。

第一部 歴史編―模合のこれまで
1章 模合はグローバルな文化だった
世界のモアイと沖縄の模合を比べると/日本の頼母子講・無尽講の移り変わり/相互扶助(ユイマール)としての模合/ユーレーから模合へ/模合にまつわる言葉あれこれ
2章 琉球王国時代の模合
模合に関する古い記述/薩摩の模合と琉球の模合/琉球王国のなかの相互扶助
3章 明治期以降の模合
相互扶助が息づく明治初期の模合/営業化する模合/女性はどのように模合をしたか/地方における模合/八重山・宮古の模合/沖縄戦と模合 
4章 戦後の模合
復帰前のドル模合/復帰前後の混乱と模合トラブル/復帰後の模合

第二部 現代編―模合のいま
5章 模合のリアルを知る
模合のきっかけ/模合を始めるといろいろある/積み立て模合と旅行模合/模合は組織である
6章 同級生模合の世界
同級生という幼なじみ/同級生ネットワークをつなぐ模合グループ/同級生模合グループ百花繚乱
7章 さまざまな人をつなげる模合
同業者模合と異業種模合/親族の模合/地域・近隣の模合/伝統文化を支える地域模合/友人・知人の模合/政治と模合/多種の模合をどう組み合わせるか
8章 金融としての模合
お金目的の模合参加/模合が崩れるとき/親睦模合の持ち逃げ
9章 模合を介した助け合い
模合仲間と助け合う/グループのそとに広がる助け合い/老いに寄り添う/模合仲間とはなにか
10章 世界のウチナーンチュと模合
世界のウチナーチュはどんな模合をしているのか
米国ハワイ/米国フロリダ/ ボリビア/ブラジル/ペルー/アルゼンチン

第三部 未来編―模合のこれから
11章 最大の危機?! 新型コロナウイルス
新型コロナウイルス、どうする模合?/コロナ禍による変化とは/コロナ禍で失われたもの 
12章 模合の未来と沖縄の若者
若者の模合ばなれ/子ども時代に模合に親しむ/若者と模合の距離感/模合から距離をおく人たち

終章 模合とは、人と何かを「合わせること」

目次

■「模合」にヒミツってあるの? 
 沖縄で暮らしている人なら、こういう光景を目にしたことがあるだろう。
 レストランで賑やかにひとしきりおしゃべりしていたかと思うと、おもむろに財布や封筒からお金を取り出して集めだす女性たち。居酒屋でビール、泡盛を楽しそうに飲みながら、集められたお札を数える男性たち。よくみれば、手元のノートに何やら書いている人がいる。やがてそのお金はみんなが注目しているなか、おもむろに特定の人に渡される……。べつに怪しい取引ではなく、沖縄のあちこちで、ほぼ毎日繰り広げられている光景である。
 それは「模合(も あい)」と呼ばれる、沖縄では誰もが知っている「慣習」である。長年模合に参加してきたという人もたくさんいるだろう。
 沖縄で、「模合とはなんですか」とたずねると、「ただの飲み会」と言われることがある。確かに、模合は居酒屋でわいわい楽しむものというイメージが強い。大阪出身の私が模合に参加させてもらうとき、「模合を研究しに来ました」と伝えると、「ただの飲み会なのに何を調べるの?」「模合になんのヒミツがあるの?」と、不思議がられた。それは実に正しく、多くの模合は楽しい飲み会や食事会であり、なんのヒミツもないようにみえる。模合に参加してどんなに目を凝らしても、楽しく飲食している人たちがいるばかり。
 「ただの飲み会」と思われている「模合」だが、実は様々な歴史的変遷をへて、現在の姿となった。つまり「模合」を理解するためには、それなりの知見が必要なのだ。しかし幸いにも、これまで「模合」の学術的な研究があり、さまざまな論考が発表されてきた。
 本書では、こうした研究をもとに、第一章で、世界のなか、そして日本のなかでの沖縄の「模合」の位置づけを考え、第二章から第四章までは、琉球王国時代からつづく「模合」の役割をまとめてみた。いわば「歴史編」である。
 第五章から第一〇章までは、いよいよ私のフィールドワークから見えてきた模合の諸相をまとめた「現代編」である。現在の模合に関心がある方は、ここから読んでいただいてもいいかもしれない。そこから見えてきたものは、実にさまざまな理由で模合が始められ、いろいろな人びとが模合を通してつながっている姿だ。
 第一一章と第一二章は、沖縄の模合のこれからを考える「未来編」である。模合の最大の危機ともいえる新型コロナウイルス感染拡大は、模合をどのように変えたのだろうか。また最近、コロナに関係なく、沖縄の若者は模合をやらなくなっているという話をきく。若者が模合をやらなくなると、模合はどうなってしまうのだろう。
 それでは、いま模合をやっている人も、初めて模合と出会った方も、みんなが知っているようで知らない「模合」をめぐる旅に、これからお付き合いいただきたい。
 
■[模合コラム]はなしのタネ(小見出し)
 できるかぎり読みやすく記述したつもりではあるが、これまでの調査研究のまとめでもあるので、特に模合を現在やっている方には、まどろこしい部分もあるかもしれない。そこで今回は、文章の要点でもあり、また読みどころを押さえた「小見出し」を数多くつけてみた。そして次頁には通常の目次とは別に、その小見出しだけの目次を準備した。それらはいずれも模合の世界を知ることのできる断片なので、いわば「模合コラム」として、気になるタイトルから拾い読みしても楽しめるはずである。みんなの模合の場で、「はなしのタネ」として活用していただけたらうれしい。

《「はじめに」要約》