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「虫の本を出そう」と心に秘めながら、戦禍によって命を落とした自然観察者「ツトム」の残したものをたどる。

石垣島に「天文屋の御主前」と呼ばれた気象観測技術者、岩崎卓爾がいた。本書の主人公「マサキツトム」はその教え子で、虫の本を出すことを夢見ながら、昭和18年に35歳で命を落とした。

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「ゲッチョ先生」の呼び名で知られ、昆虫や生き物に関する著書を多数あらわしてきた盛口満が、「ツトム」の息子である譲さんとの出会いを通し、その足跡と彼が残したものをたどる。


〈さて、1943(昭和18)年、敗戦2年前のこの年に、「虫の本を出そう」と心に秘めながら、戦禍によって命を落とした一人の人物がいる。
 正木任(まさきつとむ)である。
 加藤正世なら、ウィキペディアによって、そのおおまかな履歴を見て取れるが、正木任の場合はネットで検索しても、そのような情報はでてこない。世の中には、ネットにはでてこないことだってある。いや、本当はそういうことの方が多いだろう。正木任(以下、ツトムと略させてもらう)は1907(明治40)年生まれ。僕の祖父より6歳年下だが、加藤や僕の祖父と、おおまか、同じ世代の人物であると言っていいだろう。僕は、血縁関係はないものの、祖父と同時代を生きたツトムに、少なからぬ興味を覚えている。いや、ネットには情報があがらない彼のことを、少しでも書き残したいと思い、こうして筆をとっている。
 実際には書かれることのなかったツトムの虫の本をめぐる旅を、始めることにしたい。〉(本書 「序章 この本が生まれるまで」より)

『「ツトムの虫」を探して 石垣島の自然観察者 正木任の残したもの』盛口満著

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