セリフ回しの名人芸に圧倒される。アイラブ漫画喫茶。#8
「水は海に向かって流れる」田島列島 全3巻
進学のために叔父のシェアハウスに居候することになった直達は、同居人のひとり、OLの榊さんと自分が浅からぬ因縁があることを知る。
複雑な関係の二人、その心の機微と、ゆるく個性的なシェアハウスの住人たちとの時間を丁寧に描いています。
レヴィ=ストロースの名前が出てきたり、贈与といった概念が語られたりするので、この作品の下敷きには社会人類学があるのでしょう。それらの概念を、平穏な日常生活と、誰にも気づかれずに心の中で起こっている荒波にきれいにおとしこんでいて、小さな会話ひとつにも含むものが多くて、何気ないシーンでも心がグウッとなります。
たとえば直達と榊さんとのこんな会話。
前作である「子供はわかってあげない」もそうでしたが、やはりセリフ回しがすごい。あっさりとした絵のなかに、さりげなく(でも超読みやすく)配置されたフキダシ。それだけで、胸のうちに思うところを抱えた二人のぎこちない空気まで見事に描写しているんですよね。
「どうしようもない」じゃなくて、「どうしょもない」とした表記の妙。
直達との初対面のときに雨が降って傘に入れてくれた榊さん。「俺がいなければ、この人の肩が濡れることはなかったのに」の一言に込められた意味が、序盤〜中盤〜終盤と変化していくところなんか、なんかもう名人芸だなぁと思っちゃいました。(え)