閲覧録 202202-03
20220216
『内村鑑三全集 2 1893‐1894』(岩波書店、1980)。士族階級出の内村鑑三(1861‐1930)は、彼の中では何の矛盾もなく、愛国者・憂国の士であると同時に熱烈な基督教徒であるらしい。「士族の商法」ならぬ「士族の信教」。士族の商法はしくじったらそれまでだが、士族の信教はしくじる度に確固たるものになるようだ。1891年が不敬事件の年で、3年後の1894年は「後世への最大遺物」口演の年。事件の社会問題化で東京を追われ、流寓の果て辿り着いた京都で、地元便利堂の人々の援助を得、その便利堂から1897年『後世への最大遺物』刊行。まさしく「勇ましい高尚なる生涯」。
20220217
山室信一『思想課題としてのアジア 基軸・連鎖・投企』(岩波書店 2001)。博士後期課程の中国人留学生に存在を教えてもらった本。「思想」という字面の熟語を中国では日本(当然明治以降の)から逆輸入して使っているという話から。共に受講していた院ゼミの教官権先生によれば、韓国も同様だと。権先生はその話の流れの中で、ZOOM画面で即座に手元のご自分の同書を示されて。知らぬは日本人(おいらともう一方)ばかりなり状態。まさしく「思想連鎖」の実例。いや待てよ山室信一って名前聞いたことあるぞ、と思ったら『キメラ 満洲国の肖像』の著者だった。読んだじゃないか。先行きが楽しみ。
20220218
『漱石全集 第三巻』(岩波書店 1994)始。実は漱石をちゃんと読み始めたのは50歳を過ぎてから。漱石だったらもう死んでる。「草枕」再読して、初回同様面白かった。漱石の『ジオラマボーイ・パノラマガール』(by 岡崎京子)なのではと思った。グレン・グールドが英訳本をがん読みしてたとも聞く。自分には「猫」や「坊ちゃん」より圧倒的に面白い。なんでだろう。猫・坊には登場しない、今現在もそこいらにいる感じの、アート系男子やメンヘラ女子(ともにすこぶる近代的に自意識過剰)が見事に描かれてる印象を受けるからか。「草枕」は今後、グレン・グールド的に、愛読書になりそう。
20220219
『柳田國男全集 第二巻』(筑摩書房、1997)。「山島民譚集」(1914)、冒頭「河童駒引」は終了。日本各地の事例紹介が延々続き、正直読むのは大変。同時に、よくぞ書き残してくれましたという気持ちにもなる。柳田民俗学が明らかにした日本の姿って間違いなくある。意志と構想のベストマッチング。面白かった文章、p416「干涸ビタル河童ノ手ヲ家宝トスルガ如キ気紛者ハ、金持ニナレヌ性分トモ云フベシ」、p446-7「多クノ国ノ民間ノ神様ニハ仏様ト違ヒテ往々ニシテ善悪ノ二面アリ」、p448「悪ノ力モ世ノ進ムト共ニ漸ク衰ヘ行ベキモノナリ」、分析であって懐古ではない、ということんだろうね。
20220219
吉田秋生『詩歌川百景(うたがわひゃっけい) 2』(小学館 2022)。1980年代のJ-POPが海外で評価されていたりする今日この頃、「1980年代の日本文化史」的な学術論文はないものかと考える。時期尚早か。そんなものがあれば、吉田秋生は外せないはず。2020年代になっても、その創作活動は衰え知らず。こちらは1958年生なので、1980年代はある意味、どんぴしゃ。どんな人がどんな事してたっけとググってみたら、吉田秋生は、1956年生の1977年デビューで、これはSASの桑田佳祐氏とぴたり重なるんだな。吉田氏は、日本漫画界の桑田氏的な存在と言っていいのかな。高質・多産・人気・長命で共通する。『詩歌川百景』、今後の展開、まったく予想できず。「月刊flowers」に年三回ペースで連載されているものが順次コミック単行本化されるらしい。長生きして続き読まなきゃ。2020年代の今、1980年代(吉祥天女・櫻の園・BANANA FISH だぜ!)とは、世界も自分もずいぶん違ったものになっちゃってるけど。
20220220
マルグリット・デュラス/フランソワーズ・サガン『太平洋の防波堤・愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは 池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅰ-04』(河出書房新社、2008)。「太平洋の防波堤」了。仏領印度シナ植民地の変な入植白人一家の話。すごく変。読者の世界を拡張し世界観に揺さぶりをかける。
20220221
『寺田寅彦全集 第四巻 生活・紀行』(岩波書店 1997)了。「札幌まで」(昭和七年十一月 『鉄塔』)p338「札幌の普通の住家は室内は綺麗でも外観が見萎らしい。土ほこりを浴びた板壁の板がひどく狂って反りかえっているのが多い。」西洋下見外壁のことだろう。中谷宇吉郎に言わせれば「バラック」。
→寺田寅彦を師と仰いだ中谷宇吉郎は、寺田の札幌旅行を「札幌における寺田先生」 (昭和十八年四月)として書き残した。その辺のことを自分もまとめて書いてみた:「昭和7年秋、札幌の寺田寅彦」https://note.com/booxbox/n/nca8e984d3385?magazine_key=m1b77eeb2f902 寺田東一の「中谷先生と父寅彦」という文章も紹介してます。どうぞ読まれたし。
20220222
永井荷風『荷風全集 第三巻』(岩波書店 1993)始。「小説 夢の女」(1903)了。漱石「猫」の連載が1905~1906年。漱石作品の清新さが理解できる。近世と近代くらい違う。しかし文章はうまいので、最後まで読めてしまう。そうかこの後に外遊か。その後に期待して読み進めよう(ちょっとしんどい)。全集通読は「月報」を読むのが面白い。この巻では、田辺聖子「流離する貴種、荷風」文が秀逸。現代的。「今更のように、世界のそれもそうだが、日本文学史は男のためにのみ、書かれてきた、という思いをあらたにする。」成人男性の自分が感じる、荷風文学への違和感はそんなところにあるのかも。
20220223
「世界の歴史」編集委員会=編『新 もういちど読む 山川世界史』(山川出版社 2017)了。プーチンの所業をよくみておこう。独裁者というのは、自分の死後のことなどどうでもいい人なんだろうな。それがどんな世界であれ、自分の利益は何もないわけで。後に残る人間のことも少しは考えろよと思うが。その手の「憎まれっ子世に憚る」憎まれっ子の系譜が歴史の一断面であるのも間違いなさそうだけど、「希望という名の光」みたいなものが射さない時代もないというのも歴史の一断面である気がする。実際こうして歴史が続いているのが、その証拠なのでは。とはいうもののいい加減にしとけよ、プーチン。
20220224
『志賀直哉全集 第十三巻 日記(三)』(岩波書店 2000)始。大正11(1922)年分。志賀39歳、『暗夜行路』執筆期、「第一線の中堅作家」。十年近くの日記空白期間に、柳宗悦は結婚し、我孫子での生活を終えている。p21、3月3日、夫婦喧嘩で出奔してきた柳兼子を迎え、仲裁役をかって出る志賀。いい奴。
20220225
『谷崎潤一郎全集 第5巻 二人の稚児・人面疽・金と銀・白昼鬼語』(中央公論新社 2016)始。1917/18年頃の作品。「二人の稚児」一作品のみ了。プーチン騒動の検索に終われ、マンションの理事会に出席し、会社の決算会計もあり、でサクサク読書とは行かず。それでも読まさる(北海道弁)筆力がすごい。
20220226
『チェーホフ全集 12 シベリアの旅 サハリン紀行』松下裕訳(ちくま文庫 1994)。ウクライナ侵攻情報WEB探索で落ち着かず、あまり読み進められず。チェーホフ、wikiによれば「アゾフ海に面した港町タガンログ」生まれだと。クリミヤとウクライナを遠望しながら育ったのかな。サハリン遠いのになあ。1890年7月10日、アレクサンドロフスク着。今は『ゴールデンカムイ』読者なので、「ソフィアのいた監獄の」という認識(ちょっとマズい 笑)。p96「ロシア人がこの島を占領し、やがてギリヤーク人を虐げはじめると」、帝政ロシア・ソ連・プーチンロシア、進歩がない(核兵器持ちな分、余計に厄介)p104 地方総督の男爵が、知識人チェーホフに言う「あなたにはあらゆるところ門戸が開かれているというわけです。たった一つ許可できないのは、どういう形であれ政治犯と接触することです。」。今回の侵攻でまたしても政治犯が生まれるわけだよね。政治犯を作り出しては監獄へ送り、か。良くないね。
20220227
『考現学 今和次郎集 第1巻』(ドメス出版 1971)了。p448「それで私どもの考現学では、現実の生活を調べるのに、慣習、流行、合理という三本の線で着目することにしている」っていい視角かも。でももう一つ「経済」を加えるべきでは。北海道の生活建設はその四線の合算を一挙に迫られたわけだよね。
20220228
『柳宗悦全集 第十七巻 茶の改革・随筆(Ⅰ)』(筑摩書房 1982)了。「桑田忠親博士へのお答へ」(1959)より、p475「旧友志賀等が云ってくれた様に、いつかこの民藝館の値打ちが正しく認められる日の必ず来ることを、私自身も疑ってはゐないのである。」老いてますます盛ん。志賀、相変わらずGJ。「米国の旅」(1952)より、「しかし米国の文化は二重で、少し郊外に出ると、小じんまりした木造の二階建がとても多く、その大部分が英国の十八世紀ごろのヂォルヂャン式のの家なのには驚きます。大概白ペンキ塗で、窓枠を緑に塗るのが伝統です。」お雇い外国人が導入した開拓使官舎の先祖では?柳は1947年10月下旬に北海道旅行。札幌の植物園内のアイヌ陳列館と函館の図書館を訪ねた印象記「人と施設」では植物園陳列館disり。p583「誰も責任を取らないから、塵一つ払はふとする者がゐないのである」。今どうだっけ?函館アゲ。p584「特に北海道関係の郷土史料の充実は驚嘆すべき」どこさ。同文は柳の遺稿(1969年『民藝』199号掲載 日本民藝協会)。父楢悦の著書について。p585「北海道に来て、稿本「春日紀行」が札幌の縣庁図書館に、またその抜粋が小樽及函館の図書館に蔵せられてゐることを知った」「私は度々それ等を資料として父の伝記を書きたいと思ったがいつ果せるであらうか。」
20220301
ノーマ・フィールド『小林多喜二 21世紀にどう読むか』(岩波新書 2009)。「第二部 銀行員からプロレタリア作家へ 「人間への信頼」を基に」まで。北海道拓殖銀行は1900年設立で1998年経営破綻で消滅。82p「一九二〇年代後半の抵当流れの結果、拓銀自ら不在地主的側面をもつようになった。」そう、農地のみならず、鰊定置漁業権も入ってきて、多喜二入行の時期には、鰊場を経営する破目にもなってる。p89、志賀直哉ここでも登場。p100「(多喜二の作品では全く例外的なニシン漁の場面設定である。)」「ここに描かれたニシン漁は、観光名物と化した場である。」ってどゆこと?わからないです。『蟹工船』。p150「そこへ駆逐艦が登場して、みんなは喜ぶ。帝国軍艦は船を「露助」から守るからには、「国民の味方」であるはず。しかし、当ては見事に外れる。」。「露助」呼ばわりの歴史も長い。多分、ウクライナ語にも「露助」を意味する単語、あるだろうね。とても難しい問題。そして船は行く。
20220302
子母澤寛『新選組遺聞 新選組三部作』(中公文庫 1997年改版)了。通読したけど精読できてない。気が入らない。内容ではなく、現況下の読み手の心持ちの問題。戦前現代文と候文と訓読漢文と文語体。手強い。でもこの文庫、17刷。みんな熟読できてるの? だとしたらすごいなあ。修行して出直さなきゃ。
20220303
『中谷宇吉郎集 第四巻 永久凍土』(岩波書店 2001)始。所収『寒い国』(「少国民のために」シリーズ1943/1948)了。昔読み、最近また寒冷地建築への興味から拾い読み、今回全体再読。初版刊行時は、国策に則った、自国領満洲・樺太開発のための、科学的アプローチが主眼。子供向けだが内容は濃い。現今の状況から、境界変動と時代変化について考えながら読んだ。1948年版の序文で中谷自身が1943年版の序文を引いている。6p「印刷がおくれて、いま校正刷を私は春日の下に見ている。春が来ると、私たちにすら冬の間のあの寒い世界が一場の悪夢のように思われる。暖かい国に住んでいる人たちに、「寒い国」を理解してもらうことは、なかなか困難であろう。しかしその理解は絶対に必要である。(中略)挿絵は柳瀬正夢画伯の労作である。」。1948年版序文、p7「再びこの本を出すにあたって、同画伯が戦災で亡くなられたことについて、感慨の深いものがある。」。新しい理解は今も必要なんだろう。
20220304
『旧約聖書 Ⅲ 民数記 申命記』山我哲雄・鈴木佳秀訳(岩波書店 2001)始。あまりに遠い時代のあまりに遠い土地のあまりに違う人々の記録で、どう読んでいいのか見当がつかない。素朴な疑問、彼らはなぜこれを残さなくてはならなかったのか、現在も読まれている理由は?「聖書観」構築中、という所。
20220305
『高倉新一郎著作集 第1巻 北海道史[一]』解説永井秀夫(北海道出版企画センター 1995)。「歴史と風物」より、p260「新しく開けた北海道は、全く中世を経験せず、いきなり原始時代から近代へと飛んだのである。そして近代技術と精神によって開かれたのである。これが北海道史の特徴の第一である。」
20220306
『宮本常一著作集 3 風土と文化』(未來社 1967)了。p232「漁民のもつ文化」まとめ羅列が興味深い。漁撈技術も漁業自体も文化の範疇であるという視角は参考になる。北海道の春鰊漁業も産業であると同時に、北海道独自の文化体系の一つだった、というアプローチもありだよな。頭の片隅に置いておこう。
20220307
『吉田健一著作集 第二巻 東西文学論 三文紳士』(集英社 1978)了。「三文紳士」。母方の祖父牧野伸顕について書いた「蓬莱山荘」が良かった。文芸書ではなく、大久保利通の曽孫、吉田茂の子の、歴史的ナラティブとして、吉田健一を読むのもありかと思った。健一氏はおじいちゃん大好きっぽい。「貧乏物語」は爆笑篇で、田村隆一が何かのエッセイで触れていたはず。色々な人・所で借金をするのだが、総理大臣の父とか、麻生太郎氏の母親である実妹和子さんを頼るとかはしなかったということか。矜持みたいなものなのか。茂・健一の親子関係は、お互い一目置きつつ緊張関係がある感じで素敵だ。
20220308
『梅棹忠夫著作集 第3巻 生態学研究』(中央公論社 1991)了。生態学=ecologyなのか。先駆者梅棹といまどきのエコの人達の間に大きなギャップを感じてしまうのだが。片や科学的知見ベースで、片や感情&情緒ベースみたいな。梅棹が「環境に優しい」とかいうの想像できなくないですか?わしゃできん。
20220309
『岩波講座 世界歴史 5 中華世界の盛衰~4世紀』(2021)了。やはり教科書的知識や原典(訳書含)読破経験みたいなものがないとつらい読書になる。中華氏と夷狄野郎がいつも衝突して、官僚制がある分、中華氏が有利だったり不利だったりしたという理解でいいのか?共産主義中華って、どこまで新機軸?
20220310
筒井清忠編『昭和史講義2 専門研究者が見る戦争への道』(ちくま新書 2016)。第7講 帝人事件から国体明徴声明まで・第8講 厚生省設置と人口政策・第9講 日中戦争における和平工作 日本側から見た・第10講 日中戦争における和平工作 中国側から見た、まで。五一五事件から日独伊三国同盟のあたりまで。
20220311
『鶴見俊輔集 3 記号論集』(筑摩書房 1992)。「日本語と日本文化」、長らく問題意識として持っている「明治期のヨーロッパ諸語の翻訳語日本語がその後の日本人にどのような影響を与えたか」の参照となる文章。ていうか、その問題意識は若い頃からの鶴見読書の過程で生まれたものだったとも言える。p186「日本語もまた中国から朝鮮をへて来た漢字の影響、明治以後に欧米から来たヨーロッパ語の影響をつよくうけている。それらの外国語からの翻訳の影響をぬきにして日本語を考えることはできない。」。橋本治の『江戸にフランス革命を!』の一節を思い出す(橋本は鶴見の文を読んだのだろうか?)橋本『江戸フラ』「明治っていう時代は、西洋から来 たコンセプトをみんな漢字の訳語で置き換えていく時代でね、それは勿論江戸の公式文化だった漢字の文化の踏襲なんだけどもさ、でも江戸の公式の漢文ていうのは、実は漢文じゃないんだよね。江戸の公式文書っていうの は“候文"ていう、とんでもなく特殊に日本化しちゃった“変体漢文"だからね。」以下、橋本節でいろいろ続く(いずれ再読して詳述)。先月から始まった、山室信一『思想課題としてのアジア 基軸・連鎖・投企』(岩波書店 2001)読書で、明治のヨーロッパ諸語翻訳日本語についてのさらなる知見を得られるだろうか。探求は続くのだ。
20220312
『網野善彦著作集 第二巻 中世東寺と東寺領荘園』(岩波書店 2007)。「Ⅰ 中世前期の東寺とその経済」ら辺。案の定、自分は内容を深く理解できるレベルにないので、ボー読み(棒読みに非ず、ぼうーっとしたままで読むの意なり)。とはいえ、文章が圧倒的に上手いので何となく読まらさる(北海道弁)余談、p85「この年の東寺の収支は、同年十二月廿九日、「造東寺年終帳」よって詳しく知ることができる」。「この年」は長保二年(一〇〇〇)。折しもこちらが自分の会社の年度決算を終えたばかりで、千年前にも簿記・帳簿類があったのかと気になった。竹内理三編『平安遺文』内で見られるらしい。さすがに複式簿記まではいかないんでしょうが、京の辺りでは少なくとも千年前から「経営」という観念があったということなんでしょうね。すごいな。あるいは徴税・納税のため、どこかに申告する必要があったのか。読み書き計算ができる民族って、周辺少数民族には脅威のはず(それはまだ先の話か)。
20220313
高松宮宣仁親王『高松宮日記 第二巻』(中央公論社 1995)の昭和11・12年分。宮は31から32歳。海軍大学校を卒業し、海軍で勤務。二・二六事件と盧溝橋事件についての記述が多い。時局不拡大を願っているのだが。長兄である昭和天皇との、宮の軍務に関しての、意見の食い違いも赤裸々に語られる。昭和12年4月21日、p407「「デンマーク」より来朝、各大学にて講演しつゝある「ニールス ボーア」博士、丁国公使夫妻同伴にて訪問をうく。」いわゆる表敬訪問か。アインシュタインの来日は1922年。それに比較すると地味ではあるが。宮は「私には宇宙線とか原子論とかで不可解なる」とあくまで謙虚。
20220314
『開高健全集 第3巻』(新潮社 1992)了。「ロビンソンの末裔」、高校生の頃に一度読んでいて、四十数年ぶりの再読。初読時、なんて北海道の描写が上手なんだろうと驚いた(こちら道産子)。今回はその手の感想は引っ込み、群集劇としての人物描写の巧みさが目についた。おいらも大人になったのさ。ちなみに、北海道の自然・労働の描写で巧みだなと感じた作品をあげると、有島武郎『生れ出づる悩み』の小船による漁撈、手塚治虫『シュマリ』の鳥瞰風景、村上春樹『羊をめぐる冒険』の孤絶山中の初雪から積雪、髙村薫『晴子情歌』の初山別の鰊場、の各シーン。あれ、関西人が多いな。なんでや?p278、北海道を形容するにあたって「東洋のウクライナ」なるワードが出てきてびっくり。初めて聞いた。開高の表現ではなく、終戦前後の北海道開拓団募集のパンフ等で、騙して連行する目的で、使われていたワードだろう。騙されっぱなしじゃなかったので、今の北海道があるわけだが。開拓民、偉い。p356「拝み小屋」。最近知った言葉だと思っていたが、すでに目にしていたんだねえ。バラック中のバラック。これで北海道の冬を越すなど有り得ない建物だが、多くの開拓民がそこから始めたんだねえ。凍死を免れても、負荷が強すぎて病死に決まっている。まったく、その地に留まった、開拓民、偉い。p366「デメン」。死語になることのない、北海道の第一次産業構造を知る為には必須の語。漢字だと「出面」表記が一般的。開高は「日雇人夫」と説明。実質そうなんだが、ニュアンスは違う。その道産子ならわかるニュアンスを内地の人にもわかってもらえるように説明するのも、おいらの仕事なのかもな。
20220315
橋本治『蓮と刀 どうして男は”男”をこわがるのか?』(河出文庫 1986、原本 作品社 1982)。すごい本。もう40年前なのか。確かその当時に買って読んでる。再読できてよかった。いまどきの「進歩的知識人(フリガナ:ヒダリノヒト)」ディスりのはしりの本なのかも。真っ当すぎて再版されないのかも。このアジ本を読んでも、こちらは「ホモの人」にはならないで終わった(んだよねきっと)。まあ、たまたま魅力的な「ホモの人」に誘われることがなかっただけかも知らん(魅力が足りなかったのかもね)。それより、橋本用語でいう「おじさん」にならずにすんだのかどうか。読み進みながら考えよう。日本の1980/90年代は、橋本治という日本史上最も優れた批評家と、村上春樹という日本史上最も優れた小説家と、山下達郎という日本史上最も優れた音楽家が、同時多発的に創作活動を続け優れた作品を生み出した時代だと言えるのではないか。東京が文化的にも江戸を凌駕した時代だったように思われる。
20220316
ファインマン, レイトン, サンズ・宮島龍興訳『ファインマン物理学 Ⅲ 電磁気学』(岩波書店 1969)。第10章 誘電体 から 第12章 静電アナログ まで。相変わらず数式は全く理解できていない。人文系書籍のみ一ヶ月30冊の読書だと間違いなく自家中毒を起こすので、29冊目のこの一冊で一旦リセットする。
20220317
『村上春樹全作品 1990~2000 4 ねじまき鳥クロニクル1』(講談社 2003)了。「第2部 予言する鳥編」。何度も読んでいるはずなのに、こんなシーンあったっけの連続。いつも引き込まれて一気読みしていたので、ディテールまで見切れていなかったのかも。スロー・リーディングも悪くないということか。冷静に考えれば、どの小説・エピソードも、んなわけあるかい!の連続。それをわかっていても、読ませられるのはなぜか。圧倒的な文章力だろう。明確・強靭。そしてその上に音楽的。どの作品にもちゃんと、テーマに則った、リズム・メロディー・ハーモニーが存在する。だから各国語への翻訳が可能。
20220320
追記1:20220227 北海道小樽市 修士論文執筆のための学術調査(ほんまか)のための調査 写真は旧金子元三郎商店(堺町1-25) 二代目金子元三郎(1869‐1952)は小樽を代表する政財界人であると同時に代々続く広域鰊場親方 1931年設立の合同漁業株式会社の初代社長 北海道型の地方名望家として捉えてる
https://twitter.com/booxbox/status/1505441074239614977/photo/1
追記2:20220227 北海道小樽市 蕎麦屋「藪半」でニシンそば
https://twitter.com/booxbox/status/1505442425770164227/photo/1
https://twitter.com/booxbox/status/1505442425770164227/photo/2
追記3:20220227 北海道小樽市 高島・祝津方面へ 鰊場親方茨木家の遺構を横目に見てパノラマ展望台まで そこから日本海を撮影 鰊の群来は見られなかった(普段の行いが というやつか) おたる水族館は休業中 トドやアザラシがのんびりしてる あれから鰊はどこに消えたのか いや戻りつつある
https://twitter.com/booxbox/status/1505444101193273349/photo/1
https://twitter.com/booxbox/status/1505444101193273349/photo/2
追記4:20220227 北海道小樽市 「にしん御殿 小樽貴賓館」(旧青山別邸) 館内唯一の撮影許可個所 『ゴールデンカムイ』第4巻カバー裏表紙の建物・庭園の元ネタだ そう辺見和雄が登場する巻だよ
https://twitter.com/booxbox/status/1505445161102315522/photo/1
追記5:20220227 北海道小樽市 「にしん御殿 小樽貴賓館」(旧青山別邸) 新館方面にはやはり さて その後小樽周辺各地から鰊群来のニュースが続々 ていうか全世界的に今年は多いらしい 北海道の春鰊漁業に関する修士論文を書く予定でいるおいらには ものすごい順風・追い風ではないか がんばろう
https://twitter.com/booxbox/status/1505446413857042435/photo/1
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