台湾有事で嘉手納は生き残れない(2008年の話)

米空軍が嘉手納から第18航空団のF-15C戦闘機を引き揚げて、他基地の戦闘機をローテーション配備することになったと報じられています。
これが Stars and Stripes に載ったのが10月末のことでした。
この話題は、日本国内でも当然注目を集めています。

米空軍嘉手納基地からF15戦闘機を退役させ、F22戦闘機をローテーション配備する米空軍の動きを巡り、米軍準機関紙「星条旗新聞」は14日付で、中国の軍事力増強などを背景に「沖縄の基地は中国との戦争で生き残ることができない」などとする米政府元高官の見解を掲載した。一連の見解は、在沖米軍基地の脆弱(ぜいじゃく)性を米側が認識した上で対中戦略を積み上げ、柔軟な運用体制を検討していることが改めて示された形となった。

琉球新報 2022年11月21日

既にアラスカ州エレメンドルフ基地のF-22が嘉手納に来ていますが、この部隊は過去にもしばしば嘉手納に飛来してきており、嘉手納へのF-22展開は初めてではありません。
嘉手納からのF-15撤退は、台湾有事に弱腰に見えるため「中国に誤ったメッセージを送る」などとして、アメリカ共和党議員などから反発があったり、ウヨい人たちがザワザワしたりしてます。

米軍では「F-15Cは古いので退役を進め、より新しい戦闘機をローテーション配備するのだ」としていますが、その一方で「沖縄の基地は中国との戦争で生き残ることができない」という米政府元高官の見解も報じられています。
嘉手納が生き残れない、という話はもう2008年にRAND研究所が指摘していて、世界中を巻き込む議論になったので、業界筋ではとっくに周知の話です。

https://twitter.com/Booskachan_Ver2/status/1320605640364945408

僕はこの資料を翻訳して自分のブログに掲載していたのですが、Wordpressのバージョンアップのせいか、今は見られなくなってしまいました。
最新のF-22戦闘機を全力投入しても、アメリカは台湾有事で制空権が取れないよ、というRAND研究所による衝撃のレポート(2008年)で、世界中で話題になったのです。オーストラリア議会では、第三者による検証シミュレーションが行われたりもしたと思います。
なので「なにを今さら」の話です。
アメリカは無敵だとか言っているのはアホなミリオタくらいです。

なぜ嘉手納は生き残れないか

答えは簡単で、沖縄にある米軍基地は、中国の弾道ミサイルなどに対して、あまりにも脆弱だからです。飛行場を攻撃する弾道ミサイルには子弾が積まれていて、地上付近で子弾をばらまきます。
RANDでは、中国のミサイルの能力や子弾の散布界などを基に、嘉手納に駐機している航空機や基地そのものの脆弱性を検証しています。

一方、中国本土にある中国軍の航空基地には(全てではないのですが)、山をくりぬいた地下格納庫に航空機や燃料施設を収容することができるものもあり、破壊は極めて困難です。
また、中国軍には台湾海峡への作戦行動が可能な距離にある飛行場がたくさんあるのに対し、アメリカ空軍が使用可能な作戦基地は、事実上嘉手納しかありません。

もしアメリカが空軍力によって台湾有事に介入し、日本がこれに同調するとなった場合、必然的に嘉手納は中国の標的になり、あっという間に戦闘能力を失うことになります。
こうしたことから、アメリカ空軍は嘉手納への「戦闘機常駐配備」をやめたと考えられます。嘉手納を拠点として維持することが、有事に際して意味を持たないのであれば、当然の判断です。

グアムから発進したらどうなるか

台湾海峡に最も近い米空軍基地である嘉手納から台湾までは、約500マイルの距離です。この500マイルというのは、これまでアメリカが行ってきた戦争で、戦闘機の発進基地から戦闘空域までの一般的な距離に該当します。
アメリカの戦闘機は、これくらいの作戦行動半径を前提に設計されているので、これ以上になると空中給油が必要になったりします。

しかし、嘉手納が脆弱で使えないのであれば、拠点はグアムまで後退させなければいけません。しかし、グアムからの発進には上述のとおり空中給油が欠かせません。
そこでRAND研究所は、空中給油を伴う戦闘機運用による台湾海峡防衛のシミュレーションを行っています。

その結果は資料に書かれているのですが、惨憺たるものです。
アメリカは最新のF-22を全力で投入し、ステルス性能によって1機も撃墜されない、というチート設定であっても、中国空軍がアメリカに勝ってしまいます。
また、このシミュレーションは2020年を想定し、中国にステルス戦闘機は存在せず、Su-27フランカーを主力としていますが、実際にはもっと状況は悪いです。

2022年現在、中国は既にJ-20ステルス戦闘機を実用化しているばかりか、その配備機数は早くも200機に達しているとさえ言われています。
また、現実のアメリカ空軍は、シミュレーションで設定したような出撃をグアムから行うことも、事実上不可能であることも資料で示されます。
つまり、極端に理想的なチート設定でさえ、アメリカは台湾海峡の制空権を取れないという結果なのです。

アメリカは台湾で勝てないという衝撃

2008年に出たこの報告は当然ながら衝撃をもって受け止められたのですが、ちょっと考えてみれば当たり前のことであり、アメリカは冷戦終結後の落とし穴にはまっていることが、改めて突きつけられた形になりました。

アメリカの最新戦闘機F-22やF-35は、ちょうど冷戦終結の前後にコンセプトが決まり、開発が始まったものなので、その後に台頭する中国と極東で戦うことなど、想定されていなかったのです。
想定外の戦場で使うからと言って、それだけで「役に立たない」わけではありませんが、ヨーロッパや中東など太平洋に比べて圧倒的に狭い戦域空間を想定したコンセプトでは、台湾有事への対応は非常に困難なのです。

というわけで、そういうことが詳しく書かれたRAND研究所のスライドの翻訳を、ここに載せておきます。以前アップしたのは本文部分だけだったんですが、今回「根拠」のスライドまで含めてアップします。
関心のある人にはとても興味深い(というか常識として知っておくべき)資料だと思います。

表紙を含めて90ページ。敢えて生硬な訳文にしてあるし、専門用語なんかも多いので、わかりにくい部分もあると思います。
そのうち、解説を入れた資料を作ったほうがいいかもしれない、と思っています。

表紙を含めて90ページあるよ

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