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今週の全米アルバムチャート事情 #222- 2024/2/10付

無事グラミー賞授賞式も終了し、テイラーは最優秀アルバム部門の史上最多記録を見事塗り替え、ビリー・アイリッシュは予想通り映画『バービー』のあの曲で2曲目のソング・オブ・ジ・イヤーを見事獲得、ビリー・ジョエルの熱いパフォーマンスで幕を閉じましたが、皆さんは授賞式楽しめましたか?例年通りDJ Boonzzyのグラミー生ブログを月曜日に8本アップしていますので、あのグラミーの興奮をもう一度、という方もそうでない方もよろしければ読んでみて下さい。サンプルとして、最初のブログのリングを貼っておきます。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週の全米アルバムチャート、立春も過ぎた2月10日付のBillboard 200の首位は、先週のいやーな予感が残念ながら的中、21サヴェージがポイントを23%減らして(それでも踏ん張っている方だとは思いますが)61,000ポイントになったのに対し、モーガン野郎の『One Thing At A Time』は逆に4%増やして今週66,000ポイント(うち実売1,500枚)で、まんまとゾンビー首位復活してしまいました。しかもこれで通算18週目の首位ということで、カントリー・アルバムとしては1991〜92年に同じく通算18週の1位を記録したガース・ブルックスの『Ropin’ The Wind』に並んで歴代1位タイの記録を達成しちゃってます。そしてこの18週1位というのは、1956年3月24日の週に今のBillboard 200のフォーマットになってから、歴代12位の記録なんですわ(歴代最長は『West Side Story』サウンドトラック盤が1962〜63年に記録した54週、2000年以降では2011〜12年にアデル21』の24週に次ぐ歴代2位)。

これでこの『One Thing At A Time』はデビュー以来今週で48週目、その間一度も6位以下に落ちたことがないという化け物アルバムですが、前作の『Dangerous: The Double Album』は更に化け物で、デビューから最終的にトップ10を去るまでに2年8ヶ月、その間トップ10に137週居座ってたんです。しかも今週何とゾンビートップ10復活してきて、この記録を138週に増やしてるという何なんだこのアルバム!という感じ。今回のこの『One Thing At A Time』も何かそれに近い記録を作ってしまいそうでやーな感じ。ちなみに自分は今Billboard 200の過去のチャートデータをデータベース化作業中で、今のところ2001年まで来てるのですが、その間トップ10に100週以上いたアルバムって映画『Sound Of Music』のサウンドトラック盤が1965〜68年に記録した109週の1枚ぽっきり。2000年代以降にアデルテイラーが同様の記録を作っている可能性はあるけど、それに並ぶ記録ということですが、果たしてこういうアルバムに並ぶ内容のアルバムかなあ、と頭を振るばかりです。

"The Ceremony" by Kevin Gates

今週はトップ10内初登場はまたまたゼロだったんですが、11位以下100位までの圏外には今週6枚のアルバムが初登場という、久々のにぎやかなチャートになってます。その先頭を切って24位にエントリーしてきたのは、ルイジアナ州バトン・ルージュ出身のラッパー、ケヴィン・ゲイツの4作目『The Ceremony』。ここまでの3作(直近は2022年8位の『Khaza』)はすべてトップ10に送り込んで来たケヴィンですが、今回も基本全編トラップ仕様のそれもちょっと10年くらい前のスタイルということもあって、今回は大きく順位を落としてます。

ケヴィン・ゲイツって言うとファーストからヒットした「2 Phones」(2016年17位)から一貫して芸風はトラップ・ヘヴィーなビートにメロディアスなトラックでキャッチーさを売りにする、という感じで今回もそのスタイルは大きく変わってないけど、何かあんまりメロディのキレがない感じ。まあいずれにしてもトラップってだけで最近は飽きられてる感あるので、このままのスタイルで行くのはケヴィン君も厳しいんじゃないかな。

"Dave’s Picks, Volume 49: Frost Amphitheatre, Stamford U., Palo Alto, CA 4/27/85 & 4/28/85" by Grateful Dead

続いて25位にエントリーしたのは、毎度おなじみグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによるライヴ音源集第49弾『Dave’s Picks, Volume 49: Frost Amphitheatre, Stamford U., Palo Alto, CA 4/27/85 & 4/28/85』(しかしどうでもいいけどタイトル長いなw)。前回の第48弾はCD3枚組だったけど今回はどーんとCD4枚組。25,000セットの限定販売というのはいつもの通りです。
今回は枚数多いってもあるんでしょうが、いつもよりカバー曲が目立つセットリストで、モータウンの「Dancing In The Street」やディラン、チャック・ベリーそしてスペンサー・デイヴィス・グループGimme Some Lovin’」なんかもやってます。ところで今回のこのアルバムで、グレイトフル・デッドのトップ40アルバムが59作目になって、何とそれまでの記録だったフランク・シナトラエルヴィス・プレスリー(共に58枚)を抜いて新記録を樹立したようです。まあといってもバンド自身がリリースしている訳でもないので、やや水増しな記録のような気はしますね。

"Wall Of Eyes" by The Smile

さてぐっと下がって42位にエントリーしてきたのは、これてっきりトップ10には来ると思ってたんですけど、レディへトム・ヨークのバンド、ザ・スマイルの2枚め『Wall Of Eyes』。前作の一作目『A Light For Attracting Attention』(2022)がUK5位に対してUS19位とちょっと残念だっただけに今回は頑張って欲しかったんですが、今回はUK 3位に対して42位と、更に残念な結果になってます。

前作の時もちょっと思ったんだけど、今回アルバム聴いてみて改めて基本リズム隊が全く変わったレディヘと言ってもいいこのバンド、自分には向いてないなと思いました。自分が『OK Computer』からの3部作でレディへに魅了されたのは、「No Surprises」や「Karma Police」のようにトム・ヨークが作り出すアーティで先鋭的なサウンドスケイプに、そこはかとなく魅力あるメロディと基本的だけどしっかりグルーヴを持ったビートが渾然一体となって作り出される音世界だったんだな、と。音楽メディアの評価は一様に高いけど(メタクリティック85点)残念ながらこのアルバムの少なくとも前半4曲はトムのサウンドスケープは前衛的でエッジがあるけど、ビートもメロディもなくて、正直聴くのが辛い感じ。ピアノがメイン楽器の一つになる後半では、何だかミニ「A Day In The Life」みたいな「Friend Of A Friend」やようやくメロディが感じられる「Bending Hectic」とかにホッとしてました。UKでもウケが良いし、このアルバム今年の年間ランキングで上位に入れる音楽メディア多そうだけど、自分的にはフルメンバーでのレディへの新譜の方を期待しますね。

"All Is Yellow" by Lyrical Lemonade

続いて43位初登場は、リリカル・レモネードというアーティスト名のアルバム『All Is Yellow』。リリカル・レモネードって何だろう?と思って調べると、これ、イリノイ州出身今年若干27歳ながら、このリリカル・レモネードというブランドで、ネット上のヒップホップ情報・プロモーション・サイトを運営しているコール・ベネットという白人男性のアーティスト・プロジェクト名のようです。彼は高校生時代からこの名前のブログをスタート、その後同名のネットサイトを使ってブレイク前のラッパーを取り上げて推し発信したり(彼がブレイクしたラッパーはリル・パンプ、スキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドら)、ライブ中継したりといったことをやってたみたい。その彼がヒップホップ・クリエイターとしてブレイクしたのは2018年、当時まだブレイク前夜だった故ジュースWRLDの最大ヒットとなった「Lucid Dreams」(2位)のMVの監督の仕事。これで知名度と業界での存在感を一気に獲得したコールはその後もジャック・ハーロウWhat’s Poppin」、エミネムGodzilla」といった大ヒット曲のMVの監督してヒップホップ界の重要人物に、そしてリリカル・レモネードは今やヒップホップの老舗レーベル、デフ・ジャム/ユニバーサルグループ会社の一つになってるらしい。

今回のアルバムも、彼自身はソングライティングとプロデュースに関わってるだけでパフォーマンスはしておらず、むしろ彼のブランドで作ったヒップホップ・コンピ・アルバムというスタイルのアルバム。ちょうど2年前にヒットしたNIGOこと長尾智明のアルバム『I Know NIGO』(2022年13位)と同じスタイルの作品ですね。参加ゲストは故ジュースWRLDエミネム、ジャック・ハーロウなど彼ゆかりのラッパーを筆頭に、リル・ダーク、キッド・カディ、リル・ヤティ、ザKIDラロイ、デンゼル・カリー、スウェイ・リー、ジョーイ・バッダスなど、いやあ実に多士多才のラッパー陣がずらりと並んでます。しかしこの顔ぶれだったらもう少し上位に入ってきてもいいのに、と思いますが、メディア評で「いっぱい詰め込みすぎ」というのもあるのでその辺がイマイチチャートアクションが伸びてない原因かもしれません。ただトラップに偏ってるということもないので、今どきのヒップホップの幕の内弁当的に楽しむにはいいかもしれませんね。

"Everybody Can't Go" by Benny The Butcher

さてそこからさらにぐーっと下がって93位エントリーは、ニューヨーク州北部バッファローのラッパー、ベニー・ザ・ブッチャーの4作目のアルバム『Everybody Can’t Go』。2022年の前作、2020年の前々作はいずれもトップ30入りしてましたが、ここでもトラップベースの二線級ラッパーのチャート上地盤沈下現象です。今回はEMPIRE系のディストリビューションから老舗デフ・ジャムの配給でのリリースだけにもう少しいい成績を期待してたでしょうけどね。

シングルマザーの母に育てられ、8人兄弟の2番目ということもあってか、ティーンエイジャーの頃からバッファローのストリートでヘロインディーラーやってたというかなり荒んだ経歴のやつで、リリックの内容もそういうストリート・ライフ中心で、リリックを追うとかなりテンション下がりそうなんですが、この人デビューからアルケミストとか、最近一連のナズのアルバムで素晴らしい仕事をしてて先日のグラミー賞でも最優秀プロデューサー部門にノミネートされてたヒットボーイとか、とても腕利きでクオリティ高いサウンドメイカー達にプロデュースをしてもらってるので、トラック聴いててもストリート系にありがちな陰惨さとかどうしようもないダウナーでネガティブな雰囲気、みたいなものがもの凄く希薄で、いちラップ・アルバムとしてはそこそこ聴ける内容に仕上がってるんですわ。メディアやシーンでの評価も結構高くて(メタクリティック82点)、リリックが細かく理解できない我々日本人のラップ・ファンには実はいいアルバムかもしれません(笑)。

"Hazbin Hotel: Season One (Pt. 1) (EP)" Soundtrack

そして今週100位までの最後の初登場は、95位に入ってきたアマゾン・プライム・ビデオでこの1月からストリーミングされてるブラック・コメディ仕立てのアダルト・アニメTVシリーズのサントラ盤『Hazbin Hotel: Season One (Pt. 1) (EP)』。地獄の女王、チャーリー・モーニングスターは実は心優しくて、地獄に堕ちてくる罪人たちが増えすぎると天国から天使が降りてきて彼らを殺してしまう、という実情に心痛めていて、何とか罪人たちを更生させて天国に送れるようにする「ハズビン・ホテル」をオープンしたいと奮闘する、というなかなかユニークなお話のアニメ。このアニメ、プロットのユニークもさることながら、全編ミュージカル仕立てということでこのサントラ盤には各エピソードで歌われた楽曲が収録されてるというもの。聴いた感じだと『ハイスクール・ミュージカル』っぽい乘りのポップ・ミュージカル・ナンバーが収録されてて、アニメのファンならきっと楽しめるだろうなあ、という内容。もう一つ注目すべきはこのアニメを配給してるのが、昨年のアカデミー賞を総なめにした『Everything Everywhere All At Once』や、つい先日発表の今年のエミー賞で8部門受賞したネットフリックスのミニシリーズ『Beef』を配給したA24社だということ。今乗りに乗ってる映像配給会社がまたヒットを飛ばしたわけです。

ちなみにこのパート1のEPは先週のチャート集計対象期間リリースだったんですが先週はチャートインせず、一週遅れでリリースされたパート2共々今週チャートインしたもの(パート2は今週189位にエントリーしてます)。パート3も今週リリースされてますので、来週のチャートにエントリーしてくるかもしれません。なお、思いっきり余談ですが、このシリーズで女性の小悪魔ニフティの声をやってる日系二世俳優のキミコ・グレンさんは私の友人の娘さんで、アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)でペニー・パーカーの声担当もしてた方です。これ発見して、この『Hazbin Hotel』、ちょっと見てみたくなりました。

さて久しぶりに100位までにトータル6枚初登場と賑やかになってきた今週の全米アルバム・チャートですが、一方Hot 100の方は、今週も首位交代、ミーガン・ザ・スタリオンの新曲「Hiss」が初登場1位を飾ってます。これで彼女のナンバーワンヒットは2020年のビヨンセとの「Savage」とカーディBとの「WAP」に続く3曲目、ソロでは初のナンバーワンヒットになりますね。最近例のトーリー・レインズに足を撃たれた事件とその裁判沙汰で忙しかったらしく、あまり活動が目立ってなかったんですが、マライア、ドレイクを始めそのトーリー・レインズもコテンパンにディスってるこの曲のナンバーワンが復活第一弾、ということですね。いやあしかしこの曲でのミーガン、迫力あります。この曲、来週のチャートの集計期間初日である2/2付スポティファイ・デイリー・チャートでも1位を守ってるので、来週も2週目の首位をキープしそう。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (2) (48) One Thing At A Time - Morgan Wallen <66,000 pt/1,500枚>
2 (1) (3) American Dream - 21 Savage <61,000 pt/310枚*>
3 (3) (17) For All The Dogs - Drake <51,000 pt/76枚*>
4 (5) (62) Stick Season ● - Noah Kahan <47,000 pt/3,381枚*>
5 (6) (14) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <45,000 pt/10,000枚>
6 (7) (60) SOS ▲3 - SZA <42,000 pt/1,942枚*>
*7 (10) (232) Lover ▲3 - Taylor Swift <40,000 pt/8,000枚>
8 (9) (23) Zach Bryan ● - Zach Bryan <40,000- pt/2,666枚*>
9 (11) (67) Midnights ▲2 - Taylor Swift <38,000 pt/6,000枚>
*10 (13) (160) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <37,000 pt/433枚*>

モーガン野郎がダブルゾンビー復活で1位になってしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後に恒例の来週の1位予想(チャート集計対象期間:2/2-8)ですが、皆さん悪い知らせです。今週も7万ポイント叩き出せそうな新譜のリリースはなし。ということは来週モーガン野郎が大きくポイントを減らさない限りはゾンビーがもう一週首位に残ってしまう可能性が大、ということになります。そんなことにならないよう、せいぜい祈ることにしましょう。ではまた来週。

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