見出し画像

DJ Boonzzyの第66回グラミー賞大予想#7〜アメリカン・ルーツ部門(その1)

さて前回、部門の編成でこのアメリカン・ルーツ部門がカントリー部門と統合された、というお話しをしたので、ここで今回のグラミーの部門統合再編がどうなったか、簡単にまとめておきます。前回第65回までは、91の各個別部門(カテゴリーといいます)が大きく下記の27の部門(フィールドといいます)に分けられてました。

こうして列記してみると1カテゴリーのみのフィールドが6つもあったり不必要にフィールド数が多く細分化されすぎていたことが判りますね。各アカデミーメンバーは、主要部門に1票の他、10票を残り26フィールドのうちマックス3フィールドに亘って投票できるということになってましたから、極めて票がばらけやすい構造だったわけです。
それが今回第66回から、カテゴリー数は3つ増えて94になりましたが、フィールド数が大幅に削減されて下記の12になりました。

やや無理矢理まとめた感のあるフィールドもありますが、これでアカデミー会員が10票投票できる分野が同じマックス3フィールドでも大きく広がることになり、票の偏りが大分と解消されるような気がしますね。というわけで前置きが長くなりましたが、今度は第5フィールドの後半、アメリカン・ルーツ部門の予想、その1です。

28.最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門

◎ Butterfly - Jon Batiste
  Heaven Help Us All - The Blind Boys Of Alabama
✗ Inventing The Wheel - Madison Cunningham
○ You Louisiana Man - Rhiannon Giddens

  Eve Was Black - Allison Russell

去年の第65回から新たに「アメリカーナ・パフォーマンス部門」が出来て以来引っかかってることの一つは、「アメリカン・ルーツ・パフォーマンス」と「アメリカーナ・パフォーマンス」って何が違うの!ということ。ここ2年のノミニーの顔ぶれとかを比較してみて、アメリカーナの方がちょっとだけ気分カントリーやブルース寄りで、アメリカン・ルーツの方が「ルーツ」って言うだけあって気持ちロック寄りなのかな、との思うのですが、去年のアメリカーナを受賞したのが思いっきりロックなボニー・レイットの「Made Up Mind」だったし、今年はマルチレイシャルな女性シンガーソングライターのアリソン・ラッセルブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマが両方にノミネートされてるし、一体どうやって決めとんねん!とちゃぶ台引っくり返したくなるのは自分だけでしょうか。

そんなことを思いながら予想しようとこの部門の顔ぶれを見ると、明らかに光ってるのがジョン・バティースト。この曲、主要4部門のSOYにもノミネートされてますが、決して悪い曲ではないものの、地味なピアノバラードでSOYにノミネートって、2年前のセンセーショナルな彼へのイメージがあっての過大評価じゃないの?と個人的には思ってました。ただそうやって主要部門ノミネートってことは、個別ジャンル部門に降りてくると強力な受賞候補、ってことはあるあるなので、ここは一応彼に本命◎付けとこうかな。後で主要部門の予想のところでも多分言いますが、正直今回のジョン・バティーストのアルバム『World Music Radio』は悪い作品じゃないと思うけど、前回最優秀アルバム部門受賞した『We Are』に比べるとかなり散漫な作品で、前作の残像で今回ノミネートされてるんじゃないか、と思ってるもんで。

残る4組のうち、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマは、過去5回グラミー受賞してますがすべてゴスペル部門の受賞で、このアメリカン・ルーツ部門では無冠なので外すとして、残り3組はどれが受賞してもおかしくないメンバー。その中で過去の受賞経験があるのが新感覚の西海岸シンガーソングライターのマディソン・カニンガムと、トラディショナルなマウンテン・ミュージックや南部R&Bに出自を持つソウルフルな歌声が素晴らしいリアノン・ギデンズなので、このどちらかが対抗◯だと思うのですが、悩みに悩んだあげく、アルバム『You’re The One』も素晴らしかった(自分の年間アルバムランキングで34位に入れてました)リアノン・ギデンズの南部の香り溢れるソウルフルな「You Louisiana Man」を対抗◯に。2023年リリースされた、昨年の最優秀フォーク・アルバム部門を受賞した『Revealer』(2022)のデラックス・バージョンに収録のマディソン・カニンガムの「Inventing The Wheel」は穴✗ということになりました。

29.最優秀アメリカーナ・パフォーマンス部門

  Friendship - The Blind Boys Of Alabama
✗ Help Me Make It Through The Night - Tyler Childers
◎ Dear Insecurity - Brandy Clark featuring Brandi Carlile
○ King Of Oklahoma - Jason Isbell And The 400 Unit

  The Returner - Allison Russell

先程「アメリカーナ・パフォーマンス」が気持ちロック寄りかも、と言った理由の一つは、ここに今のアメリカーナ・シーンの重鎮とも言えるジェイソン・イズベルがノミネートされてる、というのもありました。アラバマ出身の彼のベースはカントリーやブルーズというよりはそれらを混然と取り込んだサザン・ロック的なスタンスであり、それが広くシーンからも支持されている大きな理由だと思うんですよね。今回のアルバム『Weathervane』も素晴らしい作品で自分も年間アルバムランキングの17位に入れました。ただ今回のノミニーの顔ぶれで、ジェイソンと同じくらい存在感を感じるのがブランディ・クラーク。ケイシー・マスグレイヴスの出世作「Follow Your Arrow」の共作者として有名な彼女は、自分のこれまでのイメージとしては「カントリーの人」だったんですが、今回のアルバム『Brandy Clark』はカントリーの枠を超えたロックやインディ・フォークにも通じるシンガーソングライター・マナーが素晴らしいアルバムで、そこからこの部門にノミネートされてる「Dear Insecurity」が、この曲を含めてアルバムをプロデュースしデュエットしているブランディ・カーライルが乗り移ってるの?と思うくらい切迫感溢れるバラードなんですよね。ブランディ・カーライルといえば言わずと知れたグラミー・ダーリンで、最近はジョニ・ミッチェルの後見人的な大きな存在感の持ち主。その彼女がバックについたブランディ・クラークのこの曲、どうも本命◎のような気がして仕方がありません

そうなると、70年代サザンロック・マナーがグッと来るジェイソン・イズベルの「King Of Oklahoma」は残念ながら対抗◯ということになります。これがソング部門にノミネートの「Cast Iron Skillet」の静かに迫りくるようなバラードだったら、いい勝負だったんですが。

そして穴✗は、おおここにノミネートされてたか、よくやった!と言ってあげたくなる、タイラー・チルダーズのこちらも胸に迫ってくるような訥々としたクリス・クリストファーソンのカバー「Help Me Make It Through The Night」に付けるしかないでしょうねえ。この曲、そしてタイラー・チルダーズがなぜいいか、についてはカントリー部門の予想ブログに書いてますので、そちらもご参照下さい。

30.最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門(作者に与えられる賞)

  Blank Page - The War And Treaty (Michael Trotter Jr. & Tanya Trotter)
  California Sober - Billy Strings featuring Willie Nelson (Aaron Allen, William Apostol & Jon Weisberger)
◎ Cast Iron Skillet - Jason Isbell And The 400 Unit (Jason Isbell)
○ Dear Insecurity - Brandy Clark featuring Brandi Carlile (Brandy Clark & Michael Pollack)
✗ The Returner - Allison Russell (Drew Lindsay, JT Nero & Allison Russell)

そしてアメリカン・ルーツだろうが、アメリカーナだろうが、とにかくこのジャンルにおける最高楽曲を讃えよう、というのがこのソング部門の目的だと思うので、ここにいきなり他のこの部門のカテゴリーにノミネートもされてない、ザ・ウォー・アンド・トリーティービリー・ストリングスの曲を持ってこられても唐突感しかないわけで。まあ、前者は最優秀新人部門、後者は最優秀ブルーグラス・アルバム部門にノミネートされてますけど、ここはそれ以外の3人、ジェイソン・イズベル、ブランディ・クラーク、アリソン・ラッセルの中から選んであげるのが筋ってもんだと思いますね。

となると、この前2カテゴリーで無印にしているアリソン・ラッセルは勢い弱くなってしまうので(この曲もアメリカーナらしくない、複雑な楽曲構成の非常に面白い曲ではあるのですが)穴✗にならざるを得ないですね。では本命◎はジェイソンかブランディか。これねえ、この前のカテゴリーの予想のところで触れましたが、いずれも素晴らしい楽曲で正に甲乙付けがたいのですが、自分としては、アルバム『Weathervane』の中で一二を争う名曲「Cast Iron Skillet」に本命◎を付けてあげたいですね。この曲を聴いていると、ジェイソンが奥さんのアマンダと二人、アコギとフィドルだけで素晴らしいステージを見せてくれた、2020年1月のあのビルボード・ライブ東京でのライブをまざまざと思い出させてくれますから

そして◯対抗はブランディ・カーライルが乗り移ったようなブランディ・クラークの「Dear Insecurity」。繰り返しますが、この曲もかなりヤバいです。

31.最優秀アメリカーナ・アルバム部門

◎ Brandy Clark - Brandy Clark
  The Chicago Sessions - Rodney Crowell
✗ You’re The One - Rhiannon Giddens
○ Weathervanes - Jason Isbell And The 400 Unit

  The Returner - Allison Russell

最後のアルバム部門。ここまでの流れから行って、どう考えてもここでもジェイソン・イズベルとブランディ・クラークの一騎打ちというのはもう既定路線。ただこれは、ジェイソン・イズベルブランディ・カーライルの代理戦争のような様相もあります。というのも、ブランディ・クラークが今回これだけ一皮むけた楽曲やパフォーマンスを見せているのは、間違いなくアルバムをプロデュースしたブランディ・カーライルの存在が大きいのは間違いないところ。ジェイソンブランディ・カーライルも過去にこの部門で2回受賞してますから、そういう意味では実力者同士の勝負ということになります。ただ、ブランディ・クラーク自身の存在も当然彼女のアルバムには大きい要素であり、楽曲を書いているのはカーライルではなく、クラークの方だということも忘れてはいけないところ。ブランディ・カーライルが「このアルバムのために書かれた曲を聴いた時、まるでルシンダ・ウィリアムスの『Car Wheels On A Gravel Road』を初めて聴いた時のような気持ちになったの」と言ってますが、正にそれに近い、あの90年代アメリカーナが素晴らしかった時代の作品を彷彿とさせる輝きが感じられるアルバム、それがこのブランディ・クラークのアルバムだと思います。なので、本命◎はブランディ、そして対抗◯はジェイソン、とせざるを得ません。ただ自分的にはどちらも取って欲しい、といのが本音です。

こういう風に考えると、昨年のアメリカーナ系にはレベルの高いアルバムが多かったなあ、とつくづく思います。自分的にはその筆頭はザック・ブライアンの『Zach Bryan』なんですが、どうもグラミー・アカデミーは彼をカントリーとしてしか評価してないようなのがつくづく残念です。で、最後に穴✗はというと、まあ穴✗付けるということ自体申し訳ないくらい、こちらも匂い立つようなリアノンの素晴らしい歌声と躍動感溢れる楽曲満載の、彼女久々のアルバム『You’re The One』しかないですね。アリソン・ラッセルロドニー・クロウウェルには申し訳ないですが。

アメリカン・ルーツ部門、前半だけで結構長くなってしまいました。この後、ブルースやフォークなどのアメリカン・ルーツ部門後半行きますね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?