【恒例洋楽年初企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#10~アメリカン・ルーツ部門(その2)
この三連休くらいからぼちぼち桜の開花予報も出ているし、三連休明けはマンボウも解除になるということでようやく伸び伸びとした春が迎えられそうではありますが、一方でやはり気にかかるのはウクライナの情勢と先日の久々の大きめの地震。ウクライナの惨状を思い、そしてコロナも完全に収束したわけではまだないので、数年前のように何も考えずにぼーっと桜を楽しむ、と言う風になかなかいかなくなってしまったこの時代、せめて一人一人が心に音楽を持って平和と安全を祈るしかないですね。
さてこのDJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想ブログ、3/31開催予定の吉岡正晴さんとの「ソウル・サーチン・ラウンジ〜グラミー賞大展望・予想」までには何とか全部門予想を完了しなくてはいけないので、ちょっと急ぎます。今回はアメリカン・ルーツ部門の後半、ブルース部門とフォーク部門です。
40.最優秀トラディショナル・ブルース・アルバム部門
◎ 100 Years Of Blues - Elvin Bishop & Charlie Musselwhite
○ Traveler's Blues - Blues Traveler
× I Be Trying - Cedric Burnside(受賞)
Be Ready When I Call You - Guy Davis
Take Me Back - Kim Wilson
「伝統的」ブルース部門と言う路線とはちょっと違うんですが、去年はこの部門受賞2回目を決めた、デルタ・ファンク・ブルースの雄、70年以上の芸歴を誇るボビー・ラッシュがガリガリのブルース・ファンク・アルバムで受賞していましたが、今年のノミネーションは正しく部門名にふさわしい、伝統的スタイルのブルース・ミュージシャン達がずらりとならんでます。でも、大ベテランのブルース・ハーピスト、チャーリー・マッスルホワイトが2014年第56回にベン・ハーパーとのコラボで1回受賞している以外は、どのノミニーが受賞しても今回初受賞、というある意味フレッシュな顔ぶれでもあります。
とはいえ、その中で一際存在感を見せているのは、我々シニアなトップ40ファンには1976年の全米第3位の大ヒット「Fooled Around And Fell In Love(愛に狂って)」(ボーカルは後にスターシップに入るミッキー・トーマスでしたが)でお馴染みのエルヴィン・ビショップと、先ほど名前の出たチャーリー・マッスルホワイトのコラボによるまあ、コテコテのブルース・アルバム、タイトルも『ブルースの100年』。もう心底ブルース大好きな、ブルース・ギター親父と、ブルース・ハープ親父が楽しそうにひたすらブルースやブギーをぶちかましてる、っていう風情が微笑ましいアルバムです。これはもう本命◎付けるしかないでしょう。
対抗○には、第38回1996年にこちらも全米第8位の大ヒット「Run-Around」で最優秀ロック・グループ・パフォーマンス部門を受賞してますが、このブルース部門では何と今回初ノミネートになる、こちらも巨漢のブルース・ハーピスト、ジョン・ポッパーを擁するニュージャージー州のバンド、ブルース・トラヴェラーの楽しげなブルース・ロック・アルバム『Traveler's Blues』に付けました。2000年代に入ってからはチャートからは遠ざかってますが、2〜3年ごとに新作は出し続けて活動を続けている彼ら、このアルバムではケブ・モーらの同輩ブルースマン達の他、R&Bデュオのザ・ウォー&トリーティや女性R&Bボーカリストのウェンディ・モーテンらR&B系のアーティスト達も客演して、こちらも正統派ブルース・ロック、という特に我々シニアなロックファンにも楽しめる内容で、受賞資格は充分では、と思います。
穴×は、あのデルタ・ブルース・レジェンド、R.L.バーンサイドの孫で、ここ最近この部門のノミニー常連になりつつある(今回のノミネートが3回目)セドリック・バーンサイドのギターによるブルース・ナンバーが腹に染みいってくる『I Be Trying』に。
41.最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門
◎ Delta Kream - The Black Keys Featuring Eric Deaton & Kenny Brown
× Royal Tea - Joe Bonamassa
Uncivil War - Shemekia Copeland
○ Fire It Up - Steve Cropper
662 - Christone "Kingfish" Ingram(受賞)
毎年吉岡正晴さんとのイベントでも必ず盛り上がるこの部門、吉岡さんご懇意のブルースギタリスト、マサ小浜さんが必ずバックアップを務めるファンタスティック・ネグリートのアルバムがノミネートすると大体受賞するんですよね。この部門は第59回2017年創設で、これまで5組しか受賞者がいないんですが、そのうち何とネグリートは3回取ってるという(笑)。ただ今回は彼はいません。あとひょっとしたらこの部門に、あのテデスキ・トラックス・バンドの『いとしのレイラ』再現ライブアルバムがノミネートされるかも、と思ったんですが、残念ながらそれはなかったようで。
で、今年のノミネーションの中で、まあこれ明らかに最有力だなあと思うのは、あのブラック・キーズが、先ほど名前の出たR.L.バーンサイドらをはじめとしたミシシッピ・デルタ・ブルースのレジェンド達の楽曲の数々を、彼らのバンドサウンドでかなり正統派スタイルでカバーしている『Delta Kream』。これ、自分の周りのシニアなロック・ファンの間でもかなり評判いいんですよね。考えてみると70年代初頭のロック・ミュージシャン達、特にイギリスの連中はこのあたりのサウンドに憧れてカバーしたり影響受けた作品を作ったりして、それがスワンプ・ロック、なんて言われてたのを当時のロック・ファン達は熱く聴いてたわけなんで、そういう意味ではドストライク(全くコンテンポラリー、ではないんですが笑)な作品で、これはチャートでもトップ10に入ったし、本命◎間違いないところでしょう。
そしてそれに負けず劣らず、強力なぶっといギターサウンドとソウルフルな塩辛いボーカルで「これぞメンフィスサウンド!」って感じでブルースロックをぶちかましてくれているレジェンド、スティーヴ・クロッパーの『Fire It Up』。スティーヴ・クロッパーといえば当然メンフィスだし、スタックスだし、ブッカーT&MGズだし、アトランティック・ソウルなんですが、彼の仕事はその殆どがそうした作品のセッション・ギタリストとしてのもので、彼自身のソロアルバムって実はあんまり多くないんですよね。でもねえ、このアルバムはいいですよ。聴いてるとそのソウルフルでグルーヴ満点のサウンドに身体は動くは、ほっぺたはほころぶは、ウィスキーが飲みたくなるは、ってな感じで一気に気持ちはメンフィスのビール・ストリートのライブハウスに持って行かれるんです。何気にバッド・カンパニーのサイモン・カーク(ドラムス)とかフェリックス・キャヴァリエなんかも参加していて、シニアなロック・ファンだとこちらにも反応するかも。ブラック・キーズいなかったら間違いなくこちらが本命でしょうが、ここは残念ながら対抗○で。
そして穴×は、デビュー時は天才ブルース・ギタリストと言われてたのにもう中堅株になってしまった、UKブルースやトラッドの影響を公言しているジョー・ボナマサのよりロック・スタイルを感じさせるアルバム『Royal Tea』に。
42.最優秀フォーク・アルバム部門
× One Night Lonely (Live) - Mary Chapin Carpenter
Long Violent History - Tyler Childers
Wednesday (Extended Edition) - Madison Cunningham
◎ They're Calling Me Home - Rhiannon Giddens with Francesco Turrisi(受賞)
○ Blue Heron Suite - Sarah Jarosz
さてこのフォーク部門、トラディショナル部門とコンテンポラリー部門が統合された2012年第54回から予想を始めたんですが、これまで10回の予想のうち、本命◎を付けた作品が受賞したことが1回だけなんですよね(笑)。自分的にも大変思い入れの強い部門でもあるが故に力んで空振り、というのもあるんでしょうけど。で、昨年は自分の年間アルバムランキング11位に入れたローラ・マーリングの『Song For Our Daughter』に本命◎付けたんですが、大御所のギリアン・ウェルチとデヴィッド・ローリングスのデュオが余裕で受賞してました。
そして今年ですが、いやいや今年も素晴らしい作品がてんこ盛りじゃないすか。前作『The Dirt And The Stars』が素晴らしかったメアリー・チェイピン・カーペンターが、地元ヴァージニアのコンサート会場で無観客で自分のキャリアを総括するぼっちライブをやったライブ盤。アパラチアン・ミュージックの伝統を今に伝えるケンタッキー出身のギタリスト、タイラー・チルダーズがBLMに反応して書いた人種差別プロテスト・ソングを核に、古くからの伝統曲をカバーした静かなプロテスト・アルバム。一昨年セカンドアルバムが最優秀アメリカーナ・アルバム部門にノミネートされてブレークしたカリフォルニア出身のマディソン・カニンガム(今回のスプラッシュイメージの女性です)が、自分が影響を受けたトム・ウェイツ、ビートルズ、レディへ、ジョン・メイヤーらの曲を匂い立つようなアコースティック・カバーでまとめた素晴らしいEP。今やアメリカーナ・シーンを代表するアーティストで、過去2回この部門にノミネートされながら受賞を逃しているリアノン・ギデンズがジャズ・ピアニストのフランチェスコ・トゥリシとコラボした静謐な名盤。そして前作が最優秀アメリカーナ・アルバム、前々作がこの部門受賞しているマンドリン/バンジョー奏者のサラ・ジャローズが、母親の乳癌宣告を受けて子供の頃によく家族で過ごしたテキサスのメキシコ湾沿いの海岸で良く見た青鷺(blue heron)を希望のシンボルに見立てた心に響く楽曲集。やあ、どれが取っても全くおかしくないなあ、困った。
でも予想しなきゃいけないので(笑)。ここ2作グラミー受賞しているサラが強いのは間違いないんだけど、最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門にもノミネートされてたし、ここは3度目の正直でリアノンが取るんじゃないか、ということで本命◎はリアノン、サラは対抗○で。リアノンはコロナ前にブッキングされていた2020年の来日公演が中止されちゃってるので、今年のフジロックとかに来ないかなあと妄想中。ちょうどフジロックの一週間前のニューポート・フォーク・フェスティバルに出演後は一ヶ月くらいツアー日程がないようなので、可能性はありそうです。そして穴×は前作が大好きだったメアリー・チェイピン・カーペンターの無観客ライブ盤に。
さてこの次はミュージカル、ヴィジュアルメディア系、そしてプロデューサー部門の予想発表。その後はいよいよ主要四部門の予想と、何とか3/31までの予想完了が見えて来ました。お楽しみに。
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