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【恒例洋楽年初企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#9~アメリカン・ルーツ部門(その1)

ウクライナからは依然日々胸の痛むようなニュースが入ってきます。プーチンは兄弟国であるウクライナにこういう惨状を起こさせていることを国民に見せないためにインターネットをブロックしているっていうのですが、ロシア国民でこの実情を知っている人々もいるからこそ、ああして国内のあちこちで反戦デモが起きてるんじゃないでしょうか。それともその規模が限られているのか。ロシア国民にもっと実情を知ってもらって内側からこの暴挙を止める力になって欲しいものです。一方今日はあの3-11(東日本大震災)から11年目。当時の惨状に思いを馳せながら、静かに黙祷を捧げていました。どんな形でも罪のない人々が犠牲になる事態がこれ以上起きませんように。

さて気を取り直してあと16部門となったこのDJ Boonzzyの第64回グラミー賞予想ブログ、今回は自分の音楽指向の軸の一つでもあるアメリカン・ルーツ部門です。予想に入る前に、ここ毎年やってる音楽評論家の吉岡正晴さんとのプレ・グラミー・トーク&DJイベント「ソウル・サーチン・ラウンジ~グラミー賞大展望・予想」ですが、マンボウ延長の関係で再び日程を3/31(木)に変更して、今年は何とかフィジカル開催を目指してます(去年はZoom開催)!いつもの新宿カブキラウンジで、吉岡さんとの掛け合いでいろんな角度から今年のグラミーを斬る!というイベントですので、マンボウ開けの景気づけに是非お立ち寄り下さい。くわしくはこの↓吉岡さんのリンクにて

ということでとっとと行きます。まずはアメリカン・ルーツ・カテゴリーから。

36.最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門

× Cry - Jon Batiste(受賞)
  Love And Regret - Billy Strings
◎ I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free - The Blind Boys Of Alabama & Béla Fleck
  Same Devil - Brandy Clark Featuring Brandi Carlile
○ Nightflyer - Allison Russell

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さて、自分の音楽指向のアイデンティティの一つを形成しているアメリカン・ルーツ部門なのに、過去6回の予想で本命◎が来たのが2019年第61回のブランディ・カーライルの時だけで、去年やっとコロナで亡くなったジョン・プラインの受賞を対抗○で拾ったという、実は毎年予想に苦労しているカテゴリーなんです。まあ、アメリカン・ルーツという分野が、ロック、カントリー、R&B、ブルース、フォーク、ブルーグラスといったまあ幅広い範囲をカバーしてる多様性の塊みたいなもんなのである意味当然といえば当然なのかも。そんなこのカテゴリー、今年はR&B系が2組、フォーク系1組、ブルーグラス系1組、そしてR&Bとブルーグラスのミックス(というか南部ゴスペルっぽい組合せ)が1組と見事にばらけてます。

今回のグラミーの台風の目の一人、11部門ノミネートのジョン・バティーストも当然この中では目を引くわけですが、このブルース調のR&B曲「Cry」は、あのアルバム『We Are』の中ではやや地味でもあるし、ここは穴×くらいが妥当かな、と思ってます。一方、全く違う意味でぐっと目を引くのは、超ベテランのゴスペル・コーラス・グループ、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマと、バンジョーの名手、ベラ・フレックがコラボした、あのニーナ・シモンの名唱で有名なアメリカ黒人市民権運動のアンセム「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free(自由になるってどんな感じかわかったらいいのに)」。これ、1960年代後半から70年代前半にかけてのあの市民権運動時代に戻ったかのような、ここ数年のアメリカでのジョージ・フロイド事件とそれに続くBLM、更にトランピスト達による国内の分断状況を見るにつけ、こういう曲が改めてアカデミーのメンバーを初め全米の音楽関係者達の琴線に触れる、というのはすごくあるシナリオだろうなあ、と思うんですよね。去年6月のレコード・ストア・デイ向け限定で2,000枚だけヴァイナル・プレスされたこのシングル、時代性といいそのメッセージといい強力だと思うんで本命◎です。

そして対抗○は、マルチレイシャルな出生、精神的に不安定なシングルマザーの母、白人の継父による性的虐待に耐えられず出奔ーといったトラウマに満ちた少女時代を送ってきたカナダ人女性シンガー・ソングライター、アリソン・ラッセルの初ソロアルバム『Outside Child』からの「Nightflyer」に。NPRのタイニー・デスクでのライブをYouTubeで観て、その存在感とR&Bだけでなくフォークやブルースといった多様な音楽性と世界観で自分の歌を紡ぐアリソンのパフォーマンスにノックアウトされた自分。こんな凄いアーティスト、アルバムが出てたのに自分のアンテナに引っかからなかったことにまだまだ修行が足らんな、と思わせたそんな作品、一聴の価値ありですよ。

37.最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門(作者に与えられる賞)

○ Avalon - Rhiannon Giddens with Francesco Turrisi (Rhiannon Giddens, Justin Robinson & Francesco Turrisi)
× Bored - Linda Chorney Featuring Becca Byram, EJ Ouellette & Trevor Sewellzz (Linda Chorney)

  Call Me A Fool - Valerie June Featuring Carla Thomas (Valerie June)
  Cry - Jon Batiste (Jon Batiste & Steve McEwan)(受賞)
  Diamond Studded Shoes - Yola (Dan Auerbach, Natalie Hemby, Aaron Lee Tasjan & Yola)
◎ Nighflyer - Allison Russell (Jeremy Lindsay & Allison Russell)

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さて、今回の64回グラミー予想ブログで先月ポストしたラップ部門のところで、ドレイクがノミネーション受けた後に辞退したため、最初にグラミーのサイトに掲載されたノミニー・リストと、その後のノミニー・リストで内容が変わってる話をしました。実はこのアメリカン・ルーツ・ソング部門ではその逆の現象が起きていて、昨年11月末にグラミーのサイトに掲載されていたこの部門のノミニーは6組ではなく、5組しか表示されてませんでした。抜けていたのは、2012年第54回にも最優秀アメリカーナ・アルバム部門でノミネートされていた、女性シンガーソングライターのリンダ・チョーニー。ノミネーション締切の10分前に提出したという「Bored」は、ノミネーション発表のリストには載ってなかったので「ダメかー」と思っていたら、アカデミーからノミネートの知らせが来るし、ローリング・ストーン誌にはノミネートされたという記事が載るしと、リンダは「#@*&???」となってたんですが、たまたまアカデミーCEOのハーヴィー・メイソンJr.が大学の同窓だったので直接確認したところ、最初のリストは手違いでちゃんとノミネートされていたという、というドタバタ劇があったようなんです。そのリンダの曲、コロナで退屈な時に書いたの、というちょっとオールドタイミーな感じのミディアム曲ですが、こういう経緯もあったんで、敬意を表して穴×を付けときましょうね(笑)。

肝心の本命◎対抗○ですが、このカテゴリーと、この前のパフォーマンスカテゴリーの両方にノミネートされているのが、ジョン・バティーストとさっき対抗○を付けたアリソン・ラッセル主要部門のノミニーはかなりの確率で個別ジャンル部門で受賞するの法則にのっとると、ここはジョンということになるんですが、あのアルバムからの曲だと、やはり「I Need You」とか「Freedom」がかなり立ってて、しかもソング部門だったらこの「Cry」じゃないよなあ、という感じがするんですよね。一方アリソンの方は無茶苦茶存在感あって独得の世界観を紡いでいるこの「Nightflyer」、際立っててここはやはり本命◎はアリソンじゃないかなあ。

そして対抗○ですが、この人も過去にアメリカン・ルーツ部門では2017年第59回と2020年第62回に複数部門でノミネートされながら未だ無冠、アメリカーナの分野ではここ数年、荒涼としたアメリカ原野のイメージを想起させる独自の世界観で楽曲を紡いできているリアノン・ギデンズですかね。アリソンは勢いで来そうですが、リアノンにもかなりアカデミー会員の票が集まりそうな気がします。今回は2020年の時と同じくジャズ・ピアニストのフランチェスコ・トゥリーシとのコラボアルバム(この後のアルバム部門でもノミネート)からの曲です。

38.最優秀アメリカーナ・アルバム部門

◎ Downhill From Everywhere - Jackson Browne
  Leftover Feelings - John Hiatt with The Jerry Douglas Band
× Native Sons - Los Lobos(受賞)
○ Outside Child - Allison Russell

  Stand For Myself - Yola

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さてこのアルバム部門はこのアメリカン・ルーツ部門の中でも過去の10回の予想のうち、昨年のサラ・ジャローズの『World On The Ground』も含めて本命◎で当てたのが6回、対抗○で当てたのが4回と一番成績のいいカテゴリー(笑)。逆にいうと、毎回結構大御所の光る作品が2つくらいがノミネートされてるパターンが多いんですが、今回のこの部門、いやあジャクソン・ブラウン一択で本命◎なんじゃないですか?いや、今回のジャクソンのアルバム、「昔の名前で出てます」的な作品では全くなくてかなりの充実作なんで、受賞する資格も充分、といった感じなんですよ。今話題のフィービー・ブリッジャーズと共演している「My Cleveland Heart」とか昔と変わらないジャクソン節なのに、フィービーとコラボしても違和感ないし。2000年代以降、エレクトラ・アサイラムに切られてからはインディで『Time The Conqueror』(2008)、『Standing In The Breach』(2014)と6~7年に一作ずつながら、気骨溢れる作品を出し続けてその間来日も果たしているジャクソン今回のノミネートは本当良かったなあ、と思えるので謹んで彼に本命◎を付けます。

対抗○は今回このアメリカン・ルーツ部門で、ジョン・バティースト以外唯一3部門ノミネートのアリソン・ラッセルの素晴らしいアルバムに付けるとして、穴×を進呈したいのはロス・ロボスの6年ぶりになる英語によるロック・アルバム『Native Sons』。前作の『Gates Of Gold』(2015)が何だかちょっと枯れた感じだったのでもうロスロボスも円熟期なのかなあ、と思ってたのですが、今回のこのアルバム、いやあ何の何の、ファーストの頃に戻ったような(いい意味で)ラフで勢い溢れる作品あり、なごむナンバーありとなかなか素敵な作品なんですよね!バッファロー・スプリングフィールドの「For What It's Worth」や他ならぬジャクソンの「Jamaica Say You Will」、更にはビーチ・ボーイズの「Sail On Sailor」にウォーの「世界はゲットーだ!」などカバーのセンスとパフォーマンスも最高でして。90年代の尖った感じもいいんですが、ファーストの頃のナタでドシドシ切り刻んでくるような彼らが好きな方にはお勧めです。

39.最優秀ブルーグラス・アルバム部門

◎ Renewal - Billy Strings
○ My Bluegrass Heart - Béla Fleck(受賞)

  A Tribute To Bill Monroe - The Infamous Stringdusters
× Cuttin' Grass - Vol. 1 (Butcher Shoppe Sessions) - Sturgill Simpson
  Music Is What I See - Rhonda Vincent

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このブルーグラス部門は毎回知らない(勉強不足ともいうw)アーティストが多くて予想に苦労するんですが、今回は大御所から新進気鋭のアーティストまで、珍しく知ってるアーティストが5組並んでます。これもここ10年くらい気長に判らないながらも毎年予想して来た賜物でしょう。継続は力なり(笑)。
冗談はさておき、この部門、昨年はいろいろ深読みしすぎて、結局受賞したのが、まだ20代で、ブルーグラスの影響はもちろん、ジミヘンサバス、デフ・レパードデッドなどロックやメタルのファンでもあるという新進気鋭のギタリスト、ビリー・ストリングスラウンダー・レーベルからのデビュー作『Home』でした。これがブレイク作となって一気にその名を馳せたビリーが去年リリースした『Renewal』は、ビリー自身も共同プロデュースし、ギターだけではなくマンドリン、ピアノ、シンセ、ギター・バンジョーなどなどいろんな楽器をこなして作り上げた全16作のオーセンティックなブルーグラスながら若々しいロックセンスもあちこちに見え隠れする力作なんですね。自殺した友人からの最後のテキスト・メッセージをコーラスの歌詞にした「Hide And Seek」や、人権問題に言及する「Leaders」など、コンテンポラリーな視点も充分なこの作品、ビリーの2年連続受賞の可能性大ということで本命◎です。

そしてそれにかなり迫ってくるだろうと思われるのが、パフォーマンス部門でのブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマとのコラボ曲でもノミネートされていた、70年代から一線で活躍するバンジョーの名手、で過去14回とグラミー受賞経験も豊富な、ベラ・フレックの14作目のアルバム、そのタイトルも『My Bluegrass Heart』。彼自身のパフォーマンスも素晴らしいのですが、ゲストに先ほどのビリー・ストリングスパンチ・ブラザーズクリス・シーリー(マンドリン)とノーム・ピケルニー(バンジョー)、若き天才マンドリン奏者のシエラ・ハルに大御所フィドル奏者のデヴィッド・グリスマンなど、ロックフィールドに近いところでも活躍している蒼々たる面々が共演していて、とてもスリリングな作品になってます。こちらは余裕で対抗○付けられるでしょう。動画は、ナッシュヴィルのライマン音楽堂で行われたこのアルバムの再現ライブから。なかなか感動のパフォーマンスです

残る穴×には、去年のこのカテゴリーの予想ブログを書いてる時に聴いていて、「このアルバムがノミネートされてたら予想簡単なのに」なーんて言ってた、スタージル・シンプソンの自作曲のブルーグラス・カバー集『Cuttin' Grass』を挙げておきます。このアルバムが出た後でビリー・ストリングスベラ・フレックのあんな力の入った作品が出るようじゃ、もともとブルーグラスプレイヤーじゃないスタージルに付けるのは穴×が精一杯ですね。失礼しました

ということでまずはアメリカン・ルーツ部門前半の予想でした。今年は本当にレベルの高い戦いになりそうで今から結果が楽しみです。アメリカン・ルーツ後半はブルースとフォーク部門の予想、お楽しみに。

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