【恒例洋楽新年企画】DJ Boonzzyの第65回グラミー賞大予想#1~ポップ&コンテンポラリー・インスト部門
2023年も最初の一週間が過ぎ、そろそろ皆さんも日常に戻りつつあることと思いますが、今年も恒例により「第65回グラミー賞大予想ブログ・シリーズ」の期間限定連載を始めます。ご参考までに去年の第64回の予想ブログ、そして授賞式当日の生ブログをまとめマガジンにしてDJ Boonzzyのページに掲載していますので「昨年ってどんな感じだったっけ?」という振り返りにちょっと覗いて見て下さい。
ここ2年のグラミー賞はいずれも当初1/31授賞式の予定が、コロナの影響で第63回は3/14、第64回は4/3に大幅に延期されていましたが、今年は2/5(日)の夜(日本時間2/6月曜午前中)の開催が予定されています。中国でのコロナ感染拡大が気になるところですが、アメリカ本土ではコロナの影響はあまりなさそうで、今年は予定通りの日程での開催になりそうです。そうなると、去年までと違って今年はこの予想ブログの執筆スケジュールがかなりタイトになって来ますよね(汗)。授賞式当日までには何とか54部門の予想ブログを完走するつもりですが、1/24(火)に新宿カブキ・ラウンジで予定されている、毎年音楽評論家の吉岡正晴さんとのグラミー大予想DJ&トーク・イベント「ソウル・サーチン・ラウンジ」までに完走できるかかなり微妙。当日ブログをまだ上げれていない部門の予想をその場で発表することになりそうな気がします。あ、ちなみにそのイベント、下記の吉岡さんのnoteの記事に開催要領が詳しく載っていますので、是非皆さんお越しください。
今年の会場は昨年同様LAのクリプト・ドットコム・アリーナ(旧ステイプルズ・センター)、ホストも今回で3年めになる知性派コメディアンのトレヴァー・ノアが務めることが発表されています。連続3年ホストというのは、2012年第54回〜2016年第58回まで5年連続で努めたLLクールJ以来。軽妙な語り口と、TVでは政治的コメントも交えながらのコメディ番組のホストを務めるトレヴァーの人気は安定したものがあるということでしょうね。
ということで今年もグラミー賞各部門の予想ブログを開始するに当たって、今年のグラミーの変更点や見どころなどをまず簡単にチェックしましょう。
0.2023年のグラミー賞大予想始動にあたって
ここのところ数年のグラミー・アカデミーのお家騒動、それを収拾すべくハーヴィー・メイソンJr.の会長就任、そして新機軸を打ち出すべくノミネーションのプロセスにより客観性を反映させるためのノミネーション・コミティーの廃止、さらには主要4部門のノミネーション数の増加(ここ5年の間に5→8→10)など、グラミー・アカデミーは次々に機構改革を打ち出して、グラミー賞の賞としての信頼性を強化しようとして来ましたが、今年も若干の変更がありました。
* ノミネーションのプロセスやルールの明文化
ここ数年のアカデミーのお家騒動の原因の一つは「一部の部門のノミネーションが、ごく一部の恣意的なプロセスで決められているのではないか」という疑惑が沸き起こったことでした。これを払拭するためにハーヴィー・メイソンJr.新会長が昨年断行した最大の改革が、冒頭に書いた「ノミネーション・コミッティーの廃止」でした。今年はそれも含め、明文化したルールを記載した「第65回グラミー賞 ルールとガイドライン」がネット上で公開されました。これは更にグラミー賞の信頼性を改善するとともに、これまでグラミー賞のサイトで断続的に発表されていた各種ルールがまとめられたことによって、賞の透明性が増したといっていいでしょう。喜ばしい傾向だと思いますね。
* 5つの新部門の追加
今年追加された新部門の中で一番特筆すべきは「最優秀ソングライター部門(クラシック以外)」でしょうね。これまでグラミー賞でソングライターがその年の作品について評価されるのは、特定の楽曲に関してのみであり、ソングライターがその年に手がけた作品全体を評価する部門はありませんでした。プロデューサーについてはそういう部門があるのに、ソングライターにないのは片手落ちだなあ、と個人的には以前から思っていたので、この部門の創設は評価できます(もっと早くからあればよかったのに、とは思いますが)。
もう一つの注目の新設部門は、一般部門ではなく、特別功労賞(Special Merit Awards)の一つとして新設された「社会的変革に寄与した最優秀ソング賞(Best Song For Social Change)」。グラミー・アカデミーの定義によると「我々の時代の社会問題に呼応したメッセージを主題とし、世界的にポジティブな影響を与える可能性を持つ音楽のクリエイターの作品に対して与えられる賞」とのことです。一昨年とかであればリル・ベイビーの「The Bigger Picture」とかが受賞していたんでしょうか。第1回の今年、どういう作品が受賞するのか、興味ありますねえ。
それ以外に新設されたのは、最優秀オルタナティブ・ミュージック・パフォーマンス部門(従来はアルバム部門のみ)、最優秀アメリカーナ・パフォーマンス部門(同上、今回から、最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門から分化)そして最優秀詩作品朗読アルバム部門(従来の最優秀朗読アルバム部門から詩だけが分化)でした。その他、いろいろ名称変更などもありましたが大きな変更ではないのでまた必要があれば本篇中でお伝えします。
* 最優秀アルバム部門ノミネーション対象条件の厳格化
厳格化、といってもドラスティックなものではなく、従来はアルバムの演奏時間の50%以上が、新しい録音の作品である必要があったものが、75%に上げられた、という変更です。
以上のような変更点のあった今年の第65回グラミー賞では、下記のようなポイントが授賞式の見どころになりそうです。
* 今年9部門ノミネートで、旦那のジェイZと並んでトータル88部門ノミネートと、歴代最多アーティストとなったビヨンセは、今年主要3部門を受賞出来るのか?(前回主要3部門ノミネートの2017年第59回ではすべてアデルに敗退。今回も全3部門でアデルと激突している)
* ケンドリック・ラマーは3回目の最優秀アルバム部門ノミネートで初の受賞、ヒップホップ・アルバムとしては2004年第46回のアウトキャスト以来の受賞を果たすのか?
* 4年連続プロデューサー部門ノミネート、昨年受賞のジャック・アントノフは昨年に続いて連覇なるのか?
* 今年の日本人アーティスト・ノミニーは、スナーキー・パピーの小川慶太さん(最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門)、第53回グラミーでもスライ&ロビーのアルバムのギタリストとしてノミネート、今回は自らのアルバム『Sakura』でノミネートの宅見将典さん(最優秀グローバル音楽アルバム部門)、これまで7回ノミネート中2回(53回、59回)受賞している、クラシック・ピアニストの内田光子さん(最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ部門)の3名ですが、彼らの受賞はあるのか?
まだ授賞式当日のパフォーマンスの詳細についてはアナウンスされていませんが、今年もいろんなドラマが見れそうですね。ではさっそく今年のグラミー大予想、ポップ部門から行きましょう。
1.最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス部門
◎ Easy On Me - Adele
Moscow Mule - Bad Bunny
Woman - Doja Cat
Bad Habit - Steve Lacy
× About Damn Time - Lizzo
○ As It Was - Harry Styles
毎年グラミーの予想にあたっては、主要4部門についてある程度のシナリオを想定した上でそれを踏まえて各ジャンル部門の予想をする、というのが自分のアプローチですが、今年の自分のシナリオは「主要3部門で第59回以来の激突しているアデルとビヨンセはいずれも主要部門は受賞しない」というものです。理由としては、今回の2人の対象作品は、過去の圧倒的なクオリティの作品にはいずれもかなり及ばないものだというのが自分の評価だから。ではどの作品が主要部門取るのか?まあそのあたりはおいおいこの予想ブログでお話ししていきますのでお楽しみに。
さてそうなるとこのジャンル部門で本命◎はアデル以外ない、というのが自然な帰着になります。そしてそれに唯一対抗しうるのは2022年を代表するポップ・アルバム、という意味ではアデルの『30』を遙かに超えると思ってる『Harry’s House』のハリー・スタイルズ。なので、全米通算15週1位を記録して年間チャートでも2位に入った「As It Was」が対抗○ということになりますね。
穴×については、昨年メインストリームに大ブレイクしたスティーヴ・レイシーとリゾで悩むところですが、やはり自己肯定的メッセージを高らかに歌うリゾの「About Damn Time」に付けておきましょう。
2.最優秀ポップ・デュオ・グループ・パフォーマンス部門
× Don’t Shut Me Down - ABBA
Bam Bam - Camila Cabello Featuring Ed Sheeran
My Universe - Coldplay & BTS
◎ I Like You (A Happier Song) - Post Malone & Doja Cat
○ Unholy - Sam Smith & Kim Petras
ここ2回のグラミーのノミネーションと受賞動向で判ったのは、グラミー・アカデミー全般としてKポップについてはあまり高い評価がされてないんだろうな、ということ。昨年のグラミー対象期間に今回ノミネートのコールドプレイとの「My Universe」を含む5曲を全米ナンバーワンに送りこんでいたBTSが、主要部門からは完全にシャットアウト、唯一2年連続ノミネートのこの部門でもボウズという状況からそれは明らかだと思うし、今回のノミネーションでも新人部門にTWICEやNCT 127とかノミネートされてもおかしくないと思うのですがやはりKポップ勢はゼロという状況ですから。コールドプレイも過去この部門2009年51回「Viva La Vida」で取った後は4回連続外しているので、残念ながらこのコラボには印は付けられないですねえ。
で、本命◎ですが、昨年この部門、SZAとのコラボ「Kiss Me More」で取っていて、17ノミネーション目にして初受賞を果たしたドジャ・キャット、今年もこの部門を含めて5部門ノミネートですが、ポップ・ソロ部門は難しいとしても、この多幸感溢れるポスティとのデュエットは受賞するんじゃないかな、ということでドジャに付けます。対抗○は史上初のゲイ・シンガーとトランスジェンダー・シンガーによるデュオという歴史的な意味合いがグラミー・アカデミー受けするかも、ということでサム・スミスとキム・ペトラスの「Unholy」に。
そして穴×は、主要部門のROYに2年連続ノミネートされてるABBA、もし受賞するチャンスがあるとするとこの部門しかないかな、ということで「Don’t Shut Me Down」に。
3.最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム部門
◎ Higher - Michael Bublé
When Christmas Comes Around… - Kelly Clarkson
○ I Dream Of Christmas (Extended) - Norah Jones
× Evergreen - Pentatonix
Thank You - Diana Ross
今回ノミネート5作品中3作がクリスマス・アルバムといつになくクリスマス仕様になったこの部門ですが、この顔ぶれではこの部門過去10回ノミネート中4回受賞(トニー・ベネット翁との激突で敗れたのが3回)と圧倒的にこの部門の受賞歴が豊富なマイケル・ブブレの『Higher』がダントツの本命◎でしょうなあ。ポール・マッカートニーの「My Valentine」やウィリー・ネルソンの「Crazy」、ディランやチャップリンの曲などを安定感抜群にカバーしている好アルバムです。
対抗○はノラジョンのクリスマス・アルバムに付けました。この顔ぶれだと過去3回ノミネートで全て受賞しているペンタトニックスとどっちかだろうな、と思いましたが、個人的な好みもあり(笑)対抗○はノラジョン、ペンタトニックスは穴×ということで。
4.最優秀ポップ・ボーカル・アルバム部門
× Voyage - ABBA
◎ 30 - Adele
Music Of The Spheres - Coldplay
Special - Lizzo
○ Harry’s House - Harry Styles
去年は主要4部門独占が有力と見られていながら、結局新人賞しか取れなかったオリヴィア・ロドリゴがこの部門、ビリー・アイリッシュを抑えて受賞してましたが、今年はソロ部門の考え方と同じで、アデルがノミネートされている以上は彼女が持っていく、と見るのが妥当そうです。なので本命◎はアデル。
対抗○もソロ部門同様、ハリー・スタイルズでしょうねえ。アデルが取らないとするとハリーしかないということで。で、穴×ですがここ2年で5部門ノミネート、今回主要2部門も含めて4部門ノミネートのアバがちょっと気になっているので、デュオ・グループ部門同様、彼らに印を付けておくことにしましょう。
5.最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門
Between Dreaming And Joy - Jeff Coffin
○ Not Tight - DOMi & JD BECK
Blooz - Grant Geissman
× Jacob’s Ladder - Brad Mehldau
◎ Empire Central - Snarky Puppy
この部門は毎年フリー・ジャズ系のアーティスト達と、フュージョン系のアーティスト達が中心にノミネートされてて、毎回知らないアーティストに巡り会える部門なので、個人的には楽しみにしている部門。今年のノミニーで新たに名前を知ったのは、もともとブルーグラス・ジャズのベラ・フレックのバンドのメンバーで、ここ10年は2008年に亡くなったデイヴ・マシューズ・バンドのサックス奏者、リロイ・ムーアの後釜としてDMBに加入している、サックスのジェフ・コフィンと、70年代にはチャック・マンジョーネの「Feels So Good」のギターソロで知られ、90年代以降もヴァン・ダイク・パークスやポーラ・アブドゥルらのアルバムに参加しているジャズ・ギタリスト、グラント・ガイスマン。いずれもアルバムちょっと聴きましたが、前者はスナーキー・パピーのマイケル・リーグや、ヒップホップ系のアーティストとかともコラボしているグルーヴィーなジャズ作品、後者はランディ・ブレッカーやトム・スコット達フュージョン系ミュージシャンと、気楽なブルースをやってる作品でいずれもなかなかいい感じでした。
ただこの部門の予想となると、やはり本命◎はこの部門で過去ノミネートの4回とも受賞しているスナーキー・パピーしかないでしょう。今回のアルバムは、ダラスを拠点に活動するエリカ・バドゥや故ロイ・ハーグローヴ、カーク・フランクリンといったミュージシャン達によるダラスのブラック・ミュージックへのオマージュ溢れるライブ盤。冒頭にも書いたように、パーカッショニストの小川慶太さんが今回もクレジットされており、受賞が期待されるところです。またこのアルバムには、昨年5月に交通事故で不慮の死を遂げたファンク系キーボード奏者、バーナード・ライトの最後の録音となった「Take It!」も収録されており、いろんな意味で重要な作品ですね。
対抗○は主要4賞の新人賞部門にもノミネートされている、天才フリージャズ・デュオのDOMi & JDベックの作品が、アカデミー・メンバーには評価高そうなので、もしスナーキー・パピーが取れないのであれば彼らかな。そして穴×はちょうどグラミー賞授賞式の頃、2月上旬に日本での東京フィルハーモニー交響楽団との共演での来日ツアーが予定されている、現代を代表する天才ジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーが、ジャズの前に傾倒していたというプログレ・ロックのラッシュやジェントル・ジャイアント、イエスの曲と自作の聖書の創世記に触発された曲を融合させたという意欲作に。
ということで今年も始まりました「DJ Boonzzyの第65回グラミー賞大予想!」、今年は新設部門もあって例年より3部門多い54部門予想の予定ですが、かなりハイペースでアップしなきゃいけないということで頑張りますのでよろしくお付き合い下さい。この次はダンス、ロック&オルタナ部門の予想ですのでお楽しみに。