【恒例企画#3】Boonzzyの第63回グラミー賞大予想#9〜アメリカン・ルーツ部門(その2)
週末のスーパー・ボウル、あっと驚く43歳トム・ブレイディの活躍が感動的でしたね。ザ・ウィークンドもグラミーの敵をスーパー・ボウルで、と言わんばかりにハーフタイムショーを盛り上げてました。さあ、どんどん行きます、Boonzzyの第63回グラミー賞予想。次はアメリカン・ルーツ部門の後半、ブルースとフォーク部門です。
40.最優秀トラディショナル・ブルース・アルバム部門
All My Dues Are Paid - Frank Bey
× You Make Me Feel - Don Bryant
◎ That’s What I Heard - Robert Cray Band
Cypress Grove - Jimm “Duck” Holmes
○ Rawer Than Raw - Bobby Rush(受賞)
ブルースアルバム部門は、2012年第54回から5年間だけ一部門だった他は、1988年第33回からずっとトラディショナル部門とコンテンポラリー部門の2部門体制で来ていますが、正直この線引きはブルースという音楽ジャンル自体が極めてトラディショナルなスタイルなんであまり明確ではなく、多くのノミネートされたアーティストは両方の部門を行ったり来たりしてることがこれまでよくありました。それでもここ数年は、どちらかというと年配のシニアなミュージシャンがこのトラディショナル部門にノミネートされてて、昨年は白人ブルースミュージシャンで、トップ40ファンには「Giving It Up For Your Love」(1981年全米8位)の大ヒットで知られたデルバート・マクリントンが4回目のグラミー受賞を決めてました。
今年のノミニーに目を向けると、まあこれはもうこの部門でさんざんノミネートされてきて受賞経験もある、ロバート・クレイとボビー・ラッシュの一騎打ちの様相を呈してますね。この部門2年連続ノミネートで、ここ最近の3作のアルバムが全てノミネートされている(前々作の『Porcupine Meat』は2017年第59回に見事受賞)という、サザン・ブルースの雄、ボビー・ラッシュもかなり強力なのですが、その上をいく今回15回目のグラミー・ノミネートで、うち13回がブルース部門ノミネートで3回受賞という実績充分なロバート・クレイがここではおそらく本命◎でしょう。他のノミニーに比べてまだ若い(といっても今年67歳ですがw)ロバート、そのノミネート・受賞はほとんどがコンテンポラリー・ブルース部門なのですが、最初の受賞となった、アルバート・コリンズやジョニー・コープランドとのコラボ作『Showdown!』(1986)はこのトラディショナル・ブルース部門の受賞です。今回もストレートでパワフルな、ロックマインドもふんだんに感じさせる作品で受賞狙えるとみてます。なので、対抗○は御年87歳のベテラン、ボビー・ラッシュに。
残る3人は全て今回がグラミー初ノミネート。ただその中でも、60〜70年代メンフィス・R&Bブルース・シーンの作曲家兼プレイヤーとして君臨し、あのアン・ピーブルスの名曲「I Can't Stand The Rain」の共作者として知られるドン・ブライアントは、2017年に素晴らしいアルバム『Don't Give Up On Love』で見事カムバック。今回のアルバムもなかなか素晴らしいのでこちらに穴×を付けさせて頂きます。
41.最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門
◎ Have You Lost Your Mind Yet? - Fantastic Negrito(受賞)
× Live At The Paramount - Ruthie Foster Big Band
The Juice - G. Love
○ Blackbirds - Bettye LaVette
Up And Rolling - North Mississippi Allstars
さて、コンテンポラリー・ブルース部門では、前述のボビー・ラッシュの上を行く勢いで、ここ3作品が全てノミネート、おまけに前作、前々作共にこの部門見事に受賞を果たしているファンタスティック・ネグリートが何といってもギラギラ輝いてますね。ネグリートと言えば、毎年Boonzzyが新宿カブキ・ラウンジでグラミー大予想トークイベントを一緒にやってる音楽評論家の吉岡正晴さんの大のお気に入りで、吉岡さんが親しいギタリスト、マサ小浜さんがここ3作全てに全面参加していることで有名。マサ小浜さん、特に今回は全編参加だけでなく、ネグリートには珍しいオーセンティックなブルースナンバー「Your Sex Is Overrated」では何とフィーチャリング・アーティストとしてクレジットもされて、延々と素晴らしいギターソロを聴かせてくれているという盛り上がりぶり。これはもう本命◎はネグリート以外ないでしょう。これで取ると三連覇ということになります。
そして対抗○は、自分名義のバンドを率いてのライブで力強い歌唱を聴かせてくれる今回が4度目のノミネートになる黒人女性シンガーのルシー・フォスターや、90年代にジョン・スペンサーらとブルースロックリバイバルの立役者となったGラヴの5年ぶりのアルバムも気になるところですが、御年75歳ながら、力強さと独得のスタイルによるグルーヴ満点のブルースロック的アプローチのベティ・ラヴェットの『Blackbirds』は無視できません。ベティ姐さんは、80年代にモータウンから1枚アルバム出した後2000年代まで目立った活動がなかったんですが、2000年代以降は精力的にいろんなソングライターの作品を独自のアレンジで新解釈したような意欲的なアルバムを次々に出してます。特にディラン作品を大胆に新解釈した前作『Things Have Changed』(2018)はプロデューサーのスティーヴ・ジョーダン(ポップファンにはジョン・メイヤー・バンドのドラマーとして有名、トラディショナル部門で本命◎予想した、ロバート・クレイのアルバムもプロデュース)とのタッグが見事に化学変化を起こした素晴らしい作品で、自分の2018年の年間ランキングの8位に入れたくらいインパクトのあるアルバムでした。今回のアルバムも、タイトルナンバーはビートルズのカバーなんですが、これが「え、これがブラックバード?」と驚くような斬新なアレンジでスリリングでいて、しっかり骨太のグルーヴが伝わってくるんです。なので、対抗○はベティ姐さん。そして穴×は個人的な嗜好で(笑)ルシー・フォスターのライブ盤に付けておきます。
42.最優秀フォーク・アルバム部門
○ Bonny Light Horseman - Bonny Light Horseman
Thanks For The Dance - Leonard Cohen
◎ Song For Our Daughter - Laura Marling
Saturn Return - The Secret Sisters
× All The Good Times - Gillian Welch & David Rawlings(受賞)
昨年は比較的フレッシュなノミニーが目立つ中、7回目のノミネートで、ゴスペル部門でも過去受賞経験のあるベテランカントリーシンガーソングライターのパティ・グリフィンが受賞したこの部門。今年はカナダの吟遊詩人、故レナード・コーエンと、90年代後半以降のオルタナ・カントリー・ムーヴメントから登場、これまで6回のノミネートで無冠のギリアン・ウェルチとそのパートナーのデヴィッド・ローリングスという2組のベテラン・アーティストの他、2000年代にブレイクしてシーンからも評価の高いUKのフォーク・シンガーソングライターのローラ・マーリング、アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門でもノミネートされてた女性1+男性2のオルタナ・カントリー・バンドのボニー・ライト・ホースマン、そしてこちらもアメリカン・ルーツ・ソング部門ノミネートのローラとリディアのロジャース姉妹による2010年にアルバムデビュー、今回が4作目になるフォーク・デュオ、ザ・シークレット・シスターズと、バラエティに富んだノミニー構成です。このジャンルでのアーティストとしての存在感からすると、コーエン御大か、ギリアン・ウェルチという線もなくはないですが、自分的には本命◎は、このコロナ・ロックダウンの状況の中で改めて自分を見つめ直すような心に響くアルバムを作ってくれたローラ・マーリングに付けたいと思います。このアルバムは、自分の2020年年間ランキングでも11位に入れて、下記のnote.comの記事で詳しく触れてますのでご参考にどうぞ。
対抗○は、アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門にノミネートされていながら、ブラック・プーマズやジョン・プラインといった強力なノミニーがいるので予想には入れなかった、女性シンガーソングライターのアネイス・ミッチェルとジョッシュ・カウフマン(テイラーの『Folklore』『Evermore』に関わったザ・ナショナルとも交流あり、テイラーとも共演してます)、エリック・D・ジョンソンの3人組、ボニー・ライト・ホースマンに付けます。アルバムの最初の2曲、パフォーマンス部門ノミネートのエリックがボーカルの「Deep In Love」も、アネイスがボーカルの「Bonny Light Horseman」も胸がキュンとくるような素晴らしい世界観を持った楽曲で、一発で気に入ったので即アルバムポチしました(笑)。こんな素晴らしいアルバムが出てたの知らなかったということでまだまだ修行が足りないなあ、と反省しきり。アメリカーナ系好きな方には全力でオススメできる作品です。そして穴×は、この2組がいなければ絶対本命◎を付けたであろう、ギリアン・ウェルチ&デヴィッド・ローリングスに。
さてBoonzzyの今年のグラミー賞大予想、残すところあと9部門。次回はミュージカル、ヴィジュアルメディア系、そしてプロデューサー部門の予想です。お楽しみに。