【恒例洋楽年初企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#7~ジャズ部門
普通だったらうちの庭の河津桜がそろそろ五分咲き以上には開くはずなんですが、今年はやっと今日の陽気で咲き始めたというところ。今年は例年よりも寒波が厳しいということもあるのか、今週もまた日本海側中心に大雪のようなので、その方面の方々はくれぐれもお気を付けて下さい。さて、このグラミー賞予想、どんどん行きます。次は一昨年から予想に追加したジャズ部門。
26.最優秀インプロヴァイズド・ジャズ・ソロ部門(ソロイストに与えられる賞)
✗ Sackodougou - Christian Scott aTunde Adjuah (From "The Hands Of Time" by Weedie Braimah)
Kick Those Feet - Kenny Barron (From "Songs From My Father" by Gerry Gibbs Thrasher Dream Trios)
○ Bigger Than Us - Jon Batiste (From "Soul (Original Motion Picture Soundtrack)" by Various Artists)
Absence - Terence Blanchard (From "Absence" by Terence Blanchard Featuring The E Collective & The Turtle Island Quartet)
◎ Humpty Dumpty (Set 2) - Chick Corea (From "Akoustic Band Live" by Chick Corea, John Pattitucci & Dave Weckl)(受賞)
昨年はこの予想ブログで、この部門と最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門の本命に予想していたチック・コリアが、何とその1週間ほど後、授賞式の前に急逝するという大ショッキングな事件があって、図らずも大変印象深い部門になってしまったこの部門。そして予想通りその2部門ともチック・コリアが、クリスチャン・マクブライド(b)とブライアン・ブレイド(ds)とのトリオのレコードで受賞を果たし、グラミー授賞式では物故者を追悼するIn Memoriumのセクションでも大きく取り上げられるなどなかなか感無量でした。そしてそのチック・コリアが今年もこの部門と最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門にノミネート。今年は1989年以来、ギターのジョン・パタトゥッチ、ドラムスのデイヴ・ウェックルとトリオを組んでるチック・コリア・アコースティック・バンド名義の2018年のライブ盤のリイシューが去年出たので、どうもそれが対象になっているみたい。ちょっと去年のブラック・プーマスぽいって言うか、やや反則っぽい気もしないではないけど、それだけアカデミーのメンバー達の間ではチックへのリスペクトが凄いってことなんでしょうね。フリージャズっぽいチックの切れ味バツグンのピアノソロが楽しめるこの曲、本命◎付けるしかないでしょう。
残りのノミニーも大御所のピアニスト、ケニー・バロンからベテラン・トランペッターのテレンス・ブランチャードと新進気鋭のトランペッター、クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアと多士済々ですが、この部門にも今年の台風の目の一人、11部門ノミネートのジョン・バティーストが顔を出してるからにはなかなか無視できないところ。しかも既に去年のアカデミー賞で最優秀オリジナル・スコア部門を受賞したピクサー制作のディズニー・アニメ映画『Soul(邦題:ソウルフル・ワールド)』の収録曲とあっては対抗○を付けざるを得ませんね。わずか3分足らずの小品ですが、ジャズをテーマにしたこの映画にふさわしい、オーセンティックさと親しみやすさを感じさせる曲で、中盤以降のジョンのダイナミックなピアノ・ソロが聴きものです。
そして穴✗は残り誰でもありなんですが、昨年に続いて2度めのノミネートの、クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアに付けておきます。彼は昨年まで3年連続で最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門でノミネートされてて、なかなか鋭いプレーをする人なんですが、なかなか受賞ができてませんが、そのうちどちらかの部門で受賞するんじゃないか、と個人的には思ってます。
27.最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム部門
✗ Generations - The Baylor Project
○ SuperBlue - Kurt Elling & Charlie Hunter
Time Traveler - Nnenna Freelon
Flor - Gretchen Parlato
◎ Songwrights Apothecary Lab - Esperanza Spalding(受賞)
去年のこの部門は、今年もノミネートされていて昨年見事受賞している大ベテランのカート・エリング(この部門10回目のノミネート、去年が2度めの受賞)以外はいずれも初ノミネートという、フレッシュな顔ぶれが並んでましたが、今年はその全く逆で、それぞれ持ち味は異なりながらも、過去にノミネート経験のある実力派がずらりと並んでます。中でもやっぱり目についてしまうのが、現代アメリカジャズ界のサラブレッド、エスペランザ・スポールディング。彼女はこの部門過去ノミネートされた2回ともにガッツリ受賞してますし、今回はこのコロナ禍の下、曲作りでヒーリングを目指すという目的で、3つの異なるミュージシャンのグループと作った12曲(フォームウェラと彼女が呼ぶ楽曲で、タイトルも「Formwela 1」から12をスキップした「Formwela 13」までというもの)を収録した作品。個人的には、前回この部門受賞した『12 Little Spells』(2018)くらいから彼女の作風がかなり実験的なアプローチが増えてきてるので、ちょっとつらい感じなんですが、今回もメロディやコードの使い方がめちゃくちゃ複雑でちょっと聴いてて疲れるんですよ。でもまあこの部門、彼女が出てきたら本命◎でしょうね。
そして対抗○は去年もこの部門受賞の大ベテランのカート・エリングが、今回は過去にディアンジェロの『Voodoo』(2000)やフランク・オーシャン『Channel Orange』(2012)、更にはスナ―キー・パピーの『Family Dinner Volume 2』(2016)などに参加していた、7弦ギターの使い手(!)チャーリー・ハンターと組んで、二人とも白人なのに、かなりどす黒いネオソウル・R&B・ファンクなアルバムを作り上げた『SuperBlue』かな。このアルバム聴いてると、何だかところどころで今は亡きロバート・パーマーが降りてきて一緒に歌ってるように聴こえて、結構興奮するアルバムですよ。やっぱこの人、ただのジャズ・シンガーじゃないね。
穴✗ですが、この部門3度目のノミネートになる黒人女性ジャズ・シンガー、ニーナ・フリーロンによる、アレサやマーヴィン、スタイリスティックスらのR&B中心の名曲のカバー集『Time Traveler』にも随分惹かれたんですが、去年は最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス部門にノミネートされていた、NYの夫婦デュオ、ザ・ベイラー・プロジェクトによる匂い立つような正統派アプローチのジャズ・ボーカル・アルバムに付けておきましょう。
28.最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門
○ Jazz Selections: Music From And Inspired By Soul - Jon Batiste
Absence - Terence Blanchard Featuring The E Collective & The Turtle Island Quartet
Skyline - Ron Carter, Jack DeJohnette & Gonzalo Rubalcaba(受賞)
◎ Akoustic Band LIVE - Chick Corea, John Patitucci & Dave Weckl
✗ Side-Eye NYC (V1.IV) - Pat Metheny
さてこのジャズ部門の花形部門の一つであるこの部門では、もう一つの花形部門であるインプロヴァイズド・ソロ部門同様、チック・コリアのアコースティック・バンド名義のライブ盤がノミネートされてます。さっきもコメントしましたが、本来2018年のアルバムであるこの作品が今回ノミネートされているのはやや腑に落ちないですが(一応2021年にリイシューされたことになってますが、曲数とかも同じなんですよね)、やはりここはノミネートされているからにはチック本命◎付けざるを得ないですよね。
そしてもう一人、ここにもジョン・バティーストの名前が。先程お話した、アカデミー賞受賞の『Soul(ソウルフル・ワールド)』から、ジョン・バティーストが作曲したジャズ曲(映画のスコアを作曲してるのは、何とナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアティカス・ロス。彼らもジョンと一緒にオスカー受賞してます)を集めたジャズ・セレクションなるアルバムがここにノミネートされてます。これも全8曲、トータル時間わずか17分6秒という、EPかよ!と思っちゃうアルバムなんですが、主要部門にノミネートされている彼ゆえ無視はできずということで、対抗○です。
そして残る穴✗ですが、やあ、テレンス・ブランチャードのアルバムも、御年84歳の巨匠ロン・カーターの未だ力強いベースとジャック・ディジョネットのドラムス、そして去年ラテン・ジャズ部門にノミネートされてたキューバ人ジャズ・ピアニストのゴンサロ・ルバルカーバのトリオによる、ラテン風NYジャズもいいんですけどねー。でもこの部門では2013年第55回に、今回本命◎に押してるチック・コリアが2作品でノミネートされていた年に『Unity Band』(2012)で見事受賞して以来の久しぶりのノミネートのパット・メセニーに進呈しておきます。このアルバム、パットが新進気鋭の二人のジャズ・ミュージシャン、マーカス・ギルモア(ds)、ジェイムス・フランシーズ(kbd)とのトリオで、自分の新旧作品を演奏している、というものでこれもなかなかの聴きものですぞ。
29.最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル部門
✗ Live At Birdland! - The Count Basie Orchetra Directed by Scotty Barnhart
○ Dear Love - Jazzmeia Horn & Her Noble Force
◎ For Jimmy, Wes And Oliver - Christian McBride Big Band(受賞)
Swirling - Sun Ra Arkestra
Jackets XL - Yellowjackets + WDR Big Band
昨年のこの部門は、現代音楽界の才媛、マリア・シュナイダーのオーケストラが、予想通り5度目のノミネーションで3度目の受賞という横綱相撲でした。今年のノミネーションはアフリカン・ジャズの奇人、故サン・ラが創設したアーケストラの20年ぶりの新作や過去8回のこの部門受賞を誇る、故カウント・ベイシー創設のオーケストラのNY老舗ジャズクラブのバードランドでのライブなど、老舗のオーケストラの作品もある一方、一昨年ジャズ・ボーカル・アルバム部門でノミネートされていたその年の自分のお気に入りだった新進黒人女性シンガー、ジャズメイア・ホーンがビッグ・バンドを従えた3作目はあるはと、新旧入り乱れての混戦模様の状況。
その中で本命◎に選んだのは、昨年チック・コリアとの『Trilogy 2』で強力なトリオの一画で存在感を示していた、ベースのクリスチャン・マクブライドが、彼のビッグ・バンド名義でリリースした3作目『For Jimmy, Wes And Oliver』。彼の過去の2作のビッグバンド名義作品は、この部門で2012年第54回(『The Good Feeling』)、2018年第60回(『Bringin' It』)といずれも見事受賞してるので強いことは間違いなし。今回はギターのマーク・ホイットフィールドと、近年ヴァン・モリソンの一連の作品に参加しているオルガンのジョーイ・ディフランチェスコを核にしたラインナップで、中学校時代からの親友だというクリスチャンとジョーイが昔よく聴いた、オルガンのジミー・スミスとギターのウェス・モンゴメリーのアルバムからの曲を中心に録音したのがこのアルバム(Oliverはそのアルバムでアレンジを担当していたサックス奏者のオリヴァー・ネルソンのこと)。ジョーイのオルガンはご機嫌だし、マークのギターもちゃんとオクターブ奏法ガンガンでウェスの雰囲気出してるし、マイルスの「Milestone」なんて自分の好きな曲もやってくれてて、更に後半にはこの3人による新曲も3曲入っている、というなかなかお得なアルバム。今、オーセンティックなビッグ・バンドの香りのするジャズ聴くならこれ!って感じですね。
対抗○と穴×は、大御所カウント・ベイシー楽団と、ジャズメイア・ホーンのアルバムとで悩んだんですが、個人的に声が大好きなジャズメイアのアルバムを対抗○にしました。え?ビッグ・バンド関係ないやないかって?まあええやないですか(笑)。
30.最優秀ラテン・ジャズ・アルバム部門
○ Mirror Mirror - Eliane Elias With Chick Corea & Chucho Valdés(受賞)
The South Bronx Story - Carlos Henriquez
◎ Virtual Birdland - Arturo O'Farrill & The Afro Latin Jazz Orchestra
x Transparency - Dafnis Prieto Sextet
El Arte Del Bolero - Miguel Zenón & Luis Perdomo
去年はラテン・ジャズというものに造詣が深くないので、ラインアップもさっぱり判らず、過去のグラミーにおける成績だけで予想したんですが、対抗○に挙げてた汎ラテンなキューバン・ジャズの大御所、アーテュロ・オファリル率いるアフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラが3回目のこの部門受賞してくれて、事なきを得てました(笑)。で、今回見るとまたそのアーテュロ・オファリルのアフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラ、ノミネートされてるじゃないですか!こりゃもう何も考えずに本命◎付けちゃいます、っていいんか俺。
そして対抗○なんですが、おおここにもチック・コリア大先生の名前が。実はチック・コリアは自分のリーダーバンドで一昨年のこの部門見事に受賞してるんですよね。そして今回は過去2016年第58回にソロでもこの部門受賞経験あるブラジルの美人ピアニスト兼ボーカリスト、イリアーヌ・イリアス、そしてこちらも過去にソロや父のベボとのコラボ作などでこの部門4回受賞のキューバのピアニスト、チューチョ・バルデースと3人のジャズ・ピアニストが入り乱れて演奏するアルバム『Mirror Mirror』でのミネート。これはかなり強力そうなので対抗○付けちゃいます。
最後に穴×は単純に、2019年第61回で受賞経験のある、こちらもキューバ人のドラマー、ダフニス・プリエトのリーダーアルバムに付けておきます。
ということで以上ジャズ部門でした。次の予想はゴスペル・クリスチャンミュージック部門。こちらもなかなか悩ましい予想になりそうですが、お楽しみに。