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今週の全米アルバムチャート事情 #262- 2024/11/16付

いやあ先週金曜日に発表された第67回グラミー賞のノミネーション発表、今年も例年以上にビックリするようなノミネートがありましたねえ。このあたりは「今年のグラミーノミネート4大ビックリ」とか何とかいう短いブログを今週どこかでアップしようと思ってますのでよろしく。秋も深まる中、これから年末にかけていろいろ恒例の企画を繰り出しますが、ちょっと自分の病気の治療のスケジュールもあり(この記事も今日から短期入院した病室でシコシコ書いてますw)、例年のように対応できるか自信ありませんが、できる限りやっていきますので乞うご期待ということで。

CHROMAKOPIA" by Tyler, The Creator

そんな中今週の全米アルバムチャート、11月16日付のBillboard 200の首位ですが、余裕で首位を持っていくと思われたリル・ウジ・ヴァートが意外に低出力で失速する中、先週からポイントを半減させても今週は7日分フルで160,000ポイント(うち実売44,500枚)を確保したタイラー・ザ・クリエイターの『CHROMAKOPIA』が2週目の首位をキープしています。今週は先週リリースの6種類のCDボックスセット(ポスターやノベルティバンドル)に加えて、CDのみリリースと、もう2種類のCDボックスセットのリリースもあって、この出力を維持したということもあったようです(ちなみにフィジカルはすべてタイラーのウェブストアのみでの販売)。

今回のアルバムも前作同様、いろいろバラエティに富んだ客演アーティストがフィーチャーされてますが、冒頭の「St. Chroma」や「Take Your Mask Off」にフィーチャーされてるダニエル・シーザーのようなR&B系の人よりも、全体的にヒップホップ系のゲストが今回は多い気がしますね。みんなでワッショイ系のノリで盛り上がってる「Sticky」には今一番ブリブリ言わせてる女性ラッパー2人、グロリラセクシー・レッドに加えてリル・ウェイン御大、軍隊の掛け声風のリフコーラスからハチャメチャなビートになだれ込む「Thought I Was Dead」ではスクールボーイQが達者なフロー、そして「Balloon」ではちょっとエレクトロ風でファンタジックなトラックに載ってタイラーと活きの良いフロウをやり取りしている、先週グラミー賞新人賞部門にノミネートされた女性ラッパーのドウチーなどなど、今回のこのアルバムの多様性に寄与してると思います。

"Eternal Atake 2" by Lil Uzi Vert

さてそんなタイラーにぶっちぎりで上を行かれてしまい、59,000ポイント(うち実売3,000枚)という思いの外地味な出力で3位初登場に留まったのが、リル・ウジ・ヴァートの『Eternal Atake 2』。2020年の前々作『Eternal Atake』(1位)の続編、という位置づけですが、その実は最初の作品リリース時にネットを通じて同じセッションでレコーディングした音源がごっそり流出してしまっていたために、そのまあ後始末的な位置づけでもあるようです。まあ道理で今回出力が伸び悩んだ訳ですね。

まあそういう目と耳で聴くからかも知れないけど、アルバム全体毎度お馴染みのウジのトラップ・アルバム、という感じで、オートチューンで加工したフロウでグニュグニュラップしてる、って感じであまりピンと来ませんでしたね。メディアの評価もあまり良くないようです(メタクリティック51点)。うちのヒップホップヘッズの息子も「今までが良すぎた感じ。もう飽きた」と言っておりました(笑)。そんな中で目と耳を引くのが、何とあのチャーリー・プスがプロデュースと作曲、更にはボーカルでも参加している2曲「PerkySex」と「Conceited」。いずれもウジにしては無茶苦茶判りやすいトラップ・ポップ、って感じで全体の中ではちょっと浮いてるけど、聴くとちょっとホッとする、って感じがします。まあウジにしても「はい、次!」って感じなのかも知れませんが。

"Songs Of A Lost World" by The Cure

今週もう1枚トップ10初登場は、先週くらいからシニアロックファンの間では話題持ちきりだった、ザ・キュアーの何と16年ぶりの新譜となる通算14枚目のオリジナル・アルバム『Songs Of A Lost World』。57,000ポイント(うち実売53,000枚で堂々の今週アルバムセールス首位初登場です)という力強い出力で4位にチャートインしてきました。UKでは当然今週初登場1位ですが、正直USではトップ10に引っかかれば上出来じゃないか、と思っていたので、シングルがHot 100にチャートインしてるわけでもなく、Spotifyデイリー・チャートに曲がランキングされてるわけでも全くない中で、この順位は立派なもんです。全米では2004年の『The Cure』の7位以来実に20年ぶりのトップ10、通算3枚目のトップ10アルバムになります(過去最高は1992年『Wish』の2位)。

実は自分はザ・キュアーっていまいち苦手で、全盛期も顔を化粧してクセのあるスタイルで歌うロバート・スミスのボーカルにあんまり馴染めないでずっと来ていた(後年肥満体質になってからは余計w)し、何年か前のフジロックでグリーンのヘッドライナー取ってた時も観ずにスルーしてたくらいなんですが、今回のこのアルバム、何度か聴いてると、何だか一曲一曲の存在感というか、リアル感が結構現役感もあって「おっ結構いいんじゃない」と思わせてくれる内容になってたのが自分でも意外でした。ちょうど2年前、同様に20年ぶりくらいに素晴らしい新譜を届けてくれたティアーズ・フォー・フィアーズの『The Tipping Point』(2022年8位)を聴いた時の感覚にすごく似通ったものを感じてます。

"Restless Mind" by Sam Barber

圏外11位〜100位には今週初登場3枚。その中一番人気、58位に初登場してきているのは、ミズーリ州セントルイス南東郊外のペリー・カウンティ出身のカントリー・シンガー・ソングライター、サム・バーバーのデビュー・アルバム『Restless Mind』。当然今回が初チャートインになります。音楽活動を始めたのは結構遅めで16歳で始めて音楽を始めて、18歳頃からTikTokでカバー演奏動画をアップし始めたようですが、レーナードの「Simple Man」やルミニアーズの「Ophelia」(この選曲最高!)のカバーをアップしたところバズって、その年のアメリカン・アイドルのハリウッド・ウィークに出演したのがブレイクの発端らしいです。

アコギをかき鳴らしながらサムが切ないボーカルで歌い始めるアルバム冒頭の「Man You Raised」が流れてきた途端に感じたのは「あ!こいつ、ザック・ブライアンと同質だ!」ということ。あのエモーションを絞り出すような歌声で聴く者のハートに直接飛び込んでくるようなあの雰囲気をこのサム君も色濃く持ってると思いました。そしてその感覚は、アルバム・タイトルナンバー(ちなみにデュエットしている女性シンガー、エイヴリー・アンって人も素性不明なるもすごく胸を打つ歌声が印象的です)などその後の楽曲を聴き進めるにつけ強まるばかり。これは聴き込まなくては!というアルバム。しばらくハマりそうです。

"Holiday Seasoning" by Jimmy Fallon

続いて84位にチャートインしてきたのは、ご存知今年放送スタート50周年を迎えて盛り上がっているNBCの名物コメディ・ショー『サタデイ・ナイト・ライブ(SNL)』出身で、同じくNBCのナンバーワン深夜番組『トゥナイト・ショー』のホストを務める当代一のコメディ・スター、ジミー・ファロンが送るホリデー・アルバム『Holiday Seasoning』。ジャスティン・ティンバーレイクとマブダチで、ハウスバンドにザ・ルーツクエストラヴを従えるジミーらしく、豪華ゲスト陣をズラリと迎えた全曲オリジナルのホリデーソング集で、これは今年のクリスマス・シーズン、マスト・ハヴなアルバムになりそう。

ジョナス・ブラザーズとの超キャッチーなポップ・ホリデー・ソング「Holiday」やメーガン・トレイナーとの楽しい「Wrap Me Up」、ジャスティンとのレゲエ・ポップなホリデー・ソング「You’ll Be There」、アリアナミーガンを従えてこれも楽しい「It Was A…(Masked Christmas)」ウィアド・アル・ヤンコヴィックのアコーディオンも賑やかなポルカ風「New Year’s Eve Polka (5-4-3-2-1)」、SNLの元同僚でこちらも人気コメディアンのウィル・ファレルと「雪の中に片方だけの手袋が。もう一方の手袋などうなったんだろう」とどーでもいいネタでコント風に楽しませる「One Glove」などなど、ジミー節が炸裂する楽曲満載。これ、楽しいですよ。動画も楽しいし、これで今年のクリスマスはかなり楽しめそう。必携ですw

"Revolution" by Skillet

今週最後の100位までの初登場はメンフィスの4人組クリスチャン・ロック・バンド、スキレット通算12作めのアルバム『Revolution』。2010年前後にはクリスチャン・ロック・バンド人気の中で3作連続アルバムトップ5に送り込んでいたこともありましたが、今回は2006年以降トップ100にチャートインした7作では最低のチャート成績になってしまってます。というか、最近さっぱり名前を聞かない「クリスチャン・ロック」というジャンルでこの順位に入れてきただけでも大健闘かも。

彼らのスタイルは、クリスチャン・ロック、と言ってもdcトークとかのようなメインストリームなオルタナ・ロック路線ではなく、ハイパワード・メロディアス・ハード・ロック路線なんで、ポップ・メタル・ファンあたりがしっかりファン層に付いてると思われるのが、この人気の背景にあるのかな、と聴いてて思った次第。力強いドラムス・ワークでリード・ボーカルのジョン・クーパーとのツイン・ボーカルを聴かせる女性ドラマー、ジェン・レジャーの存在も大きな魅力の一つなんでしょうね。オープニングのスケールの大きいメロディアスな「Showtime」や、アンセム風の「Unpopular」など、なかなか楽曲も聴かせるものがあります。

ということで今週の100位までの初登場は合計4枚でした。一方今週のHot 100ですが、17週目の首位を記録してとうとう歴代最長1位在位週数で単独の2位になったシャブージーの「A Bar Dong (Tipsy)」には正直「もういいわw」と言うしかないのですわ。リル・ナズXを捉えて歴代1位に並ぶにはあとわずか2週。こりゃ本当に行っちゃうかもです。しかしこれほどの2024年を良くも悪くも代表する曲なのにグラミーのROYにノミネートすらされないというのは解せん。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) CHROMAKOPIA - Tyler, The Creator <160,000 pt/44,500枚>
2 (3) (11) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <68,000 pt/8,500枚*>
*3 (-) (1) Enternal Atake 2 - Lil Uzi Vert <59,000 pt/3,000枚>
*4 (-) (1) Songs Of A Lost World - The Cure <57,000 pt/53,000枚>

*5 (7) (20) The Secret Of Us - Gracie Abrams <50,000 pt/2,977枚*>
*6 (12) (33) The Rise And Fall Of a Midwest Princess - Chappell Roan <46,000 pt/10,016枚*>
7 (9) (25) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<44,000 pt/5,154枚*>
8 (5) (4) Last Lap - Rod Wave<44,000 pt/69枚*>
9 (11) (29) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <43,000 pt/3,728枚*>
10 (8) (88) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <43,000- pt/607枚*>

ザ・キュアーが20年ぶりに現役感あふれる新作でトップ10に顔を出してきた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:11/8~14)ですが、新譜では最近新作出したばかりのフィニアスアップルTV向けアルフォンゾ・キュアロン監督のスリラー・ミニシリーズのサントラが目に付くくらいで(トップ10はキツイかな)、シングルが相変わらず複数Spotifyの上位を占めているタイラー・ザ・クリエイターが来週半分に落としても8万ポイントくらいなので、どうも3週連続首位をキープしそうですね。ではまた来週。


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