第63回グラミー賞ノミネーション発表!しかしこれってありか???
来年1/31(日本時間2/1)授賞式予定の第63回グラミーのノミネーションが今日未明、ストリーミングで発表されました。ここnote.comで主要4部門のノミネーション予想を先週からやってましたので、その答え合わせも含めて内容を確認してみようということなんですが、結果見て思わず出た感想が、
今回のノミネーション、何でこうなるの?酷すぎない?
ちょっと主要4部門を中心に何でこういう感想になったか、簡単にまとめてみました。
1.考えられないようなノミネーションSnub
まあグラミーでは毎年あることですが「なぜあの作品・アーティストがノミネートされないの?」という、Snub(スナッブ、鼻であしらうように無視するという意味)という現象。例えば去年は音楽メディア各誌でも久々の名盤の誉れ高かった、ブルース・スプリングスティーンの『Western Stars』が主要部門はおろか、ロックやポップ部門でもガン無視されたのが記憶に新しいところ(ちなみにボスの今年リリースのこれも名盤、『Letter To You』はリリースが10月で、対象期間の9月末以降なので、来年のグラミー対象なので今回はノミネートされてません。来年のノミネートと受賞を望みましょう)。今年もそれに匹敵するような驚きのSnubがありました。
ザ・ウィークンド、ガン無視!
今回一番ビックリしたのはこれでしょう。自分は個人的にはイマイチだったんですが、アルバム『After Hours』とシングル「Blinding Lights」は、いずれも商業的にも、音楽メディアからの評価もとても高い、誰が見ても今回の集計期間対象作品の中では「外せない」と思われていた作品でした。
ところが蓋をあけてみると、これが主要部門はおろか、どこの部門にもノミネートされていない、という去年のボス状態。彼はROYとアルバム部門では第58回に堂々ノミネートされてましたから、今回も当然この2つで来るだろうということで自分もそう予想してました。このガン無視状態に本人も頭に来たのか、さっそくツイッターでアカデミーを糾弾するツイートをアップしてますね。まあ、気持ちはわかります。
そして何と、ディランもガン無視!
自分はこれにもかなりビックリしたんですが、ディランの『Tempest』(2012)以来のオリジナルアルバム『Rough And Rowdy Ways』と、16分超の大作「Murder Most Foul」も完全ガン無視されてます。自分はアルバム部門とSOY部門にノミネート予想してたんですが、主要部門には百歩譲ってやや弱いとしても、このアルバムとこの曲が、ロック部門やアメリカーナ部門にもまったくノミネートされてないというのはかなり酷いと思いますね。先日開催されたCMA(カントリー・ミュージック・アウォード)の物故者トリビュートで、フォークの世界の巨人で、今年コロナで亡くなってしまったジョン・プラインの名前が言及されなかった、ということでスタージル・シンプソンとジェイソン・イズベルが抗議してましたが、このガン無視はそれに匹敵する愚行だと思うなあ。アカデミーは伝統的に音楽に貢献してきただけでなく、今も一線でいい作品を作っているアーティストに敬意を表してない、と言われてもしょうがないですよ、これは。
悲劇のラッパー、ポップ・スモークも(ほぼ)ガン無視!
そして今年ヒップホップ・シーンで極めて広い評価を得て、長い間チャート上位にもいたアルバム『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』のポップ・スモークも、アルバム部門はおろか、新人賞部門にもノミネートされず。そして他にもいい作品がアルバムに入っているのに、なぜかブリングブリングな「Dior」だけが辛うじて最優秀ラップ・パフォーマンス部門にノミネートされただけという寂しい状況。
ひょっとして亡くなったアーティストを今後の活躍に期待するべき新人賞部門にノミネートするのはどうか、という観点なのかもしれないけど、その年にブレイクしたアーティストを評価する、というアカデミーの定義だったら充分過ぎるはずなのに。それで不思議なのは、新人賞部門と最優秀ラップ・アルバム部門にはDスモークっていう、正直誰も知らないラッパーがノミネートされてるんですよね。これってポップ・スモークのタイプミス?(笑)
カントリー、主要部門で弱し。ギャビー・バレットもガン無視。
あと今年の主要部門ノミネートでのカントリーの無視され具合もどうかと思いましたね。何と言ってもCMAで「I Hope」(カントリーチャート16週1位、Hot 100最高位3位)でマレン・モリスと最優秀シングルを争い、クロスオーバーヒットとしてもビッグなブレイクアウトを果たしたギャビー・バレットが新人賞部門にいないってのは理解不能ですね。自分はSOYにも推しましたが、そのSOYに同じく推したマレン・モリスも無視。辛うじてマレンは最優秀カントリー・ソング部門にノミネートされただけでしたし、結局主要4部門でのカントリー界のノミネートは、新人賞部門のイングリッド・アンドレス(「More Hearts Than Mine」がカントリーチャート5位、Hot 100最高位30位)のみというこの酷さ。ダイヴァーシティでR&Bやヒップホップ系を重視するのはいいけどこれはさすがにやり過ぎだし、なぜイングリッドでギャビーがダメなのか全く説明が付かない(しかもギャビーはカントリー部門にもノミネートなしなんですよ!)。
今年最も評価高かったフィオナ・アップルのアルバムも主要部門は無視
これもビックリ。ピッチフォーク誌を始め各音楽メディアが高い評価をしていたフィオナ・アップル『Fetch The Bolt Cutters』も最優秀アルバム部門から無視されました。彼女の場合、まだ最優秀ロック・パフォーマンス、最優秀ロック・ソング、そして最優秀オルタナティブ・アルバム部門でノミネートされてますから、ザ・ウィークンドやディランよりはましなんですが、これもかなりの「マジかよ!」でした。
マック・ミラーもガン無視。
これで今回判りました。グラミー・アカデミーは死人に冷たいってこと。もちろんこのアルバム、アルバムチャート1位は取ったけど、そんなに売れてないじゃないの、という意見もあるかもしれないけど、これも音楽メディアの評価はかなり高いアルバムだったし、この後2.で触れるブラック・プーマスのアルバム入れるくらいだったらこれ、入れてよ!って言いたくなりますね。
といったあたりが取り敢えずリスト見て「マジかよ!」と思うくらいインパクトの大きいSnubでした。それ以外にも、リル・ベイビーの「The Bigger Picture」(最優秀ラップ・パフォーマンスと最優秀ラップ・ソング部門ノミネート)やハリー・スタイルズがポップ部門だけで主要4部門に入ってないとかいうのはありますが、今年は明らかに普段の年に比べて考えられないSnubが多すぎますよ。あ、あと「WAP」が無視されたのはやはりちょっといくら何でもエロ過ぎたからでしょうねえ(笑)。
2.それで何でこれがノミネートされてるの?
一方Snubの反対で、なぜノミネートされてるのかがよく判らないやつが今年は主要4部門にいつもよりかなり多く入っていてこれにも驚かされました。
ブラック・プーマスのアルバムって対象期間外じゃないの?
去年新人賞部門にノミネートされてた黒人とラテン系のデュオ、ブラック・プーマスのデビュー・アルバム『Black Pumas』が今回最優秀アルバム部門にノミネート。え?これって2019年6月リリースのアルバムだから対象期間(2019年9月〜2020年8月)外じゃないの?
ところが。今回のノミネートを良ーく見ると(デラックス・エディション)って書いてあるんです。調べてみると、元々10曲入りのこのアルバムのデラックス・エディションというのが今年8月にリリースされてたみたいなのです。何と11曲追加されて21曲入りで(しかもその11曲のうちオリジナル曲は3曲だけらしいです)!これってありいいいいい?って言いたくなりますよね。特にディランとかマック・ミラーとかザ・ウィークンドのアルバムを差し置いてこれかよ?アカデミー何考えてるんや、責任者出てこい!って言いたくなります。そして彼らの場合、ROYにもこのアルバム(オリジナル盤)収録の「Colors」がノミネートされてますが、これなんかは完全に対象期間外じゃないんかい!
最優秀アルバム部門ノミネートのジェイコブ・コリエーって何者?
もう一つ最優秀アルバム部門ノミネートで?マークが飛びまくったのが、ジェイコブ・コリエーというアーティストの『Djesse Vol. 3』なるアルバム。彼はイギリス人のマルチ・インストゥルメンタリストで、エレクトロR&B系というか、現代音楽的というかそういう感じの音楽をやってる人らしいんですが、このアルバムはそういうトラックにR&B系の有名アーティスト達(タイ・ダラ・サインとかダニエル・シーザーとかTーペインとか)をフィーチャーしている楽曲で構成されてるようです。
で、何で?と言う疑問がまた湧くわけですが、更に調べるとどうも彼はかのクインシー・ジョーンズの秘蔵っ子らしいんですな。グラミー史上最多ノミネート数(80)を誇る音楽シーンの超大物の影響が彼の作品を主要の最優秀アルバム部門に押し込んだとすれば(あ、もちろん作品自体はなかなかいい感じなんですが)それってノミネーションプロセスの正当性って意味から言ったらどうなのよ?と思ってしまいますよね。そしてもう一つ。このアルバム、Billboard 200のアルバムチャートには一度もチャートインしてないんです。これって最優秀アルバム部門のノミネート作品としては初なんですよ。うーんどうなんだろう、これ。あ、もう一つ。先ほどのブラック・プーマスもオリジナル盤はBillboard 200には一度もチャートインしてないんですけど、例の(デラックス・エディション)は辛うじて1週間だけ、最高位200位でチャートインしてるらしいっす(爆)。
今年の新人賞部門は例年を上回る?ぶり
新人賞部門ってのは昔からいろいろ「何でこれが新人?」「このアーティスト誰?」的なノミニーが結構多いから、たいがいのことでは驚かないのですが、今回はかなり行っちゃってます。さっきのポップ・スモークならぬDスモークとか、チカ(女性ラッパーらしいです)とかはっきり言って無名でしょ。あと、ノア・サイラス(あの「Achy Breaky Heart」や「Old Town Road」でお馴染みビリー・レイ・サイラスの息子で、マイリーの妹)ってここ4年で2曲しかHot 100ヒットないくらい「ブレイクしてない」アーティストなんですけどねえ。
あと2016年のアルバム『99.9%』でシーンの高い評価を得ていたDJ・R&Bプロデューサーのケイトラナダ(↑写真)とか、2019年夏に「Hot Girl Summer」が全米11位の大ヒットしてたやないか!というミーガン・ザ・スタリオンあたりはまあまだ許せるところですが、それにしたってギャビー・バレットは外しちゃいかんですよねえ。
グラミー、ほんまにデュア・リパ大好きやな!
今回これもビックリしたのは、デュア・リパ、主要部門3部門(ROY、SOY、アルバム)ノミネートですよ!正直デュア・リパってそんなに存在感とかパフォーマーとして優れてるとか思ったことがなく、個人的にはあまり評価できないアーティストで。彼女が一昨年新人賞受賞したときも、僕の本命◎はH.E.R.(彼女もグラミー・ダーリンです)、対抗○はグレタ・ヴァン・フリートでしたし、フラットに見てもルーク・コムズやビービー・レクサあたりが取って何の不思議もなかったんで、その時も「何でデュア・リパ?」と思ったもんで。まあ本国UKでも人気はあるけどねえ。
で、今度主要3部門ノミネートにはぶっ飛びました。これって、近年の女性アーティストだと、アデルやビリー・アイリッシュ、テイラー、ビヨンセ、H.E.R.並みってことですよ。そこまでのもんかい、デュア・リパって、って思うの自分くらいでしょうか?
ビヨンセの「Black Parade」がROY、ねえ....
グラミーのビヨンセ好きはつとに有名ですが(そのくせ主要部門の受賞は2010年第52回の「Single Ladies (Put A Ring On It)」でSOYを取ったのみ)、今回の「Black Parade」のROY、SOYのダブルノミネートはちょっといかにもお手盛りの感が強いなあ、と思います。何たってこれ、例の映像作品としては賞賛されている『The Lion King: The Gift』の収録曲で、しかもアルバムのエクステンデッド・バージョンに追加された楽曲なんですよねえ。映像として評価されるなら判りますが、楽曲としてここまで圧倒的評価なのかあ、ザ・ウィークンドとかを差し置いて?と思っちゃいますよね。
あと、アルバム部門のコールドプレイってのもへ?って思ったけど(悪いアルバムじゃないですけどね)まあいいです。グラミー、コールドプレイもお気に入りだからね。
3.一方うれしいビックリノミネート
何だか文句ばっかり言ってるようですが、今回「え!これ主要部門にノミネートされるんだ!」とうれしくなったノミネートもいくつかありました。
ジェネ・アイコの『Chilombo』祝ノミネート!
日本人やアメリカ先住民の血を引くマルチ・レイシャルな女性R&Bシンガーソングライター、ジェネ・アイコのこのアルバムは多分自分の年間ベスト10に入るくらいの作品でしたが、主要部門ノミネートには弱いかな、ザ・ウィークンドとかもあるし、せいぜい最優秀R&Bソロパフォーマンスか、最優秀プログレッシヴR&Bアルバム(旧アーバン・コンテンポラリー・アルバム)部門(そちらにもノミネートされてますが!)のノミネートかなあ、と思っていただけにこの最優秀アルバム部門のノミネートはうれしかったなあ。マック・ミラーは逃したけどジェネ・アイコが入るならまあ許すわ、みたいな(現金やなあ、我ながら)。
フィービー・ブリッジャーズ、祝新人賞部門ノミネート!
自分でも予想には入れてましたが、結構ノミネーションは五分五分だと思ってただけに、フィービーのノミネートはうれしいサプライズでした。去年のマギー・ロジャーズのノミネート予想が当たったくらい、これもうれしいですね。アルバム『Punisher』も、自分は主要部門ノミネート予想してましたが、きっちり最優秀オルタナティブ・アルバム部門にノミネートされてますからこのあたりはちゃんと評価されるべき人が評価されてるな、という感じがありました(ただあの部門はフィオナが強そうですけど...)。
彼女のノミネートでへ?と思ったのは最優秀ロック・パフォーマンス部門と最優秀ロック・ソング部門にこのアルバムの「Kyoto」がノミネートされてること。これってロックつーか、どっちかっていうとポップじゃないの?あのアルバムだったら他にロック部門にふさわしい曲もあったんじゃないかなあ、と思うんですがまあ贅沢言うのはやめときます。
それ以外ではドジャ・キャットの主要2部門(ROY、新人賞)ノミネートも快挙だったと思います。
ということで第63回グラミー賞ノミネート発表の酷いところ、おかしなところ、そしてちょっとうれしかったところをまとめてみました。全84部門のフル・ノミネーション・リストは下記の記事で見れますのでチェックしてみて下さい。
ちなみに自分の予想との答え合わせは、ROYが1勝7敗、新人賞とアルバム部門が2勝6敗、そしてソング部門が1勝6敗1分け(テイラーの曲違い)と一言で言って散々でした。本チャンの受賞予想はせめて例年並みの成績になるよう頑張りますね。受賞予想はここのnote.comで、12月後半あたりから随時掲載しますのでお楽しみに。