DJ Boonzzyの第66回グラミー賞大予想#10〜ジャズ部門
いよいよグラミー賞授賞式が約1週間後に迫ってきて、当日のパフォーマンス・ラインアップも次々に発表になってますね。最初に発表されたオリヴィア・ロドリゴ、ビリー・アイリッシュ、デュア・リパに続いて、先週には第2弾ラインアップで、ルーク・コムズ、バーナ・ボーイ、トラヴィス・スコットのパフォーマンスが発表。今週は日本での一夜限りのライブで盛り上がったビリー・ジョエルのパフォーマンスが発表され、この週末には何と現在ラスヴェガスの新しいライブベニュー、スフィアでレジデンシー公演中のU2が当日のラインアップに追加されることが発表されてます。今年もエキサイティングなパフォーマンスが楽しめそうなグラミー授賞式、その前に何とか全部門予想完了目指して今日もアップします。今回はジャズ部門の予想です。
41.最優秀ジャズ・パフォーマンス部門(今回名称変更)
◯ Movement 18’ (Heroes) - Jon Batiste
Basquiat - Lakecia Benjamin
Vulnerable (Live) - Adam Blackstone featuring The Baylor Project & Russell Ferranté
◎ But Not For Me - Fred Hersch & Esperanza Spalding
✗ Tight - Samara Joy
昨年までこのカテゴリーは「最優秀インプロヴァイズド・ジャズ(ソロイストに与えられる賞)」という名前で、楽曲にではなく、楽曲中のソロ奏者に対して賞が授与されてました。今年からはそれが変更になって、演奏者だけでなく今回からはボーカリストや、複数でコラボしている演奏者も授賞の対象となるという、ほぼ楽曲への賞という形に変更になってます。これはこの後のボーカル・アルバム部門とインストゥルメンタル・アルバム部門で、ボーカルと楽器のパフォーマンスが同等に評価されていることを考えると、理解できる変更と言えますね。
従って、過去の「最優秀インプロヴァイズド・ジャズ」部門では楽器奏者のみのノミネートだったのですが、今回はボーカルがフィーチャーされた作品が3点ノミネートされてます。一つは昨年もマーカス・ベイラーがドラマーとしてこの部門にノミネートされてたザ・ベイラー・プロジェクト(ドラムスのマーカスとボーカルのジーンのベイラー夫妻)をフィーチャーしたベーシストのアダム・ブラックストンの「Vulnerable (Live)」、二つ目は本来ベーシストのエスペランザ・スポールディングがピアノのフレッド・ハーシュをバックにボーカルを取るNYヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ盤から「But Not For Me」、そして昨年のグラミー最優秀新人賞とジャズ・ボーカル・アルバム部門を受賞したサマラ・ジョイの「Tight」。そしてこの3つを含む5作品を見て一番光っているのは、自らも2011年第53回の最優秀新人賞をジャズ・アーティストとして初めて受賞した、コンテンポラリー・ジャズ界のスーパースター、エスペランザ・スポールディングとフレッド・ハーシュの作品。このアルバム、自分もジャズ作品では昨年かなり愛聴したアルバムで、音楽メディアの評価も高い作品でしたし、エスペランザ自身もジャズ・ボーカル・アルバム部門で過去3回受賞するなどグラミー常連なんで、ここは彼女の強さを考えて本命◎はこのデュエット・ライブ盤に。
そして本当は対抗◯もこの3組から、と思ったのだけど、この部門になぜか主要部門ノミネートのジョン・バティーストのピアノ・インスト曲がノミネートされてるのが妙に気になって。この曲でのピアノのパフォーマンス自体特にどうということもないのだけど、今回彼は主要部門は取らないと踏んでいるので、この部門くらいは取ってくる可能性あるかも、ということでジョン・バティーストに対抗◯。去年のサプライズ受賞の余韻もまだ残るサマラ・ジョイに穴✗を付けました。
42.最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム部門
✗ For Ella 2 - Patti Austin featuring Gordon Goodwin’s Big Phat Band
◎ Alive At The Village Vanguard - Fred Hersch & Esperanza Spalding
Lean In - Gretchen Parlato & Lionel Loueke
◯ Mélusine - Cécile McLorin Salvant
How Love Begins - Nicole Zuraltis
先程の部門でも触れたように、このジャズ・ボーカル・アルバム部門では、エスペランザ・スポールディングが3回(2013年55回、2020年62回、2022年64回)受賞しているので、彼女がこの部門で強いのは間違いないのですが、それに対抗するくらいこの部門で強いのがハイチ人の父親とフランス人の母親を持つコスモポリタンな実力派かつ先鋭的ジャズ・シンガー、セシール・マクローリン・サルヴァント。彼女もこの部門過去3回(2016年58回、2018年60回、2019年61回)受賞していて、昨年もケイト・ブッシュの「嵐が丘」の前衛的とも言えるカバーが衝撃的だった『Ghost Song』でこの部門ノミネートされてて、サマラ・ジョイが取らなければ彼女のが取ってたに違いない、と思わせるほどの存在感のあるシンガーです。
今回の『Mélucine』は14世紀ヨーロッパの伝説に出てくる下半身が蛇の女性の妖精をテーマにしたコンセプト作で、収録曲のほとんどがフランス人作品の古い楽曲で、彼女もほぼ全編フランス語で歌っているという意欲作。音楽メディアの評価も極めて高い作品なんだけど、正直ジャズ作品の枠を超えてしまっている凄さもあって、逆にこの部門の本命◎としてはよりスタンダードなジャズ・パフォーマンスを最高のレベルで実現しているエスペランザのアルバムに譲らざるを得ないかな、と思います。なのでセシールのアルバムは対抗◯にしました。
穴✗は、アーティストとしての実績・知名度と、過去にこの部門で受賞歴のある(2008年50回、この時はガーシュイン集)パティ・オースティンが、ビッグ・バンドをバックにエラ・フィッツジェラルドがかつて歌ったジャズ・スタンダード曲を歌うアルバムの第2弾(第1弾は『For Ella』として2002年リリース)に付けました。
43.最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門
The Source - Kenny Barron
Phoenix - Lakecia Benjamin
✗ Legacy: The Instrumental Jawn - Adam Blackstone
◯ The Winds Of Change - Billy Childs
◎ Dream Box - Pat Metheny
ボーカル・アルバムに続いてはインストゥルメンタル・アルバム部門ですが、今年この部門で群を抜いて光っているのはベテラン・ジャズ・ピアニスト、ビリー・チャイルズが昨年ソロイスト部門でもノミネートされてたアヴァンギャルドなトランペット奏者、アンブローズ・アキンムシリをフィーチャーしたカルテット作品『The Winds Of Change』と、ジャズ部門過去31回受賞という問答無用の重鎮ギタリスト、パット・メセニーが師匠でもあり、過去コラボ作も一緒に作った巨匠ジム・ホールを彷彿させるような美しく流麗なメロディとシンプルなコード構成でうっとりと聴かせる『Dream Box』の2作品。
ある意味動と静、エッジと丸みという両極端なイメージのこの両作品は比較のしようがないのですが、個人的には夢幻の世界に引き込まれるようなパットのギター・プレイが、一時期むちゃくちゃハマっていたあのジム・ホールとの名盤コラボ作『Jim Hall & Pat Metheny』(1999)を彷彿とさせるので、ここはパット本命◎、ビリー・チャイルズ対抗◯とせざるを得ません。
そして穴✗を付けたのはアダム・ブラックストーンの『Legacy: The Instrumental Jawn』。このアルバム、実は2022年リリースのR&Bジャズ・アルバム『Legacy』の楽曲を、オリジナルではボーカル入りだった曲はすべてインスト・バージョンでリミックス風に録音しなおしたアルバム。実はこの他に『Legacy』の楽曲をライブ録音したライブ盤『The Legacy Experience (Live)』も昨年リリースされていて、今回ジャズ・パフォーマンス部門でノミネートされていた「Vulnerable」のライブバージョンはこちらからのカット(ややこしいw)。一粒で三度美味しい商売してるアダム・ブラックストーンですが、そのコンセプトが気に入ったのでこちらを穴✗に選んでいます。
44.最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門
The Chick Corea Symphony Tribute - Ritmo - ADDA Simfónica, Josep Vincent, Emilio Solla
Dynamic Maximum Tension - Darcy James Argue’s Secret Society
◯ Basie Swings The Blues - The Count Basie Orchestra Directed By Scotty Barnhart
✗ Olympians - Vince Mendoza & Metropole Orkest
◎ The Charles Mingus Centennial Sessions - Mingus Big Band
毎回そうですが、ビッグ・バンド・ジャズという分野についてはほとんど知見を有していない自分としては、この部門などはもう名前と聴いた感じだけで予想していかなくてはいけないのが毎年キツいところなんですが、今年はマリア・シュナイダーとかクリスチャン・マクブライドといった、過去複数回この分野を受賞している顔ぶれが不在な代わりに、カウント・ベイシーとチャーリー・ミンガスというジャズの歴史に名を残す巨人二人の看板を掲げた、共に長い歴史を誇るビッグバンドがノミネートされているので、素人っぽくこの2つから本命◎と対抗◯を選ぶことにしました。
カウント・ベイシー・オーケストラの『Basie Swings The Blues』は、数々のビッグ・バンドの名曲を、ジョージ・ベンソンやロバート・クレイ、R&Bシンガーのレディシやベティ・ラヴェットといった様々なゲストをフィーチャーして演奏している作品。一方、ミンガス・ビッグ・バンドの『The Charles Mingus Centennial Sessions』は、バンドの創始者であるジャズ・ベーシスト・レジェンドのチャーリー・ミンガスの生誕100年を記念してリリースされた、チャーリーの息子さんのエリック・ミンガスのボーカルとナレーションによるミンガスの楽曲をフィーチャーした記念アルバム。過去の受賞歴ということでいうと、カウント・ベイシー・オーケストラが7回、ミンガス・ビッグ・バンドがわずか1回と明らかにベイシーの方が格上なんですが、作品の歴史的重要性という観点から言うとこりゃミンガスの方が重いかな、ということでミンガス・ビッグ・バンド本命◎、カウント・ベイシー・オーケストラを対抗◯としました。すいません、いい加減な予想で(笑)。
穴✗については、ジョニ・ミッチェルやビョークなどとの仕事でも知られる作曲家/アレンジャー/ビッグ・バンド指揮者のヴィンス・メンドーザが指揮するオランダのビッグ・バンド、メトロポール・オルケスト(第58回ではあのスナーキー・パピーとの共演作『Sylva』で最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門受賞)の作品につけておきます。
45.最優秀ラテン・ジャズ・アルバム部門
◎ Quietude - Eliane Elias
My Heart Speaks - Ivan Lins With The Tblisi Symphony Orchestra
Vox Humana - Bobby Sanabria Multiverse Big Band
✗ Cometa - Luciana Souza & Trio Corrente
◯ El Arte Del Bolero Vol. 2 - Miguel Zenón & Luis Perdomo
これも毎年言ってるんですが、ラテン・ジャズとなると更に自分の知見や経験が乏しいんで、いきおい予想は過去の実績などのベースになってしまうこと、ご容赦下さい。さて今年のノミニー5組のうち、昨年から連続してノミネートされているのはプエルトリコ出身のベテラン・アルト・サックス奏者のミゲル・ゼノンがこちらもベテランのベネズエラ出身のピアニスト、ルイス・ペルドモとコラボした『El Arte Del Bolero(ボレロの芸術)Vol. 2』。この2人は2022年第64回でもラテン・アメリカ・ソングブックの定番曲を再演しているこのアルバムのVol. 1でこの部門ノミネートされてます。ミゲルはこれが14回目のグラミーノミネート(ラテン・ジャズ・アルバム部門は10回目)になりますが、何とこれまで未受賞。
そしてこのデュオを前回抑えてこの部門受賞していたのが、今回『Quietude』でこの部門3回目のノミネートを果たしている、大ベテランのブラジリアン・ジャズ・ピアノ&ボーカリスト、イリアーヌ・イリアス。過去に何度も来日もしている彼女は昨年11月に5年ぶりの来日予定だったのですが、足の怪我で中止になったとのことで、回復されてることを祈ります。さて前回もミゲルとのマッチアップで受賞を果たしている女王イリアーヌ、今回も自分のピアノ以外の楽器はちょっとしたアコギと控えめなドラムスで音数を抑えて全編ポルトガル語の艷やかで心和むボーカルを引き立たせるという素晴らしい内容なので、今回も本命◎は女王イリアーヌで、ミゲルとルイスのコラボアルバムは対抗◯ということにせざるを得ないかな。ミゲルにはそろそろ受賞させてあげたい気はしますけどねえ。
そして穴✗は、その女王イリアーヌに次ぐベテラン・ブラジリアン・ジャズ・シンガー、ルチアーナ・スーザがトリオ・コレンテをバックに歌う『Cometa(彗星)』に。ルチアーナは、2008年第50回の全体最優秀アルバム受賞の、ハービー・ハンコックがジョニ・ミッチェルの曲を様々なアーティストとリイマジンした『River: The Joni Letters』のフィーチャー・ボーカリストの一人として既にグラミー受賞経験があるように、ポール・サイモンやスティーヴン・ビショップなど幅広いミュージシャンとの共演経験もあるので、ちょっと気になる人ではありますね。
46.最優秀オルタナティヴ・ジャズ・アルバム部門(今回新設)
◯ Love In Exile - Arooj Aftab, Vijay Iyer, Shahzad Ismaily
Quality Over Opinion - Louis Cole
SuperBlue: The Iridescent Spree - Kurt Elling, Charlie Hunter, SuperBlue
✗ Live At The Piano - Cory Henry
◎ The Omnichord Real Book - Meshell Ndegeocello
今年から新設されたこのオルタナティブ・ジャズ・アルバム部門。また「何がオルタナティブか」が正直不明なんですが、おそらく正統派ジャズ・スタイルではなく、他の音楽ジャンルスタイル(ロック、ヒップホップ、R&Bなどなど)も取り入れた、まあ「ストレート・ジャズではない」くらいの意味合いかな、と理解してます。この手の作品は従来去年のDOMi & JDベック『Not Tight』やスナーキー・パピーの一連作品など、最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門でノミネートされたり、今回この部門ノミネートのコリー・ヘンリーのように最優秀プログレッシヴR&Bアルバム部門でノミネートされたりと、あちこちの部門に分散していたのを「ジャズ的な立ち位置」という軸からここに集めた、という解釈も成り立つかもしれません。
そんな中ここで一際光って見えるのは、昨年音楽メディアから絶賛されていた、ミシェル・ンデゲオチェロが、ジェイソン・モラン、アンブローズ・アキンムシリらジャズ・ミュージシャンのみならず、ファンク系のコリー・ヘンリー、南アフリカのサンディスワといった様々なアーティスト達とコラボして、ミシェル独特の世界観による音像を作り上げた『The Omnichord Real Book』。その音楽の唯一無二性といい、シーンの評価の高さといい、やはりこれが本命◎でしょう。
対抗◯として選んだのは、一昨年の最優秀新人賞部門ノミネートのパキスタン人のジャズ・シンガー、アルージ・アフタブと、21世紀の前衛ジャズを代表するインド系アメリカ人のピアニスト、ヴィジェイ・アイヤー、そしてパキスタン系アメリカ人のベーシスト、シャザド・イスマイリーという、いずれもアジア系の出自を持つ3人がトリオで発表した『Love In Exile』。これもシャザドが奏でるシンセトラックをバックに、どこからともなくヴィジェイのピアノが、そしてアルージのボーカルがたゆとうように、絡みつくように出たり入ったりするという、これも独特の世界観を感じさせる作品で「オルタナティブ」というに相応しいでしょう。
一方穴✗には、昨年フジロックにも来日してフィード・オブ・ヘヴンのステージで延々ゴスペルでファンクなパフォーマンスを聞かせてくれた元スナーキー・パピーのコリー・ヘンリーが、ここではとてもグルーヴ満点のR&Bジャズ風の演奏と歌をピアノ一つでライブ・ハウスのお客さんに聞かせてるライブ盤『Live At The Piano』。これ、あまり「オルタナティヴ」って感じしないんだけど(笑)なかなかいいので許します。本人のプレイや歌もさることながら、観客との気さくなやり取りや笑い声が楽しくて、音楽ってこうなきゃなあ、と思わせてくれるので。
さあ、あと残す予想は10カテゴリーになりました。何とかあと2回のブログで予想完結できるようラストスパート、頑張りますので、引き続きお付き合い下さい。
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