見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #227- 2024/3/16付

月曜から宮崎駿作品と『ゴジラ -1.0』のアカデミー受賞に湧き(『パーフェクト・デイズ』は残念でしたが)、内容を知らなかった『関心領域』のテーマに慄然とし、美術・コスチューム関係部門をスイープした『哀れなるものたち』の勢いにおっとなりながら、最後はやっぱり『オッペンハイマー』で落ち着くという、最近久しぶりに盛り上がったアカデミー賞授賞式、皆さんご覧になりましたか?ここのところいろいろバタバタすることが多くて、映画をゆっくり観てないんですが、久しぶりに新旧の作品賞候補作をいくつか観てみようかな、と思いました。一方で昨日は70〜80年代全米トップ40ファンに愛されるヒット曲を紡ぎ続けていたエリック・カルメンの訃報が届き、かなりショックを受けております。こんなことがあるとやっぱりライブには行ける時に行っておかないとな、と思いますね。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さてここで更に残念なお知らせです。今週の全米アルバムチャート、3月16日付のBillboard 200の首位は、残念ながら先週からしぶとくポイントを積み上げて68,000ポイント(対先週+1,000ポイント。うち実売2,000枚)とし、対抗馬が全くない中またしても消去法的に首位返り咲き、通算19週目の首位を取ってしまったモーガン野郎の『One Thing At A Time』でした。これでカントリー・アルバムとしてはガース・ブルックスの『Ropin The Wind』(1991-92)の18週を抜いてBillboard 200史上最長記録を達成したって言うから、ガース・ブルックスも今頃「何であいつなんだよ」とブータレてるやろうなあ。

とにかく、これ以上の首位復帰はやめてもらいたいモーガン野郎。来週はあの大物女性アーティストの新譜がガーンとトップに登場してモーガン野郎を蹴落としてくれるでしょうからいいとして、これ以上首位を重ねると、20週のエルヴィスBlue Hawaii』(1961-62)やホイットニーの『The Bodyguard』(1992-93)にも並んでしまうからね。そもそもこのアルバム、ポイントが一向に落ちてこないのも腑に落ちないところ。実売は大したことないから、毎週ストリーミングがコンスタントにポイント稼いでるということなんでしょうが、モーガン野郎のファンに言いたいですね。「あんたら、そんなに毎週毎週モーガン野郎ばっか聴いてて他に聴くものないんか??」って(笑)。とか言ってたら今週トップ10の下の方に前作の『Dangerous: The Double Album』が2/10付以来一ヶ月ぶりに戻ってきてるじゃないの!これでこのアルバム、143週目のトップ10、ああいやだいやだ。

"Blue Lips!" by ScHoolboy Q

結局今週のトップ10は初登場ゼロで、圏外11位から100位まででも初登場はわずか2枚でした。先週ひょっとしたらモーガン野郎の首位復帰を食い止めてくれるんじゃないか、と期待していたスクールボーイQの『Blue Lips!』は今週残念ながらトップ10にも届かず13位初登場。ここんとこ3枚続けてトップ3にぶち込んで来てたんで期待したんですけど。やっぱ前作『Crash Talk』(2019年3位)がコロナ前、ってのが今回大きくポイントを落としてる要因の一つなんでしょうね。最近のシーンのプレイヤー入れ替わり激しいから。

でもね、作品の中身はかなり充実してますよ、ちょっと聴いただけでもそう思います。大体オープニングからオーガニックなアコギの絡んだ映画音楽風のトラックに歌のような、チャントのようないろんな声が重層的に聞こえてきて、70年代初期のソウル・ジャズっぽい「Funny Guy」聴いただけでこりゃ、並の今どきのヒップホップじゃないな、って感じ。続く「Pop」ももはやヒップホップの枠を飛び出してる感じがスリリングだし、ベテランのフレディ・ギブスをフィーチャーした「Ohio」なんて70年代ブラック・ムーヴィーのサントラみたい。何しろ凡百のそこらのトラップ野郎達みたいに、やたらメジャーな客演アーティストをズラズラ並べてないところも渋いね。それでこんだけ聴かせるってのはやはりQの才能と腕(口?)でしょう。うーんこれはやっぱり1位とは言わずともトップ10には入ってほしかったな。

"Texas Technician" by That Mexican OT

今週の100位以内初登場はもう1枚、64位にチャートインしてきた、テキサス州南東部メキシコ湾沿いの地方都市、ベイ・シティ出身の25歳のラッパー、ザット・メキシカンOT(OTはアウタ・テキサス、つまり「あのテキサス出のメキシカン野郎」って意味)ことヴァージル・ルネイ・ガズカ君の『Texas Technician』。昨年59位に入ったファースト・アルバム『Lonestar Luchador』に続く2作目のチャートイン・アルバムになります。基本音数の少ないトラップ風のちょっと不穏な感じのビートに乗って、時折チカーノ・イングリッシュ(スペイン語と英語のハイブリッドのような英語)を交えるそのスタイルはまあなかなかユニークな感じではあります。

ただそれ以上でもそれ以下でもないというか。アルバム前半にはダベイビーをフィーチャーした「Point Em Out」やテキサスの大先輩ラッパー、ポール・ウォールをフィーチャーした「Chicken Strips & Ass」といったトラックを配して気を引こうとしてますが、それ以外のトラックはやや単調な感じを免れず、といったところ。テンガロン・ハットにおっさんメガネにスケベヒゲのぽっちゃり兄ちゃん、といった容貌はなかなか憎めないキャラだし、ラップのテクもまずまずなだけに、今後いかに鋭いトラックを作り出すか出会うかが彼の更なるブレイクにかかってる気がしますね。

ということで今週の100位までの初登場は2枚だけでした。一方Hot 100の方に目を向けるとビヨンセの「Texas Hold ‘Em」は早々と下降して、先週2位にいたカニエタイ・ダラ・サインの「Carnival」がチャートイン4週目で1位を決めています。まあこれは、先週3/1付のスポティファイ・デイリー・チャートの1位にこの曲が居座っていたことから大方予想は付きましたが、来週は今週リリースのアリアナの曲がこの「Carnival」を蹴落として1位を決めるか、というのが興味の的。ちなみにこの「Carnival」の1位でカニエのナンバーワンはトウィスタにフィーチャーされた「Slow Jamz」(2004、1週)、ジェイミー・フォックスをフィーチャーした「Gold Digger」(2005、10週)、「Stronger」(2007、1週)、ケイティ・ペリーにフィーチャーされた「E.T.」(2011、5週)に続く5曲目のナンバーワンで、実に13年ぶりの1位ということになります。では今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (2) (53) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <68,000 pt/2,000枚>
2 (4) (67) Stick Season ▲ - Noah Kahan <53,000 pt/4,251枚*>
3 (3) (4) Vultures 1 - ¥$ (Kanye West & Ty Dolla $ign) <53,000 pt/1,021枚*>
4 (5) (65) SOS ▲3 - SZA <50,000 pt/1,745枚*>
5 (6) (22) For All The Dogs - Drake <42,000 pt/49枚*>
6 (7) (19) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <39,000 pt/9,110枚*>
7 (9) (237) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,000 pt/7,009枚*>
*8 (12) (28) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <38,000 pt/2,170枚*>
*9 (11) (165) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <38,000- pt/354枚*>
*10 (17) (32) Utopia - Travis Scott <36,000 pt/1,195枚*>

トップ10に初登場ゼロな上にモーガン野郎がまた首位復活してしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:3/8~14)ですが、これはもうアリアナ嬢がガーンと行ってくれるに違いないので、来週は安心ですね。前回の『Positions』(2020)の時は17万ポイント叩き出してるので、今回も15万ポイントは堅いところでしょう。それ以外では、久しぶりに評判のいいノラ・ジョーンズのアルバムが久々のトップ10に入ってくるかもしれません。では最後にエリック・カルメンの冥福を改めて祈りながらまた来週。


いいなと思ったら応援しよう!