今週の全米アルバムチャート事情 #108- 2021/12/4付
コロナもオミクロン株の登場で、また何やら雲行きがおかしくなってきました。何とか年越し前後にロックダウン、なんてことにならないようにしたいものです。一方いろんな年末企画がそろそろ目白押しになってくる季節になり、今年も自分も2021年の洋楽総決算、ということで「Hot 100年間チャート予想(と思ってたら今日既にビルボード誌の年間チャートが発表になってしまった。どうしよう)」「DJ Boonzzyが選ぶ2021年年間アルバムランキング」そして「第64回グラミー賞部門別受賞予想」といったブログ企画を今年もやりますので、どうかお楽しみに。
先週は公私共にパンパンでこの「全米アルバムチャート事情!」連動のポッドキャストをお休みしてしまいましたが、今週は何とか週末には配信したいと思っていますので、それまでは上記のリンクから過去の配信、お楽しみ下さい。
さて今週のBillboard 200全米アルバムチャート、12/4付の1位は、先週からもほとんど既成事実化してしまっていたアデルの『30』が予想通り記録的な勢いで初登場、改めてアデルの人気ぶりを実感したわけですが、その記録ぶりをまとめると下記の通り。
1.ポイント数(839,000ポイント)はドレイクの『Certified Lover Boy』の613,000ポイントを大きく凌駕して2021年最高ポイント。
2.アルバム実売枚数692,000枚は、先週テイラーの『Red (Taylor’s Version)』で更新されたばかりの今年の週間売上枚数記録369,000を倍くらいの勢いで突破。しかもこの枚数は今年だけでなく、2017年にテイラーの『Reputation』が1,216,000枚の実売を記録して以来の週間最多実売枚数記録。
3.更に2021年通年の実売枚数のこれまでの記録、テイラーの『Evermore』の471,000枚をわずか1週間で更新。
4.そのうち、ヴァイナルLPの売上108,000枚は、1991年にMRCデータ社が売上実数を報告開始以来の週間最高売上記録、先週テイラーの『Red (Taylor’s Version)』の114,000枚に危うく迫る歴代2位。
とまあ、記録的なパフォーマンスは留まるところを知らず、といった感じです。この勢いで、先週テイラーの「All Too Well(Taylor’s Version)」に1位から蹴落とされていたシングル「Easy On Me」も1位に復帰、通算5週目の1位をマーク。加えてそれ以外のアルバム全ての曲が今週Hot 100に登場するという圧倒的なパフォーマンスです。このポイント数だと、来週から半々で減っていったとしても(そしてクリスマスショッピング・ウィークもあるのでそうはならないでしょうねえ)、年内はこのレベルのパフォーマンスができる作品のリリース予定はないので、多分年内はこのままずっとアデルが1位キープしそうですねえ。自分も毎週『30』について何を書くか、ネタ切れしないように考えなくては(笑)。
今週トップ10もう一つの初登場は、7位に40,000ポイント(実売38,000枚)で入ってきた、ロバート・プラントとアリソン・クラウスの2作目のコラボアルバムとなる『Raise The Roof』。2009年の第51回グラミー賞で最優秀アルバム受賞の前作『Raising Sand』同様、今回もTボーン・バーネットのプロデュースで、前回骨太のギターを聴かせてくれていたマーク・リボーに加えて、ロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴやビル・フリゼルなど、Tボーン人脈でアメリカーナ・ロックの粋を担うギタリストたちを配して、またあの幻想的で荒野に佇む男神と女神が歌う、的な世界観を展開した作品になってるようです。
選曲も前回も取り上げていたアラン・トゥーサンやエヴァリーズのナンバーをはじめ、無頼派カントリーの雄、マール・ハガードの曲や、英米の渋ーいフォーク・ミュージシャンのナンバーなど、Tボーンの世界がまた見事に構成されてるようですね。そして前作『Raising Sand』がグラミーを席巻した年の新人賞を受賞していたのが他ならぬ今週1位のアデル。このタイミング、何やら運命のようなものを感じますなあ。
そして初登場ではないんですが、今週9位にはこの時期になると毎年トップ10に戻ってくるマイケル・ブブレの定番クリスマス・アルバム『Christmas』が圏外22位から急上昇でトップ10返り咲き。今回オリジナルリリース10周年記念のデラックス・リイシューがあったのがだいぶ貢献してるようです。更には10位にはザ・ウィークンドのベスト盤『The Highlights』がヴァイナルが今回リリースされた関係で(売上5,000枚)チャート外から再登場しています。クリスマス・アルバムも、ベスト盤も、サンクスギビング以降クリスマス・シーズンにかけては売上を伸ばす時期なので、これから年末にかけて、まだまだ上位にこの手のアルバム、上がってくるでしょうね。
ということで今週はトップ10というかチャート全体がアデル祭りの様相を呈してますが、ここでいつものようにトップ10圏外100位までの初登場をチェックします。今週の初登場は3枚。来週はサンクスギヴィングのブラック・フライデーが集計期間に入って来ますので、先ほど触れたクリスマスアルバムや、ベスト盤系がわんさか再登場してくると思いますが、今週はまだその気配はあまりありません。
まず33位に初登場してきたのは、これも10月に5位で再登場してきていたビートルズの『Let It Be』リイシュー同様、シニアな音楽ファンの間でここのところ評判になっていた、1979年9月21日と22日にNYマディソン・スクエア・ガーデンで行われた、原発反対コンサート「No Nukes」でのブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドのライブの様子を完全収録した『The Legendary 1979 No Nukes Concerts』。このリリースは、LPまたはCD2枚組+DVDまたはブルーレイディスクという形で、当時『Darkness On The Edge Of Town(闇に吠える街)』をリリースした直後で、あの名盤『The River』リリース前の、ボスとEストリート・バンドの最初の絶頂期を捉えた作品なので、ファンは必携のセットでしょう(自分も買おうと思いながら、LPにしようかCDにしようかまだ悩んでます)。
このライブの一部、ジャクソン・ブラウンも『Running On Empty(孤独なランナー)』(1977)でカバーしていた、モーリス・ウィリアムス&ゾディアックスの1960年のNo.1ヒット「Stay」のカバーと、ミッチ・ライダーのロックンロールナンバーをメドレーでカバーした「Detroit Medley」は、当時リリースされた、このチャリティコンサートでの他のアーティストのパフォーマンスも収録した3枚組ライブ盤に収録されていて、あの中でもハイライトでした。あの盤を聴くたびに、Eストリート・バンドとボスの熱狂的な演奏にいつも興奮させられたものです。それが今回はそれだけではなく、10分を超えるバージョンの「Jungleland」や「Rosalita (Come Out Tonight)」も含む、当時の彼らの最高のセットリストが再現されてるというもの。ネット・レビュー集計サイトのメタクリティックも90点付けてるというこの盤、ううん、やっぱり早く買わねば(笑)。
続いて59位初登場は、先週トップ10来るかも、と言っていた、フレンチ・モンタナの4作目『They Got Amnesia』。彼も2013年のデビュー『Excuse My French』が4位、2作目『Jungle Rules』(2017)は3位と、アルバムをトップ10の上の方に送り込んでたんですが、前作2019年『Montana』は25位、そして今回はトップ50も外すというやや凋落傾向。今回のアルバムタイトル(『あいつら記憶喪失症だぜ』)も、そういう傾向に対する彼の不満を現してるのかもしれないですね。
今回、14分に及ぶアルバムタイトルを冠したミニムービーもYouTubeにアップされるなど、プロモーションに結構気合いが入ってるようなのですが、彼自体のフロウやスタイルのタイトさは相変わらずなかなかのものだとは思うんですが、この順位。ゲスト・フィーチャーもジョン・レジェンドやドジャ・キャット、リル・ダークなどなど、大物から今の旬の顔ぶれも配した楽曲が並んでいながら、今週Hot 100にも、R&B・ヒップホップソングチャートにも一曲も登場せず。スウェイ・リーをフィーチャーして全米3位の大ヒットとなった「Unforgettable」(2017)の頃を思うとなかなか隔世の感があります。この後彼は人気を立て直しできるのか。
そして今週最後の100位までの初登場は、88位に入って来ているのが『Never Broke Again: The Compilation, Volume One』というどうやらヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインがマイナーなラッパー達との共演トラックを収録したコンピレーション盤。ついこの間オリジナル・アルバム『Sincerely, Kentrell』が1位を決めたばかりのYBNBA、このコンピがどういう位置付けなのかなあ、とアップル・ミュージックやスポティファイにアップされている音源を見ると、曲によってはYBNBAとは別に「Never Broke Again」というアーティスト名が併記されてるんですよね。
これって一体どういうこと?と思って動画を見ると、このアルバム、どうやらYBNBA一派のラッパー達によるポッセ・コンピのようで、彼らの一派の名前がどうやら「Never Broke Again」ということのようです。しかし登場するPヤンギンとかクアンド・ロンドとかみんなやたら若いねえ。この子らティーンエイジャーだと思うけど。
ということで今週の100位までの初登場アルバムの解説をお届けしました。いつものようにトップ10のおさらい、今週も*の付いた売上枚数はHits Daily Doubleのサイトからのデータです。今週もドレイクの枚数にはのけぞりますね(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数>)。
*1 (-) (1) 30 - Adele <839,000 pt/692,000枚>
2 (1) (2) Red (Taylor’s Version) - Taylor Swift <159,000 pt/68,062枚*>
3 (5) (12) Certified Lover Boy - Drake <53,000 pt/347枚*>
4 (2) (2) An Evening With Silk Sonic - Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak) <50,000 pt/15,266枚*>
*5 (6) (46) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <48,000 pt/2,422枚*>
6 (4) (3) Still Over It - Summer Walker <48,000 pt/1,377枚*>
*7 (-) (1) Raise The Roof - Robert Plant / Alison Krauss<40,000+ pt/38,000枚>
*8 (11) (27) Sour ▲2 - Olivia Rodrigo<40,000 pt/11,915枚*>
*9 (22) (95) Christmas ▲6 - Michael Buble<39,000 pt/11,528枚*>
*10 (RE) (41) The Highlights - The Weeknd<37,000 pt/6,000枚>
さて今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。通常はここで来週の1位予想なんですが、既に先ほどコメントしたように、来週以降年内チャートの対象期間に、今のアデルの勢いに待ったをかけられそうなアルバムのリリースはないので、当面はアデルが1位をキープすると思います。ここから数週は「アデルがどれくらいポイントを減らすか」が焦点になってきますね。まあ来週半減してもまだ40万ポイントありますから。
来週チャートの対象期間は11/26-12/2と、ブラック・フライデーを含んでるので、トップ10にはクリスマス・アルバムやベスト盤が何枚か登場するかもしれません。ニューリリースではトップ10に来そうなものはどうも皆無なので、来週はトップ10よりは11位以下の方が賑やかかもしれません。ではまた来週。
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