【恒例洋楽年初企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#8~ゴスペル&CCM部門
先週末にとうとうロシアが侵攻してしまったウクライナの情勢が本当に心配です。予想以上にウクライナ軍が抵抗して持ちこたえているとはいえ、既に一般市民にも300人を超える犠牲者が出ている様子だし、一刻も早く停戦、ロシア軍は自国に戻れ!と言いたい。本当に2020年にもなって核をちらつかせるような時代錯誤なプーチンの態度には怒りしかないですね。自分は遠い日本で安全にしているから偉そうなことは言えないですが、毎朝ニュース見るたびに暗い気分になります。さて、気分を取り直して神にも祈るような気持ちで、DJ Boonzzyのグラミー賞予想、次はゴスペル&CCM部門です。
31.最優秀ゴスペル・パフォーマンス/ソング部門(アーティストと作者の両方に与えられる賞)
Voice Of God - Dante Bowe Featuring Steffany Gretzinger & Chandler Moore (Dante Bowe, Tywan Mack, Jeff Schneeweis & Mitch Wong)
○ Joyful - Dante Bowe (Dante Bowe & Ben Schofield)
Help - Anthony Brown & Group Therapy (Anthony Brown & Darryl Woodson)
◎ Never Lost - Cece Winans(受賞)
× Wait On You - Elevation Worship & Maverick City Music (Dante Bowe, Chris Brown, Steven Furtick, Tiffany Hudson, Brandon Lake & Chandler Moore)
まだ予想を初めて3年目の部門なので、毎回知らないアーティストも多くて予想に困ることが多いこのゴスペル&CCM部門。中でもこのカテゴリーと次のカテゴリーは、一つの作品でパフォーマーと作者の両方が受賞できるという「一粒で二度美味しい」カテゴリーです。一昨年はゴスペルといえばカーク・フランクリン師、ということでぶっちぎりの受賞(予想簡単でしたw)、昨年は本命◎付けたロドニー・ジャーキンスに目を取られて、まったくノーマークだったジョナサン・マクレイノルズとマリ・ミュージックのデュオが受賞してました。今年は、これまでにゴスペル部門12回受賞とカーク師に並ぶくらい、このカテゴリーでこの人が出てきたら間違いなし、というワイナンズ・ファミリー10人兄妹の8人目、シーシー・ワイナンズが力強いゴスペル・ナンバー「Never Lost」でノミネートされてますから、まあ本命◎は彼女でしょうね。いやあでもこの曲のリリック・ビデオ、見てると力がモリモリ湧いてくる感じですねえ。
ただ、今回のこのカテゴリーのノミネートでビックリしたのは、ダンテ・バウという人が自作自演の曲2曲でノミネート、更にはノース・キャロライナ州シャーロットのエレヴェーション教会専属の白黒混合バンド、エレヴェーション・ワーシップの「Wait On You」の作者としてもノミネートと、何と一人で3曲でノミネートされてること。この人も実際にジョージア州コロンバスの教会の牧師さんのようですが、子供の頃に両親が家族を養うためにヤクの売人をやってたりとか、教会に入った後も年上の牧師に性的虐待を受けたとかいったことを隠さず話して、自分の音楽にもそういう経験を反映させているというなかなかの人物のようです。そういう背景もあってか、ヒップホップっぽく始まる、彼の2作目のアルバム『Circles』(2021)からのシングル「Joyful」はコンテンポラリーな感覚で、神への信仰から感じる喜びを高らかに歌っている曲。何しろ3つもノミネートされてるので、もしシーシーが取れないようなことがあったらこの人が取るしかないな、ということで対抗○です。
穴×は、そのダンテ・バウが共作者の一人となっている、エレヴェーション・ワーシップとメイヴェリック・シティ・ミュージック(こちらもアトランタの教会専属の音楽グループ)による、これもなかなか感動的なカタルシスを味わわせてくれる「Wait On You」に付けておきます。
32.最優秀コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック・パフォーマンス/ソング部門(アーティストと作者の両方に与えられる賞)
◎ We Win - Kirk Franklin & Lil Baby (Kirk Franklin, Dominique Jones, Cynthia Nunn & Justin Smith)
○ Hold Us Together (Hope Mix) - H.E.R. & Tauren Wells (Josiah Bassey, Dernst Emile & H.E.R.)
Man Of Your Word - Chandler Moore & KJ Scriven (Jonathan Jay, Nathan Jess & Chandler Moore)
× Believe For It - CeCe Winans (Dwan Hill, Kyle Lee, CeCe Winans & Mitch Wong)(受賞)
Jireh - Elevation Worship & Maverick City Music Featuring Chandler Moore & Naomi Raine (Chris Brown, Steven Furtick, Chandler Moore & Naomi Raine)
この前のカテゴリーでのシーシー・ワイナンズ同様、ゴスペル部門での過去受賞経験も多いし、ノミネートされたらかなりの確率で受賞する、という大本命といえば、1997年第39回の初ノミネート・初受賞以来、このゴスペル部門で19回ノミネート中何と17回受賞という、恐らくトニー・ベネットの最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル部門での勝率くらいしか並ぶもののない実績を持っているのが、ゴスペルファンならよくご存知のカーク・フランクリン師。ところが今年はなぜかそのカーク師が、あのリル・ベイビーのラップをフィーチャーした、映画『Space Jam: A New Legacy』(そう、あのマイケル・ジョーダンがアニメキャラと共演する映画の続編で、今回はレブロン・ジェームス主演のやつです)からの曲「We Win」がこのCCMカテゴリーでノミネートされているんです。これってかなり変な状況なんですよ。と、いうのは、もともとこのゴスペル部門が始まった1962年第4回はノミネーションは白人黒人を問わず神を讃える作品を発表したアーティスト、とされていたんですが、1967~68年の9回10回頃に全てのノミネーションが白人アーティストとなって物議を醸して以来、それに対応する形でやれ黒人アーティストは「ソウル・ゴスペル」「R&Bゴスペル」とか、白人アーティストは「インスピレーショナル」とかいろんなカテゴリーが入れ替わり登場、やっと2012年第54回から、「ゴスペル」は黒人中心のソウル・R&Bスタイルのアーティスト、「CCM」は白人中心のフォーク・ロック・カントリースタイルのアーティスト、という棲み分けがなされるようになっていたんです。なので、カーク師なんかは、54回以降は基本的に「ゴスペル」でのみノミネートされてきたわけです。それが、昨年初めてこのCCMで、同じく黒人のゴスペル・ラッパー、レクレーの「Sunday Morning」にフィーチャーされる形でノミネートされてたので、正直ちょっとビックリしたわけです。しかもカーク師がらみなのに受賞できなかった(受賞したのは白人のザック・ウィリアムスとドリー・パートン御大のデュエットナンバーでした)。それまで54回の棲み分け以降、CCMでノミネートされていた黒人アーティストは、従来からクリスチャン・ロック的スタイルのトーレン・ウェルスが2018年第60回から4回連続ノミネートされている以外は、極々例外的でほとんど皆無だったんです。それがいきなりカーク師が2年連続CCMでノミネート、しかも!今年のCCMのノミニーは先ほどのゴスペル・カテゴリーにもノミネートされていたエレヴェーション・ワーシップ&メイヴェリック・シティ・ミュージック(いずれも白黒混合グループ)を除くと他の4組は全て黒人アーティストなんです!シーシー・ワイナンズもゴスペルとCCMと両方ノミネートされてるし、何だか今年のCCMカテゴリー、いつになく「黒一色」な状態なんですよね。これってBLMもあったことだし、ダイバーシティの観点からも、もう人種の棲み分けはやらない、というアカデミーの決意表明なんでしょうか。でもだとしたらゴスペルとCCMと殊更にカテゴリーを分ける意味ってなくない?と自分なんかは思うんですがどうでしょう。
長々と個人的な疑問と問題意識を垂れ流しちゃってすいませんが、気になっているのは、これがゴスペルだったら本命◎は役者的にも、そして楽曲のアップリフティングな高揚感からも、カーク師とリル・ベイビーの曲だと思うんですが、これがCCMだ(しかも去年ノミネートされて受賞できてない)というのが結構引っかかる訳です。じゃ、ちょっと白っぽさが入ってるエレヴェーション・ワーシップ&メイヴェリック・シティが来るか、というとまあそういう格じゃないというか。素直に楽曲を一通り聴いて顔ぶれを見渡してみて、やはりカーク師以外で目に付くのは先ほど名前の出たトーレン・ウェルスが何とH.E.R.と組んでいる、こちらもアップリフティングなスケールの大きいバラード「Hold Us Together」と、ゴスペル・CCM両カテゴリーでのノミネートでズルいなあという感じのシーシー・ワイナンズのアルバムタイトルナンバー。結構迷うところですが、ここは黒人アーティストながらこのCCMでこれで5年連続ノミネートと存在感を見せているトーレン・ウェルスとH.E.R.のナンバーが対抗○、シーシー・ワイナンズは穴×にしておきましょう。
33.最優秀ゴスペル・アルバム部門
Changing Your Story - Jekalyn Carr
× Royalty: Live At The Ryman - Tasha Cobbs Leonard
Jubilee: Juneteenth Edition - Maverick City Music
○ Jonny X Mali: Live In LA - Jonathan McReynolds & Mali Music
◎ Believe For It - CeCe Winans(受賞)
そして「ゴスペル」アルバム部門、こちらは人種混合で悩む必要もなく、ガッツリとソウル・R&Bゴスペルのアーティストが並んでます。そしてこのカテゴリーでもノミネートされてて、これで3連続カテゴリーノミネート、というほとんどゴスペル部門のオリヴィア・ロドリゴ状態(ちょっと違うかw)の大御所シーシー・ワイナンズ。ここは彼女の横綱相撲であっさり受賞してしまう気がするので、本命◎は彼女に。
他の候補は正直ほぼ一線状態だと思うんですが、唯一、去年の最優秀ゴスペルパフォーマンス部門にノミネートされて、自分が目を取られたロドニー・ジャーキンスを押さえて見事受賞した、シカゴ出身の躍動感溢れる若手ゴスペル・シンガー、ジョナサン・マクレイノルズと、アリゾナ州フェニックス出身のスピリチュアルな感じのR&Bシンガー、マリ・ミュージック(この人のブレイクした2014年のアルバム『Mali Is...』はR&Bの名盤でした)がLAのライブハウスでこじんまりとやったライブEPが、聴いてて本当に気持ちよかったので、こちらに対抗○を。
そして穴×は正直残りの3組どれでもアリなんですが、この部門で今回3回目のノミネートで、2014年第56回では、最優秀ゴスペル/CCMパフォーマンス部門を受賞している、ジョージア州出身のベテラン女性ゴスペル・シンガー、タシャ・コブス・レナードに付けておきます。
34.最優秀コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック・アルバム部門
× No Stranger - Natalie Grant
◎ Feels Like Home Vol. 2 - Israel & New Breed
The Blessing (Live) - Kari Jobe
○ Citizen Of Heaven (Live) - Tauren Wells
Old Church Basement - Elevation Worship & Maverick City Music(受賞)
さて今度は「CCM」アルバム部門です。ここでは、先ほどから名前を出しているトーレン・ウェルスと、自らも教会でのワーシップ・リーダー(教会活動の指導者)として活動するベテランCCMシンガー、イズラエル・ホートンとそのバンド、ニュー・ブリードが、白人ではないノミニーですが、トーレンもイズラエルもソウル・ゴスペルというよりは、クリスチャン・ロック的アプローチでの表現スタイルなので、CCMのカテゴリーのノミニー構成という意味では、CCMパフォーマンス/ソング部門のよー判らん状況よりは遙かに納得できる顔ぶれになっていますね。
去年はいきなりゴスペル・アルバムをドロップしたカニエの『Jesus Is King』がかっさらって行ってしまいましたが、このカテゴリーは伝統的にCCMスタイルでロック、フォーク、ポップ的アプローチからの活動を地道に行っているアーティストが取ってきています。そんな中で存在感といえば、ソロ名義と&ニュー・ブリード名義の両方で過去3回ノミネート&受賞(50回、52回、53回)するもここのところ10年はオリジナル・アルバムのリリースがなかった、イズラエル・ホートンの作品が久しぶりのノミネートでガッツリ受賞しそうですね。内容も、CCMなんですが、クワイヤをバックにしたライブ感満点でちょっとゴスペルっぽい雰囲気も満載のなかなか高揚する作品です。なのでこちらを本命◎に。
そして対抗○には、今回何度も名前を出しているトーレン・ウェルズ、昨年この部門にノミネートされていたアルバム『Citizen Of Heaven』(ヒプノシスっぽいジャケが結構印象的でした)のとってもポップでロックなライブ・バージョンが今年もノミネートされていて、このカテゴリーでの彼の支持度が伝わって来ますので彼に。そして穴×は、シアトル出身のベテラン女性CCMシンガー、ナタリー・グラント(ちなみにエイミーとは関係ないようです)のコンテンポラリー・メインストリーム・ポップ・スタイルの10作目『No Stranger』に。
35.最優秀ルーツ・ゴスペル・アルバム部門
✗ Alone With My Faith - Harry Connick, Jr.
○ That's Gospel, Brother - Gaither Vocal Band
Keeping On - Ernie Haase & Signature Sound
Songs For The Times - The Isaacs
◎ My Savior - Carried Underwood(受賞)
さてこの「ルーツ・ゴスペル」なるよく判らないカテゴリー名については、昨年のこの予想ブログでその出自を解説していますので、ご興味のある方は上記のリンクをのぞいて見て下さい。まあ要は、カントリーやサザン・ゴスペルのスタイルを持ったゴスペル・アーティスト達のための部門、ということになりますが、一昨年あの「恋のサバイバル」のグロリア・ゲイナーのR&Bゴスペルアルバムがこの部門で受賞してから、この部門もまあよく判らなくなってきています(笑)。その傾向は今年もあって、例えば何とハリー・コニックJr.のジャズっぽい感じのアルバムが今回ノミネートされてたりと、またまた対象のジャンル範囲を広げている感じ。このアルバム、何でもコロナ・ロックダウンの最中にハリーがスタジオにこもって、いつになく創作意欲が掻き立てられたのか、いつものスタンダード曲以外に自作の曲も書いて作った、というあたりがアカデミー・メンバーの琴線に触れたのかもしれません。穴✗くらいは付けてもいいかもしれませんね。
でも今年のこの部門、パッと見て目に入るのはやっぱりキャリー・アンダーウッドの初のゴスペル・アルバム『My Savior』ですよねえ。何せ歌の巧さでは定評のあるキャリーのこと、今回のこのアルバムではバックのアレンジも基本アコースティックなスタイルに抑えて、彼女のボーカルがぐっと引き立つプロダクションになっているのが、ゴスペル音楽専門誌でも結構評価が高い様子。全米トップ10アルバムでもあるわけですし(去年4/10付BB200で4位初登場でした)これは本命◎の匂いがプンプンしますね。
問題は対抗○なのですが、過去このカテゴリー(前身カテゴリーの最優秀サザンゴスペル・カントリーゴスペル・ブルーグラスゴスペル部門も含め)で9回ノミネートうち2回受賞、オーク・リッジ・ボーイズとかのカントリー・ゴスペルのスタイルを受け継いで80年代からこの分野で活躍するベテラン・サザン・ゴスペル・グループ、ゲイザー・ボーカル・バンドか、90年代からブルーグラス・ゴスペル・バンドとして活躍、今回3回目のノミネートとなる母と二人の娘+息子のファミリー・バンド、ジ・アイザックスか、昨年もノミネートされてた、よりスタンダード・ポップ・コーラス・グループ的なアーニー・ハース&シグネチャー・サウンドか、いやあどれも甲乙つけがたいところですが、ここは大御所感満点のゲイザー・ボーカル・グループを対抗○にしておきましょうか。
ということでゴスペル&CCM部門終わり。これで全51部門予想の7割が完了したことになります。この次は、今年はいろいろと話題を集めてるアメリカーナ部門。自分の好きな部門なんで、気合を入れて行きたいと思います。引き続きよろしく!